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第四章 海の国ザナドゥでバカンスを

浄化大作戦

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 さて、不動産ギルドの馬車に乗ってやって来たのは、なんとも立派な別荘だった。

「すっげえ……」

 デカい。
 まず、生垣によって街道から隔離された場所にあり、外から中が見える心配はない。
 そして、二階建てで長方形の家。岩場地帯にあるため、岩場によって隔離されたプライベートビーチがある。さらに、見取り図を見ると地下があり、ワイン貯蔵庫や魔道具制作室にぴったりの部屋もあった。
 それだけじゃない。ちゃんと風呂やシャワーもあり、ウッドデッキもある。
 絵に描いたような豪邸……こんなの住むしかないだろ。

「ふむ、感じますわね。ゴースト系魔獣ですわ」
「い、いるのかやっぱり」
「ええ。けっこうな数が」
「あの、ブランシュ……気になったんだが、なんだそれ?」

 ブランシュは、巨大な『槌』を担いでいた。

「ふふ。聖銀とオリハルコンで作ったわたくしの専用武器、その名も『セントソフィア・ジャッジメント』ですわ」

 銀色の巨大槌……まさか、別荘の中でそれ振り回すつもりなのか。
 アオが言う。

「ブランシュ、私たちの中で一番の怪力」
「そ、そうなんだ……」
「素手で岩石握り砕くし、分厚い金属の板を拳のラッシュで破壊するわよ。殴られて死ななかった魔獣、今のところいないわね」
 
 怖すぎるだろ。
 ブランシュはニッコリ笑い、アオとロッソに向けて指をゴキゴキさせた。

「あなたたち、おじさまにあることないこと吹き込まないでくださる?」
「「ご、ごめん……」」
「おじさま。わたくし、殴る時はちゃんと理由がありますのでご安心を」
「は、はい」
「あ、あの~……そろそろ、説明してもいいですか?」

 あ、クリスティナさんのこと忘れてた。
 俺たちは別荘の入口で説明を聞く。

「こほん。えー、ここが別荘です。現在は封鎖されています。理由は……ゴースト系の魔獣が住み着き、並みの光魔法使いではどうにもならないのです。今、できることは周囲に封印の札を貼り、魔獣を閉じ込めることだけ……」

 よく見ると、周囲にお札のようなものが貼ってあった。さらに『立ち入り禁止』の看板もある。
 
「こうしている間にも、ゴースト系魔獣は力を増しています。恐らく、あと数か月以内に、封印を破り外に出ることになるかと。冒険者ギルドの対応としては」

 すると、ブランシュは槌を振り回す。
 魔力が槌に集中し、別荘の真上に巨大な魔法陣が展開された。

「『エクストラ・ターンアンデット』!!」

 魔法陣から恐るべき熱量の『光』が降り注ぎ、別荘とその周囲を包み込む。
 すると、黒いモヤのような何かが無数に別荘から現れた……まるで光から逃げるみたいに。

『ギャァァァァァ!!』『オォォォォォォ!?』
『ギュゥゥゥゥゥ!!』『グェェェェェェ!!』

 なんか聞こえてきた、え、なにこれ。

「だ、断末魔みたいなの聞こえるんだが……」
「ゴースト系魔獣の悲鳴ね。あの黒いの、ゴースト系の下級魔獣『レイス』っぽいわ。ブランシュ、どう?」
「ん~……八割くらいは消滅しましたわ。残りは直接叩いてきます。三分ほどお待ちくださいな」

 ブランシュは、槌を担いで屋敷の中へ。
 俺はクリスティナさんと顔を見合わせた。

「あの、説明の最中……」
「も、もうしなくていいです」

 別荘から先ほどより甲高い叫び声が聞こえてきた。そして、黒くデカいモヤが飛び出し蒸発するように消滅していく。ロッソもアオものんびり見ていた。
 そして、ブランシュは、半透明の巨大頭蓋骨の眼窩の窪みを掴んで出てきた。

「これが元凶ですわね。討伐レートSのゴースト系魔獣、『クリアスカル』ですわ」
「そ、それ触って平気なのか?」
「ブランシュなら平気。あ、でもおっさん触ると呪われるよ」
「触るか!!」

 クリスティナさんは真っ青になり俺の背に隠れる。

「あ、あの……早く何とかしてもらえれば」
「あら失礼。では……さようなら」

 ブランシュは、野球のノックみたいに頭蓋骨を投げ、野球スイングで槌を振り頭蓋骨を粉々に砕いた。え……これで終わり?

「あとは、屋敷全体に浄化魔法をかけて、二度とゴースト系魔獣が住み着かないようにわたくしの魔力を込めたお札を何枚か貼っておきますわ」
「ブランシュのお札は効果あるよ~?」
「……ご利益あり」
「「…………」」

 こうして、実にあっけなくゴースト系魔獣は消滅した。
 そして、クリスティナさんが派遣した清掃員たちが一斉に屋敷の掃除、さらに家具の入れ替えまで実施……半日後には屋敷のカギが俺の手にあった。

「なんだが、夢を見ていたような気分ですが……おめでとうございます、この屋敷はゲントク様の物となりました」
「どうも……俺もまさか、こんな物件が格安で手に入るとは」
「では、こちらのパンフレットもどうぞ。使用されない間は、月額料金を支払えば不動産ギルドが掃除、防犯の管理を致しますので、ご利用の際は連絡を」
「わかりました。ありがとうございます」
「それではゲントク様。ザナドゥでの休暇をお楽しみください」

 クリスティナさんは帰って行った。
 そして、残ったのは俺、『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』の三人。
 まず俺は、ブランシュに頭を下げた。

「ブランシュ、ありがとう。お前のおかげで、格安で別荘が手に入った」
「お気になさらないでください。おじさまにはたくさんの借りがありますので」
「何か魔道具で困ったことがあれば、いつでも言ってくれ」
「はい。その時はぜひ」
「むー、ブランシュばっかりずるい」
「……私たちもいる」
「わかってる。『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』に感謝してる。せっかくだ、今日は泊まっていくか? 客間もあるみたいだし、ベッドメイクもしたようだしな。それに、ここから繫華街まで徒歩数分……俺が晩飯奢ってやる」
「「「やったあ!!」」」

 さて、まずはさっそく、別荘の中を確認してみようかな。

 ◇◇◇◇◇◇

 さっそく別荘に入る。

「おお、すごいな……」

 広い玄関だ。
 中に入るとこれまた広い居間だ。高級そうな家具、システムキッチンに、製氷機に冷蔵庫、真新しい魔導コンロに、水道も新しい魔石が取りつけられ綺麗に磨かれている。
 ウッドデッキにはタープが掛けられ、その下には丸テーブルとビーチチェア、視界には青々とした海が広がり、プライベートビーチが見える。
 
「二階もすっごい!! ねえおっさん、客間使っていいんだよね!?」
「ああ、好きに使ってくれ」
「アオ、ブランシュ!! 個室だよ!! 見てみて!!」

 やれやれ、子供だな。
 一階にはガラス張りの風呂や広いトイレもあるし、何もない部屋もある。
 マジでいい別荘だ。これはすごい。

「階段……螺旋階段とはオシャレだな。まず地下を……」

 地下に入ると、そこは広い空間だった。
 驚いたことに窓がある。窓を覗くとなんと海中……ここ、海の中にある地下室なのか。
 
「ここなら作業室として申し分ない。なんかここを本社にしてもいい気がしてきた」

 作業室に、素材置き場……簡易キッチンに寝室まである。
 これはすごいぞ。マジで俺の別荘なのか?
 さて、二階へ。

「うわ、すげえな……」

 同じ間取りの個室が六つに、十二畳くらいの寝室が一つ。
 トイレ、キッチン、シャワー完備にベランダもある。
 俺の寝室は一番広い部屋に決まりだな。

「魔導ランプも新品だし、これが一億六千万セドルとは格安もいいところだ……」
「おじさん、お部屋すごい綺麗」
「景色もいいですわ~」
「いいなあ、おっさんいい買い物したじゃん」
「お前らのおかげだ。本当にありがとうな」

 改めて感謝。三人はニッコリ笑ってくれた。

「さて、メシでも行くか。なんでも好きなの食べていいぞ」
「やたっ!! じゃあ肉、魚!!」
「……私も肉と魚」
「うふふ。今日はおじさまの別荘記念パーティーですわね」

 こうして俺は別荘を手に入れた。
 そして、ついに始まる夏のバカンス。
 ふふふ……なんだかもう、笑いが止まらん気分だぜ。
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