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第三章

『鎌』の魔人ヴァルケンと『壺』の魔人カトレア

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 砂漠にある小さな岩石地帯の岩陰に、二人の魔人がいた。
 白い髪、赤い瞳、病的なまでに白い肌を持つ男女。年齢は互いに二十代になるかならないか。
 特徴的なのは、アルビノのような風貌だけではない。二人の顔にはそれぞれ、蛇のような刺青があった。
 青年……ヴァルケンは、欠伸をしながら岩に寄りかかる。

「ったく、カス装備のくせに面倒くせぇ砂嵐なんか起こしやがって……おいカトレア」
「うるさいわね。私の『壺』でも限界はあるのよ」

 現在、二人は砂嵐のほぼ中心にいた。
 砂漠にある呪装備の回収に来たのだが。

「これ、邪悪級か凶悪級だよな? クケケ、オレらで食っちまうか?」
「大馬鹿。凶悪級だったら、エクスパシオン様に献上……それがルールでしょ。それに『蛇』が見てる以上、変なことしたら殺されるわよ」
「わーってるよ。くそ、忌々しい」

 ヴァルケンは、自分の顔にある蛇の刺青を指でなぞる。
 魔人の最高戦力『冥府六将』にはそれぞれ、三人の部下がいる。
 ヴァルケン、カトレアは『罪滅』のエクスパシオンという六将の部下。今はここにいないが、蛇という魔人が見張っていた。
 ヴァルケンは言う。

「にしても……ヘンな野郎だったな」
「何が?」
「あの鎧野郎だよ。全身鎧……なんだっけ? 『暗黒鎧』のダンテだっけ?」
「そうね。それがなに?」
「魔人のクセに、人間界で、人間の味方してるんだぜ? 人間も人間だ。なんであんなオレらですら知らねぇ呪装備の魔人がいるんだ?」
「……確かに、妙ね。見た感じ凶悪級……ううん、凶悪級寄りの極凶悪級ってところかしら。なぜあれほどの呪装備が人間界に……冥府六将の誰も気付いていないのかしら」
「魔界にある呪装備は狩り尽くして、あとは人間界にあるクソ雑魚呪装備だけだもんな。久しぶりにそこそこの強さを感じて出向いてみれば、意味不明な黒鎧野郎が破壊、んで食っちまったときたもんだ」
「…………」

 現在、カトレアの手には『壺』があり、周囲の砂を吸い込んでいた。
 カトレアの呪装備、半魔神である『紺玄金斗』アズロナである。
 カトレアは壺に話しかける。

「アズロナ。あのダンテとかいう呪装備のこと、何か知ってる?」
『さあ。言っておくけど、半魔神の名前なんていちいち覚えてないから』

 壺からは女の声。
 ヴァルケンは「はっ」と鼻で笑い、岩壁に立てかけてある『鎌』に言う。

「まあ、どうでもいい。なあマンティス。何であろうとブチ斬ればいいよなあ?」
『応よ。楽しい狩りまでもう少し……キキキ、楽しみだぜ』

 ヴァルケンの呪装備、『次元蟷螂』マンティスは甲高い声で鳴いた。
 半魔神の意思。これこそ、呪装備のあるべき姿。
 魔人が手にすることで最大の進化を発揮する、魔人専用の武具。

「………」
「ん、どうしたカトレア。まだ気にしてんのか?」
「気になること、あるでしょ……あの鎧が言った『器』のこと」

 『器』。
 その言葉が出た時、ヴァルケンとカトレアは黙りこむ。
 二人は、静かに怒りを募らせていた。

「あの鎧野郎、殺す前に聞くことあるな。いや……生け捕りにして拷問か?」
「魔界に連れ帰って、エクスパシオン様に直接やってもらうしかないわね。それに『蛇』もいるし……あいつの拷問、凄惨だからね」
「ああ。オレら魔人が長年探している『器』……あの鎧野郎、どこで知りやがった。『器』の情報は冥府六将とその直属の魔装者しか知らねぇはず」
「……もしかして、冥府六将の三魔装者の誰かが、あの鎧なのかもね」
「おいおいおい、じゃあ、エクスパシオン様以外の五将の誰かの部下ってことか?」
「まあ、聞けばわかるわ。恐らくだけど、あの鎧もこの砂漠にある呪装備を狙ってる。初見で私とアンタに勝てないってのは理解できたはずだし、強くなるためには呪装備を喰らうしかないからね」
「クケケ、そこを迎え撃つ、ってか? でもよ、女神の神器も来るんじゃねぇか? さすがに城でドンパチやるわけにはいかなかったけどな」

 カトレアは、壺をお手玉のように弄び笑う。

「問題ないでしょ。今の六神器でヤバイのは、『炎』と『雷』くらい。他の四人は大した解放もできないわ……来ても、簡単に殺せる」
「ま、確かにな。クケケ……なあ、今のうちに決めないか?」
「何を?」
「オレ、お前、どっちが鎧野郎とヤるかだよ。タイマンで遊ぶ方が楽しいぜ」
「……アンタに譲る。私は神器の方でいいわ」
「あ? なんだ、弱腰じゃねぇか。なあマンティス」
『キキキ、どうでもいい。オレぁ斬れればなあ』

 ヴァルケンは鎌を弄ぶ。するとカトレアは言う。

「あんた、知ってるでしょ? 私は男より……女を相手にする方が残酷になれるのよ」
「ほほ、そういやそうだったなあ」

 カトレアは、冷たくゆがんだ笑みを見せ、ヴァルケンはブルっと震える真似をして笑い出すのだった。
 そして、砂嵐が少しずつ収まり始め……カトレア、ヴァルケンは同時に明後日の方向を見た。

「……来やがったな」
「ええ。あーもう、向こうのが早く接触するんじゃない? 砂嵐の呪装備」
「まあいいじゃん。あれを喰らったところで、オレよか強くなるわけじゃねぇ。むしろ、少しは楽しい戦いになるかもなあ?」
「じゃあ……待つ?」
「ああ。戦い終わるまで、の~んびり行こうぜ」

 カトレア、ヴァルケンの二人は、弱まった砂嵐の中を、のんびり歩いて進むのだった。
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