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滅龍四天王『毒竜』グイバー①/糸と毒

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 エミネムは、普通に歩いて戻ってきた。

「ラスティス様、勝ちました!!」
「うおっ」

 そして、俺に飛びついて喜び……数秒して我に返り、顔を赤くして飛びのく。
 すると、サティが起き上がりエミネムの元へ。

「エミネムさん、おめでとうございます!!」
「ありがとう。あら、起きて大丈夫なの?」
「はい!! 回復です!!」

 普通は寝込むんだが……こいつ、身体の作りどうなってんだ?
 フル-レも頭を抱えつつ、エミネムに微笑む。

「おめでとう。本当に強くなったわね……サティも、エミネムも」
「そ、そんな……あ、ありがとうございます」
「えへへ、嬉しいですっ!!」

 女の子三人はニコニコしているが……俺にはわかった。
 フル-レ。こいつ、滅茶苦茶ウズウズしてる。鍛えた力を試したくってしょうがないみたいだ。まあ、サティもエミネムも『神器』だけじゃなく『臨解』まで使ったしな。
 神器と臨解の同時使用なんて、団長やランスロットと同じレベルだぞ。
 はっきり言う。もうこの二人は一人前だ。俺の指導なんて必要ない。
 
「…………」
「おっさん、なーに寂しそうな顔してんだ?」
「え? あ、ああ……いや」
「ったく、気合い入れろよ? まあ、次はオレ様の出番だがな」

 スレッドは俺の肩をバシッと叩く。
 今更過ぎるがこいつ、怪盗で今でも指名手配中なんだよな……七大剣聖としては放っておくわけにもいかんけど、今は戦力としてありがたい……というか、普通に屋敷で過ごしてメシ食わせて、ロシエルに修行まで付けてもらったけど。
 俺は、興味本位で聞いてみた。

「なあ、お前の仲間は今何してるんだ?」
「とりあえず休暇だ。オレが戻るまで自由にしていいって伝えてある」
「……戻ったら?」
「本業再開だ。まあ、しばらくはこの辺には寄り付かねぇよ。おっかない七大剣聖がいるしな」
「…………」
「……お前、ほんといい奴だな。ありがとよ、ラス」

 ……俺が考えていることを読まれちまったな。
 俺は、この戦いが終わったら、スレッドを逃がすことに決めていた。
 フル-レ、ロシエルが何か言うかもしれないし、もしかしたら実力行使に出るかもしれない。それでも俺は、こいつが捕まって裁判にかけられ、処刑されることなんて望んでいない。
 七大剣聖としては失格だな……それでも、いい気がした。

「さーて行くか!! なあ、毒蛇野郎!!」

 スレッドがそう叫ぶと、カジャクト側で座っていた猫背のグイバーが、ニヤリと笑ったのが見えた。

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

「グイバー、大丈夫?」

 カジャクトが顔を覗き込むと、グイバーはニヤッと笑う。

「大丈夫。久しぶりに熱いんだ……オレの毒」
「……」
「ウェルシュ、ジラント。燃えるってことの意味、よーくわかったよ……オレのドラゴンの血が煮えたぎっている……これが闘争心なんだね」
「へぇ、アンタもようやくわかったんだ」
「……うん」

 滅龍四天王『毒竜』グイバー。
 低血圧気味でイマイチ感情の起伏がない、人間風に言えば引っ込み思案な青年。
 前髪で顔を隠し、口元だけしか見えないが、今は喜んでいた。
 カジャクトは、グイバの前髪を上げ、しっかりと固定。毒のような濃い緑色の瞳が露わになる。

「あ、姐さん?」
「そっちの方がイケてるわよ。さ、行きなさい!!」
「……うん」

 ゆらりと立ち上がり、ニヤリと笑う。
 猫背気味で、手をブラブラさせながら、グイバーは前に出た。
 目の前には、糸使いの男……スレッドがいる。
 スレッドは、グイバーを見て口笛をピュイと吹いた。

「おお、お前なかなかのイケメンじゃねぇか……まあ、オレ様には負けるけどなぁ」

 スレッドは鏡と櫛をポケットから出すと、自分の髪を梳く。
 
「……悪いけど。本気で行くよ。オレ、久しぶりに燃えてるんだ」
「はっはっは!! そりゃ俺も同じよ……チャチな遊びじゃねぇ、全力でやろうぜ!!」

 スレッドは両手の五指を開く。すると、手に蜘蛛の糸が肘の付近まで巻き付く。
 両手の肘までは、白いガントレットに包まれる。
 
「これが俺の『操神器』……その名も『ラトライア・クインハープ』だぜ!!」

 白いガントレット。その両五指の先端から、純白の糸が吐き出された。
 一本の指から五本、合計二十五本の糸は絡み合い、形となる。

「さぁ、踊ろうぜ!! 『白ノ糸ホワイト刺突ダーツ』!!」

 糸の先端が編み物のように形状変化し、槍の先端と同じ形となり降り注ぐ。
 全てグイバーに直撃……だが、グイバーは普通に立っていた。

「へえ……血を流すなんて、久しぶりだ」
「……そうかい」

 糸はほぼ全て、グイバーに触れた瞬間に溶けて消えた……が、ほんのわずかな糸だけが、触れてもすぐに溶けることなく、グイバーの肌に傷をつけた。
 グイバーは、傷ついた腕をペロッと舐める。

「本気で楽しめそうだ。スレッド……簡単に溶けないでくれよ」
「はっ、お前こそ、すぐに息切れすんじゃねぇぞ? 俺の『白ノ糸ホワイト』で踊れるなんて、そうあることじゃねぇんだからな」

 糸と毒、最悪の組み合わせによる戦いが始まった。
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