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41・笑顔とは

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「ようこそ! 笑顔の町リィンへ! きみたちは観光かな?」
「え、あ、は、はい」
「ははははっ、それなら町の中央にある観光案内所へ向かうといい! ここは食べ物も美味しく見どころも多い。きっと楽しめるはずさ!」
「あ、ありがとうございます」
「では、よい時間を!」

 町の検問所で、ハワード騎士からもらった勲章を見せると、すんなり入ることができた。
 入ると同時にニコニコした男が近づいてきて、やたらフレンドリーに挨拶して案内所の居場所を教えてくれた。

「な、なんかすごいね」
「……こういうの、少し苦手だな」

 周囲を見ると、楽しそうな声がたくさん聞こえる。
 井戸端会議をしてるオバちゃん集団は甲高い声で笑い、チャンバラごっこの子供たちは笑いながら木剣を振り回し、旅の冒険者らしき集団も露店の前に集まってエールで乾杯している。

「笑顔の町か……なるほど、毎日がお祭りみたいな騒ぎだから、そんな名称が付いたのかもな」
「うん。でも……なんだか楽しいね」
「そうか? まぁとにかく宿を取ろう。そのあとはどうする?」
「うーん、書状は明日にして、町を見て回らない?」
「…………まぁいいか」

 ライトとリンは、厩舎付きの少しだけいい宿屋に泊ることにした。
 ハワード騎士からもらった金貨はまだたくさんある。ドラゴンの報酬はワイファ王国でもらうことになっているのだ。
 残り金貨約30枚、これで旅を続けなくてはならない。

「一泊銀貨1枚、とりあえず5泊分で金貨一枚で」

 念のため、日数を余分にとって宿泊する。
 明日、領主邸に書状を届ければいいだけだが、領主が不在だったり不測の事態が考えられる。なので念のため4日ほど時間を取ることにした。

 部屋は十二畳ほどで、ベッドが二つにシャワールームがあった。
 荷物を降ろして窓を開けると、笑顔の町らしい笑い声と、柔らかな風が室内を循環する。

「天気もいいし、外に行くか」
「うん、おなかも減ったしね」

 ライトとリンは、笑顔で出かけて行った。

 ◇◇◇◇◇◇

 露店で買った食事で腹を満たし、デザートに焼き立てのクッキーを買ったリン。
 美味しそうにクッキーを齧る姿を見て、ライトはゴクリと喉を鳴らす。

「なぁ、一個くれよ」
「え、あ!! 最後の一枚……」
「いただきっ」

 最後の一枚を取り、口の中へ。
 リンがむくれる姿を見て申し訳ないと思いつつ、焼き立てでサクサクのクッキーはライトの口の中の水分を奪っていく。

「うまいけど、のど乾くな」
「もう、人のクッキー勝手に食べてぇ」
「悪い悪い。ごちそーさん」

 二人は町を散策し、公園があったのでベンチに座る。
 公園内は人が多く、井戸端会議やパフォーマーによるパフォーマンスが行われ、住人や観光客の笑い声が響いていた。

「平和だな……」
「うん。魔刃王が倒れてから、世界には笑顔があふれた……でも、カドゥケウスの話が真実なら……世界は、女神に歪められてる……」

 はははと笑い、ライトははっきり言った。

「悪いが、世界なんてどうでもいい。俺は勇者たちを殺したいだけ、女神はそのついでに始末するだけだ」
「……ライト」
「お前は見てたはずだ。レグルスが、リンが、父さんが、母さんが……勇者の連中に殺された瞬間を」
「…………」
「俺は、復讐を果たすまで止まらない。何年掛かろうとあいつらを絶対に殺す」
「…………うん」

 ライトの復讐心をリンは知っている。
 でも、本心では……。

「……そろそろ帰るか」
「うん、そうだね……」

 笑顔や笑い声が響く中、ライトとリンは無言で去った。

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日。
 ライトとリンは、この町の領主邸にやってきた。
 領主というだけあって立派な館。おして庭には庭園があり、美しい華が咲き誇っていた。
 ライトは、門兵にハワード騎士からもらった紋章を見せる。

「ワイファ国王からの書状を届けに来た。領主殿にお会いしたい」

 門兵はにっこり笑って言う。

「これはこれは遠方からご苦労様です。領主様にお取次ぎしますのでしばらくお待ちください!」
「は、はい」

 なぜこの場であんな笑顔を見せるのか、ライトにはさっぱりわからない。
 それから数分で門兵が戻ってきた。一緒に連れているのは家老だろうか。

「領主様がお会いになるそうです。中へご案内します!」

 にっこり笑顔の家老に付いていくライトとリン。
 立派な庭園を通って屋敷に向かうと、カラフルな花にリンは心奪われた。

「わぁ~……きれいな花ですね」
「ええ。こちらの庭園はお嬢様が手入れされてる物でして」
「お嬢様? ああ、この家の」
「はい。マリアお嬢様……」

 家老がそこまで言うと、花壇に水やりをしている1人の少女がいた。
 手に持つのは銀色の如雨露で、長く美しい赤髪をなびかせ、背中が大胆に露出したドレスを着ている。
 歳はライトやリンと同じくらいだろうか。ライトたちに気づくと、花のような笑みを浮かべた。

「あらセバスチャン、お客様かしら?」
「はいこちらはワイファ王国からの使者でございます」
「まぁ。はるばる遠方からご苦労様。あら……?」
「へ?」

 赤い少女はリンの元へ。

「はじめまして。わたしはマリアと申します。よろしければお名前をお聞かせくださいな」
「あ、ああ。私はリンです。よろしく」
「リン……ふふ、いいお名前ね。よろしく」

 マリアはにこやかにほほ笑み、リンは顔を赤くしてペコペコ頷く。
 
「そうだわ! おいしいお茶があるの、よかったら一緒にどうかしら?」
「え、いやその」

 リンは放置されてるライトを見る。

「……行って来いよ。こっちは俺だけでいい」
「……じゃあ、せっかくだし」
「やったぁ! じゃあリン、こっちにきてくださいな」

 リンは、マリアに連れていかれた。
 これから茶会でも開くのだろうとライトは考え、マリアの後姿を見送る家老に言う。

「では、行きましょう」
「はい。こちらです」

 ほんの少しだけ違和感を感じていた。
 マリアは、ライトを見ようともしなかった。
 そして。
 
『…………』

 カドゥケウスは、何も語らない。
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