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89・マリアの第四階梯

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 マリアの背からモクモクと煙のようなモヤが、翼のように広がる。
 マリアの意志で自在に操れるようで、忍者たちは警戒していた。
 忍者の一人が、モヤに警戒しつつ、仲間に警告する。

「あれに触れるなよ。毒に耐性はあるが、ギフトで生まれた毒にどれほど耐えられるか不明だからな……定石通りに行くぞ」
「…………ふぅん」

 忍者たちは忍者刀を収め、鍛え抜かれた足腰を駆使して高速移動する。橋の中央に陣取るマリアを攪乱しているのか、すぐ傍にいるライトを無視して徹底的に橋の上を動き回る。
 そして、始まった。

「ッ!……これは」
「ふっ、手裏剣だッ!!」

 星のような形をした金属板が飛んできた。
 マリアは百足鱗を瞬間的に蜷局巻きにして盾を形成し、顔の前で防御する。

「乙女の顔を狙うとは、ずいぶんと酷いですわね」

 当然だが、返事はない。
 この間も、手裏剣は飛んでくる。だがマリアは四本の百足鱗を全て盾にし、一歩も動くことなく弾いていた。
 基本的に、百足鱗はマリアの意志で動かせる。だが、シャルティナのサポートがあればオートで動かすことも可能だ。今はシャルティナに操作を任せている。

『もう! ウチのマリアに無粋なモノ投げつけないでよっ!』
「ふふっ、ありがとうシャルティナ」

 クスっと笑うマリアだが、この間にも手裏剣は豪雨のように叩き付けられる。足下には大量の手裏剣が転がっていた。
 ある程度手裏剣を弾くと、マリアが動いた。

「ちょこまかとドブネズミみたい、気持ち悪い……」

 背中の『モヤのような羽』が、ブワッと広がる。

「まとめてぇ……串刺しになりなさぁぁぁぁっいっ!!」

 『モヤのような羽』から大量の『色欲の歪羽』が形成され、周囲に放出された。

「なっ」「ぎゃぁぁっ!?」「っぐあぁっ!?」
「いっでぁっ!?」「なんだ、これっ!?」「ぐっげぁ!?」

 全身に歪な羽の刺さった忍者たちが転がる。
 地を駆けていた者はゴロゴロ転がり、宙を飛んでいた者は堀に落下した。
 マリアの周りにいた忍者たちは、全身に歪な羽を生やして苦しんでいた。その姿はまるで、全身にムカデが這っているようにも見える。

「飛び道具……」
『そうよ。背中のモヤから『色欲の歪羽』を自在に形成して放つことができる。それが第四階梯・『歪羽と百足の大群ウィングス・オブ・センチピード』よ』
「ふふ、使えそうですわ」

 マリアの技は、基本的に近・中距離向きだ。
 百足鱗を手に巻き付けた大槍、百足鱗を自在に操作して薙ぎ払う大鞭、全身に百足鱗を巻き付けた防御形態。
 だが、第四階梯・『歪羽と百足の大群ウィングス・オブ・センチピード』は遠距離に特化した技。射程距離も五十メートル以上ある。
 一度に放てる数、範囲、どれをとっても優秀だった。

「……へぇ」

 ライトは、忍者の相手をしながらこの光景を見ていた。
 これだけ無差別にもかかわらず、すぐ近くにいたライトに歪羽は掠りもしていない。ライトのように肉体に負担がかかるものでもなく、実に使い勝手のよさそうな技だった。

「お前もあれくらい使い勝手がよさそうだったらなぁ……」
『おいおい相棒、つれないこと言うなよ?』

 『強化』で肉体を強化したライトは、動き回り接近してくる忍者を殴り飛ばすことは容易だった。
 どんなに暗くても、どんなに闇に溶け込もうとも、ギフトや魔術の使われていない状況では、ライトの右目『ベルゼブブのマナコ』から逃れられない。
 ライトは片目をつぶり、右目だけで周囲を見ていたが、昼間のように明るく見えた。
 あとは簡単。向かってくる者を殴り飛ばし、宙を舞い手裏剣を投げてくる忍者の手足を撃ち抜くだけ。
 練度こそ高いが、この程度なら二人の敵ではなかった。

「下がれ、お前たちには荷が重いようだ」
「ああ。久々に殺りがいがある……」

 忍者たちとは違う、黒装束の男が二人現れた。
 一人は大柄で、手に鎖を巻き付けた格闘家風の男で、もう一人はやや小柄で、手には鉤爪を装備していた。
 
「新手か」
「そうみたいですわね」

 だが、ライトもマリアも興味なさそうだった。
 周囲の忍者たちが一斉に下がり、新手の忍者二人が前に出る。

「こいつが例の『魔銃王』ってやつか……ガキじゃねぇか」
「そう言うな。ファーレン王国からの要請は生け捕り、だが、抵抗するなら手足くらいは折っても構わないそうだ」
「そうかい。じゃあオレは女をヤる。見た目はいいし、側室遊郭送りにしてやるよ」
「女に関しては何も言われ────。



 次の瞬間、ライトの銃弾が小柄な男の両足を撃ち抜いた。



「いっぎゃぁぁぁぁっ!?」
「あれ? 撃ってよかったんだよな」
「さぁ? それより、リンを探さないと」
「ああ。ここまで来たら仕方ない、城に入って探すか。どうせ俺はお尋ね者みたいだしな」
「わたしは違いますので、あまり近づかないでくださる?」
「あぁ?」
「ふふ、冗談ですわ」

 足から血を流し呻く小柄な男。
大柄な男は小柄な男に一瞬視線を移し、すぐにライトに向か─────。

「おっぎゅぶぇぁぁっ!?」

 ─────うことはできなかった。
 マリアの百足鱗に一瞬で拘束され、そのまま全身を雑巾のように締め上げられて気を失った。
 こうして、《記憶操作》のSRギフトを持つ小柄な男と、その相棒である大柄な男は、名乗ることもできずに気を失った。

「雑魚は?」
「……いないようですわね」
「じゃあ行くか」
「ええ。囚われのリンを助けないと♪」
「……楽しそうだな」
「ふふ、リンからたっぷりご褒美をもらう予定ですわ」

 ライトとマリアは、ヤシャ城へ踏み込んだ。

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