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第五章 償いの新事業

久しぶりの出勤

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 イェラン、リヒターと飲んだ翌日。
 俺はベッドから起き、朝の一服……ベッドに座ったまま煙草に火を着け、煙を吸って吐き出す。
 何と言えばいいのか……この寝起きで吸う煙草、脳の血管がキュ~っと縮むような感覚が気持ちいい。朝のこの時間、本当に好きなんだよな。

「ふぁ……」

 灰皿で煙草を消し、俺はキッチンへ。
 そして気付いた。

「……な、なんもねえ」

 そういや、昨日帰ってすぐにイェランと飲みに行き、そのままリヒターも混ざり、夜まで飲んでしまった。家に戻り、そのまま倒れるように寝てしまったのだ。
 買い物行こうと思ってたが、すっかり忘れていたのである。

「あ~……仕方ない、露店で適当に食うか」

 俺は顔を洗い、コーヒーをポットに入れ、カバンに財布やスマホ、新聞を入れて家を出た。
 会社までは、徒歩で十五分くらい……その途中、喫茶店や露店はいくらでもある。
 まだ朝の七時くらい。朝飯食って出社すればいい時間になる。
 向かったのは、何度か入ったことのある喫茶店……で、驚いた。

「あれ、スノウさんにユキちゃん?」
「ゲントクさん。おはようございます」

 なんと、スノウさんとユキちゃんがいた。
 こんな朝っぱらからなんでここに? と思っていると。

「焼きたてのパンを買いに来たんです。ロッソさんたち、お仕事が明日からなので、お昼用のパンを今のうちに買おうと思いまして」
「なるほど。まあ、昨日帰ってきたばかりだしな」
「はい。朝食は終わったので、今は皆さん、お部屋でのんびりしています」
「そうですか。スノウさん、王都はどうですか?」
「いいところですね。海とは違う賑やかさです」
「にゃあ、ねこー」

 と、ユキちゃんがいつの間にか、猫を抱っこしていた。
 野良猫だろうか、路地裏にいっぱいいる。ユキちゃんの周りに何匹か来ていた。
 スノウさんは、買ったばかりのパンをちぎり、猫たちにあげる。

『ニャア』
「ふふ、お腹が空いたならあげる。ええ、みんな仲良くね」
『ニャ』
「スノウさん、猫の言葉、わかるんですか?」
「はい。猫の獣人ですので……ご存じありませんか? 獣人は、ルーツとなった動物の言葉を理解できるんです」

 それは知らなかった。今の『ニャア』に『腹減った』って意味があるのだろうか。
 ユキちゃんは猫たちを撫で、自分の尻尾も動かしている。

「さ、行くわよユキ。猫さんたちもお仕事があるって」
『ニャア』
「にゃ……わかったー」

 ユキちゃんは猫から離れ、スノウさんと手を繋ぐ。

「ではゲントクさん。また」
「ええ、暇な時でも、ロッソたちと遊びに来てください。じゃあねユキちゃん」
「にゃう。ばいばい、おじちゃん」

 二人は行ってしまった。
 仲良し猫親子……幸せになって欲しい。
 さて、俺もさっさと飯を食って、仕事場に行こうかな。

 ◇◇◇◇◇◇

 さて、久しぶりの職場である。
 一階の作業場、地下の資材置き場、二階の宿泊部屋に、外の階段と繋がっている事務所。
 一通りチェックしたが、特に問題はない。
 俺は事務所に入り、ポットのコーヒーをカップに入れ、デスクで新聞を読み始めた。

「今日は……とりあえず、秋と冬に使える魔道具か。ホットカーペットとコタツかな。秋と冬が短いせいか、暖房器具ってそんなに発達してねぇんだよなあ……」

 コーヒーうまい。
 新聞を読みながら魔道具について考える。

「コタツ。四つ足のテーブル……待てよ。この世界って座卓より椅子テーブルがメインなんだよな……まあいい。熱の魔導文字を彫った魔石をテーブルの上部にセットして網を付けるだけでいけるか。ホットカーペット……というか、この世界って靴脱いでカーペットに寝転がる文化とかないんだよな。カーペットより電気毛布っぽいやつか。毛布に電熱線を仕込んで、『熱伝導』の魔導文字を彫った魔石を仕込んで……なんとかなるか」

 独り言多いな俺……でも、だいたいのプランはまとまった。
 コーヒーを飲み干し、新聞を閉じ、カップをシンクに置く。

「うし、仕事するか」

 オダ魔道具開発所、久しぶりの仕事といきますかね。

 ◇◇◇◇◇◇

「とりあえず、こんなモンか」

 テーブルに『微熱』と魔導文字を彫った魔石をセットし、触れて火傷しないよう網をくっつける。そして、コタツ布団の代わりに寝具用の毛布をかけ、天板を置いた。
 スイッチはテーブルにくっつけたコードに、押しボタン式のスイッチをくっつける。
 椅子に座り、スイッチを押すと……ジワジワと温かくなってきた。

「うん、これならいいか……単純に『熱』の魔石だと熱すぎるし、微熱くらいがちょうどいい……とりあえず、試作品はこれでいいや」

 そしてもう一つ。
 電熱線を仕込んだ毛布……一枚の毛布に電熱線を仕込むのが無理だったので、同じサイズの毛布を二枚用意し、電熱線を挟み込んだ。
 動かないように固定するのが面倒だったが……これにも『微熱』の魔石を仕込み、スイッチを入れるとじんわり暖かくなる。
 試しに、宿泊部屋の布団に毛布を敷いて寝転がってみた。

「ん~……いい。暑くなく、寒くなく……これくらいだったらいいかなあ」

 値段も安く済みそうだ。
 低コストで、平民向けの新商品……なんか、一日で完成してしまった。
 俺は事務所に戻り、仕様書と魔石の申請書を書く。
 魔導文字。『微熱』の登録だ。漢字彫るだけでいいから楽でいい。
 すると、事務所のドアがノックされた。

「お疲れ様です。ゲントクさん」
「おお、リヒター……ちょうどいいや、ほれ」
「これは……」
「秋の新製品。電気毛布と、コタツだ」
「ふむ……」

 リヒターは、仕様書を読む。

「なるほど。熱を発する毛布に、同じく熱を発するテーブルですか。新しい魔導文字……なるほど、『熱』単体の魔導文字では熱を持ちすぎるので、ここに熱を調整する魔導文字を組み込んだのですね」
「まあそういうこと。どうだ?」
「いいですね。コストも低く、平民向けの新製品として売り出せそうです。アレキサンドライト商会の製品会議に出しますので、試作があれば」
「ああ、一階の作業部屋にある」

 リヒターに試作機を渡し、この日の仕事は終わった。
 帰る前、リヒターが言う。

「そう言えば、温泉について調べました。北方の山岳地帯に、温泉があるそうですよ」
「やっぱあるのか!! で、山岳地帯?」
「ええ。鉱山の町ドドファドという大きな町です。鉄鉱石などの加工金属を彫り出しています。あそこはドワーフの町でもあり、魔道具技師も多く集まる街なんですよ」
「ドドファド……一度、行くのもアリかもしれんな」

 温泉、そして鉱山の町か。
 なんだか面白い組み合わせだ。温泉……一度、入ってみたいもんだぜ。
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