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第169話・変異体アンジェラ
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第五相『大迷宮』ラピュリントス・とある階層。
「ん~……融合は成功したのに理性が飛ばないなぁ。人間の心が残っちゃってる? フリアエちゃんの聖剣を移植したのがまずかったかなぁ~……」
「…………」
魔の女神ラスラヌフは、フリフリのドレスを着たアンジェラをジロジロ観察する。
虚ろな瞳で虚空を見上げるアンジェラは、どこからどう見ても『人間』だった。まさか、ラスラヌフの手によって魔獣と融合させられたなどと、誰も考えないだろう。
「聞こえる? アンジェラちゃん」
「……………………ぁ」
「うんうん。意識はあるね。聖なる力も感じるし、魔の力も感じる。相反する二つの性質を融合させたときに人間の部分は死んじゃったかと思ったけど……フリアエちゃんの剣が守ってくれたのかなー?」
「……………………」
アンジェラの周りをグルグル回り、ラスラヌフは顎を押さえる。
魔の女神ラスラヌフは、おちゃらけた雰囲気の軽薄そうな女神だが、女神の中で最もゾ脳明晰と言われている。
「とりあえず、もう少し実験しよっか。このダンジョン、面白い魔獣でいっぱいだしね。もう少し身体が慣れてくれば、他の魔獣も移植できるようになると思う……ふひひっ、目指せ魔獣百匹融合!」
「……………………」
アンジェラの心は、まだ死んでいなかった。
ラスラヌフの言うとおり、女神フリアエの『斬滅』の力が、魔獣と融合したアンジェラの心を守っていたのだ。
あらゆる『魔』を滅し断つ『斬滅』が、同じ女神のラスラヌフからアンジェラを守るとは、あまりにも皮肉だった。
「……………………」
おかげで、アンジェラは地獄だった。
死んだ方がマシ。そんな生き地獄の中考えたのは、勇者レイジ……ではなく、昔、母が呼んでくれた御伽噺の勇者だった。
勇者は、ピンチの時にお姫様を助けてくれる。
でも現実は違う。勇者は逃げ、仲間の女剣士は復讐に燃え、同じ仲間を二人失った。
魔銃王と呼ばれる新たな脅威に、勇者たちはなにもできなかった。
その魔銃王が、自分たちを殺しに来る。
震えている自分の前に現れたのは、女神フリアエの同族であるラスラヌフ。
救いに縋るアンジェラは、女神ラスラヌフに弄ばれた。
もう、死にたかった。
でも、死に事さえできなかった。
「……………………ぅ」
涙が、流れない。
魔獣は、涙を流さない。
アンジェラが地獄から解放される日は、殺される時だけ。
◇◇◇◇◇◇
125階層。
金級冒険者ストライガー一行は、順調にダンジョンを進んでいた。
「だりゃぁっ!!」
「ピピ、援護を!!」
「はぁぁっ!! ストライガー、こっちを頼む!!」
バッタのような魔獣を相手に戦っている。
この階層はボスの魔獣が一体だけいる空間で、魔獣を倒せば次の階層が開かれるルートだ。一行は迷わず武器を持ち、バッタ相手に奮闘していた。
ストライガーは、双剣を逆手に持ちクルクル回す。
『キュィィィィィッ!!』
バッタが、昆虫魔獣とは思えない咆哮を上げる。
「いやはや、強いねぇ……」
「おい、のんびり言ってる場合か!! ピピ、アイシャ、援護しろ!!」
格闘家のロゼがバッタの懐に潜り込み、強烈なブローをお見舞いする。
ピピの魔術がさく裂し、炎の玉がバッタに直撃。怯んだ隙にアイシャが渾身の一撃でバッタの懐……ロゼの拳が入った場所と同じ個所を斬りつける。
「「「ストライガー!!」」」
「ああ、任せろ!!」
最後、ストライガーの双剣が三人の協力でできた傷に深々と突き刺さる。
「ロゼ、トドメだ!!」
「あたしが締めか!! いっただき!!」
ロゼの蹴りがストライガーの双剣の柄を押し、バッタ魔獣の体内に深々と潜り込む。
『キュァァァァ……』
バッタが痛みで暴れ回るが、次第に動きが鈍くなり……止まった。
ストライガーは死骸を確認し、バッタ魔獣が死んだと仲間に伝えると、ようやく気を抜くことができた。
「お疲れ。さすがロゼ、いい蹴りだったよ」
「へへ。鍛えてるからな」
ピピとアイシャもうんうん頷く。
「ふふ、ロゼの蹴りは丸太をへし折る威力だからね」
「魔獣みたい」
「う、うっせーぞお前ら!! おいストライガー、先進むか?」
ストライガーは、バッタ魔獣の死骸を見る。
「……いや、今日はやめておこう。この魔獣の素材を確保して、町に戻ろう」
「そうね……疲れたし、シャワー浴びたいわ。ねぇピピ」
「うん。ロゼは?」
「あたしはまだいけるけどな」
「はは。けっこう疲れたし、また明日にしよう」
ストライガーは、バッタ魔獣の腹を渋い顔で探り、自分の双剣を取り出す。
「うえ……ピピ、お願い」
「うん」
ピピが魔術で水の玉を作り、ストライガーの双剣を洗浄する。
ようやく武器を取り返したストライガーはホッと息を吐き、気が付いた。
「…………きみ、誰だい?」
ストライガーの視線に先には、フリフリのドレスを着た一人の少女がいた。
「…………」
少女の名はアンジェラ。
ファーレン王国の姫。
そして今は。
「あの、どうしたの?」
「……迷子?」
「ったく、ガキじゃねぇか」
アイシャ、ピピ、ロゼが心配し─────。
「……待て」
ストライガーが、静止した。
そして。
「…………ぅぁ」
アンジェラは、ゆっくりと『変異』した。
「ん~……融合は成功したのに理性が飛ばないなぁ。人間の心が残っちゃってる? フリアエちゃんの聖剣を移植したのがまずかったかなぁ~……」
「…………」
魔の女神ラスラヌフは、フリフリのドレスを着たアンジェラをジロジロ観察する。
虚ろな瞳で虚空を見上げるアンジェラは、どこからどう見ても『人間』だった。まさか、ラスラヌフの手によって魔獣と融合させられたなどと、誰も考えないだろう。
「聞こえる? アンジェラちゃん」
「……………………ぁ」
「うんうん。意識はあるね。聖なる力も感じるし、魔の力も感じる。相反する二つの性質を融合させたときに人間の部分は死んじゃったかと思ったけど……フリアエちゃんの剣が守ってくれたのかなー?」
「……………………」
アンジェラの周りをグルグル回り、ラスラヌフは顎を押さえる。
魔の女神ラスラヌフは、おちゃらけた雰囲気の軽薄そうな女神だが、女神の中で最もゾ脳明晰と言われている。
「とりあえず、もう少し実験しよっか。このダンジョン、面白い魔獣でいっぱいだしね。もう少し身体が慣れてくれば、他の魔獣も移植できるようになると思う……ふひひっ、目指せ魔獣百匹融合!」
「……………………」
アンジェラの心は、まだ死んでいなかった。
ラスラヌフの言うとおり、女神フリアエの『斬滅』の力が、魔獣と融合したアンジェラの心を守っていたのだ。
あらゆる『魔』を滅し断つ『斬滅』が、同じ女神のラスラヌフからアンジェラを守るとは、あまりにも皮肉だった。
「……………………」
おかげで、アンジェラは地獄だった。
死んだ方がマシ。そんな生き地獄の中考えたのは、勇者レイジ……ではなく、昔、母が呼んでくれた御伽噺の勇者だった。
勇者は、ピンチの時にお姫様を助けてくれる。
でも現実は違う。勇者は逃げ、仲間の女剣士は復讐に燃え、同じ仲間を二人失った。
魔銃王と呼ばれる新たな脅威に、勇者たちはなにもできなかった。
その魔銃王が、自分たちを殺しに来る。
震えている自分の前に現れたのは、女神フリアエの同族であるラスラヌフ。
救いに縋るアンジェラは、女神ラスラヌフに弄ばれた。
もう、死にたかった。
でも、死に事さえできなかった。
「……………………ぅ」
涙が、流れない。
魔獣は、涙を流さない。
アンジェラが地獄から解放される日は、殺される時だけ。
◇◇◇◇◇◇
125階層。
金級冒険者ストライガー一行は、順調にダンジョンを進んでいた。
「だりゃぁっ!!」
「ピピ、援護を!!」
「はぁぁっ!! ストライガー、こっちを頼む!!」
バッタのような魔獣を相手に戦っている。
この階層はボスの魔獣が一体だけいる空間で、魔獣を倒せば次の階層が開かれるルートだ。一行は迷わず武器を持ち、バッタ相手に奮闘していた。
ストライガーは、双剣を逆手に持ちクルクル回す。
『キュィィィィィッ!!』
バッタが、昆虫魔獣とは思えない咆哮を上げる。
「いやはや、強いねぇ……」
「おい、のんびり言ってる場合か!! ピピ、アイシャ、援護しろ!!」
格闘家のロゼがバッタの懐に潜り込み、強烈なブローをお見舞いする。
ピピの魔術がさく裂し、炎の玉がバッタに直撃。怯んだ隙にアイシャが渾身の一撃でバッタの懐……ロゼの拳が入った場所と同じ個所を斬りつける。
「「「ストライガー!!」」」
「ああ、任せろ!!」
最後、ストライガーの双剣が三人の協力でできた傷に深々と突き刺さる。
「ロゼ、トドメだ!!」
「あたしが締めか!! いっただき!!」
ロゼの蹴りがストライガーの双剣の柄を押し、バッタ魔獣の体内に深々と潜り込む。
『キュァァァァ……』
バッタが痛みで暴れ回るが、次第に動きが鈍くなり……止まった。
ストライガーは死骸を確認し、バッタ魔獣が死んだと仲間に伝えると、ようやく気を抜くことができた。
「お疲れ。さすがロゼ、いい蹴りだったよ」
「へへ。鍛えてるからな」
ピピとアイシャもうんうん頷く。
「ふふ、ロゼの蹴りは丸太をへし折る威力だからね」
「魔獣みたい」
「う、うっせーぞお前ら!! おいストライガー、先進むか?」
ストライガーは、バッタ魔獣の死骸を見る。
「……いや、今日はやめておこう。この魔獣の素材を確保して、町に戻ろう」
「そうね……疲れたし、シャワー浴びたいわ。ねぇピピ」
「うん。ロゼは?」
「あたしはまだいけるけどな」
「はは。けっこう疲れたし、また明日にしよう」
ストライガーは、バッタ魔獣の腹を渋い顔で探り、自分の双剣を取り出す。
「うえ……ピピ、お願い」
「うん」
ピピが魔術で水の玉を作り、ストライガーの双剣を洗浄する。
ようやく武器を取り返したストライガーはホッと息を吐き、気が付いた。
「…………きみ、誰だい?」
ストライガーの視線に先には、フリフリのドレスを着た一人の少女がいた。
「…………」
少女の名はアンジェラ。
ファーレン王国の姫。
そして今は。
「あの、どうしたの?」
「……迷子?」
「ったく、ガキじゃねぇか」
アイシャ、ピピ、ロゼが心配し─────。
「……待て」
ストライガーが、静止した。
そして。
「…………ぅぁ」
アンジェラは、ゆっくりと『変異』した。
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