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第124話・仲間がいる
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シンクは、射出した左手のワイヤーアームを戻すが、さらに射出した指五本は凍り付いたせいで戻ってこなかった。クレッセンドの足下に爪の部分が転がっている。
「…………」
『シンク、そろそろ』
「やだ。まだ一撃も入れていない」
シンクは、全身が凍傷にかかっていた。
温度を感じない身体のせいで気付いていない。生身の部分が凍り付き、全身の動きが鈍くなり、猛烈な眠気を感じている。だが、シンクは戦いを止めようとしない。
クレッセンドは、氷柱に座りシンクを見下ろしていた。
『あら、あららら、あらあら? どうしたの? こっちにおいで?』
「わかった」
シンクは両義足をブースターに変化させ、氷柱の上に優雅に座るクレッセンドに向けて真正面から挑む。
戦略を練ったことのないシンクは、どんな相手でも真正面から挑み撃破してきた。だが、それが通じない相手はこれで二度目。
第七相ガラパゴ・タルタルガ、そして第二相クレッセンド・ロッテンマイヤーだ。
『あはは、おばかさぁん』
「ッ!!」
クレッセンドが指を鳴らすと、床からせり上がった氷柱が、シンクの鳩尾に直撃した。
そのまま上空へ飛び、天井から伸びてきた氷柱に叩き落される。
「っく……」
『シンク!! 真正面からでは不利です、それどころか相性が最悪だ!! このままでは』
「やだ、狩る」
『シンク!!』
イルククゥの声を無視し、シンクは再び飛び出す。
凍傷で全身が凍り付き始め、単純な動きはクレッセンドに見切られていた。なので、どんなに早く動いても、上下左右から突き出す氷柱に叩き落されてしまう。
『あはは、あはははは、あっははは。踊り踊られレクイエム、氷のワルツ、氷上のエトワール♪』
「っぎ、あ……」
クレッセンドは、指揮者のように手を動かしながら、がむしゃらに挑んでくるシンクを氷柱で滅多打ちにしていた。
血液すら凍る城の中、ボロボロに打ちのめされたシンクの右腕が、バキンと砕ける。
両手を失い、凍り付いた髪と血、それでもシンクの表情は変わらない。
「狩る、四肢を狩る……綺麗な手、足……狩る」
『んんん~……怖い、怖い、ああ怖い……この子は恐怖、恐怖の氷像』
シンクの周囲に氷柱が何本も突き出すが、シンクは抵抗できなかった。
もう、それだけの力も残されていない。
『…………最悪の相性ですね。やれやれ』
「…………ボク、負けちゃうの?」
『ええ。いい機会です、敗北を学びなさい。あなたが強くなるためには、避けて通れない道です』
「…………うん」
シンクは小さく頷く。
氷柱が迫る。この氷柱がシンクを囲んだ時、シンクは完全に凍り付き、第二相クレッセンドの氷像コレクションの一つになるのだろう。
だけど、シンクは死にたくない。
だから、ポツリと言った。
「ごめん、助けて」
◇◇◇◇◇◇
四本の巨大な『百足鱗』がシンクの足下から飛び出し、周囲の氷柱を粉々に砕いた。
一本一本が意志を持つようにうねり、歪な羽のような鱗羽がギチギチと軋むように音を立て、まるで巨大なムカデのように見えた。
『……なにこれ、なにこれ』
氷の城に似つかわしくない光景に、クレッセンドは眉を顰めた。
そして、発砲音─────クレッセンドは右手を掲げて凍らせ、飛んできた何かを受け止める。
それは、小さな金属の弾丸だった。
「で、満足したのか?」
少年の声が聞こえた。
分厚いコートにマフラーを巻いて、耳当てをしたライト。手にはカドゥケウスを持ち、銃口をクレッセンドに向けたままシンクに聞く。
「……負けちゃった」
「大丈夫? すぐに治すから」
「ん……」
悲し気に俯くシンクにコートをかけ、寒くないようにマフラーを首に巻き、通常の数百倍の魔力を使って治癒魔術を発動、シンクの凍傷や外傷を治療するリン。
「あれが第二相……今までとはタイプが違いますわね」
「どうでもいい。それより、氷の力だ……喰えばいろいろ使えそうな気がする」
「どうしますの? 新しい力を使うのですか?」
「それもいいけど、使い勝手を考えると、お前かシンクがいた方がいい。今回はシンクに任せたい」
「あら、妬けちゃいますわ。わたしじゃ役不足かしら?」
「ちげーよ。こいつと戦うって言ったのはシンクだ。ケリをつけるのもシンクがいい」
「ふふ、お優しいのね」
「……リン、治療に何分かかる?」
「……3分」
「よし、じゃあ3分間、俺とマリアでやるか。第二相……相手にとって不足はない」
ライトとマリアが前に出ると、クレッセンドは氷柱の上から首を傾げる。
『お客様、お客様! うふふ、お客様がいっぱい! 今日はとっても楽しい!』
「そうかい……じゃあ、最後にたくさん楽しんどけ」
「ふふ、わたしたちがお相手しますわ」
カドゥケウスを構え、百足鱗がニョロニョロ動く。
第二相討伐、最終章が始まった。
「…………」
『シンク、そろそろ』
「やだ。まだ一撃も入れていない」
シンクは、全身が凍傷にかかっていた。
温度を感じない身体のせいで気付いていない。生身の部分が凍り付き、全身の動きが鈍くなり、猛烈な眠気を感じている。だが、シンクは戦いを止めようとしない。
クレッセンドは、氷柱に座りシンクを見下ろしていた。
『あら、あららら、あらあら? どうしたの? こっちにおいで?』
「わかった」
シンクは両義足をブースターに変化させ、氷柱の上に優雅に座るクレッセンドに向けて真正面から挑む。
戦略を練ったことのないシンクは、どんな相手でも真正面から挑み撃破してきた。だが、それが通じない相手はこれで二度目。
第七相ガラパゴ・タルタルガ、そして第二相クレッセンド・ロッテンマイヤーだ。
『あはは、おばかさぁん』
「ッ!!」
クレッセンドが指を鳴らすと、床からせり上がった氷柱が、シンクの鳩尾に直撃した。
そのまま上空へ飛び、天井から伸びてきた氷柱に叩き落される。
「っく……」
『シンク!! 真正面からでは不利です、それどころか相性が最悪だ!! このままでは』
「やだ、狩る」
『シンク!!』
イルククゥの声を無視し、シンクは再び飛び出す。
凍傷で全身が凍り付き始め、単純な動きはクレッセンドに見切られていた。なので、どんなに早く動いても、上下左右から突き出す氷柱に叩き落されてしまう。
『あはは、あはははは、あっははは。踊り踊られレクイエム、氷のワルツ、氷上のエトワール♪』
「っぎ、あ……」
クレッセンドは、指揮者のように手を動かしながら、がむしゃらに挑んでくるシンクを氷柱で滅多打ちにしていた。
血液すら凍る城の中、ボロボロに打ちのめされたシンクの右腕が、バキンと砕ける。
両手を失い、凍り付いた髪と血、それでもシンクの表情は変わらない。
「狩る、四肢を狩る……綺麗な手、足……狩る」
『んんん~……怖い、怖い、ああ怖い……この子は恐怖、恐怖の氷像』
シンクの周囲に氷柱が何本も突き出すが、シンクは抵抗できなかった。
もう、それだけの力も残されていない。
『…………最悪の相性ですね。やれやれ』
「…………ボク、負けちゃうの?」
『ええ。いい機会です、敗北を学びなさい。あなたが強くなるためには、避けて通れない道です』
「…………うん」
シンクは小さく頷く。
氷柱が迫る。この氷柱がシンクを囲んだ時、シンクは完全に凍り付き、第二相クレッセンドの氷像コレクションの一つになるのだろう。
だけど、シンクは死にたくない。
だから、ポツリと言った。
「ごめん、助けて」
◇◇◇◇◇◇
四本の巨大な『百足鱗』がシンクの足下から飛び出し、周囲の氷柱を粉々に砕いた。
一本一本が意志を持つようにうねり、歪な羽のような鱗羽がギチギチと軋むように音を立て、まるで巨大なムカデのように見えた。
『……なにこれ、なにこれ』
氷の城に似つかわしくない光景に、クレッセンドは眉を顰めた。
そして、発砲音─────クレッセンドは右手を掲げて凍らせ、飛んできた何かを受け止める。
それは、小さな金属の弾丸だった。
「で、満足したのか?」
少年の声が聞こえた。
分厚いコートにマフラーを巻いて、耳当てをしたライト。手にはカドゥケウスを持ち、銃口をクレッセンドに向けたままシンクに聞く。
「……負けちゃった」
「大丈夫? すぐに治すから」
「ん……」
悲し気に俯くシンクにコートをかけ、寒くないようにマフラーを首に巻き、通常の数百倍の魔力を使って治癒魔術を発動、シンクの凍傷や外傷を治療するリン。
「あれが第二相……今までとはタイプが違いますわね」
「どうでもいい。それより、氷の力だ……喰えばいろいろ使えそうな気がする」
「どうしますの? 新しい力を使うのですか?」
「それもいいけど、使い勝手を考えると、お前かシンクがいた方がいい。今回はシンクに任せたい」
「あら、妬けちゃいますわ。わたしじゃ役不足かしら?」
「ちげーよ。こいつと戦うって言ったのはシンクだ。ケリをつけるのもシンクがいい」
「ふふ、お優しいのね」
「……リン、治療に何分かかる?」
「……3分」
「よし、じゃあ3分間、俺とマリアでやるか。第二相……相手にとって不足はない」
ライトとマリアが前に出ると、クレッセンドは氷柱の上から首を傾げる。
『お客様、お客様! うふふ、お客様がいっぱい! 今日はとっても楽しい!』
「そうかい……じゃあ、最後にたくさん楽しんどけ」
「ふふ、わたしたちがお相手しますわ」
カドゥケウスを構え、百足鱗がニョロニョロ動く。
第二相討伐、最終章が始まった。
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