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閑話②/滅龍四天王
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魔界領地の一つ、『滅龍』。
七大魔将『滅龍』カジャクトが治める地であり、竜が住まう危険地域。
町らしい町、村らしい村、集落などは存在しない。あるのはどこまでも続く荒野、山岳、岩石地帯、湖……魔界でも特に、魔獣たちが住まう土地であった。
住居らしきものは存在しないが、『滅龍』で最も高い標高を誇る『天空山脈』の頂上に、いくつもの岩石を合わせて作った『住居』のような物があった。
雲が掛かるほど高い位置にある『そこ』に、カジャクトは帰って来た。
「帰ったわよ」
「「「「お帰りなさい、姐さん!!」」」」
出迎えたのは、四人の上級魔族。
カジャクトの配下、最強の四人。その名も『滅龍四天王』である。
カジャクトは、魔獣の骨で作った椅子にどっかり腰掛ける。
「最悪」
そして、不満をあらわにした。
おろおろと、身長三メートルはあるスキンヘッドの大男が言う。
「あ、姐さん……どうしたんスか?」
「シンクレティコのクソじじいが、人間界への門を開けないとかヌカしたのよ。ったく、せっかくルプスレクスと、その使い手と戦いたかったのに~!!」
だんだんと右足で地面を踏みつける。
大男こと『地竜』ラドンは慌てだす。
「あ、姐さん、姐さんが暴れると『天空山脈』が崩れちまうッスよ!!」
「わーってるわよ。はぁ~……ねえグイバー、なんか面白い話して」
「え、ええと……いきなり無茶ぶりですなあ」
ガリガリで肋骨が浮き出た顔色の悪い青年こと『毒竜』グイバーが首をカクカクさせ、我関せずとそっぽ向いていた赤髪ポニーテールの少女、『赤竜』ウェルシュに言う。
「あたし、そういうの無理」
「じゃあ……ジラント」
「ボクに言われても」
ラドンの陰に隠れるように、『空竜』ジラントはそっぽ向く……いきなり『面白い話』をしろと言われても、四天王たちには無理な話だった。
グイバーは、『湖で魚を食べていたら、でっかい骨が喉に刺さった』話をするが、開始二十秒と経たずにカジャクトに「つまらない!!」と怒鳴られた。
カジャクトは大あくびをする。
「魔王様が新しい『力』に馴染む前に、ルプスレクスとその使い手ブッ倒す……なんて言ったけど、人間界に行く方法がないなんてねぇ……」
つまらなそうに言うと、グイバーが言う。
「確か、『緑鹿』様の『くうかん転移』でしたっけ? 空間に穴あけて、そこを通っていくとか」
「そう。でも、ここから人間界行くまで『穴』開けるの、大変らしいわ……ったく、めんどくさい」
ケッと舌打ちするカジャクト。
すると、ジラントが腕組みする。
「カジャクト姐さん、今更だけど……ボクら、人間界に行く方法探せって命令、全く聞いてないよね」
「そうね。仕方ないじゃない、私たち『竜』に、そんな器用な真似できると思う?」
「いやー……無理だね」
ジラントが「あはは」と笑うと、ウェルシュが自分の赤髪を指でいじりながら言う。
「そう考えると、『海蛸』様でも無理だった海の横断をしたルプスレクスって、とんでもなかったんだね」
「……そうね。癪だけど、ルプスレクスは七大魔将でも別格だった。私でも相打ちに持ち込めるかどうか……普通に戦えば、勝率は二割くらい。ほんと、ビャッコって勘違い大馬鹿クソ間抜け能無しクズゴミアホ野郎だったわ」
これでもかと悪態をつくカジャクト。
魔獣の頭蓋骨を掴み、人差し指でクルクル回転させる。
「戦いたいわ。ルプスレクスの力と、その力を振るう人間……」
「「「「…………」」」」
四天王は顔を見合わせる。
カジャクト。七大魔将最強『滅龍』の二つ名を持ち、ルプスレクスのいない今、七大魔将最強と言われている……が、カジャクトは認めていない。
「ルプスレクス。私……あいつをブチのめしたかった」
『また』始まった……と、四天王が顔を見合わせた。
「あいつのムカつくところは、自由奔放だったくせに強かったこと。それと、自分の強さに何の興味も持っていなかったこと。ラクタパクシャと毎日イチャイチャして、マジでむかついたわ。でも……あいつの配下の狼が、ルプスレクスを舐めてたビャッコに殺されて、一度だけキレたわね」
カジャクトは知っている。
その時のルプスレクスは、カジャクトですら震え上がる強さだった。
それを思い出すだけで……カジャクトの表情は緩んでいく。
「あぁ───……あいつ、ほんと強かった。襲い掛かる寸前だったわ」
((((始まった……))))
うっとりするカジャクト。
カジャクトは口を開け、持っていた頭蓋骨をバリバリ噛み砕く。
「逢いたいわ。そして、私の全てをぶつけたい……全部失ってもいい。私の命、力、情熱を全て、受け取めて欲しいわ───……」
まるで、恋する乙女のように、カジャクトはルプスレクスを想う。
そして……大きなため息を吐いた。
「ほんと、なんで魔界から脱走したのかな……人間界の大地、そんなに好きだったのかな」
カジャクトは、ルプスレクスを想うと何日もそのままだ。
ぶつぶつと、ルプスレクスはああだった、こうだったと、四天王たちに何日も語り聞かせる……そして、食事も睡眠も取らず、十日も経過してしまった。
竜族は戦闘種族。一か月ほど眠らなくても平気だし、食事も十日に一度取れば生きていける。だが、さすがに十日も惚気とも言える話を聞き続けるのはかなり辛かった。
十日が経過し、タイミングを見計らってラドンが挙手。
「あ、姐さん!!」
「ん、なに」
「えっと、そろそろ食事にしませんか? そろそろ腹ぁ減りまして」
「そうね。じゃ、用意して」
「へい!!」
あまり早く止めるとカジャクトは不機嫌になる……なので、十日ほどは惚気を聞かねばならない。そのタイミングを見極めるのは、かなり難しかった。
そして、四人が食事の用意をしている時だった。
「あ、そうか!!」
「「「「っ!!」」」」
カジャクトが立ち上がり、持っていた魔獣の頭蓋骨を握り潰した。
「別に、シンクレティコやラクタパクシャに頼まなくていいんだ」
「あ、姐さん?」
「決めた。あんたら、行くわよ」
「あ、あの……どこに、ですか?」
「決まってるじゃない。人間界よ」
「……どうやってです?」
「泳いでいくわ。あんたら全員、泳げるわね?」
「……マジですか」
「ええ。よし、メシ食べたら行くわよ」
と、顔を青くする四天王たち。代表してラドンが挙手。
「あ、姐さん!! さ、さすがに……その、『海蛸』様でも無理なのに、オレらが泳いでいくのは」
「ルプスレクスは行けたわ。それに、竜族なら根性見せられるでしょ」
「こ、根性……ですか?」
「そうよ。さ、メシの用意。食ったら行くわよ」
「「「「…………」」」」
こうして……七大魔将『滅龍』カジャクトと、滅龍四天王たちは『根性で泳ぐ』という理論も理性もない命懸けで、人間界に向かうことになった。
全ては、カジャクトがラスティス、そしてルプスレクスと戦うために。
七大魔将『滅龍』カジャクトが治める地であり、竜が住まう危険地域。
町らしい町、村らしい村、集落などは存在しない。あるのはどこまでも続く荒野、山岳、岩石地帯、湖……魔界でも特に、魔獣たちが住まう土地であった。
住居らしきものは存在しないが、『滅龍』で最も高い標高を誇る『天空山脈』の頂上に、いくつもの岩石を合わせて作った『住居』のような物があった。
雲が掛かるほど高い位置にある『そこ』に、カジャクトは帰って来た。
「帰ったわよ」
「「「「お帰りなさい、姐さん!!」」」」
出迎えたのは、四人の上級魔族。
カジャクトの配下、最強の四人。その名も『滅龍四天王』である。
カジャクトは、魔獣の骨で作った椅子にどっかり腰掛ける。
「最悪」
そして、不満をあらわにした。
おろおろと、身長三メートルはあるスキンヘッドの大男が言う。
「あ、姐さん……どうしたんスか?」
「シンクレティコのクソじじいが、人間界への門を開けないとかヌカしたのよ。ったく、せっかくルプスレクスと、その使い手と戦いたかったのに~!!」
だんだんと右足で地面を踏みつける。
大男こと『地竜』ラドンは慌てだす。
「あ、姐さん、姐さんが暴れると『天空山脈』が崩れちまうッスよ!!」
「わーってるわよ。はぁ~……ねえグイバー、なんか面白い話して」
「え、ええと……いきなり無茶ぶりですなあ」
ガリガリで肋骨が浮き出た顔色の悪い青年こと『毒竜』グイバーが首をカクカクさせ、我関せずとそっぽ向いていた赤髪ポニーテールの少女、『赤竜』ウェルシュに言う。
「あたし、そういうの無理」
「じゃあ……ジラント」
「ボクに言われても」
ラドンの陰に隠れるように、『空竜』ジラントはそっぽ向く……いきなり『面白い話』をしろと言われても、四天王たちには無理な話だった。
グイバーは、『湖で魚を食べていたら、でっかい骨が喉に刺さった』話をするが、開始二十秒と経たずにカジャクトに「つまらない!!」と怒鳴られた。
カジャクトは大あくびをする。
「魔王様が新しい『力』に馴染む前に、ルプスレクスとその使い手ブッ倒す……なんて言ったけど、人間界に行く方法がないなんてねぇ……」
つまらなそうに言うと、グイバーが言う。
「確か、『緑鹿』様の『くうかん転移』でしたっけ? 空間に穴あけて、そこを通っていくとか」
「そう。でも、ここから人間界行くまで『穴』開けるの、大変らしいわ……ったく、めんどくさい」
ケッと舌打ちするカジャクト。
すると、ジラントが腕組みする。
「カジャクト姐さん、今更だけど……ボクら、人間界に行く方法探せって命令、全く聞いてないよね」
「そうね。仕方ないじゃない、私たち『竜』に、そんな器用な真似できると思う?」
「いやー……無理だね」
ジラントが「あはは」と笑うと、ウェルシュが自分の赤髪を指でいじりながら言う。
「そう考えると、『海蛸』様でも無理だった海の横断をしたルプスレクスって、とんでもなかったんだね」
「……そうね。癪だけど、ルプスレクスは七大魔将でも別格だった。私でも相打ちに持ち込めるかどうか……普通に戦えば、勝率は二割くらい。ほんと、ビャッコって勘違い大馬鹿クソ間抜け能無しクズゴミアホ野郎だったわ」
これでもかと悪態をつくカジャクト。
魔獣の頭蓋骨を掴み、人差し指でクルクル回転させる。
「戦いたいわ。ルプスレクスの力と、その力を振るう人間……」
「「「「…………」」」」
四天王は顔を見合わせる。
カジャクト。七大魔将最強『滅龍』の二つ名を持ち、ルプスレクスのいない今、七大魔将最強と言われている……が、カジャクトは認めていない。
「ルプスレクス。私……あいつをブチのめしたかった」
『また』始まった……と、四天王が顔を見合わせた。
「あいつのムカつくところは、自由奔放だったくせに強かったこと。それと、自分の強さに何の興味も持っていなかったこと。ラクタパクシャと毎日イチャイチャして、マジでむかついたわ。でも……あいつの配下の狼が、ルプスレクスを舐めてたビャッコに殺されて、一度だけキレたわね」
カジャクトは知っている。
その時のルプスレクスは、カジャクトですら震え上がる強さだった。
それを思い出すだけで……カジャクトの表情は緩んでいく。
「あぁ───……あいつ、ほんと強かった。襲い掛かる寸前だったわ」
((((始まった……))))
うっとりするカジャクト。
カジャクトは口を開け、持っていた頭蓋骨をバリバリ噛み砕く。
「逢いたいわ。そして、私の全てをぶつけたい……全部失ってもいい。私の命、力、情熱を全て、受け取めて欲しいわ───……」
まるで、恋する乙女のように、カジャクトはルプスレクスを想う。
そして……大きなため息を吐いた。
「ほんと、なんで魔界から脱走したのかな……人間界の大地、そんなに好きだったのかな」
カジャクトは、ルプスレクスを想うと何日もそのままだ。
ぶつぶつと、ルプスレクスはああだった、こうだったと、四天王たちに何日も語り聞かせる……そして、食事も睡眠も取らず、十日も経過してしまった。
竜族は戦闘種族。一か月ほど眠らなくても平気だし、食事も十日に一度取れば生きていける。だが、さすがに十日も惚気とも言える話を聞き続けるのはかなり辛かった。
十日が経過し、タイミングを見計らってラドンが挙手。
「あ、姐さん!!」
「ん、なに」
「えっと、そろそろ食事にしませんか? そろそろ腹ぁ減りまして」
「そうね。じゃ、用意して」
「へい!!」
あまり早く止めるとカジャクトは不機嫌になる……なので、十日ほどは惚気を聞かねばならない。そのタイミングを見極めるのは、かなり難しかった。
そして、四人が食事の用意をしている時だった。
「あ、そうか!!」
「「「「っ!!」」」」
カジャクトが立ち上がり、持っていた魔獣の頭蓋骨を握り潰した。
「別に、シンクレティコやラクタパクシャに頼まなくていいんだ」
「あ、姐さん?」
「決めた。あんたら、行くわよ」
「あ、あの……どこに、ですか?」
「決まってるじゃない。人間界よ」
「……どうやってです?」
「泳いでいくわ。あんたら全員、泳げるわね?」
「……マジですか」
「ええ。よし、メシ食べたら行くわよ」
と、顔を青くする四天王たち。代表してラドンが挙手。
「あ、姐さん!! さ、さすがに……その、『海蛸』様でも無理なのに、オレらが泳いでいくのは」
「ルプスレクスは行けたわ。それに、竜族なら根性見せられるでしょ」
「こ、根性……ですか?」
「そうよ。さ、メシの用意。食ったら行くわよ」
「「「「…………」」」」
こうして……七大魔将『滅龍』カジャクトと、滅龍四天王たちは『根性で泳ぐ』という理論も理性もない命懸けで、人間界に向かうことになった。
全ては、カジャクトがラスティス、そしてルプスレクスと戦うために。
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