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第159話・真紅の黒豹

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「いやぁっはははははぁぁーーーーーっ!!」

 シンクは、大暴れしていた。
 ゾンビの攻撃をかいくぐり、巨大な爪で薙ぎ払う。腐った死体はシンクの爪を防げるようなものではなく、一撃で砕け散る。
 リンは、シンクが取りこぼしたゾンビを魔術で屠る。正直、匂いが酷くて近付きたくなかったし、刀で斬り付けるのもいやだった。

「アク・ブリッツ!!」

 水の弾丸を生成し、シンクの援護をする。
 ゾンビは群れになり、一直線の通路を列を成して歩いてくる。数は数百、もしかしたら千はいるかもしれない。
 リンは両手の指を銃のようにして、ひたすら水の弾丸を撃ち続けた。

「あぁもう、気持ち悪いぃぃっ!!」
「そう?」

 シンクは全く気にせず、ゾンビ共を屠る。
 楽しくてしょうがない。
 戦うのは好き。
 ライトに撫でられるのも、マリアに抱かれるのも、リンに褒められるのも好き。
 でも、四肢を狩るのが一番好き。

「くふ」
 
 シンクは、満面の笑みを浮かべて爪を振るう。

『やれやれ。シンク、お楽しみのところ申し訳ありませんが……人間の反応です』
「どこ?」
『この死体の一番奥に人間の反応があります。恐らく、このゾンビを操る本体でしょうね』
「倒せば止まる?」
『恐らく』
「…………」

 シンクは、少し考えてリンの元まで下がった。

「リン、人間が奥にいるって。倒したらゾンビ消えちゃう……」
「じゃあ倒さないと!! どこ?」
「いちばんおく……終わるのやだ」
「し、シンク……えっと、お菓子いっぱいあげるから、ね?」
「おかし……」

 シンクは、子供っぽく頭を振って悩んでいた。
 リンは、その間も水の弾丸を撃ってゾンビを撃退していた。

「わかった。じゃあ後でいっぱいお菓子ちょうだい」
「うん!」

 シンクはニッコリ笑い、爪を巨大化させ両手を床に置く。
 リンはいつもと違う様子のシンクに怪訝な表情をした。

「久しぶりに本気だす。おかし食べたいから」
「え?」
『シンク、第六階梯を?』
「うん。いいよね?」
『……仕方ありませんね。リン、このことはあの二人には内密にお願いします。この技はシンクの切り札なので』
「え……き、切り札って」
「リンは好き。おかしいっぱいくれるし、優しい。だから見せてあげる」

 シンクは四つん這いになり、お尻を高く上げた。
 まるで、獲物を狙う『豹』のような姿だ。
 そして――――。

「イルククゥ、いくよ」
『ええ。第六階梯『真紅しんく黒豹くろひょう』……狩りの時間です』

 シンクの爪が、義足が、シンクの身体全体を覆っていく。
 爪が真っ赤になり、義肢がシンクの身体全体を覆い、まるで黒豹のような姿に変化した。
 真っ赤な四肢を持つ黒豹。そして、巨大すぎる尾を持っている。金属の、まるでロボットのような姿に、リンの銃撃が止まっていた。

「うっそ……」
『ありがと、リン。じゃあいくね』

 黒豹はゾンビの群れに突っ込んだ。
 長い尾が分離し、ゾンビたちを薙ぎ払う。
 尾はワイヤーで繋がれている。さしずめ『テイルブレード』といったところだろう。真っ赤な爪はゾンビを容易く引き裂き、数百以上のゾンビが腐った挽肉に変わる。

『イルククゥ、どこ?』
『……いました。なんと、ゾンビに擬態していますね』
『じゃ、狩るね』

 S級賞金首『迷宮ゾンビ』は、ゾンビの集団に紛れていたようだ。だが、イルククゥにより発見され、シンクの爪であっけなく引き裂かれた。
 本体の死亡により、ゾンビは一瞬で砂のように消えた。

『……あ、ライトのおみやげ』

 真っ赤な爪こと『超高熱クロー』は、人間の本体を溶かしてしまった。
 これでは祝福弾が作れない。

『……ま、いっか』
「シンクー!!」
『あ、リン』

 シンクは『黒豹』を解除し、リンに抱きついた。

「だ、大丈夫!?」
「ん。これ、けっこう疲れるの……おかし」
「う、うん。クッキーでいい?」
「ん!」

 リンは『影』からクッキーの袋を取り出し、シンクに渡す。
 シンクはさっそく袋を開け、中のクッキーをコリコリと食べ始めた。

「おいしい」
「よかった……シンク、ありがとう」
「ん。リンも食べる?」
「うん。と、ライトたちを探さないと……どうする?」
「あの二人なら下に行くと思う」
「……そうね」

 リンはクッキーを齧り、ライトとマリアとメリーが消えた通路を見る。そして、自分たちの進むべき道である左の通路を見た。
 ゾンビが消えたことで、最奥に階段が見える。

「……行こう。下で合流できるかも」
「ん」

 リンとシンクは、下層にむかって歩き出した。
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