141 / 146
滅龍四天王『地竜』ラドン/ロシエルの力
しおりを挟む
スレッドが戻ってくるなり、手を挙げた……ああ、そういうことね。
俺も手を上げると、スレッドがハイタッチ。
パァン!! といい音がする。ビリビリ傷んだが、これは気持ちのいい痛み。
「はは、勝ったぜ!!」
「おう、お疲れさん」
スレッドは笑顔。
サティは嬉しそうに飛び跳ね、エミネムも笑顔。
だが、フルーレはちょっと違った。
「おめでとう。と素直に言うわ。私はあなたがこの先どうなろうと構わないし興味もないけど……覚えておくことね。あのグイバーが本来の戦い方をしていたら、神器と臨解を合わせても、あなたが負けていた可能性が高いわ」
「はっきり言いやがる……まぁ、俺もそう思ってたけど」
「おいおいおい、勝利の余韻に水差すなよ」
まあ、それは本当だ。
グイバーだけじゃない、ジラントも、ウェルシュも、本来の戦い方があったはず。
でも、戦いの熱というか……そういう『想い』に感化され、全力と全力をぶつけたんだ。
すると、俺の隣にいたロシエルがスッと前に出た。
「お、おいロシエル」
「……ボクは別に普通だから」
それだけ言い、ロシエルはスタスタ歩き出した。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
「姐さん、オレも行きます」
「……ラドン、どう?」
「いいですね。燃えてますよ」
「ふーん」
ラドンは、首をゴキゴキ鳴らしながらロシエルを見た。
小さく、帽子を深くかぶり、マフラーで口元を隠した子供。
第一印象は子供だったが、カジャクトは気付いていた。
「あれ、かなりのモンね」
「ええ……全力で行きます」
「そ。ま、楽しんできなさい」
「はい」
ラドンは前に向かって歩き出す。
ウェルシュ、ジラント、グイバーの前を通るが、三人は何も言わない。
ラドンは、カジャクトよし少し若い竜族だ。そして、カジャクト最初の眷属であり、滅龍四天王最強の男である。
筋骨隆々、鋼の肉体。
魔力は魔族の中でも少ないが、その全てを身体強化に回すことで、絶大な力を誇る。
武人……ラスティスは、ラドンを見た目でそう評価した。
そして、ラドンとロシエルは向かい合う。
「……本気で行く。覚悟はいいな?」
「…………」
ロシエルは無言。
スラリと、腰に差してあるロングソードを抜く。
普通の剣だ。特殊な装飾が施されているわけでもない。
スンスンとラドンは鼻を動かす。
「……ありふれた鉄の剣か。そんなもので、オレの肌を傷付けされると思うなよ」
「…………」
「楽しませろ、小僧……ん? この匂い……お前。ふ、まあいい」
「…………あんたさ、喋りすぎ」
戦いが始まると同時に、ロシエルは剣を振り被る。
ラドンは正拳を放つ。
そして───剣と拳が真正面から衝突した。
「───……ッ、な!?」
裂けたのは、ラドンの拳だった。
縦にぱっくり割れた拳から血が吹きだす。
痛みより、驚きのが強かった。
ただの鉄の剣が、なぜ。
「グッ……貴様!!」
「だから、おしゃべりだって」
ピュンピュンピュン!! と、空を切る音がした瞬間、ラドンの身体が裂け血が噴き出す。
痛み……ラドンの顔に青筋が浮かぶと、全身に鱗のような外殻が形成され、両腕が巨大化、尻尾が生え、巨大な槍のようなツノが頭頂部に生えた。
スリークォーターの竜人。竜人としての格は、ウェルシュたち三人よりも上。
「へえ」
だがロシエルは、驚かない。
いつの間にか鞘に納めた剣の柄に触れ、一瞬で抜刀。
一度の抜刀で、何故か十も二十もラドンの身体が斬れた。
これを見たサティがポツリと言う。
「し、師匠と、同じ……ですか?」
「ちょい違うな」
当然、ラスティスは答えを知っている。
フルーレ、エミネム、スレッドは首を傾げる……この中で、ロシエルの力を知る者はいない。
ラスティスは言う。
「サティ、当ててみろ。ロシエルは何をやってる?」
「え、えっと……すっごく速い抜刀、ですよね」
「速いことは速いが、一度の抜刀でどうして何度も斬れると思う?」
「……それが、ロシエルさんの『神スキル』だから、ですか?」
「正解。じゃあ、能力は?」
「…………」
サティは目を凝らす。
エミネムたちも目を凝らす。
最初に気付いたのは、やはり攻撃を受けたラドンだった。
「ぐ、ぬっ……これは、まさか」
ラドンは気付いた。
何度も斬られ、血が噴き出した。そして、濡れているのは血のせいだけじゃないことに。
自分の身体を濡らすのは、『水』だった。
「み、水……!? まさか貴様、水を飛ばして!?」
「正解」
ロシエルは、一度の抜刀と同時に、極限まで薄く伸ばした『水』を刃のように飛ばしていた。
神スキル『神水』……ロシエルの力である。
サティも同時に気付いてた。
「み、水ですか? まさか、水を操る……」
「正解だ。ロシエルは『神水』……水の神スキルを持つ。あいつの得意技は、薄く伸ばした水を刃のように飛ばす『霞刃』だ。見えないし、気付いたら斬れてる」
「師匠みたいですね!!」
「……お、俺の方が斬れるし」
妙な対抗心を燃やすラスティス。
一見、地味な技に見えるが……タネがわかっても、防御できない。
「くっ……!!」
防御が防御にならない。
鱗の密度を上げても、魔力で肉を強化しても、刃が触れただけで斬れてしまうのだ。
しかも見えない。速い。躱せない。
ロシエルの手がブレた瞬間には、ラドンの身体に無数の傷がつく。
ラドンは歯を食いしばり……フッと笑った。
「だったら!! 防御はいらん!!」
「───!!」
ラドンは防御を放棄。
両腕を振り上げ、ロシエルに向かって突っ込んでくる。
「『破砕剛腕』!!」
鱗が右腕に集中し、巨大な塊となってロシエルに向かってくる。
ロシエルはふわりと枯葉のような動きで躱すと、ラドンの拳が地面に激突。爆発するような轟音とともに、地面が抉れた。
「!?」
爆音、破壊……豪快な技だったが、あまりにも隙が大きすぎた。
ロシエルは回避後、すでに攻撃モーションに入っている。
「終わりだよ」
「───っ」
ゾッとするような殺気。
強さの、桁が違った……ラドンが青ざめた瞬間。
「『盈盈一水 』」
深く沈みこんだ状態での構え、抜刀───そこから発生した『水の斬撃』が、ラドンの両腕を切断し、上半身と下半身を両断した。
ロシエルが剣を鞘に納めると、腕を失い上半身だけになったラドンに向かって歩き出す。
「……まだやる?」
「……できると思うか?」
「そうだね。まあ、そこそこ強かったよ。最初の『霞刃』で終わらせるつもりだったけど……あなた、思った以上に硬かった」
「はっ……なんだそれは」
「じゃ、そういうことで」
それだけ言い、ロシエルはスタスタ歩いて戻った。
唖然とするサティ、エミネム、スレッドを無視。
戦慄するフルーレをチラッと見て、ラスティスを見る。
「お疲れ。お前の『盈盈一水 』だっけ……また鋭くなったな」
「…………」
ポンポンと頭を撫でようとするラスティスの手を躱し、ロシエルは欠伸をするのだった。
俺も手を上げると、スレッドがハイタッチ。
パァン!! といい音がする。ビリビリ傷んだが、これは気持ちのいい痛み。
「はは、勝ったぜ!!」
「おう、お疲れさん」
スレッドは笑顔。
サティは嬉しそうに飛び跳ね、エミネムも笑顔。
だが、フルーレはちょっと違った。
「おめでとう。と素直に言うわ。私はあなたがこの先どうなろうと構わないし興味もないけど……覚えておくことね。あのグイバーが本来の戦い方をしていたら、神器と臨解を合わせても、あなたが負けていた可能性が高いわ」
「はっきり言いやがる……まぁ、俺もそう思ってたけど」
「おいおいおい、勝利の余韻に水差すなよ」
まあ、それは本当だ。
グイバーだけじゃない、ジラントも、ウェルシュも、本来の戦い方があったはず。
でも、戦いの熱というか……そういう『想い』に感化され、全力と全力をぶつけたんだ。
すると、俺の隣にいたロシエルがスッと前に出た。
「お、おいロシエル」
「……ボクは別に普通だから」
それだけ言い、ロシエルはスタスタ歩き出した。
◇◇◇◇◇◇
◇◇◇◇◇◇
「姐さん、オレも行きます」
「……ラドン、どう?」
「いいですね。燃えてますよ」
「ふーん」
ラドンは、首をゴキゴキ鳴らしながらロシエルを見た。
小さく、帽子を深くかぶり、マフラーで口元を隠した子供。
第一印象は子供だったが、カジャクトは気付いていた。
「あれ、かなりのモンね」
「ええ……全力で行きます」
「そ。ま、楽しんできなさい」
「はい」
ラドンは前に向かって歩き出す。
ウェルシュ、ジラント、グイバーの前を通るが、三人は何も言わない。
ラドンは、カジャクトよし少し若い竜族だ。そして、カジャクト最初の眷属であり、滅龍四天王最強の男である。
筋骨隆々、鋼の肉体。
魔力は魔族の中でも少ないが、その全てを身体強化に回すことで、絶大な力を誇る。
武人……ラスティスは、ラドンを見た目でそう評価した。
そして、ラドンとロシエルは向かい合う。
「……本気で行く。覚悟はいいな?」
「…………」
ロシエルは無言。
スラリと、腰に差してあるロングソードを抜く。
普通の剣だ。特殊な装飾が施されているわけでもない。
スンスンとラドンは鼻を動かす。
「……ありふれた鉄の剣か。そんなもので、オレの肌を傷付けされると思うなよ」
「…………」
「楽しませろ、小僧……ん? この匂い……お前。ふ、まあいい」
「…………あんたさ、喋りすぎ」
戦いが始まると同時に、ロシエルは剣を振り被る。
ラドンは正拳を放つ。
そして───剣と拳が真正面から衝突した。
「───……ッ、な!?」
裂けたのは、ラドンの拳だった。
縦にぱっくり割れた拳から血が吹きだす。
痛みより、驚きのが強かった。
ただの鉄の剣が、なぜ。
「グッ……貴様!!」
「だから、おしゃべりだって」
ピュンピュンピュン!! と、空を切る音がした瞬間、ラドンの身体が裂け血が噴き出す。
痛み……ラドンの顔に青筋が浮かぶと、全身に鱗のような外殻が形成され、両腕が巨大化、尻尾が生え、巨大な槍のようなツノが頭頂部に生えた。
スリークォーターの竜人。竜人としての格は、ウェルシュたち三人よりも上。
「へえ」
だがロシエルは、驚かない。
いつの間にか鞘に納めた剣の柄に触れ、一瞬で抜刀。
一度の抜刀で、何故か十も二十もラドンの身体が斬れた。
これを見たサティがポツリと言う。
「し、師匠と、同じ……ですか?」
「ちょい違うな」
当然、ラスティスは答えを知っている。
フルーレ、エミネム、スレッドは首を傾げる……この中で、ロシエルの力を知る者はいない。
ラスティスは言う。
「サティ、当ててみろ。ロシエルは何をやってる?」
「え、えっと……すっごく速い抜刀、ですよね」
「速いことは速いが、一度の抜刀でどうして何度も斬れると思う?」
「……それが、ロシエルさんの『神スキル』だから、ですか?」
「正解。じゃあ、能力は?」
「…………」
サティは目を凝らす。
エミネムたちも目を凝らす。
最初に気付いたのは、やはり攻撃を受けたラドンだった。
「ぐ、ぬっ……これは、まさか」
ラドンは気付いた。
何度も斬られ、血が噴き出した。そして、濡れているのは血のせいだけじゃないことに。
自分の身体を濡らすのは、『水』だった。
「み、水……!? まさか貴様、水を飛ばして!?」
「正解」
ロシエルは、一度の抜刀と同時に、極限まで薄く伸ばした『水』を刃のように飛ばしていた。
神スキル『神水』……ロシエルの力である。
サティも同時に気付いてた。
「み、水ですか? まさか、水を操る……」
「正解だ。ロシエルは『神水』……水の神スキルを持つ。あいつの得意技は、薄く伸ばした水を刃のように飛ばす『霞刃』だ。見えないし、気付いたら斬れてる」
「師匠みたいですね!!」
「……お、俺の方が斬れるし」
妙な対抗心を燃やすラスティス。
一見、地味な技に見えるが……タネがわかっても、防御できない。
「くっ……!!」
防御が防御にならない。
鱗の密度を上げても、魔力で肉を強化しても、刃が触れただけで斬れてしまうのだ。
しかも見えない。速い。躱せない。
ロシエルの手がブレた瞬間には、ラドンの身体に無数の傷がつく。
ラドンは歯を食いしばり……フッと笑った。
「だったら!! 防御はいらん!!」
「───!!」
ラドンは防御を放棄。
両腕を振り上げ、ロシエルに向かって突っ込んでくる。
「『破砕剛腕』!!」
鱗が右腕に集中し、巨大な塊となってロシエルに向かってくる。
ロシエルはふわりと枯葉のような動きで躱すと、ラドンの拳が地面に激突。爆発するような轟音とともに、地面が抉れた。
「!?」
爆音、破壊……豪快な技だったが、あまりにも隙が大きすぎた。
ロシエルは回避後、すでに攻撃モーションに入っている。
「終わりだよ」
「───っ」
ゾッとするような殺気。
強さの、桁が違った……ラドンが青ざめた瞬間。
「『盈盈一水 』」
深く沈みこんだ状態での構え、抜刀───そこから発生した『水の斬撃』が、ラドンの両腕を切断し、上半身と下半身を両断した。
ロシエルが剣を鞘に納めると、腕を失い上半身だけになったラドンに向かって歩き出す。
「……まだやる?」
「……できると思うか?」
「そうだね。まあ、そこそこ強かったよ。最初の『霞刃』で終わらせるつもりだったけど……あなた、思った以上に硬かった」
「はっ……なんだそれは」
「じゃ、そういうことで」
それだけ言い、ロシエルはスタスタ歩いて戻った。
唖然とするサティ、エミネム、スレッドを無視。
戦慄するフルーレをチラッと見て、ラスティスを見る。
「お疲れ。お前の『盈盈一水 』だっけ……また鋭くなったな」
「…………」
ポンポンと頭を撫でようとするラスティスの手を躱し、ロシエルは欠伸をするのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
784
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる