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第三章

戦い、終わって

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(……う)
『よ、目ぇ醒めたか』
(ダンテ……俺、どうなった?)
『終わったぜ。とりあえず前見ろ前』

 ゆっくり目を開けて前を見ると、アクアがレイアースを抱え、何故かラクレスを睨んでいた。
 ラクレスは、自分が立っていること、そして傷が消えていることに気付く。

『怪我はオレ様が修復した。で、魔人もオレ様が倒して食ったぜ』
(……この状況は?)

 アクアは、どう見ても警戒、敵意を飛ばしていた。
 レイアースをゆっくり寝かせ、守るように前に立つ。
 まるで、子を守る母猫……そして、その敵はラクレス。

「レイアース!! アクア、大丈」
「近づくな!!」

 アクアは剣を構え、ボロボロの状態でラクレスに剣を向けた。

「女神の器って何? アンタ……何を隠している」
「……え」

 意味が解らなかった。
 すると、ダンテが言う。

『どうやら、そっちで戦っていた魔人に、なんか吹き込まれたみたいだな』
(お、おいおい……俺がその器とかいうのについて知ってるって? おいダンテ、どうするつもりだよ。これ……お前のせいだぞ)
『面倒くせぇなあ。まあ……しょうがねぇ』
(え、おい……)

 すると、ラクレスの声が外に出ず、代わりにダンテの声が聞こえた。

『女神の器について俺が知っている、そういうブラフだ。悪いが、俺もなんのことだかわからない』
「それで通じると思ってんの? 女神カジャクトの器? 敵は、あんたがそれを知ってるって言ってた……」
『お前は、敵の言うことをすんなり信じるのか? 俺は魔人……魔神、半魔神が女神の器を探していることを知っている。だから、その情報を逆手に取り、奴らをおびき寄せただけ。それに、もし器について知っているなら、とっくに団長に報告している』
「…………ちょっとは信用できると思ったけど、やっぱりアンタは危険ね。それに何? 急に感情消えたみたいな喋り方になって。もしかして、あんた……ダンテじゃないの?」
(……!!)
『……チッ』

 呪装備には意志がある。アクアはそのことをカトレア、アズロナを見て知っていた。
 なら、目の前にいるダンテも、呪装備と、魔人の意志があるのではないか。

(ダンテ、どうするんだ……もう無茶なごまかしは、黒騎士ダンテの立場を危うくするぞ!!)
『…………チッ』

 再び、ダンテは舌打ち。
 ラクレスは言う。

(全て話せとはもう言わない。でも、お前が抱えている秘密の一部だけでも話せ。そうしないと、これからずっとお前の立場、いや俺の立場も危うくなる!! 呪装備探しどころか、俺たちが消されるぞ!!)
『…………わーったよ』

 すると、レイアースがゆっくり身体を起こし、アクアの腕を掴んだ。

「アクア……やめてくれ」
「レイアース……」
「ダンテは、魔人を倒した。そこは、疑いようのない事実だ……敵じゃ、ない」
「……アンタって子は」

 アクアはため息を吐き、双剣を腰の鞘にしまう。
 そして、嫌そうに、警戒しながらラクレスに言った。

「手、貸しなさい。この子を町まで運ぶ……騎士団にも報告しなきゃだし、今は仲間と認めてあげる」
「ああ、感謝する」

 ラクレスは素直に礼を言い、頭を下げた。

「へんなやつ。さっきまで無感情な人形って感じの声だったのに、今は感謝の気持ちしか感じないわ」
「そ、そうか? とりあえず、レイアースは俺が運ぶよ」

 ラクレスは、レイアースをお姫様抱っこし、近くに待機させていた砂駄獣に乗せるのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 レイアースは、不思議な夢を見ていた。
 たくましい身体に抱かれる夢。鍛えぬかれた二の腕、温かな胸。そして、どこか懐かしい香り。
 心地よく、つい頬が緩んでしまう……そして思い出す。

「……ラクレス」

 まどろむ瞳で見上げると、成長した幼馴染が自分を抱っこしていた。
 その心地よさに涙が一筋流れ、ラクレスがそっと指で涙を掬う。

「───ラクレス」

 ラクレスは、小さく口を開けて驚き、柔らかく微笑んだ。
 そばにいる。
 死んでいなかった。ラクレスは、ここにいる。
 レイアースはそっと手を伸ばし、その頬に触れ……。

「あ、あの……レイアース」

 その頬が、無機質で黒い硬さを持つ兜だと気付き、ようやく目が覚めた。

「こほん。目を覚ましたか……もうすぐ部屋に到着するから、そのままでいいぞ」
「……え?」

 現在、レイアースは石造りの通路を、黒騎士ダンテに抱えられ移動していた。
 見覚えがある。ここは、クシャナ砂漠にあるオアシスの町。騎士団の詰所。
 自分の状況を理解し、レイアースは赤面して暴れ出した。

「なな、な!! なんで!?」
「お、落ち着け。お前は、瞬着に決戦技、さらに『女神軍勢』に覚醒して、その疲労で倒れたんだ。で、俺とアクアで町まで運んできたんだよ」
「そ、そそ、そうか。その、あ、歩け……」

 歩こうとしたが、身体に力が入らない。
 全身疲労。魔力が完全に空っぽだった。

「アクア曰く、決戦技に目覚めたばかりなのに、さらに次の解放である『女神軍勢』を無理やり使ったことで、限界以上に魔力を絞り出したのが原因らしい。徐々に回復はするだろうって」
「そ、そうか」

 部屋に到着し、ラクレスはレイアースをベッドへ寝かせる。
 そのまま休むように言い、部屋を出ようとした時だった。

「懐かしい夢を見た」
「……」
「幼馴染の……ラクレスの夢。私を抱きかかえ、困ったように微笑んでいるのが見えた」
「……そうか」
「……ダンテ。お前は……」

 ラクレスは、部屋を出た。
 そして、部屋から離れて立ち止まると、近くの壁に頭をごつんと打ち付けた。

『おい、ラクレス』
「……少しだけ、黙っててくれ」

 ラクレスも、聞いていた。
 レイアースが小さな声で、嬉しそうに……「ラクレス」と呟いたことを。
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