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フィルハモニカ・ステージ①/最終日の始まり

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 楽しい祭りも最終日……早朝、俺は久しぶりに、サティたちと顔合わせした。

「あ、師匠!! なんか久しぶりですねー」
「そりゃ、お前ら朝から屋敷出て、帰ってくるの深夜だもんな……どんだけ遊んでるんだよ」
「自由行動だし、文句はないでしょう」
「まあな。でも、今日が最終日だぞ」
「はあ……」

 と、エミネムだけが深いため息。
 
「エミネム、どうした?」
「え、あ、いえ……その、ラスティス様のご予定は?」
「俺? そういやお前たちに言ってなかったな。俺、フィルハモニカ楽団の歌姫、ミルキィちゃんの護衛してるんだよ」
「護衛、ですか?」
「ああ。いろいろあってな」

 誘拐云々は言わなくていい。最終日だし、余計なこと考えず遊んで欲しい。
 サティは首を傾げるが、フルーレとエミネムは顔を見合わせた。

「……ねえラスティス。少し、気になることがあるんだけど」
「ん?」
「数日前、街でナンパにあったの。その時ナンパしてきたヤツ……かなりの強さだったわ」
「何? ナンパ? で……どうしたんだ?」
「サティが気に入られて、焼肉奢ってくれたの。まあ、それだけね……でも、少し気になるの」
「…………」

 まさか、スレッドじゃないだろうな。
 討伐レートSS指定の盗賊団『カルマ』のボス。最終日だし、街に入っているとは思うが……まさか、こいつらが接触しているかもしれないとは。
 
「……まあ、気にするな。最終日だし、祭りを楽しんでこい」
「はい!! さ、エミネムさん、フルーレさん、今日は思いっきり遊びましょう!!」
「ちょ、引っ張らないで!!」
「あの、ラスティス様……」
「ほら行け。楽しんで来い」

 エミネム、フルーレはサティに引っ張られ屋敷を出た。

「……厄介ごとは、大人の仕事だ」

 俺は屋敷の地下へ向かう。
 地下では、フィルハモニカ楽団の団員たちが、衣装に着替え最終確認をしていた。
 そして、髪を整え化粧をしたミルキィちゃんが、俺の前へ。

「オジサマ、おはよっ!! 今日もよろしくねっ!!」
「ああ。ミルキィちゃんは俺が守るから、思いっきり歌ってくれ」
「うん!!」

 さて、スレッドとやら……来るなら来やがれってんだ。

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

 祭り開始から数時間経過。
 スレッドは一人で堂々と、肉串片手に街を歩いていた。

「準備は?」
『完了っす。全員配置に付きました』
『目標の商会長、部屋でヤク吸いながら町を見下ろしてるっす。金持ちの趣味わかんねーな』
『屋敷の間取り、護衛の数、護衛のスキル、全て確認完了』
『あとは、ボスが派手に暴れて、その間に誘拐するっす』
『屋敷の地下にいたぶられた奴隷がいるんスけど、保護しますわ』
『治療班、手当の準備しておけ』

 仲間たちが、思念で会話する声が響く。
 離れた位置でもやりとりできるスキル『思念会話リモートコール』でやり取りすれば、あらゆる状況に置いて迅速な対応が可能。盗賊団『カルマ』の連携は無敵だった。
 スレッドは、肉串を完食。串をゴミ箱に投げ、街の中央に到着する。
 中央には、派手な装飾が施されたステージがあり、すでにフィルハモニカ楽団の新人たちによる前座ショーが始まっていた。

「こっちも位置に付いた。くくっ……ミルキィちゃん、楽しみにしてるぜぇ~?」
『『『『『ボス、キモイっす』』』』』
「全員で声揃えるな……地味にショックだぞ」

 これまでにないくらい仲間たちの声、感情が揃っていた。
 まだ、ミルキィのステージまで時間がある。それまで前座のショーでヒマつぶししようとした時だった。

「あれ? お兄さんじゃないですか」
「へ? あ、サティちゃんたちじゃねーか!!」
「どうも!! お兄さんも、ミルキィちゃんのステージを見に来たんですか? うわー、人がかなりいますねー」
「あ、ああ」

 ステージ前は、前座のショーなのに人がかなりいる。
 本命であるミルキィのステージになれば、もっと人が増えるだろう。
 フルーレ、エミネムは顔を見合わせる。

「あなた、一人? 焼肉のお礼に、私たちが一緒にいてあげてもいいわよ。ふふ……嬉しいでしょ? こんな美少女が三人もいるなんて」
「そりゃありがたい……」
「えっと、マッソンさんはいないんですか?」
「あー……あいつは、仕事でな」
「お兄さんお兄さん、あっちの屋台に行きませんか!!」

 まいったぜ。
 と、スレッドは笑ながら思った。
 ミルキィのステージが始まれば、否応になくサティたちの前から離れなければならない。
 それに、フルーレ、エミネム。この二人は、スレッドに『何かある』と睨んでいる。まだ興味の範疇を抜けていないが、目立つ行為はしたくない。へたをしたら邪魔をされる。
 
(……まあいい。スリルある方が楽しめる)

 スレッドはぺろりと舌を出し、今あるスリルを楽しんでいた。

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

 夜になり、星が煌めく時間帯となった。
 だが、祭り明かりが夜は認めないと言わんばかりに輝いている。増設した街灯、建物からの光が、まるで昼間のようだ。
 そして、ステージ周辺には町中から集まったと思われる人であふれている。
 俺は、ステージ裏でウキウキしているミルキィちゃんに聞いた。

「すっごい人だな……ミルキィちゃん、緊張しないのか?」
「なんで? すっごくワクワクしてる。だってさ、み~んなが、ミルキィの歌を楽しみにしてるんだよっ?」
「ああ、確かに……」
「……ステージは、『ミルキィ』が存在できる場所だから」
「え?」
「なんでもないっ!! オジサマ、わたしのこと守ってね!!」
「ああ、思いっきり歌ってこい!!」

 ミルキィちゃんがステージに飛び出す。

『みんな~!! ミルキィで~っす!!』
『『『『『うわぁぁぁぁぁぁぁ!! ミルキィちゃ~ん!!』』』』』

 すごい歓声だ。
 ビリビリと空気が震え、耳が痛い。
 さて、俺も仕事しないとな。

「『開眼』」

 周囲を見る。
 不自然な力の流れ───……スレッドは『神スキル』持ち。力を発動させるならその兆候がある。
 いつでも飛び出せるよう、俺は気配を探る。

「さあて……来るなら来い」

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

「うぉぉぉぉ!! ミルキィちゃぁぁぁぁ~~~ん!!」
『ボス、ボス!! ちょっと、計画忘れないでくださいよ!?』

 我を忘れていたスレッド。ハッとなり我に返る。

「ミルキィちゃーん!!」
「すごいわね……」
「可愛い……ラスティス様、あの人とずっと一緒に……むぅ」

 サティ、フルーレ、エミネムもミルキィに見惚れていた。
 その隙に、スレッドは人込みを縫うように前に進み、人込みに紛れていた仲間からバッグを受け取る。
 そして、一瞬で路地裏に入り、バッグからマント、仮面を被る。

「さあ……『仮面怪盗カルマ』のショータイムだぜ!!」

 スレッドの両手に付けたリストリングに小さな穴が開き、そこから『糸』が一気に放出された。
 そして、屋根の突起に糸が絡まると、糸が一気に巻き上がってスレッドの身体を上空に飛ばす。
 屋根に着地したスレッドは、ステージの装飾品である星の飾りに飛び乗った。
 そして、今まさに歌っているミルキィのマイクを糸で絡めとり、自分の手へ。

「あれっ」
『紳士淑女の皆さん、こんばんわ』

 歌がいきなり止まり、周囲が騒がしくなる───……が、会場にいたほぼ全員がスレッドに注目した。
 仮面、マントを付けた謎の人物……スレッドは注目され、背中がゾクゾクした。

『初めまして。我が名は『仮面怪盗カルマ』……今宵、この場で最も美しい宝を奪いに参上しました』
「え、え~?」
『そう、ミルキィちゃん……キミだ!!』
「えっ!?」

 ミルキィに糸が巻き付いた。
 神スキル『神操』の力で糸を自在に操る……SSレート指定された『デズモンドスパイダー』の糸精製機関を改造した特注リストリング『アトラナート』の糸である。
 スレッドはミルキィを糸で絡めとり、一気に手繰り寄せる───……が。

「『閃牙』」

 スパパパパンン!! と、糸が切断され……空中落下するミルキィを誰かがキャッチ。
 スレッドは、突如現れた男に向かって叫ぶ。

「貴様、何者だ!!」
「護衛だよ、この子のな」
「オジサマ……」
「離れるなよ」

 ステージに現れたのは、どこにでもいるような、冴えないおじさん。
 腰に剣を差し、スレッドに向かって言う。

「悪いが、この子はやらねぇよ」
「面白な……だったら、力尽くで奪ってやるぜ!!」

 七大剣聖『神眼』のラスティスは構えを取り、スレッドは両手のリングから糸を放出。

「おい、なんかヤバくね?」「ショーだろ」
「でも、面白いよな」「ね、応援しない?」「どっちを?」
「決まってんだろ」「仮面の方!」「おっさんだろ!」

 観客がショーと勘違いしたのか、爆発するような歓声が響き渡る。
 こうして、ラスティスとスレッドの戦いが始まるのだった……が。

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇



「───ウェルシュ、行く?」
「そうねえ……せっかくだし、あの二人がいい感じに戦い出したら、割り込もっか」
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