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第83話・リンの受難
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冒険者ギルドで謝礼をもらうと、ギルド長のイゾウに呼び止められた。
「あー、ちょっと待ってくれ。きみ」
「え、私ですか?」
「ああ。話がある」
「ええと……」
イゾウの用事はリンにあるという。リンは二人にどうしようかと視線を送るが、ライトとマリアはこうなることを予想していたのか頷く。
リンはイゾウの元へ。
「ここじゃ話にくい。こっちへ」
そう言って、ギルドの奥へ。
リンだけでなくライトもマリアも付いていくが、イゾウは何も言わない。
独特な雰囲気のある通路を進むと引き戸があり、開けると一段高くなっていた。
「すまんが、ここで履物を脱いでくれ。ここから先は土足厳禁なのでな」
「「はぁ?」」
「なるほど、玄関なんですね、ここ」
「ああ。ヤシャ王国の民家では一般的だ。貸し住居などは国外者の利用が多いので土足で対応しているがね」
「おおー……綺麗な玄関、しかも奥は襖ですね」
「ああ。詳しいな」
「「…………」」
置いてきぼりのライトとマリア。リンとイゾウは当たり前のように履物を脱いで上がったので、仕方なく同じように靴を脱いで上がる。
奥の間は『ギルド長室』と、墨で書かれた看板が掛けられており、そこに入ると草の匂いがライトとマリアの鼻をくすぐる。
「イグサの匂い……うぅん、畳の匂いってステキ」
「そうなのか? 俺はちょっと……」
「わたしもですわ……」
「はっはっは。ヤシャ国民以外には馴染みないものだからな。さぁ座ってくれ、さっそく話をしよう」
座布団を出され、リンとマリアは正座、ライトは胡坐をかいて座る。
イゾウも座布団に座ると、金属の筒を取り出して先端に何かを入れ火を付ける。そして筒の反対側を咥えて何かを吸った……煙管煙草である。
「ふぅ……単刀直入に言う。きみは勇者リンだね?」
「…………はい」
「そうか。実は、ファーレン王国から通達が来ててね、現在、魔刃王討伐の功労者である勇者リンが行方不明だと、そしてもし発見したら身柄を確保し、ファーレン王国に引き渡せとお達しが来た」
「え……」
「……ッチ、勇者レイジか」
ライトは舌打ちし、憎きレイジの顔を思い浮かべる。
「ああ。だが、ヤシャ王国はその協力要請を突っぱねた。正確には、この国の第二王子……いや、第二子のイエヤス様が断ったのだ」
「げ……」
リンは、なぜか渋い顔をした。
「イエヤス様は、リン君がファーレン王国から出れば、自分に会いに来てくれると疑っていない。かねてから君を嫁にすると豪語していたからね。イエヤス様には正妻候補は何人かいたのだが、全て側室になってしまったよ。正妻の座は君の物らしい」
「はぁ~……私、ヤシャ王国に嫁ぐ気はありませんよ」
「わかっている。いかにイエヤス様と言えど、ファーレン王国が召喚した勇者を嫁にすることは難しい。だが、君はファーレン王国から行方不明扱いになっている……ここでファーレン王国に恩を売れば、僅かだが可能性が生まれる」
「…………はぁ~」
リンは、何度もため息を吐く。
少しだけイライラした口調でリンは言う。
「で、私にどうしろと?」
「……オレとしては君の存在を報告すれば済む話だが……望まぬ結婚などしたくあるまい。オレにも君と同じくらいの娘がいるからな」
「…………」
「すぐに国外へと言いたいが……どうだ?」
リンはライトとマリアを見た。
「却下だ。まだ第四相と第七相を見つけていない。来て早々に第四相の手がかりを見つけたんだ、ここで次の国に行くわけにいかない」
「わたしは、リンと一緒ならどこへでも…………でも、リンが望まぬ婚約をするというのなら、全力で削り抉ってやりますわ」
「ええと、その、まだ出れません」
「そ、そうか」
ライトはともかく、マリアを刺激すればどうなるかわからない。
それにライトは、八相が元人間である可能性が高いと踏んでいた。これから先、シンクの襲撃がないとも言い切れないし、勇者一行と戦うには力が必要不可欠。八相の祝福弾と通常の祝福弾を作るためにヤシャ王国に留まったほうがいいと考えている。
「面倒になるならリン、お前は貸し住居で大人しくしていろ。何か聞かれたら用事でファーレン王国に帰ったって言うからよ」
「え」
「じゃあわたしはリンと一緒に……」
「お前は俺と来い。賞金首を中心に稼ぐから手を貸せ」
「……あなたと二人で、ですか?」
「嫌ならいいぜ? 俺は一人で戦って強くなるからよ、お前はリンと一緒に満足するまで盛ってりゃいい」
「…………わかりました。不本意ですがあなたと行きますわ」
「ちょ、あの」
「ギルド長さん、そういうわけだ。リンは出れないけど依頼はリンが受けたってことにできるか?」
「……まぁ仕方ない。いいだろう」
「よし決まり。それとリン、念のため変装でもしとけ」
「…………」
こうして、ライトとマリアのコンビで依頼を受けることになった。
黄金級冒険者グループにヤシャ王国の第二子イエヤス。高名な者がリンを狙う中、ライトは祝福弾のことしか考えていない。
のちに、大変なことになるのだが……それはもう少し先のお話。
「あー、ちょっと待ってくれ。きみ」
「え、私ですか?」
「ああ。話がある」
「ええと……」
イゾウの用事はリンにあるという。リンは二人にどうしようかと視線を送るが、ライトとマリアはこうなることを予想していたのか頷く。
リンはイゾウの元へ。
「ここじゃ話にくい。こっちへ」
そう言って、ギルドの奥へ。
リンだけでなくライトもマリアも付いていくが、イゾウは何も言わない。
独特な雰囲気のある通路を進むと引き戸があり、開けると一段高くなっていた。
「すまんが、ここで履物を脱いでくれ。ここから先は土足厳禁なのでな」
「「はぁ?」」
「なるほど、玄関なんですね、ここ」
「ああ。ヤシャ王国の民家では一般的だ。貸し住居などは国外者の利用が多いので土足で対応しているがね」
「おおー……綺麗な玄関、しかも奥は襖ですね」
「ああ。詳しいな」
「「…………」」
置いてきぼりのライトとマリア。リンとイゾウは当たり前のように履物を脱いで上がったので、仕方なく同じように靴を脱いで上がる。
奥の間は『ギルド長室』と、墨で書かれた看板が掛けられており、そこに入ると草の匂いがライトとマリアの鼻をくすぐる。
「イグサの匂い……うぅん、畳の匂いってステキ」
「そうなのか? 俺はちょっと……」
「わたしもですわ……」
「はっはっは。ヤシャ国民以外には馴染みないものだからな。さぁ座ってくれ、さっそく話をしよう」
座布団を出され、リンとマリアは正座、ライトは胡坐をかいて座る。
イゾウも座布団に座ると、金属の筒を取り出して先端に何かを入れ火を付ける。そして筒の反対側を咥えて何かを吸った……煙管煙草である。
「ふぅ……単刀直入に言う。きみは勇者リンだね?」
「…………はい」
「そうか。実は、ファーレン王国から通達が来ててね、現在、魔刃王討伐の功労者である勇者リンが行方不明だと、そしてもし発見したら身柄を確保し、ファーレン王国に引き渡せとお達しが来た」
「え……」
「……ッチ、勇者レイジか」
ライトは舌打ちし、憎きレイジの顔を思い浮かべる。
「ああ。だが、ヤシャ王国はその協力要請を突っぱねた。正確には、この国の第二王子……いや、第二子のイエヤス様が断ったのだ」
「げ……」
リンは、なぜか渋い顔をした。
「イエヤス様は、リン君がファーレン王国から出れば、自分に会いに来てくれると疑っていない。かねてから君を嫁にすると豪語していたからね。イエヤス様には正妻候補は何人かいたのだが、全て側室になってしまったよ。正妻の座は君の物らしい」
「はぁ~……私、ヤシャ王国に嫁ぐ気はありませんよ」
「わかっている。いかにイエヤス様と言えど、ファーレン王国が召喚した勇者を嫁にすることは難しい。だが、君はファーレン王国から行方不明扱いになっている……ここでファーレン王国に恩を売れば、僅かだが可能性が生まれる」
「…………はぁ~」
リンは、何度もため息を吐く。
少しだけイライラした口調でリンは言う。
「で、私にどうしろと?」
「……オレとしては君の存在を報告すれば済む話だが……望まぬ結婚などしたくあるまい。オレにも君と同じくらいの娘がいるからな」
「…………」
「すぐに国外へと言いたいが……どうだ?」
リンはライトとマリアを見た。
「却下だ。まだ第四相と第七相を見つけていない。来て早々に第四相の手がかりを見つけたんだ、ここで次の国に行くわけにいかない」
「わたしは、リンと一緒ならどこへでも…………でも、リンが望まぬ婚約をするというのなら、全力で削り抉ってやりますわ」
「ええと、その、まだ出れません」
「そ、そうか」
ライトはともかく、マリアを刺激すればどうなるかわからない。
それにライトは、八相が元人間である可能性が高いと踏んでいた。これから先、シンクの襲撃がないとも言い切れないし、勇者一行と戦うには力が必要不可欠。八相の祝福弾と通常の祝福弾を作るためにヤシャ王国に留まったほうがいいと考えている。
「面倒になるならリン、お前は貸し住居で大人しくしていろ。何か聞かれたら用事でファーレン王国に帰ったって言うからよ」
「え」
「じゃあわたしはリンと一緒に……」
「お前は俺と来い。賞金首を中心に稼ぐから手を貸せ」
「……あなたと二人で、ですか?」
「嫌ならいいぜ? 俺は一人で戦って強くなるからよ、お前はリンと一緒に満足するまで盛ってりゃいい」
「…………わかりました。不本意ですがあなたと行きますわ」
「ちょ、あの」
「ギルド長さん、そういうわけだ。リンは出れないけど依頼はリンが受けたってことにできるか?」
「……まぁ仕方ない。いいだろう」
「よし決まり。それとリン、念のため変装でもしとけ」
「…………」
こうして、ライトとマリアのコンビで依頼を受けることになった。
黄金級冒険者グループにヤシャ王国の第二子イエヤス。高名な者がリンを狙う中、ライトは祝福弾のことしか考えていない。
のちに、大変なことになるのだが……それはもう少し先のお話。
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