53 / 144
第五章 償いの新事業
真面目に働いています
しおりを挟む
さて、今日も仕事だ。
早朝、メシを食ってコーヒーを飲み、新聞を片手に仕事場へ。
俺の仕事は魔道具開発だけじゃない。魔導文字を開発したり、持ち込まれた魔道具の修理や、出張修理のサービスもある……というか、今日から始めた。
特に周知していない。表に看板を立て、そこに『魔道具の修理します。ご自宅まで伺います』みたいに書いて立てただけだ。
日本でも、出張修理サービスはやってたし、異世界で浸透するかわからんが試してみることにした。
まあ……毎日毎日、新製品開発しているとさすがにネタが尽きるしな。
「ふぁぁ……今日はヒマかなあ」
午前中、俺はアイデアを考えながら新聞を読んでいた。
すると、ドアがノックされた……お客様かな?
少し緊張しつつドアを開けると、そこには帽子を深くかぶった男が立っていた。
「……どうも。トイレ掃除に来ました」
「トイレ掃除? …………あ、お前まさか、バリオンか?」
「…………」
「トイレ掃除って、ペリドット商会の支店だけじゃなかったか? なんでウチまで」
「…………サンドローネ、様、が……アレキサンドライト商会の支店関係もやれと」
バリオン。
バリオン・ジャスパー元侯爵。ペリドット商会という美容品関係の商会を経営していたが、不良品の販売という問題を起こし、信用が地の底まで落ちた。
だが、アレキサンドライト商会の手助けにより信用はある程度回復。ジャスパー侯爵家はサンドローネに返しても返しきれない恩がある。
バリオンは、罰として十年間の奉仕作業……ペリドット商会と、アレキサンドライト商会に関わる店のトイレ掃除を命じられた。
まさか、俺のところに来るとは。
「……真面目にやってんだな」
バリオンは、えらい変わりようだった。
サラサラで輝いていた金髪は刈り上げられて坊主になり、華やかだった服装は薄汚れ作業着。背中には掃除用具を入れたリュックを持ち、手にはブラシが握られていた。
頬もこけ、眼窩もくぼんでいる……まだ二十八歳だっけ。三十後半って言っても信じそうだ。
「……掃除します」
「ああ、頼む」
それから、バリオンはしっかりトイレ掃除をした。
戻ってくると、ペコっと頭を下げて出て行こうとしたので止める。
「待った。ちょっとくらい休憩していけよ」
「…………いえ」
「安心しろ。俺が無茶言ってトイレ以外を掃除させたってことにしておく。お前とはいろいろあったけど、もう何も思っちゃいない……いいだろ?」
「…………はあ」
バリオンはため息を吐き、掃除用具を置くのだった。
◇◇◇◇◇◇
俺はバリオンに麦茶を出す。
この麦茶、粉にする前の麦が売ってたから、試しに作ってみたんだよな。そしたら思った以上に麦茶となり、こうして常備してあるのだ。
バリオンは麦茶を飲み、大きくため息を吐いた。
「はあ……おいしい」
「おかわりいるか?」
「ああ、いただこう」
おかわりを注ぐと、それも一気飲みした。
三杯目を注ぎ、一口だけ飲んでグラスを置く。
「惨めだろう?」
「……何がだ?」
「かつては、王都で最も勢いある商会の経営していたボクが、今じゃ丸刈りにしてトイレ掃除だ。ああ、わかっている……全て、ボクが招いたことだ。そこに文句はないし、受け入れている。でも……やはり、惨めだな」
「……バリオン」
「知っているかもしれないが、ボクは先日、ジャスパー侯爵家から正式に除名されたよ。ここにいるのは、ただのバリオン。平民のトイレ掃除員さ」
「除名? 十年したら侯爵家に戻れるんじゃないのか?」
「そう思っていた。でも……サンドローネにすっかり惚れ込んだ父は、サンドローネの不評を買ったボクを侯爵家に残しておくわけにはいかないと思ったんだろうね。分家から優秀な人間を養子にして、ジャスパー侯爵家の後継者としたようだ。ボクは侯爵家に捨てられ、お情けの安い賃金で働く奴隷ってわけさ……この契約も、あと数日で終わる」
「……その契約が切れたら、どうなるんだ?」
「追い出されて終わりさ。まあ……それでいい。このまま野垂れ死にするのが、ボクの人生に相応しいかもね」
「……バリオン」
「そんな顔をしないでくれ。それと、キミから同情されるのだけは死んでもごめんだ。この仕事だけは最後までやりきる……それが、ボクの最後のプライドだよ」
バリオンは麦茶を一気飲みし、立ち上がる。
「じゃあ、行くよ。最後にキミと話せてよかった」
「……」
「そんな顔をするな。こう見えて、キミには感謝しているんだ。最後の最後……ボクはやっとわかったんだ。売り上げだけじゃない、商売に大事なものをね」
「お前……」
「じゃあ、さようなら」
そう言い、バリオンは出て行った。
ざまあキャラとは思えないくらい、どこかスッキリしていた。
俺は、バリオンが掃除したトイレを見る。
「おお、すっげえ綺麗だな……」
ピカピカなトイレを前に、俺はバリオンの丁寧な仕事っぷりに関心するのだった。
早朝、メシを食ってコーヒーを飲み、新聞を片手に仕事場へ。
俺の仕事は魔道具開発だけじゃない。魔導文字を開発したり、持ち込まれた魔道具の修理や、出張修理のサービスもある……というか、今日から始めた。
特に周知していない。表に看板を立て、そこに『魔道具の修理します。ご自宅まで伺います』みたいに書いて立てただけだ。
日本でも、出張修理サービスはやってたし、異世界で浸透するかわからんが試してみることにした。
まあ……毎日毎日、新製品開発しているとさすがにネタが尽きるしな。
「ふぁぁ……今日はヒマかなあ」
午前中、俺はアイデアを考えながら新聞を読んでいた。
すると、ドアがノックされた……お客様かな?
少し緊張しつつドアを開けると、そこには帽子を深くかぶった男が立っていた。
「……どうも。トイレ掃除に来ました」
「トイレ掃除? …………あ、お前まさか、バリオンか?」
「…………」
「トイレ掃除って、ペリドット商会の支店だけじゃなかったか? なんでウチまで」
「…………サンドローネ、様、が……アレキサンドライト商会の支店関係もやれと」
バリオン。
バリオン・ジャスパー元侯爵。ペリドット商会という美容品関係の商会を経営していたが、不良品の販売という問題を起こし、信用が地の底まで落ちた。
だが、アレキサンドライト商会の手助けにより信用はある程度回復。ジャスパー侯爵家はサンドローネに返しても返しきれない恩がある。
バリオンは、罰として十年間の奉仕作業……ペリドット商会と、アレキサンドライト商会に関わる店のトイレ掃除を命じられた。
まさか、俺のところに来るとは。
「……真面目にやってんだな」
バリオンは、えらい変わりようだった。
サラサラで輝いていた金髪は刈り上げられて坊主になり、華やかだった服装は薄汚れ作業着。背中には掃除用具を入れたリュックを持ち、手にはブラシが握られていた。
頬もこけ、眼窩もくぼんでいる……まだ二十八歳だっけ。三十後半って言っても信じそうだ。
「……掃除します」
「ああ、頼む」
それから、バリオンはしっかりトイレ掃除をした。
戻ってくると、ペコっと頭を下げて出て行こうとしたので止める。
「待った。ちょっとくらい休憩していけよ」
「…………いえ」
「安心しろ。俺が無茶言ってトイレ以外を掃除させたってことにしておく。お前とはいろいろあったけど、もう何も思っちゃいない……いいだろ?」
「…………はあ」
バリオンはため息を吐き、掃除用具を置くのだった。
◇◇◇◇◇◇
俺はバリオンに麦茶を出す。
この麦茶、粉にする前の麦が売ってたから、試しに作ってみたんだよな。そしたら思った以上に麦茶となり、こうして常備してあるのだ。
バリオンは麦茶を飲み、大きくため息を吐いた。
「はあ……おいしい」
「おかわりいるか?」
「ああ、いただこう」
おかわりを注ぐと、それも一気飲みした。
三杯目を注ぎ、一口だけ飲んでグラスを置く。
「惨めだろう?」
「……何がだ?」
「かつては、王都で最も勢いある商会の経営していたボクが、今じゃ丸刈りにしてトイレ掃除だ。ああ、わかっている……全て、ボクが招いたことだ。そこに文句はないし、受け入れている。でも……やはり、惨めだな」
「……バリオン」
「知っているかもしれないが、ボクは先日、ジャスパー侯爵家から正式に除名されたよ。ここにいるのは、ただのバリオン。平民のトイレ掃除員さ」
「除名? 十年したら侯爵家に戻れるんじゃないのか?」
「そう思っていた。でも……サンドローネにすっかり惚れ込んだ父は、サンドローネの不評を買ったボクを侯爵家に残しておくわけにはいかないと思ったんだろうね。分家から優秀な人間を養子にして、ジャスパー侯爵家の後継者としたようだ。ボクは侯爵家に捨てられ、お情けの安い賃金で働く奴隷ってわけさ……この契約も、あと数日で終わる」
「……その契約が切れたら、どうなるんだ?」
「追い出されて終わりさ。まあ……それでいい。このまま野垂れ死にするのが、ボクの人生に相応しいかもね」
「……バリオン」
「そんな顔をしないでくれ。それと、キミから同情されるのだけは死んでもごめんだ。この仕事だけは最後までやりきる……それが、ボクの最後のプライドだよ」
バリオンは麦茶を一気飲みし、立ち上がる。
「じゃあ、行くよ。最後にキミと話せてよかった」
「……」
「そんな顔をするな。こう見えて、キミには感謝しているんだ。最後の最後……ボクはやっとわかったんだ。売り上げだけじゃない、商売に大事なものをね」
「お前……」
「じゃあ、さようなら」
そう言い、バリオンは出て行った。
ざまあキャラとは思えないくらい、どこかスッキリしていた。
俺は、バリオンが掃除したトイレを見る。
「おお、すっげえ綺麗だな……」
ピカピカなトイレを前に、俺はバリオンの丁寧な仕事っぷりに関心するのだった。
544
お気に入りに追加
1,304
あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

流石に異世界でもこのチートはやばくない?
裏おきな
ファンタジー
片桐蓮《かたぎりれん》40歳独身駄目サラリーマンが趣味のリサイクルとレストアの資材集めに解体業者の資材置き場に行ったらまさかの異世界転移してしまった!そこに現れたのが守護神獣になっていた昔飼っていた犬のラクス。
異世界転移で手に入れた無限鍛冶
のチート能力で異世界を生きて行く事になった!
この作品は約1年半前に初めて「なろう」で書いた物を加筆修正して上げていきます。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜
ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった!
謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。
教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。
勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。
元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。
力を持っていても順応できるかは話が別だった。
クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。
※ご注意※
初投稿、試作、マイペース進行となります。
作品名は今後改題する可能性があります。
世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。
旅に出るまで(序章)がすごく長いです。
他サイトでも同作を投稿しています。
更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる