113 / 214
第114話・シンクと一緒
しおりを挟む
お腹いっぱいになったシンク。
リンに連行されて二階の部屋に向かい、着ている服を全て脱がされ、身体をゴシゴシ擦られていた。
シンクは気持ちいいのか、猫のように目を細めている。アカスリのようなマッサージも兼ねているようだが、リンとしては身体の垢を落としているにすぎない。
マリアとライトは、まだ一階で酒を飲んでいる。最初こそ殺し合いに発展しそうなくらい険悪だったが、互いを認め合ってからいい飲み仲間になったようだ。
「んん~♪ きもちいい」
「まったく、女の子なんだから綺麗にしないと!」
「ん~♪」
シンクは聞いていないのか、ただ気持ちよさそうに唸る。
リンは、桶に入れた水を魔術で蒸発させ、パチンと指を慣らす。すると、桶には新しい人肌のお湯が並々と注がれた。
「おぉ~。リンって魔術得意なの?」
「水属性はね。一応、全属性使えるけど、こういう日常的な使い方ができるから、水属性を重点的に鍛えたのよ」
リンの魔術適性は『水』だが、魔力量はこの世界最高最量のため、他の属性の魔術を使ってもかなりの規模になる。だが、リンは得意の水属性だけを戦闘で使っていた。
それに、旅をするなら水は何よりも重要だ。飲料はもちろん、こうやって身体を拭いたり、女の子なら髪だって洗いたい。
そんなリンが考えた、オリジナルの魔術がある。
「さ、髪を洗うわよ。動かないでね」
「んー……おぉっ!?」
「ほら、動かないの」
リンは、人間の頭より少し大きな水球を生み出し、シンクの頭に乗せる。まるで帽子のようにすっぽりと水球が頭を覆い、リンは水球の中にシンクの髪を全て入れる。
「じゃ、始めるわ。ここに液体せっけんを入れて……」
水球の中に、植物から作られた天然の高級シャンプーを混ぜ合わせる。そして、リンがパチッと指を鳴らすと、シンクの頭を覆う水球の中がジャバジャバと高速で回転を始めたのだ。
「わわわぁぁ~……なにこれ、きもちいい」
「これぞオリジナル魔術『シャンプー洗濯』よ。水球内を洗濯機のように回して、髪を綺麗に洗ってくれるの」
「ふわぁぁ~……」
ただ回るだけじゃない。緩急を付けたり、水圧を変えて頭皮をマッサージしたり、リンの操作ひとつで水球内の環境は変化する。
洗髪を終え、水球を蒸発させると、シンクの赤い髪はキラキラ輝いていた。
上質なルビーみたいに輝く髪をタオルでゴシゴシ拭いていると、ライトとマリアが戻ってきた。
「ふぅ……けっこう飲みすぎた」
「ですわね……」
「ちょ、待って待って、まだシンクが着替えてない!」
シンクは素っ裸のままだ。
服を『シャンプー洗濯』で洗おうとしていたリンは、慌てて自分の着替えをシンクに渡す。だがライトは無感情に言った。
「そいつの裸に興味ない。それより、明日は出発だ。早く寝るぞ」
「? ライト、女の子の裸に興味ないの?」
「話聞いてたか? お前のに興味ないって言ったんだ」
「女の立場で聞くと最低最悪の言葉ですわね……」
「そうかい。明日は近くの町で『八相』の情報収集だ、早めに休めよ」
ライトは、裸のシンクの横を平然と通りすぎ、自分のベッドのカーテンを引いた。
服を脱いで寝間着に着替えると、大きな欠伸をする。
「ふぁ……久しぶりにいい気分だ」
『相棒、けっこう飲んでたよなぁ』
「ああ。シンクのことはともかく、悪いことばかりじゃない」
ベッドに横になると、そのまま睡魔が襲ってくる。
大きく欠伸をして、そのまま目を閉じた。
◇◇◇◇◇◇
「ライトってば……」
リンは、少し不機嫌だった。
シンクを女の子扱いしないことはもちろんだが、マリアやシンクには優しいのに、自分には事務的な会話しかしてこないのだ。
シンクの髪を梳かしているのを見ていたマリアは、ポツリと呟く。
「美しい髪……磨かれたルビーのような、血のように赤い真紅……」
「……♪」
「な、なんですの?」
「マリア、ありがとう」
「なっ……」
シンクは、とても嬉しそうな笑顔を作り、マリアに礼を言った。
あまりにも素直だったので、マリアの方が驚いた。
「ボク、生まれつき手足がないし、両親の顔も知らないまま生きてきたけど、この赤い髪は好き。血の色みたいに真っ赤で、返り血を浴びてキラキラ輝くの……」
「……返り血はともかく、綺麗だよね」
「ええ。素敵ですわ」
シンクは、髪を褒められ上機嫌だった。
未だ下着すら履かずにいるシンクだが、こうしてみると普通の女の子にしか見えない。
成り行きで同行することになったが、もしかしたら上手くやれるのではないかとリンは考えた。
「シンク、そういえばあなた、荷物とかないの?」
「ない」
「え……じゃあ、服とか下着は?」
「ない。これだけ」
「……うそ」
シンクは、リンの『シャンプー洗濯』で洗われている服を指さした。
たった一枚に下着に、水着のような胸当て、そして短パンと黒いコートにブーツだけ。お金も持っていないし、今までどういう生活をしてきたのか。
「……替えの下着と服、次の町で買いましょう」
「そうですわね。大罪神器や賞金首以前に、女として放っておけませんわ……」
「???」
『……お手数、お掛けします』
『ぷくくっ、イルククゥってば、この子にそんなことも教えないなんてねぇ』
『……仕方ないでしょう。私にだってできないことはあります』
シャルティナに嗤われ、イルククゥは歯噛みした。
女子三人は、いつの間にか打ち解けていた。
だが、忘れてはいけない。
シンクは賞金首、その本性は別のところにある。
リンに連行されて二階の部屋に向かい、着ている服を全て脱がされ、身体をゴシゴシ擦られていた。
シンクは気持ちいいのか、猫のように目を細めている。アカスリのようなマッサージも兼ねているようだが、リンとしては身体の垢を落としているにすぎない。
マリアとライトは、まだ一階で酒を飲んでいる。最初こそ殺し合いに発展しそうなくらい険悪だったが、互いを認め合ってからいい飲み仲間になったようだ。
「んん~♪ きもちいい」
「まったく、女の子なんだから綺麗にしないと!」
「ん~♪」
シンクは聞いていないのか、ただ気持ちよさそうに唸る。
リンは、桶に入れた水を魔術で蒸発させ、パチンと指を慣らす。すると、桶には新しい人肌のお湯が並々と注がれた。
「おぉ~。リンって魔術得意なの?」
「水属性はね。一応、全属性使えるけど、こういう日常的な使い方ができるから、水属性を重点的に鍛えたのよ」
リンの魔術適性は『水』だが、魔力量はこの世界最高最量のため、他の属性の魔術を使ってもかなりの規模になる。だが、リンは得意の水属性だけを戦闘で使っていた。
それに、旅をするなら水は何よりも重要だ。飲料はもちろん、こうやって身体を拭いたり、女の子なら髪だって洗いたい。
そんなリンが考えた、オリジナルの魔術がある。
「さ、髪を洗うわよ。動かないでね」
「んー……おぉっ!?」
「ほら、動かないの」
リンは、人間の頭より少し大きな水球を生み出し、シンクの頭に乗せる。まるで帽子のようにすっぽりと水球が頭を覆い、リンは水球の中にシンクの髪を全て入れる。
「じゃ、始めるわ。ここに液体せっけんを入れて……」
水球の中に、植物から作られた天然の高級シャンプーを混ぜ合わせる。そして、リンがパチッと指を鳴らすと、シンクの頭を覆う水球の中がジャバジャバと高速で回転を始めたのだ。
「わわわぁぁ~……なにこれ、きもちいい」
「これぞオリジナル魔術『シャンプー洗濯』よ。水球内を洗濯機のように回して、髪を綺麗に洗ってくれるの」
「ふわぁぁ~……」
ただ回るだけじゃない。緩急を付けたり、水圧を変えて頭皮をマッサージしたり、リンの操作ひとつで水球内の環境は変化する。
洗髪を終え、水球を蒸発させると、シンクの赤い髪はキラキラ輝いていた。
上質なルビーみたいに輝く髪をタオルでゴシゴシ拭いていると、ライトとマリアが戻ってきた。
「ふぅ……けっこう飲みすぎた」
「ですわね……」
「ちょ、待って待って、まだシンクが着替えてない!」
シンクは素っ裸のままだ。
服を『シャンプー洗濯』で洗おうとしていたリンは、慌てて自分の着替えをシンクに渡す。だがライトは無感情に言った。
「そいつの裸に興味ない。それより、明日は出発だ。早く寝るぞ」
「? ライト、女の子の裸に興味ないの?」
「話聞いてたか? お前のに興味ないって言ったんだ」
「女の立場で聞くと最低最悪の言葉ですわね……」
「そうかい。明日は近くの町で『八相』の情報収集だ、早めに休めよ」
ライトは、裸のシンクの横を平然と通りすぎ、自分のベッドのカーテンを引いた。
服を脱いで寝間着に着替えると、大きな欠伸をする。
「ふぁ……久しぶりにいい気分だ」
『相棒、けっこう飲んでたよなぁ』
「ああ。シンクのことはともかく、悪いことばかりじゃない」
ベッドに横になると、そのまま睡魔が襲ってくる。
大きく欠伸をして、そのまま目を閉じた。
◇◇◇◇◇◇
「ライトってば……」
リンは、少し不機嫌だった。
シンクを女の子扱いしないことはもちろんだが、マリアやシンクには優しいのに、自分には事務的な会話しかしてこないのだ。
シンクの髪を梳かしているのを見ていたマリアは、ポツリと呟く。
「美しい髪……磨かれたルビーのような、血のように赤い真紅……」
「……♪」
「な、なんですの?」
「マリア、ありがとう」
「なっ……」
シンクは、とても嬉しそうな笑顔を作り、マリアに礼を言った。
あまりにも素直だったので、マリアの方が驚いた。
「ボク、生まれつき手足がないし、両親の顔も知らないまま生きてきたけど、この赤い髪は好き。血の色みたいに真っ赤で、返り血を浴びてキラキラ輝くの……」
「……返り血はともかく、綺麗だよね」
「ええ。素敵ですわ」
シンクは、髪を褒められ上機嫌だった。
未だ下着すら履かずにいるシンクだが、こうしてみると普通の女の子にしか見えない。
成り行きで同行することになったが、もしかしたら上手くやれるのではないかとリンは考えた。
「シンク、そういえばあなた、荷物とかないの?」
「ない」
「え……じゃあ、服とか下着は?」
「ない。これだけ」
「……うそ」
シンクは、リンの『シャンプー洗濯』で洗われている服を指さした。
たった一枚に下着に、水着のような胸当て、そして短パンと黒いコートにブーツだけ。お金も持っていないし、今までどういう生活をしてきたのか。
「……替えの下着と服、次の町で買いましょう」
「そうですわね。大罪神器や賞金首以前に、女として放っておけませんわ……」
「???」
『……お手数、お掛けします』
『ぷくくっ、イルククゥってば、この子にそんなことも教えないなんてねぇ』
『……仕方ないでしょう。私にだってできないことはあります』
シャルティナに嗤われ、イルククゥは歯噛みした。
女子三人は、いつの間にか打ち解けていた。
だが、忘れてはいけない。
シンクは賞金首、その本性は別のところにある。
0
お気に入りに追加
1,520
あなたにおすすめの小説
何故、わたくしだけが貴方の事を特別視していると思われるのですか?
ラララキヲ
ファンタジー
王家主催の夜会で婚約者以外の令嬢をエスコートした侯爵令息は、突然自分の婚約者である伯爵令嬢に婚約破棄を宣言した。
それを受けて婚約者の伯爵令嬢は自分の婚約者に聞き返す。
「返事……ですか?わたくしは何を言えばいいのでしょうか?」
侯爵令息の胸に抱かれる子爵令嬢も一緒になって婚約破棄を告げられた令嬢を責め立てる。しかし伯爵令嬢は首を傾げて問返す。
「何故わたくしが嫉妬すると思われるのですか?」
※この世界の貴族は『完全なピラミッド型』だと思って下さい……
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
実家を追放された公爵家長男、荒れ果てた戦地を立て直し領地改革!~弟よ、お前にだけは絶対に負けないからな!~
さとう
ファンタジー
サーサ公爵家長男マサムネ。彼は次期当主の座を巡り弟のタックマンと決闘をするが、あっさりと敗北してしまう。敗北したマサムネを待っていたのは、弟タックマンの提案による領地管理の仕事だった。
だが、その領地は戦争により焼けた大地で、戦争の敗者である亜人たちが住まう、ある意味で最悪の領地だった。マサムネは剣も魔法も何も才能はない。だが、たった一つだけ持つ《スキル》の力で領地管理を行っていくことになる。
これは、実家を追放された公爵家長男が、荒れ果てた大地を豊かにする領地経営……もとい、スローライフな物語である。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
婚約破棄は結構ですけど
久保 倫
ファンタジー
「ロザリンド・メイア、お前との婚約を破棄する!」
私、ロザリンド・メイアは、クルス王太子に婚約破棄を宣告されました。
「商人の娘など、元々余の妃に相応しくないのだ!」
あーそうですね。
私だって王太子と婚約なんてしたくありませんわ。
本当は、お父様のように商売がしたいのです。
ですから婚約破棄は望むところですが、何故に婚約破棄できるのでしょう。
王太子から婚約破棄すれば、銀貨3万枚の支払いが発生します。
そんなお金、無いはずなのに。
追放勇者~お前もうクビ、いらねーよ~
さとう
ファンタジー
「お前、使えないからクビ」
「力を失った聖女なんていらねーよ」
「ジジィ、この役立たず!! お前はクビだ!!」
「新しいパーティーが加入するから、お前もういらねーや」
勇者アベルは、仲間を何人もクビにした。
使えないから、もういらないから、役にたたないから。
でも、その追放には理由があった。
仲間をクビにし、嫌われた勇者の物語。
理由を知ったところで───今更もう遅い。
【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!
猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」
無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。
色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。
注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします!
2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。
2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました!
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
★小説家になろう様でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる