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73・恋にはならない

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 ワイファ王国を拠点に、盗賊退治や賞金首の討伐を始めて二週間。
 マルコシアス騒動も収束を見せつつあり、一般の依頼を受ける冒険者も増えてきた。マルコシアスはねぐらを変え、別の地域に向かったと冒険者の間では囁かれている。
 誰かが先に討伐したなどとは、誰も思っていないようだ。

「賞金首は……ろくなのないな」
「他の依頼も、討伐系はみーんな先に取られちゃったね」
「仕方ありませんわ。それで、どうしますの?」

 ライトたちは、依頼掲示板の前で依頼を物色していた。が、討伐系は軒並み全滅、賞金首も最もレベルの低いF級賞金首しか残っていない。
 ライトは、大きくため息を吐いた。

「はぁ……ここ二週間、討伐系を集中してやったけど、一発も祝福弾が作れないとは」
「最初の海坊主と『鑑定』だけだったね」
「ああ……ったく、盗賊や賞金首に装備系のギフトが多いのはわかってたけど、まさかここまでとは」

 ギフトは、五つのカテゴリに分類される。
 装備系・武器や防具を装備して力を発揮するタイプ。
 肉体変化系・身体を変化させたり、身体機能を強化するタイプ。
 具現化系・特殊な効果を持った武器を生み出すタイプ。
 職業系・『鑑定』や『調理師』など、生活に役立つタイプ。
 特殊系・上記のいずれにも当たらないタイプ。

 ギフトによってレアリティもある。
 ノーマルNギフト。
 レアRギフト。
 スーパーレアSRギフト。
 ウルトラレアURギフト。
 そして、この世に僅かな存在しか確認されていないアルティメットレアARギフト。
 盗賊や賞金首、冒険者などは、ほとんどが装備系か具現化系ギフトの持ち主だ。しかも、装備系の大半は刃物に関係する武器となるため、どんなにレアリティの高い装備系ギフトでも、ライトにとってはハズレである。

 現に、この二週間で見つけて討伐した盗賊や賞金首は、全員が装備系だった。
 具現化系も僅かにいたが、刃物を具現化する時点でハズレ。レアギフトを見つけたはいいが、装備系のレアギフトという結果にはため息を吐きたくなるライト。

「どうする?……そろそろ、別のところに行くか?」
「それって、ワイファ王国を出るってこと?」
「ああ、この辺りの賞金首は狩り尽くしたし、盗賊もだいぶ少なくなった。低級盗賊は他の冒険者に任せて、違う国に行くのもいいかもな。それに、ここじゃあ勇者レイジは襲ってこないだろうしな」
「う~ん……それもいいかもね。マリアはどう思う?」
「わたしはリンと一緒ならどこでも構いませんわ……」
「ちょっ、抱き着かないでよ!」

 じゃれつくマリアを引き剥がそうとするリンから目を離し、ライトは掲示板を眺めた。

「…………あるっちゃあるけどな」

 掲示板の隅に貼られた一枚の賞金首情報。
 長い間誰も触れていないのだろう。情報紙は古ぼけていいる。
討伐報酬は白金貨100枚という値段は、間違いなく危険であると同時に、どんなギフトを持っているのかライトはとても興味がある。

「……外見の情報はなし。最大の特徴は、獲物の四肢を奪う残忍なシリアルキラー、か」

 S級賞金首『四肢狩り』。
 どんなギフトを持つのか、ライトは興味が尽きなかった。

 ◇◇◇◇◇◇

 ライトたちは冒険者ギルドの外へ。
 マリアを引き剥がしたリンは、冒険者ギルドの外観を眺めた。

「はぁ~……冒険者も楽じゃないわね」
「楽しんでたくせに。しかも等級だって上がっただろ」
「まぁね。この二週間で|青銅《》級になったし、初級冒険者からは脱出かな」

 リンの冒険者等級は、鉄級から青銅級に上がっていた。
 石、鉄ときて青銅。鉄級を終えた冒険者は初心者を脱出した証で、同業者から舐められることもない。冒険者の割合で言えば、青銅級が最も多いのだ。

「さて、時間もあるし海で泳がない? ワイファ王国の夏を満喫しましょ!」
「はい! ふふ、リンの水着姿、たっぷり堪能させてもらいますわ!」
「……呑気だな」

 ライトたちは、冒険者ギルドからマリアの別荘へ向かった。

 ◇◇◇◇◇◇

 ライトたちは海を満喫し、水着のまま別荘に戻ってきた。
 身体をタオルで拭き、水着のままソファに座る。

「はぁ~……楽しかったぁ」
「泳げるようになったし、海も悪くないな。体力作りのトレーニングに水泳を加えるのもいいかもしれない」
「真面目だね……まぁ、ライトらしいかも」
「リィン~、ふふ、今夜は一緒に寝ましょうねぇ♪」
「わわっ、ちょ、マリア」

 マリアはリンの隣に座り、リンに思いきり抱き着く。
 水着なので、肌の柔らかさがモロに伝わり、恥ずかしさからリンはマリアを引き剥がそうとするが、思わず胸を摑んでしまう。

「あん、リンってば大胆……寝室へ行きます?」
「行かない! ってか私はそっちの趣味ないから! そういうのは好きな人とやりなさ……あ」
「ふふ、いいのです。わたしは男性に愛されることのない身体……リン、わたしを想ってくれるなら、今宵だけでもわたしの想いに……」
「う……いや、でも、同性だし……」

 リンはチラリとライトを見る。

「ふぁ……」

 ライトは、興味なさげに欠伸をしていた。
 さすがにリンもこれには怒る。

「ちょっとライト、こっちの話を聞いてるならなんとかしてよ!」
「は? いや、そいつが女好きだろうと女として終わってようと、俺には関係ないし」
「……今、なんとおっしゃいました? 女として終わってる?」
「はっ……」

 マリアの激昂を嘲笑で返すライト。
 ソファにふんぞり返るライトに、立ち上がりライトを見下ろすマリア。一歩踏み出せばお互いの距離は手で触れられるほどで、ライトの手にはカドゥケウスが握られていた。
 本当に、この二人はいつまで経っても変わらない……。

「もう! 毎回毎回、喧嘩するなって言ってるでしょーっ!」
「きゃぁっ!? っむぐ!?」
「なっ……んっぐ」

 リンは、マリアの背を押した。
 驚き、たたらを踏んだマリアはライトの方に倒れ……。

「あ……ま、マリア? ライト?」

 二人の唇が、重なっていた。
 目が驚愕に見開かれると同時に、マリアの身体に激痛が走る。しかもライトの左手はマリアの乳房を摑んでいた。
 ライトはマリアを突き飛ばし、口を拭う。
 マリアも痛みを堪え、腕で唇を激しく拭った。

「この……下劣な汚物、わたしの、わたしの唇を」
「ッぺ……こっちのセリフだ、クソが」

 当然、色っぽい展開などなかった。
 マリアもライトも互いを睨みつけ、殺気まで放っている。
 この原因を作ったリンは、慌てて二人の間に割り込んだ。

「す、ストップストップ! ごめん、今のは私が悪い! 本当にごめんなさい!」
「リン、あなたは下がって下さいな。わたしがこの汚物を消毒しますので」
「下がってろリン、こいつには一度、上下関係を叩き込まなきゃわからねぇ」
「駄目だってば! えーと……ま、マリア! 一緒にお風呂入ろう! 一緒に寝てあげるからさ、ね!」

 スゥーッと、マリアの殺気が霧散し、リンに抱き着いた。
 
「ええ、ええ。もちろんですわ! さぁリン、一緒にお風呂で洗いっこしましょ!」
「……背中なら流してあげる。それとライト、本当にごめんね!」

 二人は浴室に消えた……。
 残されたライトは脱力する。

『ケケケケケケケケッ、楽しいねぇ相棒!』
「…………」

 ライトは唇をぬぐい、大きくため息を吐いた。
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