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滅龍四天王『地竜』ラドン/ロシエルの力

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 スレッドが戻ってくるなり、手を挙げた……ああ、そういうことね。
 俺も手を上げると、スレッドがハイタッチ。
 パァン!! といい音がする。ビリビリ傷んだが、これは気持ちのいい痛み。

「はは、勝ったぜ!!」
「おう、お疲れさん」

 スレッドは笑顔。
 サティは嬉しそうに飛び跳ね、エミネムも笑顔。
 だが、フルーレはちょっと違った。

「おめでとう。と素直に言うわ。私はあなたがこの先どうなろうと構わないし興味もないけど……覚えておくことね。あのグイバーが本来の戦い方をしていたら、神器と臨解を合わせても、あなたが負けていた可能性が高いわ」
「はっきり言いやがる……まぁ、俺もそう思ってたけど」
「おいおいおい、勝利の余韻に水差すなよ」
 
 まあ、それは本当だ。
 グイバーだけじゃない、ジラントも、ウェルシュも、本来の戦い方があったはず。
 でも、戦いの熱というか……そういう『想い』に感化され、全力と全力をぶつけたんだ。
 すると、俺の隣にいたロシエルがスッと前に出た。

「お、おいロシエル」
「……ボクは別に普通だから」

 それだけ言い、ロシエルはスタスタ歩き出した。

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

「姐さん、オレも行きます」
「……ラドン、どう?」
「いいですね。燃えてますよ」
「ふーん」

 ラドンは、首をゴキゴキ鳴らしながらロシエルを見た。
 小さく、帽子を深くかぶり、マフラーで口元を隠した子供。
 第一印象は子供だったが、カジャクトは気付いていた。

「あれ、かなりのモンね」
「ええ……全力で行きます」
「そ。ま、楽しんできなさい」
「はい」

 ラドンは前に向かって歩き出す。
 ウェルシュ、ジラント、グイバーの前を通るが、三人は何も言わない。
 ラドンは、カジャクトよし少し若い竜族だ。そして、カジャクト最初の眷属であり、滅龍四天王最強の男である。
 筋骨隆々、鋼の肉体。
 魔力は魔族の中でも少ないが、その全てを身体強化に回すことで、絶大な力を誇る。
 武人……ラスティスは、ラドンを見た目でそう評価した。
 そして、ラドンとロシエルは向かい合う。

「……本気で行く。覚悟はいいな?」
「…………」

 ロシエルは無言。
 スラリと、腰に差してあるロングソードを抜く。
 普通の剣だ。特殊な装飾が施されているわけでもない。
 スンスンとラドンは鼻を動かす。

「……ありふれた鉄の剣か。そんなもので、オレの肌を傷付けされると思うなよ」
「…………」
「楽しませろ、小僧……ん? この匂い……お前。ふ、まあいい」
「…………あんたさ、喋りすぎ」

 戦いが始まると同時に、ロシエルは剣を振り被る。
 ラドンは正拳を放つ。
 そして───剣と拳が真正面から衝突した。

「───……ッ、な!?」

 裂けたのは、ラドンの拳だった。
 縦にぱっくり割れた拳から血が吹きだす。
 痛みより、驚きのが強かった。
 ただの鉄の剣が、なぜ。

「グッ……貴様!!」
「だから、おしゃべりだって」

 ピュンピュンピュン!! と、空を切る音がした瞬間、ラドンの身体が裂け血が噴き出す。
 痛み……ラドンの顔に青筋が浮かぶと、全身に鱗のような外殻が形成され、両腕が巨大化、尻尾が生え、巨大な槍のようなツノが頭頂部に生えた。
 スリークォーターの竜人。竜人としての格は、ウェルシュたち三人よりも上。

「へえ」

 だがロシエルは、驚かない。
 いつの間にか鞘に納めた剣の柄に触れ、一瞬で抜刀。
 一度の抜刀で、何故か十も二十もラドンの身体が斬れた。
 これを見たサティがポツリと言う。

「し、師匠と、同じ……ですか?」
「ちょい違うな」

 当然、ラスティスは答えを知っている。
 フルーレ、エミネム、スレッドは首を傾げる……この中で、ロシエルの力を知る者はいない。
 ラスティスは言う。

「サティ、当ててみろ。ロシエルは何をやってる?」
「え、えっと……すっごく速い抜刀、ですよね」
「速いことは速いが、一度の抜刀でどうして何度も斬れると思う?」
「……それが、ロシエルさんの『神スキル』だから、ですか?」
「正解。じゃあ、能力は?」
「…………」

 サティは目を凝らす。
 エミネムたちも目を凝らす。
 最初に気付いたのは、やはり攻撃を受けたラドンだった。

「ぐ、ぬっ……これは、まさか」

 ラドンは気付いた。
 何度も斬られ、血が噴き出した。そして、濡れているのは血のせいだけじゃないことに。
 自分の身体を濡らすのは、『水』だった。

「み、水……!? まさか貴様、水を飛ばして!?」
「正解」

 ロシエルは、一度の抜刀と同時に、極限まで薄く伸ばした『水』を刃のように飛ばしていた。
 神スキル『神水』……ロシエルの力である。
 サティも同時に気付いてた。

「み、水ですか? まさか、水を操る……」
「正解だ。ロシエルは『神水』……水の神スキルを持つ。あいつの得意技は、薄く伸ばした水を刃のように飛ばす『霞刃かすみば』だ。見えないし、気付いたら斬れてる」
「師匠みたいですね!!」
「……お、俺の方が斬れるし」

 妙な対抗心を燃やすラスティス。
 一見、地味な技に見えるが……タネがわかっても、防御できない。

「くっ……!!」

 防御が防御にならない。
 鱗の密度を上げても、魔力で肉を強化しても、刃が触れただけで斬れてしまうのだ。
 しかも見えない。速い。躱せない。
 ロシエルの手がブレた瞬間には、ラドンの身体に無数の傷がつく。
 ラドンは歯を食いしばり……フッと笑った。

「だったら!! 防御はいらん!!」
「───!!」

 ラドンは防御を放棄。
 両腕を振り上げ、ロシエルに向かって突っ込んでくる。
 
「『破砕剛腕』!!」

 鱗が右腕に集中し、巨大な塊となってロシエルに向かってくる。
 ロシエルはふわりと枯葉のような動きで躱すと、ラドンの拳が地面に激突。爆発するような轟音とともに、地面が抉れた。
 
「!?」

 爆音、破壊……豪快な技だったが、あまりにも隙が大きすぎた。
 ロシエルは回避後、すでに攻撃モーションに入っている。
 
「終わりだよ」
「───っ」

 ゾッとするような殺気。
 強さの、桁が違った……ラドンが青ざめた瞬間。

「『盈盈一水 えいえいいっすい』」

 深く沈みこんだ状態での構え、抜刀───そこから発生した『水の斬撃』が、ラドンの両腕を切断し、上半身と下半身を両断した。
 ロシエルが剣を鞘に納めると、腕を失い上半身だけになったラドンに向かって歩き出す。

「……まだやる?」
「……できると思うか?」
「そうだね。まあ、そこそこ強かったよ。最初の『霞刃』で終わらせるつもりだったけど……あなた、思った以上に硬かった」
「はっ……なんだそれは」
「じゃ、そういうことで」

 それだけ言い、ロシエルはスタスタ歩いて戻った。
 唖然とするサティ、エミネム、スレッドを無視。
 戦慄するフルーレをチラッと見て、ラスティスを見る。

「お疲れ。お前の『盈盈一水 えいえいいっすい』だっけ……また鋭くなったな」
「…………」

 ポンポンと頭を撫でようとするラスティスの手を躱し、ロシエルは欠伸をするのだった。
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