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第182話・援、軍?

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「その争い、少し待ってくれ!!」



 ライト、そしてストライガーたちの間に、一人の神父が割り込んできた。
 両手を挙げ、敵意がないことを表している。そして……両の目には白い布が巻かれていた。明らかにストライガー対策であった。

「ば、バルバトス神父……ど、どうして」
「決まっている。君を見捨てることができないからだ」

 両の目に手拭いを巻いているから見えないはず。それなのにバルバトス神父は、しっかりとライトの方を見た。
 いつの間にか、サニーがライトの傍にしゃがみ込み、身体を支える。

「さぁ、立てますか?」
「お前……」
「大丈夫。あの方の目を見なければよいのでしょう? 私も神父様もわかっています。でも……神父様はやはり、話し合いを諦めていません」
「は?」

 リン、マリア、シンク。そしてストライガー。
 ストライガーはスッと目を細める。するとシンクが言った。

「あ、あの人……まずいよ、あの人、すごく強いの」
「え……?」
「たしか、【憤怒】の人。めちゃくちゃ怖かった……」

 シンクはリンの背に隠れる。
 大罪神器【憤怒】の登場に、ストライガーは少しだけ驚く。だが、こちらにはマリアもシンクもいる。負けるはずはない……が、問題は目を隠していることだ。
 ストライガーの能力は、相手の目を見ないと発動しない。この弱点が知られていることは誤算だったが……目が見えない相手など問題ではない。

「神父様。申し訳ないですが……関係ないあんたは、すっこんでくれないですかね?」
「そうはいかない。友人の危機なのでね……ところで、ストライガーくんだったかな?」
「…………」
「頼む。リンくんたちの記憶を元に戻してやってくれ」
「……っは」

 ストライガーは、鼻で笑った。
 何を言い出すのかと思いきや……ストライガーは、首を振る。

「何を言ってるかわかりませんね。リンたちはオレの仲間ですよ? 記憶とか、元に戻すとか、意味がわからない」
「では、リンくん、マリアくん、シンクくん。君たちに聞きたい……ライトくんのことを、本当に忘れてしまったのかね?」
「え……わ、忘れるもなにも、そんな人知らない……」
「そうですわ。人の別荘に土足で上がり込んだ変質者に知り合いはいません」
「ボク、そんな人しらない」
「…………なんてことだ」

 バルバトス神父は胸に手を当て、天を仰ぐ。
 そして、ストライガーに言った。

「ストライガーくん。君は……人の思い出や心を書き換える能力があるのだね?」
「ええ、まぁ」
「では、リンくんたちの記憶を、心を弄んでいるのかね?」
「いやぁ……そんなことはしてないですよ。リンたちは最初からオレの仲間です」
「…………」
「神父様。もういいですかね? オレたち、これからメシでも食おうと思ってたんです。そっちの奴は、えーと……まぁどうでもいいです。じゃ、これで」

 ストライガーは、ライトを見ていなかった。
 さっさとこの場を離れたい。そう思っていた。
 でも、そうはいかなかった。

「……っけほ」

 がらがらと、倒壊した鍛冶屋からメリーが出てきた。
 【怠惰】の力で、建物の瓦礫を拒絶し、生き埋めを免れていたのである。

「メリー……あなた、この人とグルだったの?」
「あ、リン……あれ? ライト、駄目だったの?」
「…………悪い、失敗だ」
「そっか……」

 マリアも、シンクも今度は油断しなかった。

「メリー、あなたを敵と認識しましたわ」
「残念。友達になったと思ったのに……」
「……マリア、シンク」

 メリーは、悲しそうに二人を見た。
 そして、トボトボとライトの傍まで歩き、ライトに聞く。

「どうするの? ストライガー、ぶったおすの?」
「…………」

 ライトは、状況が最悪だと理解した。
 出てきたのはいいが、全く戦う気がないバルバトス神父。リン、マリア、シンクはメリーですら敵と認識。ライトはストライガーに戦う意志を奪われどうすることもできない。ライトを支えるサニーに頼るわけもいかず、メリーはライトの指示を待っている。

「…………」

 決断の時だ。
 ストライガーに敗北し、リンたちを諦めるか。
 玉砕覚悟で挑み、僅かな可能性に賭けるか。
 ライトの目的は勇者たちへの復讐と女神の殺害……リンたちに頼らなくても、一人でやればいい。
 そして――――。



「ライト、ストライガーをぶっ倒そう」
「……ああ。そうだな」



 ライトは、僅かな可能性に賭けることにした。
 戦う気がなくても、引き金を引くことはできる。
 心を殺して、ストライガーに向かって引き金を引いてやる。
 心を鬼に、魂を無に、ライトはカドゥケウスを握る。
 ライトは歯を食いしば――――。



「はっ? ごっびゅがっふぁぁぁっ!?」



 ストライガーが、身体をくの字にして吹っ飛んだ。
 ライトの足下には、何故か地面に亀裂ができていた。

「え……?」
「は……?」
「ふぇ……?」

 リン、マリア、シンクの髪が揺れた。その瞬間、ストライガーが吹っ飛んだ。
 そして、この場にいる全員が見た。

「め……メリー?」

 武闘家のような構えで肘打ちの体勢をした、メリーの姿を。
 メリーが超高速で飛び出し、ストライガーの無防備な腹にダッシュエルボーを喰らわせたと、誰が理解出来ただろうか。

『く、ふふふふっ……あーーーっっはっはっはっはぁぁっ!!』

 アルケイディアの声が響く。
 腹を押さえながらストライガーは身体を起こし、自分を見下ろすメリーを睨み付ける。

「ねぇ」
「……っ!?」

 だが、目の前のメリーの姿が、いきなりぶれた。
 そして、背後から声が聞こえる。

「あなたの目、残像でも効果あるの?」

 サァーーーと、ストライガーから冷たい汗が流れる。

『怠惰ねぇ……あんたたち、メリーのこと怠け者って思ってたようだけど、この子……ホントはめちゃくちゃ強いのよ?』

 アルケイディアの声が、響く。

『この子、三歳の頃から十三年間、拷問みたいな修行と格闘術を叩き込まれた武術の天才、そして歩く天災と呼ばれた最強の『天魔族』出身の武術家……普段怠けているのは、部族のしがらみから解放された反動……ふふ、この子ね、たった一人で『天魔族』を滅ぼしたのよ?』

 アルケイディアの声が、響く。
 ストライガーは、背中越しにアルケイディアの声を聞いた。

『あんた、この子は怠け者だけどそうじゃない。もっとこの子を知るべきだったわね……真の怠惰はあんたよ。メリー、少しお仕置きしてあげなさい』
「うん。リン、マリア、シンク。少し待ってて、こいつぶっ倒すから」

 メリーの容赦ない蹴りが、ストライガーを踏みつぶした。
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