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第214話・カドゥケウス

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『はー……ネタバレ楽しかった。んじゃ相棒、あいつ喰って終わらせようぜ』
「お、前……」
『おいおい、今さらオレを捨てるなんて言うつもりねぇだろ? あの肉塊は神性の塊だ。もともと存在しねぇモンを無理やり人間界に作り出したんだ。放っておけばこの世界を喰らいつくす究極の毒だぜ?』
「お前、ぜんぶ知ってて……」
『ああ。知ってた。フリアエがギフトバラまいてる理由も察しがついたし、マザコン娘がお母さまお母さまって泣いてんのも知ってた。テレサも全て察して魔界で泣いてやがるぜ……フリアエを助けてやってくれってな』
「…………」
『ま、オレの自由にやらせてもらったからな。仕事くらいはするさ……相棒、フリアエを殺せ。肉体だけ殺して魂は神界に返してやんな。あとはあっちの女神の仕事だぜ』
「…………」
『いいか、全ての元凶はこのオレ様だ。オレ様は自分が楽しみたいっつー理由だけで、相棒やほかの【大罪】連中も弄んだ……へへ、最高に楽しかったぜ』
「…………」
『あとはこの肉塊を喰らっておしまい。女神はもう人間界に過度な干渉はしない。お前さんがラスラヌフとリリティアを殺したこともあるし、パティオンみてーな女神がいる限りもう大丈夫だろ。あとはオレを煮るなり焼くなり好きにすればいい』
「…………」
『まぁ、人間の力じゃオレは破壊できないし、ほかの【大罪】連中もオレを破壊することはできない。できるのはデモンくれぇだが、奴は人間界に干渉できない。それに、今は泣くテレサを熱く抱いてるんじゃねーか?』
「…………」

 ライトは、無言でカドゥケウスを睨む。
 フリアエは頭を抱えて蹲り、肉塊はモノを言うことなく脈動している。
 全く根拠のないカドゥケウスの話を、ライトもフリアエも完全に信じていた。

「…………わけ、わかんねぇ」
『そうかい』
「お前は、俺の相棒で……これまでずっと」
『ああ。ずっと一緒だった。おかげで退屈しなかったぜ。過去にオレを使ったやつもいたが、相棒ほど刺激的なやつはいなかった』
「これまでの戦いは……」
『最高だったぜ。まさか全ての【大罪神器】に出会えるとは思わなかった。しかも仲間にしたり戦ったり、挙句の果てには女神まで殺した。ケケケ、さいっこうだったぜ?』
「お前が、全ての元凶……」
『元を正せば、デモンに恋したテレサだな。恋は盲目って言うが、デモンのそばにいたいがために全ての女神を欺くような女だからなぁ……ま、オレは協力しただけだ。相棒の親友や両親の件は、間接的にオレが悪いってことか』
「…………」
『ほれほれ、お喋りばっかしてる暇ねぇぞ? あの肉塊に明確な意思は存在しないが、フリアエの神性を吸い取って成長した異世界の肉の化身だ。さっさと始末しちまおうぜ』
「…………」
『終わったら、オレを好きにしていい。相棒が望むならどっかの底なし沼にでも捨ててくれや。相棒の傍に戻らないことを約束する。あとは相棒が残りの人生を謳歌するまで寝てるからよ』
「…………ッ!!」

 ライトは、カドゥケウスを床に叩き付けようとし……踏みとどまる。
 心臓が高鳴り、呼吸も安定しない。
 情報が頭で整理しきれない。フリアエも蹲っている。

 こんな形で、最後の戦いが始まる。
 いや、戦いですらない。

『相棒。第七階梯だ。【暴食神による最後の晩餐グラトニー・オブ・サタナエル】……ケケケ、使えば驚くぜぇ?』
「…………」

 考えるのは後。
 今は……この肉塊を│食い尽くそう《・・・・・・》。

「魔喰降臨。第七階梯【暴食神による最後の晩餐グラトニー・オブ・サタナエル】」

 ライトはカドゥケウスを……放り投げた・・・・・
 放り投げられたカドゥケウスが脈動する。
 漆黒の、粘着質の液体が銃口からあふれ出し、拳銃を完全に包み込む。そして漆黒の液体が形を変える。
 第七階梯。大罪神器最後の力。それは……魔界に住む神の真の力を開放する。

『ケケケケケ───』

 黒い液体から声が響く。
 液体が少しずつ形を成し……一気にはじけた。

「ケーッケケケケケケッ!! あっはははぁぁ……キタ、キタぜぇぇ!? ケーッケケケケケケッ!! ケッケケケケッ!!」

 液体が弾け、そこに現れたのは……。

「な……か、カドゥケウス、なのか?」
「あぁ、そうさ相棒……なぁんだ? なにを驚いてやがる?」

 それは、人の形をしていた。
 漆黒の長い髪、両手はあまりにも巨大で真っ黒、背中には翼が生えている。
 頭からは角が伸び、口からは牙が生えている。



 ───そんな、十五歳ほどの少女が・・・・・・・・そこにいた・・・・・



 大罪神器【暴食】カドゥケウス・グラトニー。
 魔界での姿は、ライトと同世代の少女だった。
 カドゥケウスは口を歪め、少女とは思えないほど笑う。

「ケーッケケケケケケッ!! 相棒、オレ様のことを男だと思ってたな? ざぁぁんねぇぇん!! オレ様の性別はメスだ。ケケケケケ、何度も言ったじゃねぇか、愛してるってよぉ? ありゃ冗談でもなんでもないぜぇ?」
「お、お前……」
「おっと。まずは食事だ……ケケケ、神性を帯びた肉塊なんざそうそう喰えねぇ。さぁてどんな味がするのかねぇ?」

 ここで、ようやくフリアエが顔を上げる。そしてヨロヨロと立ち上がり、焦点の合わない目で両手を広げた。まるで肉塊を守るように。

「どけ」

 だが、カドゥケウスはあっさりとフリアエを殴り飛ばした。
 なんの感情も籠っていない拳だった。本当に邪魔だとしか感じていない。
 フリアエは何度も地面を転がり、ライトの足元で止まる。

「…………」
「…………」

 フリアエの目は死んでいた。
 心が崩壊寸前だった。カドゥケウスの話を聞き、何もかも崩壊した。

「じゃあ……いっただっきむわぁ~す♪」

 カドゥケウスの口がとんでもない大きさまで開き、あまりにも呆気なく肉塊を丸呑みした……あまりにも、あまりにも呆気なかった。

「んん~……甘ったるい肉だぜ」

 肉塊は、カドゥケウスの胃に収まった。
 フリアエの目が完全に死に……ここで、全てが決着した。

 ライトは、フリアエを殺すことなく殺した。真実により精神が崩壊したフリアエは立ち上がることは……なかった。
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