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20・死んでも、ぶっ潰す
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怖気が止まらない。なんだあの化け物は。
『やはり、ね。うまく隠れていたようですけど』
「え……?」
天使のような女が、俺を見て言う。
わけがわkらnい……あr?
「ライト? おいライト!!」
父さんの声……あたま、いたい。
視界がゆがむ……あのおんなのせいか?
なんだこれ…………あつ、い。
「おいおい、なんだこいつ」
「ライトじゃない……なんでここに? というか、師匠に騎士まで」
「……」
「ああ、リリカとセエレの幼馴染とかいう」
「いきなり現れましたよね?」
リリカ、セエレ……もう一人と、アンジェリカ姫?
ゆうysれいじ……なんで? これはなんだ?
「まさか、私と同じ……女神様が呼び寄せたんじゃ」
リン……なんでここに?
ダメだ、頭が回らない、あつい、気持ち悪い。
『聖剣勇者レイジよ。あの者は邪悪なる神に支配されています。第二の魔刃王となる前に、せめてもの慈悲を与えなさい』
─────────敵意が、俺に向いた。
◇◇◇◇◇◇
「第二の魔刃王だとよ……おい、あの腕見ろよ」
「ほんとだ……真っ黒で気持ち悪いわ」
「どうやら、私たちの敵、いや……いま処理すれば問題ないな」
「これも女神様の導き……」
「わ、わたくし、初陣ですわね」
腕が、焼け付くように熱かった。
頭が痛い、あの女を見てるとおかしくなりそうだ。
「師匠、聞いてましたね? ライトを引き渡してください」
「……リリカ」
「師匠、ライトはもはや人間ではありません。その異形の腕……見ればわかるでしょう」
「セエレ……」
リリカとセエレが、綺麗なドレス姿で剣を構える。
ああ、あの二人はもういないんだ……淡い期待が吹っ飛んだ。
「とう、さん……もう、いいよ……おろし、て」
「バカを言うな!!」
「とう、さ……」
父さんは俺を降ろさない。
たのむ、とうさん……この場はやばい。
「おいリリカ、セエレ、女神様の前だ。みっともねぇ姿を見せんじゃねぇぞ」
「わかってる。でもどうする?」
「は、あのオヤジごと斬っちまえ。魔刃王のオヤジならオレらの敵だ」
「……ま、仕方ないな」
「な……リリカ、セエレ!!」
おい、勇者レイジは何を言ってるんだ?
斬る? 父さんを……キル?
「うっ……ぐ、あっがっ……っ!!」
左腕が、ボコボコと脈動した。
まるで、得体の知れない生物が巣食ってるような気がした。
「おろして、とうさん……降ろして!!」
「な、ライト!!」
俺は暴れ、父さんから振り落とされた。
そのまま全力で這いずり、勇者たちから距離を取ろうとする。
「リリカ、やれ」
「わかった」
そんな、慈悲の欠片もない声が聞こえた。
風になったリリカが一瞬で俺の元へ。巨大な『鬼太刀』を振りかぶる。
「ごめんねライト。来世で幸せになってね」
リリカは、花咲くような笑顔で言い……剣を振り下ろした。
「─────────硬化!!」
そんなリリカの剣を、硬化した腕でレグルスが受け止めた。
ビシビシと腕に亀裂が入り、亀裂の隙間から鮮血が噴き出す。
「いっでぇぇぇっ!? っぐっぉ!!」
「れ、レグルス!? な、なんで!!」
「あーもう逃げろバカ!! ちくしょう!!」
レグルスは、涙目でリリカの太刀を腕で受け、そのまま硬化した手でつかんだ。
俺は、そんな親友から目が離せなかった。
「レグルス……やめろ」
「うっせぇ!! ははは、やっちまった。もうオレも騎士をクビだ!! でもな、親友を目の前で殺されかけて黙ってられるほど腐っちゃいね……」
「邪魔」
リリカの表情が変わった。
感情が消え失せた目でレグルスを睨み、太刀に力を加える。
「っだぁぁぁぁっ!!」
「っ!?」
だが、リリカの横っ腹にウィネの飛び蹴りがヒットした。
吹っ飛ぶリリカを無視し、ウィネはレグルスを支える。
「このバカ!! やると思ってたけど……」
「へ、へへ。悪いけど騎士はクビだわ。お嬢さん、オレと一緒に国の外で冒険者にでもならない?」
「……ほんと、バカ」
「ウィネ……」
「ほら立って!! ここから……」
セエレが、冷たい眼差しで『雷切』を……。
「やめろリリカ!!」
「……さよなら、師匠」
ウィネを庇うように割り込んだ父さんを、切り裂いた。
◇◇◇◇◇◇
崩れ落ちる父さん。やけにスローモーションに見えた。
肩から脇腹にかけて袈裟懸けで切られ、鮮血がセエレの顔を濡らす。
「次」
淡々とした声で、まるで作業のような声で、セエレは呟く。
「…………………………」
父さんは、ピクリとも動かなかった。
俺は、父さんの言葉を思い出していた。
『ライト、どこに行きたい?』
父さんは、国を捨てると言った。
俺のために、母さんを連れて、国の外で防具屋を開くって。
『泣くな。それでも俺の息子か?』
父さんの背中は大きかった。
温かいぬくもりが、今でも胸に残っている。
『ああ、帰ろう。母さんも待っている』
母さんが、家で待っている。
なんでとうさんは、こんなところで寝ているんだ?
「ライト!! しっかりしてライト!!」
「あ……うぃね」
「早く、ここから逃げ……」
リリカが、レグルスを滅多打ちにしていた。
剣ではなく拳で、硬化したレグルスを滅多打ちにしている。
「痛い痛い痛い、ああ痛い……私の剣を受けて、私に蹴りをくれるなんて」
「っぐっぼ、げぼ、あっご……っ」
「どいて、そこの女、ギタギタに蹴り殺してやる」
「うぃ、ね……にげ」
「逃がすわけないでしょ?」
「っがっぼ!?」
レグルスの顎に蹴りを入れ、吹っ飛ばした。
なんで、こんなことになっている。
だれが、どうして、こんなことに。
「っく!!」
「あら、液状化?……なら」
ウィネは身体を液状化しようとしたが、リリカに腕を掴まれるとそのまま腕が凍り付いた。そして、そのまま腕を握り砕く。
「あ、っがぁぁぁぁぁぁっ!?」
「肉体変化形は、変化前の部位を潰すと、その部位は再生できないんだよね」
つまり、ウィネの腕はもう治らない。
「蹴りのお返し、してあげる」
「っひ……」
リリカの蹂躙が始まった。
◇◇◇◇◇◇
レグルス、ウィネが倒れた。
俺は動けないまま、倒れた父さんたちを見ていた。
「おいリリカ、遊んでんなよ」
「ごめんレイジ、もう終わる」
「おう。アンジェラ、よく見てたか? あれがリリカの強さだ。これからお前も剣の使い手として、オレがみっちり鍛えてやるよ!」
「が、がんばります!!」
「ふふ、僭越ながら私も、レイジ様に鍛えてもらいたいです」
「当たり前だっつの、アルシェ」
勇者レイジは、こちらを見てすらいない。
「今度こそ、ごめんねライト。苦しまないようにしてあげる」
「…………」
「さらばだライト、約束を守れなくてすまなかった」
「…………」
リリカの剣が振り下ろされた。
そして……。
「……またですか、師匠」
父さんが、俺を守るように覆いかぶさった。
◇◇◇◇◇◇
父さんは、俺に抱き着いたまま言う。
「いいかライト……生きろ、生きるんだ」
「え……」
「辛いことや悲しいこともある。でも、生きていればきっと、お前の世界は明るく照らされる」
「と、とうさ……」
「愛してるぞ、ライト……母さんを」
「とうさ」
「ったく、いい加減にしろっての」
勇者レイジの聖剣が、父さんの心臓を貫いた。
「あ……」
「…………ごぷ」
俺の心臓も、貫かれた。
痛みはなかった。
悲しみもなかった。
あったのは……。
「ライト……へへ、悪かったわ。オレらも、いくわ」
「はぁ、ぁ……あっちで、あおうね」
レグルス、ウィネ……。
「アンジェラ、聖剣使いの第一歩だ。こいつらにトドメ刺してみろ」
「え、で、でも……わたくし、怖い」
「大丈夫。私も付いてます。まずは私がお手本を見せますね」
「っご」
アルシェの剣が、レグルスの喉を貫いた。
「簡単なことです。ほら」
「は、はい……え、えいっ!!」
「っか」
アンジェラ姫の剣が、ウィネの喉を貫いた。
レグルスとウィネが、死んだ。
こんな、あっさりと。
なんで?
こいつら、人間なのか?
意識が、薄れていく。
『……おやすみなさい。魔の神よ』
天使みたいな女が、嗤っていた。
◇◇◇◇◇◇
『いいのか?』
真っ暗ななかで、声が聞こえた。
『あいつら、許せないだろ?』
許せない……ああそうだ、許せないんだ。
俺が、何をした? 騎士になるため努力して、騎士になって、全て奪われて……これも全部、勇者レイジがいたからだ。
『なら、ぶっ潰せ』
ぶっ潰す?
『そうだ。あの女神の剣である勇者レイジと、4本の剣……お前がぶっ潰せ』
そんなこと、できな……。
『できる』
え?
『契約だ』
けい、やく?
『お前の大事なものを対価に、力をくれてやる』
ちから……俺の、ギフト?
『そんな胸糞悪いモンじゃねぇ。女神の祝福じゃない、魔神の大罪をくれてやる』
たい、ざい?
『そうだ。お前の中に眠っていたのは《祝福》じゃない。《大罪》だ。だから女神はお前を始末しようとしたのさ』
女神……あの天使か。
『天使ぃ~? ははは、あの女神共が天使なわけねぇだろ。それよか契約だ。オレと契約すれば力をくれてやる。あのクソ勇者を喰い殺す力をな』
…………。
『選べ、ここで恨みを抱えたまま死ぬか、生きてあの糞溜に浸かる勇者共をぶっ潰すか』
…………ぶっ、つぶす。
『あん? 聞こえねぇよ』
ぶっつぶす。
『おお、いいんだな?』
ああ……。
『契約だ』
「ああ……俺は、あいつら全員ぶっ潰す!!」
腕の疼きが、ようやく収まった。
◇◇◇◇◇◇
ドクン、ドクン、ドクン。
「ん……?」
「リリカ、どうし……」
リリカとセエレは見た。
ライトの黒い腕が、ドロドロに溶けて床に広がり始めた。
「なに、これ?」
「肉体変化系ということはわかったが、死んだはずじゃ……」
「キモチわりぃ……リリカ、凍らせちまえ」
「わかった」
リリカが手をライトに向け、氷の魔術を使おうとした……が。
「……待て、様子がおかしい」
「え?」
リリカとセエレは距離を取り、レイジの傍に立つ。
アルシェとアンジェラもレイジの傍に来た。
「レイジ、様子がおかしいよ」
「………ああ」
「み、見てください!! 死体が……」
ライトの父、レグルス、ウィネの死体が黒い泥に沈む。
『重量変化』・『硬化』・『液状化』────────装填。
「な、なんだ……」
「ら、ライト……?」
「ば、バカな……」
ライトが、立ち上がった。
「《祝福喰填》、合成……」
ドロドロの床に立ち、原形の留めない左腕から黒い液体を垂れ流し、今まで全く影響のなかった右手を突き出した。
「来い……」
右手から、『取っ手のついた黒い筒』が生み出された。
「な、噓だろ!? まさか、拳銃!?」
「け、けんじゅ? なにそれ、あんな筒」
レイジは知ってるのか、だがライトにとってはどうでもいい。
ライトの視界に映るのは、父と親友を殺した憎き女神の勇者たちだ。
「おまえら……っ死んじまえぇぇぇぇぇぇぇぇ────────っ!!」
トリガーを引くと、真っ黒な塊が飛び出した。
だが、リリカとセエレは飛び出す。
「任せて、こんなの!!」
「ああ、斬る!!」
セエレは、己の怪力を使い、鬼太刀で黒弾を打ち返そうとした……が。
「お、おっも!?」
『重量変化』のギフトで重量を増し、『硬化』のギフトで弾は恐るべき硬度を持つ。そして『液状化』のギフトにより、黒弾はリリカの斬撃をあっさりすり抜けた。
「なっ……セエレ!!」
「くっ……無理だ!!」
黒弾は、レイジめがけて飛ぶ。
「ッチ、めんどくせぇ!!」
レイジは、神剣グラディウスを構え、黒弾を一刀両断しよう飛び出す。
「おっっらぁぁぁぁっ!!」
黒弾は一刀両断され、そのまま消滅した。
得体の知れない力を両断したレイジは、完全に油断していた。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「え? っぷっぎっ!?」
リリカが、ライト渾身のパンチを顔面に喰らって地面に倒れた。
パキパキメキギシボキゴキとリリカの顔面の骨が砕けた。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「おぎゅ、べきぼっ、がぼげっ!?」
リリカに馬乗りし、顔面を殴りまくる。
不思議と腕力が向上していた。黒い腕も色はそのままだが腕の形に戻っている。
顔面を殴りまくり、立ち上がって顔を何度も踏みつけた。
「死ね、死ね、死ねっつってんだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ぐばげっ、やべべ、いぇば」
リリカの顔は腫れあがり、鼻はちぎれ、片目が飛び出している。でもライトは止まらない。なぜなら生きているから。
「や、め……やめろっ!!」
「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「ひっ」
睨まれ、セエレは気が付いた。
ライトの瞳が、片方だけ真紅に染まっていた。
「やめやがれこの野郎がぁぁぁぁっ!!」
「うるせぇこのクソ勇者がぁぁぁぁっ!!」
レイジが聖剣を構え、ライトが『黒い筒』を持って吠えた。
「ミス・ケイド!!」
そして、深い霧が周囲を包み込む。
「な、これってまさか……」
「リンか!! あの野郎ぉぉぉっ!!」
リンの魔術による霧だ。
レイジと違い、剣術だけでなく魔術も習ったリンは、水属性だけならファーレン王国でも5本の指に入る使い手だ。この程度の霧を起こすのは朝飯前だ。
「この、ウルブス!!」
アルシェが風を起こして霧を払うが……。
「逃げられた……ちっくしょう!!」
そこに、ライトの姿はなかった。
『…………目覚めましたか』
女神フリアエは、ポツリとつぶやいた。
『【暴食】の大罪神器……』
なぜか、楽しそうに見えた。
『やはり、ね。うまく隠れていたようですけど』
「え……?」
天使のような女が、俺を見て言う。
わけがわkらnい……あr?
「ライト? おいライト!!」
父さんの声……あたま、いたい。
視界がゆがむ……あのおんなのせいか?
なんだこれ…………あつ、い。
「おいおい、なんだこいつ」
「ライトじゃない……なんでここに? というか、師匠に騎士まで」
「……」
「ああ、リリカとセエレの幼馴染とかいう」
「いきなり現れましたよね?」
リリカ、セエレ……もう一人と、アンジェリカ姫?
ゆうysれいじ……なんで? これはなんだ?
「まさか、私と同じ……女神様が呼び寄せたんじゃ」
リン……なんでここに?
ダメだ、頭が回らない、あつい、気持ち悪い。
『聖剣勇者レイジよ。あの者は邪悪なる神に支配されています。第二の魔刃王となる前に、せめてもの慈悲を与えなさい』
─────────敵意が、俺に向いた。
◇◇◇◇◇◇
「第二の魔刃王だとよ……おい、あの腕見ろよ」
「ほんとだ……真っ黒で気持ち悪いわ」
「どうやら、私たちの敵、いや……いま処理すれば問題ないな」
「これも女神様の導き……」
「わ、わたくし、初陣ですわね」
腕が、焼け付くように熱かった。
頭が痛い、あの女を見てるとおかしくなりそうだ。
「師匠、聞いてましたね? ライトを引き渡してください」
「……リリカ」
「師匠、ライトはもはや人間ではありません。その異形の腕……見ればわかるでしょう」
「セエレ……」
リリカとセエレが、綺麗なドレス姿で剣を構える。
ああ、あの二人はもういないんだ……淡い期待が吹っ飛んだ。
「とう、さん……もう、いいよ……おろし、て」
「バカを言うな!!」
「とう、さ……」
父さんは俺を降ろさない。
たのむ、とうさん……この場はやばい。
「おいリリカ、セエレ、女神様の前だ。みっともねぇ姿を見せんじゃねぇぞ」
「わかってる。でもどうする?」
「は、あのオヤジごと斬っちまえ。魔刃王のオヤジならオレらの敵だ」
「……ま、仕方ないな」
「な……リリカ、セエレ!!」
おい、勇者レイジは何を言ってるんだ?
斬る? 父さんを……キル?
「うっ……ぐ、あっがっ……っ!!」
左腕が、ボコボコと脈動した。
まるで、得体の知れない生物が巣食ってるような気がした。
「おろして、とうさん……降ろして!!」
「な、ライト!!」
俺は暴れ、父さんから振り落とされた。
そのまま全力で這いずり、勇者たちから距離を取ろうとする。
「リリカ、やれ」
「わかった」
そんな、慈悲の欠片もない声が聞こえた。
風になったリリカが一瞬で俺の元へ。巨大な『鬼太刀』を振りかぶる。
「ごめんねライト。来世で幸せになってね」
リリカは、花咲くような笑顔で言い……剣を振り下ろした。
「─────────硬化!!」
そんなリリカの剣を、硬化した腕でレグルスが受け止めた。
ビシビシと腕に亀裂が入り、亀裂の隙間から鮮血が噴き出す。
「いっでぇぇぇっ!? っぐっぉ!!」
「れ、レグルス!? な、なんで!!」
「あーもう逃げろバカ!! ちくしょう!!」
レグルスは、涙目でリリカの太刀を腕で受け、そのまま硬化した手でつかんだ。
俺は、そんな親友から目が離せなかった。
「レグルス……やめろ」
「うっせぇ!! ははは、やっちまった。もうオレも騎士をクビだ!! でもな、親友を目の前で殺されかけて黙ってられるほど腐っちゃいね……」
「邪魔」
リリカの表情が変わった。
感情が消え失せた目でレグルスを睨み、太刀に力を加える。
「っだぁぁぁぁっ!!」
「っ!?」
だが、リリカの横っ腹にウィネの飛び蹴りがヒットした。
吹っ飛ぶリリカを無視し、ウィネはレグルスを支える。
「このバカ!! やると思ってたけど……」
「へ、へへ。悪いけど騎士はクビだわ。お嬢さん、オレと一緒に国の外で冒険者にでもならない?」
「……ほんと、バカ」
「ウィネ……」
「ほら立って!! ここから……」
セエレが、冷たい眼差しで『雷切』を……。
「やめろリリカ!!」
「……さよなら、師匠」
ウィネを庇うように割り込んだ父さんを、切り裂いた。
◇◇◇◇◇◇
崩れ落ちる父さん。やけにスローモーションに見えた。
肩から脇腹にかけて袈裟懸けで切られ、鮮血がセエレの顔を濡らす。
「次」
淡々とした声で、まるで作業のような声で、セエレは呟く。
「…………………………」
父さんは、ピクリとも動かなかった。
俺は、父さんの言葉を思い出していた。
『ライト、どこに行きたい?』
父さんは、国を捨てると言った。
俺のために、母さんを連れて、国の外で防具屋を開くって。
『泣くな。それでも俺の息子か?』
父さんの背中は大きかった。
温かいぬくもりが、今でも胸に残っている。
『ああ、帰ろう。母さんも待っている』
母さんが、家で待っている。
なんでとうさんは、こんなところで寝ているんだ?
「ライト!! しっかりしてライト!!」
「あ……うぃね」
「早く、ここから逃げ……」
リリカが、レグルスを滅多打ちにしていた。
剣ではなく拳で、硬化したレグルスを滅多打ちにしている。
「痛い痛い痛い、ああ痛い……私の剣を受けて、私に蹴りをくれるなんて」
「っぐっぼ、げぼ、あっご……っ」
「どいて、そこの女、ギタギタに蹴り殺してやる」
「うぃ、ね……にげ」
「逃がすわけないでしょ?」
「っがっぼ!?」
レグルスの顎に蹴りを入れ、吹っ飛ばした。
なんで、こんなことになっている。
だれが、どうして、こんなことに。
「っく!!」
「あら、液状化?……なら」
ウィネは身体を液状化しようとしたが、リリカに腕を掴まれるとそのまま腕が凍り付いた。そして、そのまま腕を握り砕く。
「あ、っがぁぁぁぁぁぁっ!?」
「肉体変化形は、変化前の部位を潰すと、その部位は再生できないんだよね」
つまり、ウィネの腕はもう治らない。
「蹴りのお返し、してあげる」
「っひ……」
リリカの蹂躙が始まった。
◇◇◇◇◇◇
レグルス、ウィネが倒れた。
俺は動けないまま、倒れた父さんたちを見ていた。
「おいリリカ、遊んでんなよ」
「ごめんレイジ、もう終わる」
「おう。アンジェラ、よく見てたか? あれがリリカの強さだ。これからお前も剣の使い手として、オレがみっちり鍛えてやるよ!」
「が、がんばります!!」
「ふふ、僭越ながら私も、レイジ様に鍛えてもらいたいです」
「当たり前だっつの、アルシェ」
勇者レイジは、こちらを見てすらいない。
「今度こそ、ごめんねライト。苦しまないようにしてあげる」
「…………」
「さらばだライト、約束を守れなくてすまなかった」
「…………」
リリカの剣が振り下ろされた。
そして……。
「……またですか、師匠」
父さんが、俺を守るように覆いかぶさった。
◇◇◇◇◇◇
父さんは、俺に抱き着いたまま言う。
「いいかライト……生きろ、生きるんだ」
「え……」
「辛いことや悲しいこともある。でも、生きていればきっと、お前の世界は明るく照らされる」
「と、とうさ……」
「愛してるぞ、ライト……母さんを」
「とうさ」
「ったく、いい加減にしろっての」
勇者レイジの聖剣が、父さんの心臓を貫いた。
「あ……」
「…………ごぷ」
俺の心臓も、貫かれた。
痛みはなかった。
悲しみもなかった。
あったのは……。
「ライト……へへ、悪かったわ。オレらも、いくわ」
「はぁ、ぁ……あっちで、あおうね」
レグルス、ウィネ……。
「アンジェラ、聖剣使いの第一歩だ。こいつらにトドメ刺してみろ」
「え、で、でも……わたくし、怖い」
「大丈夫。私も付いてます。まずは私がお手本を見せますね」
「っご」
アルシェの剣が、レグルスの喉を貫いた。
「簡単なことです。ほら」
「は、はい……え、えいっ!!」
「っか」
アンジェラ姫の剣が、ウィネの喉を貫いた。
レグルスとウィネが、死んだ。
こんな、あっさりと。
なんで?
こいつら、人間なのか?
意識が、薄れていく。
『……おやすみなさい。魔の神よ』
天使みたいな女が、嗤っていた。
◇◇◇◇◇◇
『いいのか?』
真っ暗ななかで、声が聞こえた。
『あいつら、許せないだろ?』
許せない……ああそうだ、許せないんだ。
俺が、何をした? 騎士になるため努力して、騎士になって、全て奪われて……これも全部、勇者レイジがいたからだ。
『なら、ぶっ潰せ』
ぶっ潰す?
『そうだ。あの女神の剣である勇者レイジと、4本の剣……お前がぶっ潰せ』
そんなこと、できな……。
『できる』
え?
『契約だ』
けい、やく?
『お前の大事なものを対価に、力をくれてやる』
ちから……俺の、ギフト?
『そんな胸糞悪いモンじゃねぇ。女神の祝福じゃない、魔神の大罪をくれてやる』
たい、ざい?
『そうだ。お前の中に眠っていたのは《祝福》じゃない。《大罪》だ。だから女神はお前を始末しようとしたのさ』
女神……あの天使か。
『天使ぃ~? ははは、あの女神共が天使なわけねぇだろ。それよか契約だ。オレと契約すれば力をくれてやる。あのクソ勇者を喰い殺す力をな』
…………。
『選べ、ここで恨みを抱えたまま死ぬか、生きてあの糞溜に浸かる勇者共をぶっ潰すか』
…………ぶっ、つぶす。
『あん? 聞こえねぇよ』
ぶっつぶす。
『おお、いいんだな?』
ああ……。
『契約だ』
「ああ……俺は、あいつら全員ぶっ潰す!!」
腕の疼きが、ようやく収まった。
◇◇◇◇◇◇
ドクン、ドクン、ドクン。
「ん……?」
「リリカ、どうし……」
リリカとセエレは見た。
ライトの黒い腕が、ドロドロに溶けて床に広がり始めた。
「なに、これ?」
「肉体変化系ということはわかったが、死んだはずじゃ……」
「キモチわりぃ……リリカ、凍らせちまえ」
「わかった」
リリカが手をライトに向け、氷の魔術を使おうとした……が。
「……待て、様子がおかしい」
「え?」
リリカとセエレは距離を取り、レイジの傍に立つ。
アルシェとアンジェラもレイジの傍に来た。
「レイジ、様子がおかしいよ」
「………ああ」
「み、見てください!! 死体が……」
ライトの父、レグルス、ウィネの死体が黒い泥に沈む。
『重量変化』・『硬化』・『液状化』────────装填。
「な、なんだ……」
「ら、ライト……?」
「ば、バカな……」
ライトが、立ち上がった。
「《祝福喰填》、合成……」
ドロドロの床に立ち、原形の留めない左腕から黒い液体を垂れ流し、今まで全く影響のなかった右手を突き出した。
「来い……」
右手から、『取っ手のついた黒い筒』が生み出された。
「な、噓だろ!? まさか、拳銃!?」
「け、けんじゅ? なにそれ、あんな筒」
レイジは知ってるのか、だがライトにとってはどうでもいい。
ライトの視界に映るのは、父と親友を殺した憎き女神の勇者たちだ。
「おまえら……っ死んじまえぇぇぇぇぇぇぇぇ────────っ!!」
トリガーを引くと、真っ黒な塊が飛び出した。
だが、リリカとセエレは飛び出す。
「任せて、こんなの!!」
「ああ、斬る!!」
セエレは、己の怪力を使い、鬼太刀で黒弾を打ち返そうとした……が。
「お、おっも!?」
『重量変化』のギフトで重量を増し、『硬化』のギフトで弾は恐るべき硬度を持つ。そして『液状化』のギフトにより、黒弾はリリカの斬撃をあっさりすり抜けた。
「なっ……セエレ!!」
「くっ……無理だ!!」
黒弾は、レイジめがけて飛ぶ。
「ッチ、めんどくせぇ!!」
レイジは、神剣グラディウスを構え、黒弾を一刀両断しよう飛び出す。
「おっっらぁぁぁぁっ!!」
黒弾は一刀両断され、そのまま消滅した。
得体の知れない力を両断したレイジは、完全に油断していた。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「え? っぷっぎっ!?」
リリカが、ライト渾身のパンチを顔面に喰らって地面に倒れた。
パキパキメキギシボキゴキとリリカの顔面の骨が砕けた。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「おぎゅ、べきぼっ、がぼげっ!?」
リリカに馬乗りし、顔面を殴りまくる。
不思議と腕力が向上していた。黒い腕も色はそのままだが腕の形に戻っている。
顔面を殴りまくり、立ち上がって顔を何度も踏みつけた。
「死ね、死ね、死ねっつってんだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ぐばげっ、やべべ、いぇば」
リリカの顔は腫れあがり、鼻はちぎれ、片目が飛び出している。でもライトは止まらない。なぜなら生きているから。
「や、め……やめろっ!!」
「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「ひっ」
睨まれ、セエレは気が付いた。
ライトの瞳が、片方だけ真紅に染まっていた。
「やめやがれこの野郎がぁぁぁぁっ!!」
「うるせぇこのクソ勇者がぁぁぁぁっ!!」
レイジが聖剣を構え、ライトが『黒い筒』を持って吠えた。
「ミス・ケイド!!」
そして、深い霧が周囲を包み込む。
「な、これってまさか……」
「リンか!! あの野郎ぉぉぉっ!!」
リンの魔術による霧だ。
レイジと違い、剣術だけでなく魔術も習ったリンは、水属性だけならファーレン王国でも5本の指に入る使い手だ。この程度の霧を起こすのは朝飯前だ。
「この、ウルブス!!」
アルシェが風を起こして霧を払うが……。
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なぜか、楽しそうに見えた。
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