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二人旅

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 ヒジリを連れて『はぐれ街道』を歩いている。
 片足が作ったばかりの義足なのに、ヒジリは平然と歩いていた。

「ふむ……少し調整が必要です。主、野営の際にお手をお借りしてもよろしいですか?」
「いいけど……」
「ありがとうございます」

 不思議な奴だ。
 話を聞くと、まだ十五歳らしい。俺と同い年だ。
 長い黒髪は腰まで伸び、顔は小さいのに目は大きくパッチリしている。
 今はボタンのないワンピースを着ているが、スカートが嫌と言っている。
 左腕は手首から消失し、右腕は二の腕から切断……今は鉤爪のような木製の義手を付けている。
 俺と同い年の女が、四肢を失い売られかけ、俺に拾われて自分で四肢を作るとか……壮絶すぎるな。

「とりあえず、そろそろ野営場所探すか」
「では……こちらに川が流れています。行きましょう」
「え……わかるのか?」
「はい。匂いで」
「???」

 ヒジリは街道から外れ、藪の中を進んでいく。
 片足は義足なのにスイスイ藪を掻き分けていく。大したもんだ。
 藪を掻き分けて進むと、本当に川が流れていた。

「おお、すげぇ……しかも魚もいるぞ」
「主、ここで野営をしましょう」
「おし。じゃあ準備するか」

 馬車にあった革製のシートを敷き、枝を拾い集め火を熾す。
 ヒジリに火の番を任せ、俺は弓と矢を持って川沿いへ。

「『鷹の目ホークアイ』」

 視力を強化し、上流へ。
 コンパウンドボウの弦を調整し、矢の先端を細い物に取り換える。
 岩の上に乗り、矢を番え───放つ。

「うし、楽勝……もう一匹」

 矢は魚の胴を貫通。
 続いて二発目、三発目、四発目……魚を四匹ほどゲットした。
 魚を回収し、ヒジリの元へ。
 ワタを抜いて焼こうとしたらヒジリが言った。

「主、塩を忘れています」
「え、焼いてからでいいんじゃ」
「いえ。焼く前のがいいです」
「そうなのか。じゃあ……」

 言われた通りにして焼き、食べると……美味しかった。
 
「……主、申し訳ございませんが」
「あ、そっか。悪い悪い」
 
 俺はヒジリの隣に座り、串に刺した魚をそっと口元へ。

「あ~~んぐっ、あふ、あふい」
「おま、頭からってすげぇな!? 骨は!?」
「骨に栄養があるのです」

 ヒジリは、魚の頭からかぶりつき骨ごとバリバリ食べていた。
 あっという間に二匹完食。小さい薬缶に川の水を入れて沸騰させて冷やし、水筒に入れておく。
 どうもそのまま飲むと腹をこわすとか……これも俺の知識にはなかった。
 食休みした後は、ヒジリの義足と義手を改造する。

「主、脚をもう少し細くお願いします」
「右腕の鉤爪を細く、数を増やしてください。左手の義手もお願いします」
「できれば今夜中に完成を……理由は、その……私も女ですから」
「……あ、主に下の世話までさせたくないのです。それくらいのことはできるないと」

 と、顔を赤くしながら説明した。
 無表情だったのに、いきなり人間味が出てきたな。
 ヒジリの言う通りに義手と義足を造り、新しく左手も作った。
 作って装着すると同時にヒジリは藪の中へ……ああ、トイレか。
 
「主。立派な手足をありがとうございます」
「おう」
「戦いは難しいですが、自分のことは自分でできそうです。これからはお役に立てるように頑張ります」
「わかった。じゃあ今日は休むか」
「はい。夜警ならお任せください」
「ん、じゃあ交代でやるか」
「いえ。私でしたら大丈夫。七日程度なら不眠不休で活動できますので」
「……いや、無理だろ」
「本当です」

 どこまで本当なのかさっぱりわからなかった。

 ◇◇◇◇◇◇

「んが……あ?」
「おはようございます。主」
「……あれ、もう朝?」
「はい。主はゆっくり寝ておられました」
「…………」

 いつの間にかぐっすり寝ていたようだ……おかしいな、気が付いたら寝てたぞ。
 起きて身体をほぐし───え、なにこれ。

「朝食はできています。昨日と同じ魚ですが……」
「……え、お前が獲ったの?」
「はい」

 焚火の傍で、いい感じに魚が焼けていた。
 まさか、いつの間に……というか、どうやって。
 ヒジリの両手は義手だ。多少の『掴む』や『握る』ができるようになったが、魚を捕まえるなんてできるのだろうか。

「主?」
「あ、いや……お前、すごいな。どうやって捕まえたんだ?」
「普通に捕まえました」
「……そ、そうか」

 とりあえず、朝食に罪はない。
 味も昨日と同じだが、焼き魚はとてもおいしかった。
 火の始末をして片付け、カバンに荷物を入れると、ヒジリがカバンを背負った。

「おい、俺が持つよ」
「いえ。この程度でしたら私が」
「でもよ」
「主。私に気を使わないでください。私は主の所有物。それに、この程度の重さ、どうってことありません」
「……わかった。無理すんなよ」
「はい。では参りましょう」

 ヒジリは歩きだした。
 鍋とか着替えとか入っているからけっこう重いはずなのに……義足も調整し、ヒジリの足と同じ太さにして踏ん張りが利くように足の形も変えた。
 後ろから見てわかった。ヒジリは全く動きにぶれがない。
 まっすぐ、折れない鉄芯が身体の中に通っているようだ。そして、こういう立ち方ができる奴は、格闘技や武道の経験者だけ。

「……ヒジリ、お前って何か格闘技やってた?」
「さすが、おわかりですか」
「まぁな。歩き方と姿勢で」
「……それが、私が四肢を失った理由でもあります」
「…………」

 ヒジリは、前を向いたまま表情を変えなかった。
 あまり深く踏み込んではいけないような、そんな気がした。

「主。主の武器は弓ですか」
「ああ。あと目、ナイフ、格闘技かな」
「なるほど。前衛ではなく後衛ですね。私が前衛で戦えればよかったのですが」
「いいよ。それに、俺の戦いはそんなんじゃ……」

 ふと、俺は『鷹の目』で前方を見た。
 街道のど真ん中にで大きな猪が鹿を喰らっている。
 前方900、このまま行けばぶつかるな。

「主?」
「前方900、デカい猪がいる」
「……本当だ。どうします?」
「見えんのか?」
「ええ。目はいい方です」
「そっか。じゃあ、ここから仕留める」

 俺はコンパウンドボウを構え、弦を調整する。
 アスタルテから貰った特殊な形状の矢筒のツマミを廻し、特殊な鏃を矢の先端に装着、矢を抜いた。

「それは?」
鉄鋼鏃アーマーピエシング。先端を鋭く尖らせた鏃にすることで貫通力を高めた矢にするんだ」
「なるほど……つまり」
「ああ、一撃で決める」

 両腕に魔力を集中させ筋力増強。並みの大人では引くこともできないオリハルコン製の弦を弾き、『鷹の目』で巨大猪を見据え、狙いを定める。
 俺は矢を番え、ヒジリに言った。

「俺の戦い方は……真正面から打ち合う戦いじゃない。こうして相手の不意を打ち、自分が必ず生き残るための戦術だ」

 そう言って、俺は矢を射る。
 速度と貫通力がアップした矢は恐るべき速度で真っすぐ飛び、巨大猪の眉間に着弾、貫通し尻から矢が飛び出た。
 即死。巨大猪は痛みも感じず死に、そのまま倒れた。

「なぁ、猪肉って食えるか?」
「はい。かなり臭みがありますが、手持ちの香辛料でなんとか」

 今夜の昼食、夕食は、猪肉になった。
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