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第四章
始まる『遊び』
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魔界の中心地には、ある巨大な『塔』があった。
材質は不明。漆黒、入口がなく、窓もない。
登るには呪装備の力を使い、物理的に上るしかない。
名を『メルカバの塔』……いつ、どこで、誰が作ったのか不明な、傷を付けることも、破壊することもできない塔だった。
魔界は、六魔神に習い、六つの地域に分かれている。
そして、それぞれの地域を『冥府六将』が管理し、六人が集まる時はこの『メルカバの塔』に集まると、遥か昔から決まっていた。
現在、エクスパシオンは塔の最上層にいた。
のんびり待っていると、一人の少女が現れる。
「なーによもう、クソ忙しい時に呼びだしとか、マジ殺すし」
ツインテールの、十六歳ほどの少女だった。
魔族の特徴である白髪、赤目だが……なぜか頭にネコミミが生えており、腰から白い尻尾も伸び、不機嫌なのか細かく揺れていた。
エクスパシオンは苦笑する。
「ごめんごめん、ニャンニャン、すぐ終わるからさ」
冥府六将『天仙女』ニャンニャン。エクスパシオンと同じ、最強の魔人の一人。
首元で揺れるネックレスから声がした。
『ニャンニャン、クソ忙しいとか、嘘ついちゃダメ』
「う、嘘じゃないわ。釣りとか、魚焼いたりとか、いろいろあるし」
『はいはい。かわいい猫ちゃんね』
「う、うっさいわ。ああもう……で、他の連中は?」
ニャンニャンが言うと、上空から巨大な岩石が落下……塔の真ん中に直撃した。
エクスパシオンもニャンニャンも驚かない。
落ちてきたのは、巨大な『鉄柱』を担いだ、岩石のような男だった。
「到着!! がっはっは、ワシが一番でごわすか!?」
『うむ、そのとーり!! さすがガイオウ!! って、もういるし!!』
「なぬぅ!?」
上半身裸、長さ五メートルほどの鉄柱を担いだ、スキンヘッドの男だった。だが、牙が生え、皮膚がざらざらと岩のようになっている。
冥府六将『金剛鎧武』ガイオウは、呪装備である『鉄柱』をズシンと置く。
「一番がよかった……」
「あっはっは。悪いね、オレが一番だった」
エクスパシオンが申し訳なさそうに謝る……だが。
「あの……」
「ん? おお、キヴァトじゃないか。いつ来たんだい?」
着物を着て、腰に刀を差した顔色の悪い男だった。
どこか申し訳なさそうにペコペコし、曖昧な微笑を浮かべる。
「その、ずっといました。拙者、影が薄くて……ははは」
「え、そうだったのかい? なんだ、話しかけてくれればよかったのに」
「は、はあ……」
冥府六将『夜刀噛』キヴァトは、腰にある刀を撫で、「影、薄いねえ……」と言う。刀である呪装備も「気にすんな」と、ボソボソ二人で喋っていた。
すると、雲が切れ、後光が差し始め……雲の切れ目から光を背負い、一人の女性が舞い降りた。
輝くようなローブを着て、両手を組み、背中から翼が生えていた。
女性はゆっくり舞い降りると、静かに両手を広げた。
「祈りましょう、魔神のために……」
「クシナダ、アンタ毎回毎回、うざったい」
ニャンニャンがバッサリと切った。
だがクシナダは気にせず、何度もうなずく。
「大丈夫。恐れることはありません……信じて祈りましょう」
冥府六将『夢桜』クシナダは、まるでニャンニャンの話を聞いていなかった。
そして最後、普通にロッククライミングをしながら、汗だくの青年が塔を登ってきた。
「ひぃ、ひぃ……いやあ、疲れる。この塔、高い」
「ああ、ペシュメルガ。キミで最後だよ」
「ふぅ~……そうかい」
冥府六将『天津甕星』ペシュメルガは、額の汗をハンカチで拭い、フードの中に入れていた本を大事そうに取り出し、咳払いをした。
「こほん、全員揃ったようだ。さてエクスパシオン……ボクたち『冥府六将』を招集した理由、聞かせておくれ」
まるで、この場を仕切るのが当たり前のように、ペシュメルガは厚底眼鏡をクイッと上げた。
エクスパシオンは、全員を見渡して言う。
「さて、オレがこうして『権限』を行使してまでキミたちを集めた理由。それは……人間界にある最後の呪装備についてだ」
ピィン……と、五人の気配が変わった。
エクスパシオンは笑う。
「はっはっは。ああ、そうだね。わかるわかる……魔界、人間界にある低級呪装備は全て、魔神様たちに捧げちゃったね。残りは、オレたち冥府六将の三大魔装者と、オレたちだけ……つまり、最後の一つは、オレたちの誰かが手に入れることになる」
「「「「「…………」」」」」
エクスパシオンは楽しそうだったが、残りの五人は無言だった。
「ははは、空気が重いねえ。まあそうだね、最後の一つを、オレたちの魔神様の誰かに捧げれば、その魔神様は復活する。最初に誰が復活するか……それはすごく重要だと思う」
「……まどろっこしい。エクスパシオン、アンタ……何が目的?」
ニャンニャンがジロっと睨む。
エクスパシオンは、ニャンニャンに向かって微笑み、再び全員を見て手を広げた。
「ゲームをしよう……オレたちの部下を一人ずつ人間界に送り、最後の呪装備を奪わせる。敵は超凶悪級呪装備、そして女神カジャクトの使徒が六人……さて、オレたちの部下の誰が、最後の呪装備を手に入れるのか」
「はあ? エクスパシオン……それ、マジで言ってんの?」
「ああ。ふふ、オレは快楽主義なんでね、楽しい方が好きなのさ。ああ……今回、オレは部下を一人失ったから不参加だ。参加するなら、呪装備の在処を教えるよ」
エクスパシオンは楽しそうだった。
自分が奪えばいいのに、そうしない。
むしろ、冥府六将に呪装備の在処を共有し、奪い合いにさせようとする。
「さあ、楽しいゲームを始めようじゃないか。なあ、みんな」
「「「「「…………」」」」」
五人は、エクスパシオンを見て思った。
何を考えているのか。
そして、このゲームに参加するしかないということに。
材質は不明。漆黒、入口がなく、窓もない。
登るには呪装備の力を使い、物理的に上るしかない。
名を『メルカバの塔』……いつ、どこで、誰が作ったのか不明な、傷を付けることも、破壊することもできない塔だった。
魔界は、六魔神に習い、六つの地域に分かれている。
そして、それぞれの地域を『冥府六将』が管理し、六人が集まる時はこの『メルカバの塔』に集まると、遥か昔から決まっていた。
現在、エクスパシオンは塔の最上層にいた。
のんびり待っていると、一人の少女が現れる。
「なーによもう、クソ忙しい時に呼びだしとか、マジ殺すし」
ツインテールの、十六歳ほどの少女だった。
魔族の特徴である白髪、赤目だが……なぜか頭にネコミミが生えており、腰から白い尻尾も伸び、不機嫌なのか細かく揺れていた。
エクスパシオンは苦笑する。
「ごめんごめん、ニャンニャン、すぐ終わるからさ」
冥府六将『天仙女』ニャンニャン。エクスパシオンと同じ、最強の魔人の一人。
首元で揺れるネックレスから声がした。
『ニャンニャン、クソ忙しいとか、嘘ついちゃダメ』
「う、嘘じゃないわ。釣りとか、魚焼いたりとか、いろいろあるし」
『はいはい。かわいい猫ちゃんね』
「う、うっさいわ。ああもう……で、他の連中は?」
ニャンニャンが言うと、上空から巨大な岩石が落下……塔の真ん中に直撃した。
エクスパシオンもニャンニャンも驚かない。
落ちてきたのは、巨大な『鉄柱』を担いだ、岩石のような男だった。
「到着!! がっはっは、ワシが一番でごわすか!?」
『うむ、そのとーり!! さすがガイオウ!! って、もういるし!!』
「なぬぅ!?」
上半身裸、長さ五メートルほどの鉄柱を担いだ、スキンヘッドの男だった。だが、牙が生え、皮膚がざらざらと岩のようになっている。
冥府六将『金剛鎧武』ガイオウは、呪装備である『鉄柱』をズシンと置く。
「一番がよかった……」
「あっはっは。悪いね、オレが一番だった」
エクスパシオンが申し訳なさそうに謝る……だが。
「あの……」
「ん? おお、キヴァトじゃないか。いつ来たんだい?」
着物を着て、腰に刀を差した顔色の悪い男だった。
どこか申し訳なさそうにペコペコし、曖昧な微笑を浮かべる。
「その、ずっといました。拙者、影が薄くて……ははは」
「え、そうだったのかい? なんだ、話しかけてくれればよかったのに」
「は、はあ……」
冥府六将『夜刀噛』キヴァトは、腰にある刀を撫で、「影、薄いねえ……」と言う。刀である呪装備も「気にすんな」と、ボソボソ二人で喋っていた。
すると、雲が切れ、後光が差し始め……雲の切れ目から光を背負い、一人の女性が舞い降りた。
輝くようなローブを着て、両手を組み、背中から翼が生えていた。
女性はゆっくり舞い降りると、静かに両手を広げた。
「祈りましょう、魔神のために……」
「クシナダ、アンタ毎回毎回、うざったい」
ニャンニャンがバッサリと切った。
だがクシナダは気にせず、何度もうなずく。
「大丈夫。恐れることはありません……信じて祈りましょう」
冥府六将『夢桜』クシナダは、まるでニャンニャンの話を聞いていなかった。
そして最後、普通にロッククライミングをしながら、汗だくの青年が塔を登ってきた。
「ひぃ、ひぃ……いやあ、疲れる。この塔、高い」
「ああ、ペシュメルガ。キミで最後だよ」
「ふぅ~……そうかい」
冥府六将『天津甕星』ペシュメルガは、額の汗をハンカチで拭い、フードの中に入れていた本を大事そうに取り出し、咳払いをした。
「こほん、全員揃ったようだ。さてエクスパシオン……ボクたち『冥府六将』を招集した理由、聞かせておくれ」
まるで、この場を仕切るのが当たり前のように、ペシュメルガは厚底眼鏡をクイッと上げた。
エクスパシオンは、全員を見渡して言う。
「さて、オレがこうして『権限』を行使してまでキミたちを集めた理由。それは……人間界にある最後の呪装備についてだ」
ピィン……と、五人の気配が変わった。
エクスパシオンは笑う。
「はっはっは。ああ、そうだね。わかるわかる……魔界、人間界にある低級呪装備は全て、魔神様たちに捧げちゃったね。残りは、オレたち冥府六将の三大魔装者と、オレたちだけ……つまり、最後の一つは、オレたちの誰かが手に入れることになる」
「「「「「…………」」」」」
エクスパシオンは楽しそうだったが、残りの五人は無言だった。
「ははは、空気が重いねえ。まあそうだね、最後の一つを、オレたちの魔神様の誰かに捧げれば、その魔神様は復活する。最初に誰が復活するか……それはすごく重要だと思う」
「……まどろっこしい。エクスパシオン、アンタ……何が目的?」
ニャンニャンがジロっと睨む。
エクスパシオンは、ニャンニャンに向かって微笑み、再び全員を見て手を広げた。
「ゲームをしよう……オレたちの部下を一人ずつ人間界に送り、最後の呪装備を奪わせる。敵は超凶悪級呪装備、そして女神カジャクトの使徒が六人……さて、オレたちの部下の誰が、最後の呪装備を手に入れるのか」
「はあ? エクスパシオン……それ、マジで言ってんの?」
「ああ。ふふ、オレは快楽主義なんでね、楽しい方が好きなのさ。ああ……今回、オレは部下を一人失ったから不参加だ。参加するなら、呪装備の在処を教えるよ」
エクスパシオンは楽しそうだった。
自分が奪えばいいのに、そうしない。
むしろ、冥府六将に呪装備の在処を共有し、奪い合いにさせようとする。
「さあ、楽しいゲームを始めようじゃないか。なあ、みんな」
「「「「「…………」」」」」
五人は、エクスパシオンを見て思った。
何を考えているのか。
そして、このゲームに参加するしかないということに。
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