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第133話・バルバトス神父の真実

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 『また遊んでねー!』、そう言って、第二相クレッセンド幼女態は消えた。
 劣化した能力だから幼女……ライトは苦笑し、氷漬けから解放されたバルバトス神父を見る。今は気を失い、地面に横たわっている。
 怪物のような姿だったが、風船がしぼむように元の状態に戻った。上半身は裸で、ズボンも破れているが、怪我らしい怪我はしていない……が。

「……酷い古傷だ」

 やせ細った身体には、酷い傷跡が刻まれていた。
 裂かれたような傷、斬られ殴られ刺された傷、火傷の跡や縫った痕、見るだけで痛々しい傷……ライトは顔をしかめ、作業員が脱ぎ捨てたコートをかけてやった。
 シンクはしゃがみ、バルバトス神父の顔を覗き込んでいる。
 
『おいダミュロン、聞こえてんだろ? オレとイルククゥのこと忘れたのか?』
『…………』
『無視、ですか……相変わらずと言えば聞こえはいいですが、少々不快ですね』

 【憤怒】の大罪神器は、未だにダンマリだった。
 そして、気を失っていたバルバトス神父の眉が、ピクピク動く。

「む……」
「あ、起きたよライト」
「ああ」

 バルバトス神父は身体を起こし、頭を押さえ──周囲を見回し、目を見開いた。
 そして、ライトとシンクを見て呟いた。

「…………私が、やったのか」
「うん。大暴れ……怖かった」
「シンク、下がってろ」

 バルバトス神父はコートを羽織り、肉片と言っても過言ではない傭兵たちに視線を移し、顔をしかめてボロボロと涙をこぼした。

「す、すまない……すまない!! 私は、私はぁ……っ!! っぐ、うぅぅ」
「バルバトス神父……」
「ああ、神よ、神よオォォォォォォッ!!」
「ちょっ!?」

 バルバトス神父は跪き、地面に頭をガンガン叩き付けた。
 額から血が出る。だが、額を打ち付けることを止めない。
 ライトが押さえつけるが、バルバトス神父は止まらない。

「なぜだ!! なぜこの身体は『痛み』を感じない!! 私には痛みを感じることも……『罰』を受けることすら許されないのかァァァァ!! 神よ、わが身に宿る『魔神』よ!! どうして私に何も語らないのでありますかァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
「え……ま、魔神って」
「全て、全てあの忌まわしき悪神が、女神がァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 バルバトス神父は血塗れで絶叫する。
 血走った目には恨みと怒りが込められ、ライトは思わず手を離してしまう。バルバトス神父は額を、拳を打ち付け、血濡れになっていく。

「アァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 絶叫するバルバトス神父を止めることは、ライトたちにはできなかった。

 ◇◇◇◇◇◇

 ひとしきり叫んだバルバトス神父は、血まみれのまま座り込んでしまった。
 何を話せばいいのか。大罪神器の使い手が見つかったのに、素直に協力をお願いしにくいライト。
 
「あの、バルバトス神父」
「ああ、申し訳ない……取り乱してしまったようだ」

 いつもの、温かくどこか儚い笑顔だった。
 血にまみれていなければ、初めて会ったころと変わらない。
 シンクは、ハンカチを出した。

「血、拭く?」
「……ありがとう」

 血をぬぐい、コートを着たバルバトス神父。
 ライトは、とりあえず質問してみた。

「あの、バルバトス神父……あなたの力は一体」
「……わからない。私は生まれつきギフトを持ってなかったのだが、数年前からこの奇妙な力に……魔神の力に覚醒した」
「魔神……」
「ああ。力の対価に『痛み』を感じることができなくなった……罪の痛みを感じることも許されない、なんとも愚かな人間になってしまったようだ」
「…………あの、俺たちも同じなんです」
「え?」
「これは、大罪神器……魔界最強の七つの力」

 ライトは、カドゥケウスを抜いてバルバトス神父に見せる。

『よぉ、ダミュロンの無口バカが何も言わねぇようだからオレが説明してやる。おいイルククゥ、てめーも付き合えよ』
『仕方ありませんね……あなたに任せると妙なことを言いそうだ』
『んだと!?』
「お、おぉぉ……これが、魔神の声……あぁ、神は、神はやはりいたのだ」
「バルバトス神父……神って、女神のことじゃなくて?」
「女神……ああ、ギフトをばら撒き、人間を惑わす悪神のことですか」

 バルバトス神父は笑顔だった。
 だが、内なる心は憎悪に満ちている。

「……まずは、ここから出ましょう。傭兵団も全滅したし、作業員も家に帰ったでしょう」

 鉱山から出ると、傭兵団が使っていたと思われる馬車が消えていた。
 車輪の痕跡や馬の蹄の跡が残っていることから、どうやら作業員たちはここから帰ったようだ。バルバトス神父は安心したのか、小さく息を吐く。

 ライトたちも、町に帰ることにした。
 話すことは山ほどある。まずはリンたちと合流する。
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