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第97話・第四相『海月翁ジェリー・ジェリー』

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「うっきゃぁぁぁぁーーーーーッ!!」
「ッ!? リンっ!!」

 スキイロクラゲが大量に飛んでいる中、リンの叫び声が聞こえた。
 目の前にいるクラゲを撃ち殺し、ライトは貸別荘の中へ。声が聞こえた風呂場へ迷わず踏み込んだ。

「大丈夫か!?」
「ちょっ、ライト!?」

 リンとマリアは、裸でスキイロクラゲと戦っていた。
 入浴中に外から来たのだろう。リンは魔術、マリアは百足鱗で応戦しているが、数が多い。
 ライトは迷わず浴場へ踏み込み、カドゥケウスを発砲する。

「無事か」
「ええ」

 マリアは裸体を隠そうとせず、百足鱗でスキイロクラゲを倒している。ライトも、一瞬だけマリアを見てすぐに戦闘を始めた。木桶を掴んで弾丸にして放つと、スキイロクラゲは簡単に砕けた。この程度の相手なら、木の弾丸でも十分なようだ。

「一体何が?」
「わからん。上空に巨大なスキイロクラゲがいる。たぶん第四相……」
「そんな……こんな夜中に、なぜ」
「とにかく、こいつらを一掃してこの国から出るぞ! リン、お前も」
「わ、わかったからこっち見ないで!」

 ライトは手ぬぐいを腰に巻くリンを見てすぐに戦闘態勢へ。
 マリアと違い、リンはライトに裸を見られるのは嫌だと感じている。というかマリア、少しは隠そうとしてと言いたいが、そんな状況ではない。
 幸いにも、スキイロクラゲの戦闘力は皆無。ライトとマリアはスキイロクラゲを一掃する。

「マリア、外にもいる。馬を守るぞ!」
「わかりましたわ!」
「あ、マリア待った! 服!」

 服も着ないで飛び出すマリアとライト。それを聞いたライトは上着をマリアに投げ渡し、マリアは礼も言わずに羽織る。いつの間にこんなコンビネーションをとリンは驚き、自分も服を着るために浴室から出た。

「ああもう、なんなのよ今夜は……!!」

 ◇◇◇◇◇◇

 外に出ると、馬がスキイロクラゲに囲まれていた。
 ライトは迷わず発砲。クラゲは全て砕け散る。

「大丈夫か!?」
『ブルルルッ!』
「……よかった、無事ですわね」

 スキイロクラゲに触れられると、麻痺毒で動けなくなる。そこに第四相が現れ捕食するというのが、第四相の狩りの仕方だ。ゆえに、スキイロクラゲが現れたら速やかに討伐しないといけない。
 前回の討伐でほぼ全滅させたはずなのだが、どうしてここにスキイロクラゲ……そして、第四相『海月翁ジェリー・ジェリー』が現れたのか。

「まさか、あれが……」
「ああ。第四相、海月翁だ」

 マリアは空を見上げ絶句する。
 あれはマルコシアスと同類である、最強の魔獣『八相』の一体。直接的な戦闘力もだが、第四相の場合はその特殊性が厄介だった。
 巨大な気球サイズのクラゲが、空をふわふわ浮かび、ヤシャ王国にスキイロクラゲをばらまいている。

「町も騒がしくなってきたな……」

 深夜の城下町だが、光は灯っている。そして、鐘がカンカンと音を立て始めた。
 どうやら、町中に危険を知らせる合図らしい。

「不謹慎だが、これでヤシャ王国は俺たちに構ってる場合じゃなくなったな」
「ええ。クラゲを倒しつつ脱出がベスト、ですわね」
「そうだな。でも……」

 ライトは、貸別荘の入口へ視線を移す。そこには、着替えを済ませたリンがいた。

「二人とも、あれをなんとかしないと! このままじゃヤシャ王国は大混乱よ!」
「……一応聞くけど、逃げる絶好のチャンスだぞ?」
「ダメ! お願い二人とも、ヤシャ王国を助けるの手伝って!」
「…………まぁ、こうなるよな」
「…………ですわね」
「あとマリア、服着て服!」
「あらやだ……何を見てますの?」
「……別に」
「ふふ、性欲はあるようですわね」

 ライトは、マリアのはだけた胸を見て目を逸らした。以前、マリアはライトのことを不能と言ったが、どうやら違うようだ。マリアを女として意識しているのか……。

「さっさと着替えろ、作戦を立てるぞ」
「ふふ。わかりましたわ」

 結局、第四相と戦うことになりそうだ。

 ◇◇◇◇◇◇

 ライトたちは、馬の近くに集まった。
 町はかなり騒がしくなり、鐘の音や人の叫び声が貸別荘の位置からでも聞こえてくる。
 空には相変わらず巨大なスキイロクラゲが浮き、たまにパチッと発光してそのシルエットを浮かび上がらせる。

「空飛んで直接叩くしかないだろ」
「そうだね。スキイロクラゲと同じ体構造なら、身体のどこかに『核』があるはず。それを突いて倒し、ライトが吸収……これしかない」
「でも、こんな真夜中で核なんて見えますの?」

 スキイロクラゲの討伐方法は二つ。
 体内にある心臓の『核』を破壊するか、体組織を修復不可能になるまで破壊するかだ。
 ある程度、身体が欠けてもスキイロクラゲは元に戻る。ライトやマリアは一撃で粉々にできるが、第四相相手ではかなりきつい。
 核を破壊し、砕けた身体が町に降り注ぐ前に、ライトが吸収するしかない。

「俺の目なら核の位置はわかる。よし、お前たちは馬車で町の外へ。俺が第四相を倒して吸収したら、町の外まで飛んで行く。あとはそのまま逃げるぞ」
「え、ら、ライト一人で行くの?」
「ああ。空を飛ぶなら身軽のがいい。今回は俺に任せろ」
「……わかりましたわ。リン、馬車の支度を」
「ま、マリア、でも」
「大丈夫。ライトは強いですわ」
「……マジでどうしたの、二人とも」

 作戦は決まった。
 ライトは、今一度空を見上げる。

「カドゥケウス、今度は吐くなよ。ミニチュアのクラゲなんてペットにしたくないからな」
『へへ。相棒、ゼリーはオレの大好物さ』

 ライトは、『浮遊』の祝福弾を装填した。
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