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第152話・大罪神器【怠惰】アルケイディア・スロウス

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 ウェールズ王国領土に入って最初の遭遇が、大罪神器所有者だった。
 さすがに予想しておらず、四人は困惑する。ライトの目の前で大きな欠伸をして蹲る少女は、どう見ても敵には見えない。
 シンクと遭遇したときのような覇気が感じられず、ひたすら眠そうにしていた。
 だが、ライトは警戒する。
 この少女が手を向けた途端、右腕の感覚が消失したのだ。カドゥケウス本体は地面に転がり、ライトは第五階梯の左腕を少女に向ける。

「お前、何モンだ……」
「ん~……眠い」
「質問に答えろ」
「…………べつに、なにもしないよぉ。あたしは寝たいだけ。あなたの手は戻すからぁ……はぃ」
「!!」

 右腕の感覚が一瞬で戻った。
 少女が手をかざす。それだけで腕が治る……ライトは、感覚を奪う能力と核心。カドゥケウス本体を拾い、少女から距離を取る。

「カドゥケウス」
『気を付けろ。アルケイディアはクソ野郎だ。あの【怠惰】の力は、あらゆる法則をユルくしちまう』
「ゆるく?」
『ああ。腕の感覚が消えたんじゃねぇ、『動かそうとする意志』が極限までユルくなっちまって、感覚が消えたようになったんだ』
「……マジか」

 ユルくする能力。
 カドゥケウス曰く、対象に制限はない。魔術も人も、あの少女が望めば何でもユルくなってしまうのだ。
 眠そうにしている少女の胸元で揺れるペンダントから声が聞こえた。

『失礼ね。死体喰らいの悪食が……私のことずいぶん嫌ってるみたい』
『うるせーよ。シャルティナは色ボケ、イルククゥは頭でっかちだとしたら、てめぇはクソだ、アルケイディア』
『言ってくれるじゃない……メリー、少しお仕置きしてあげましょ』
「え~……めんどい」
『いいから!』
「やぁ……寝るぅ」

 メリーと呼ばれた少女は地面にコロンと転がった。
 戦うつもりがないのか、まるで隙だらけだ。すると、リンたちも近付いてきた。

『アルケイディア、久し振り』
『うそ、シャルティナじゃない!! やだぁ久しぶりね!!』
『まさか、貴女とここで会うとは……』
『げっ、イルククゥもいるの? カドゥケウスもいるし、魔神四人がこんなところに揃うなんて……まさか、他の連中はいないよね?』
『ええ。いるのはあたしらだけよ。それよりアルケイディア、この子があんたの契約者?』
『ええ。ちょっと怠け者でね。どこでもすぐ寝ちゃうのよ。ねぇシャルティナ、この子を連れて行ってもらってもいい?』
『あたしはいいけど……』

 シャルティナの声が途切れ、リンたちの意見。

「お、女の子? 大罪神器って若い女の子ばかりなの? それにこの子、浴衣みたいなの着てる……靴も白足袋に草履だし、似合ってるかも。まるで雪女みたい」
「…………可愛いですわね。うふふ、わたしのハーレム……うふふ」
「弱そう。ボクのが強い……美味しくなさそう」

 長い白髪、青い瞳。リン曰くミニスカの浴衣に草履と雪駄。雪女みたいらしい。
 ライトは、自分の手の感覚を確かめながらも警戒する。大罪神器所有者ならその力は欲しい。

「……マリア、こいつを馬車へ。一緒に連れて行こう」
「お任せを!! うふふ……いい身体してますわねぇ。ちょっとだけ触っても」
「マリア、ダメよ」
「あん、リンってばヤキモチ♪」
「違うっての」
「ライト、おなかへった」
「はいはい。ったく、厄介なモン拾っちまった……運がいいのか悪いのか」

 こうして一行は、大罪神器所有者の少女を連れていくことになった。

 ◇◇◇◇◇◇

「くかぁ~……」
「この子、よく寝るわね……」

 馬車の中。リンに寄りかかって眠る少女。
 真っ白い髪に白い浴衣。ヤシャ王国で買った服だろうか、よく似合っている。
 大罪神器所有者なのは間違いないが、いきなりの遭遇だったのでまだ受け入れにくい存在だった。
 ライトは手綱を握っているのでここには女子しかいない。

「か、可愛い女の子……はぁはぁ、また女の子が仲間に!」
「マリア、少し黙って……あの、起きて、ねぇ」
「んんぅ~……」
「引っ掻いてみる?」
「そ、それはだめ!」

 シンクが人差し指だけを鋭利な刃物に変えるが、リンが阻止した。
 狭い馬車の中に、【色欲】と【嫉妬】と【怠惰】の三人がいる。手綱を握るのは【暴食】で、【憤怒】の神父はどこかの町にいる。
 残りは【傲慢】と【強欲】の二人。

「案外、あっさり見つかるかもね……」
『【強欲】なら会ったわよ』
「え」

 リンに寄りかかって眠る少女のペンダントから声が聞こえた。
 
『【強欲】とちょ~っと揉めちゃってね……居場所は知ってるけど会うのはオススメしないわよ? カドゥケウスのクソ野郎が一番嫌ってる奴だからね。それに、所有者もとんでもないクソ野郎だからね……殺し合いになっちゃうかも』

 と、【怠惰】のアルケイディアが言う。
 少し馬車の空気が重くなり、リンの肩を枕にしていた少女がゆっくり目を開けた。

「んんん~……くぁぁ」
「あ、おきた」
「うぅぅん、おふぁぁよ」
「あの、起きて早々だけど、あなたの名前教えてくれない?」

 少女は、ぼんやりした目でリンを見た。

「あたしの名前? あぁ……メリクリウス。メリーでいいよ」
「メリーね。私はリン、よろしくね」
「マリアですわ」
「シンク」
「ん~……」

 聞いているのかいないのか。メリーはまた目を閉じてしまった。
 まさに怠惰。なにもする気がないのか、眠ってばかり。

 馬車は、ダンジョンの町に向かって進んで行く。
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