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第二章 鮮血の赤椿

製氷機

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「さて、初仕事といきますか」

 簡単に設計図を描き、俺は一階の作業スペースへ。
 作業スペースは広い。中央にテーブルを置き、壁にはスパナやレンチ、魔道具加工に必要な道具が揃っている。俺の愛用道具と同じものをいくつか作ってもらったりして、壁に掛けてあるのだ。
 壁際にある椅子、テーブルは魔石の加工スペース。
 ここには彫刻刀が何本かあり、手元を照らすライトもある。
 まず、俺は地下の資材置場からゴブリンの魔石を手にし、魔石の加工に取りかかる。

「こいつに……文字を彫る」

 さて、何を彫るか。
 魔導文字は『漢字』だ。冷やすとなると『冷』とか『凍』かな。『氷』ってのもあり。
 とりあえず、ゴブリンの魔石は大量にあるので、それぞれ氷っぽい文字を彫る。

「漢字を彫るだけでいいってのは楽でいい。これ、ある意味でチートだよな」

 文字を彫り、次に冷やすための『箱』だ。
 俺は資材置場にある、500ミリのペットボトルが縦に十本くらい入る大きさの冷蔵庫を持ってくる。
 水冷式だけど、ただ水を循環させるだけじゃ冷えない。なので、水のパイプを外し、よく冷えるように鉄板を入れる。
 そして、水を循環させる魔道具のスイッチと連動している魔石を『冷』の魔石へ変え、扉を閉じてスイッチを入れてみた。

「……うん。魔石が冷えるだけか。これでも冷えないこともないけど……もっと機密性を高くして……あ、そうだ」

 俺は魔石を外し、『冷』ではなく『冷風』と文字を加えてセット。
 冷蔵庫のドア部分に、柔軟性のあるスライムを塗って固め、いい感じに密閉されるようにした。
 そして、スイッチを入れると……出た出た、冷風だ。

「質のいい魔石ならもっと冷えるな。ゴブリンの魔石だと……温度計ないからわからん。とりあえず、氷を作るケース……分割式のケースもあればいいな。図面書いておくか」

 冷蔵庫の中を段にして、氷用スペースと、冷凍スぺースに分けておく。
 氷を作るケースは鉄板を加工。こういうのは大得意だぜ。
 一応、煮沸消毒をして水を入れ、冷凍庫に入れてスイッチを押す。
 すると、冷たい風が出てきた。ついでにコップに水を入れて中へ。

「うし。とりあえずこんなモンか……二時間くらい置いて様子見るかな」

 さて、果たして氷はできるだろうか?

 ◇◇◇◇◇◇

 二時間後。

「う~ん……」

 結論、氷はできてない。
 薄い氷の膜はできた。でも、カチカチの氷はできていない。これはただの冷蔵庫だ。
 あまり魔力注ぎすぎると、魔石がもたん。
 商品として販売する以上、ある程度の強度が必要だ。ゴブリンの魔石はポピュラーで安く手に入るけど……製氷機に関してはもうちょい質のいい魔石が必要だな。

「えーと……ああそっか。まだ他の魔石はないのか」

 アレキサンドライト商会にいた時は、ウルフとかオークの魔石も使ってたけど、まだ初日だし、資材も完璧に揃ってるわけじゃない。
 
「よし。半端にするのも嫌だし……冒険者ギルド行くか」

 俺は上着を手に、作業場を出た。
 
 ◇◇◇◇◇◇

 やって来たのは冒険者ギルド。
 倉庫街からちょっとだけ遠い。徒歩じゃ面倒だったので、乗合馬車に乗ってきた。
 バス停ならぬ馬車停が国中にあり、乗合馬車組合の馬車がお客を運んでいる。
 まあ、今はどうでもいい。
 俺は冒険者ギルドに入ると、受付の美人お姉さん……。

「ん? おうゲントク。こんな日中にどうした?」

 お姉さん……じゃない。白い髪をオールバックにし、口ひげを生やしたおっさん受付が、受付カウンターで頬杖をついていた。
 俺は軽く手を上げる。

「おう、ヘクセン。買い物だよ、魔石あるか?」
「ああ。なんだ、またお嬢様のお使いか?」
「ちげーよ。独立したんでな。今日から個人事業主だ」
「ほ、そりゃめでたい……のか?」

 ヘクセン。冒険者ギルドのおっさん受付で、何度か出入りしているうちに仲良くなった。
 実はこのギルドのマスターとか、実は最強の冒険者……とかじゃない。異世界に夢見過ぎてたかな……冒険者ギルドの受付ってみんな美人かと思ってた時もありました。
 まあそんなことはどうでもいい。
 ヘクセンは首を傾げる。

「アレキサンドライト商会って、この一年でとんでもない成長した商会だろ? 給料もいいんじゃねぇのか? なんで独立したんだよ」
「まあ、俺は個人商会でのんびり魔道具開発しながら暮らすのが性に合ってんだよ。で、魔石。今なにある?」

 冒険者は、外で魔獣を狩り、ギルド隣にあるデカい建物の『解体場』で素材に分けられる。その素材を買い取り冒険者は収入として、俺たちみたいな魔道具技師が素材を買う。
 解体場には、その場で下処理した毛皮や骨みたいな素材がそのまま売りに出されるが、高価な部位などは冒険者ギルドを経由して、こうして聞かなくちゃいけない。
 ヘクセンは眼鏡を掛け、メモ帳をペラペラめくる。

「今は、ハンティングウルフと、メタルオークが一番レアな魔石だな。ゴブリンはいつも通り、ウルフ、コボルト系も一通り揃ってる」
「あ~……ウルフ系より上の魔石あるか? 三つ星くらい」

 魔石は、星等級で区別される。
 ゴブリンは一つ星、ウルフは二つ星、オークも二つ星。さっき言ったハンティングウルフは五つ星とけっこう高い。
 最上級は十つ星。でも、十つ星となるとドラゴンとか、ファンタジーの頂点みたいな生物の魔石だ。年に一つか二つ出ればいい方だし、そういうのはデカい商会が速攻で買い、有名で高名な魔道具技師が加工に使う。
 なので、俺たちみたいな庶民は、せいぜい七つ星くらいが最上級だ。

「三ツ星だと、デラコンドルの魔石があるな。お、しかもニ十個もあるぞ……そういや昨日、S級冒険者チームの『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』が大量に納品したんだ」
「ほー、S級とはすげぇな」
「ああ。群れで襲いかかってきて、返り討ちだとさ。今日は郊外のダンジョン行くってよ」
「とりあえず、それ買うわ。ニ十個全部くれ」
「あいよ」

 俺は財布から紙幣を出す。
 ありがたいことにこの世界、通貨の単位は『セドル』だが、お金の価値は日本と変わらない。しかも紙幣、硬貨も日本と同じものあるし。

「三ツ星魔石、一つ千セドル、ニ十個で二万セドルな」
「おう。領収書頼むわ」

 魔石を買い、支払いを済ませると、ヘクセンは引換券をくれる。
 これを隣の解体場に持っていけば、魔石をくれるのだ。
 
「じゃあなヘクセン。開店祝いに、今度奢れよ」
「おう。嫁さんから小遣い貰ったらな。ゲントク、お前もさっさと結婚しろよ」
「うっせ。俺は独身、一人でいるのが好きなんだよ」

 そう言い、軽く手を振って外へ。
 隣の建物に入ると。

「レッドオーク、納品ね!!」
「うふふ。いいお肉ですわねぇ」
「……早く部位切ってちょうだい」

 女の子三人が、解体場にあるデカい解体テーブルの前でニコニコしていた。
 一人は、赤い髪をツインテールにした、ビキニアーマーの女の子。
 二人目は、白いシスター服を着て血の付いたロッドを背負う金髪ロングの女の子。
 もう一人は、青い忍者装束を着た黒髪ショートの女の子。
 あ、これってもしかして……さっき言った『鮮血の赤椿スカーレット・カメリア』か。

「んふふ~、今日はレッドオークのお肉で焼肉パーティーね!! ブランシュ、アオ!!」
「ええ。うふふ、ロッソってば嬉しそう」
「……食いしん坊」
「うっさい。おっさん、早く解体、でお肉ちょうだい」

 台にいるのは、全長五メートルくらいのオークだ。
 すげえな……あのサイズなら、七つ星くらいの魔石が取れる。
 まあ、若い女の子チームなんて、俺が関わることもない。そういうのは異世界転生した若い主人公で、ハーレム野郎の仕事だ。
 俺は女の子チームに目を向けず、引換券を解体場の販売店の受付へ渡す。
 そして、袋に入った魔石ニ十個をもらう。

「うし。三ツ星なら、いいモンできそうだ。帰ったらさっそく加工して製氷機完成させるぞ」

 ウキウキ気分で、俺は解体場を後にするのだった。
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