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第三章

オアシスの町

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 ラクレス、レイアース、アクアの三人は、数日かけてオアシスの町に到着した。
 道中、野宿がなかったことは幸いだった。
 アクアは「野宿とか絶対ヤダし」と言い、地図を確認しながら村や町を経由して走った。半日しか走らないこともあれば、朝から晩まで馬を走らせっぱなしだったこともあった。
 そして、レイアース。

「……ようやく到着か」
「そうね。あー疲れた」
「お前のわがままに付き合う方が疲れたぞ。全く……予定では五日の距離なのに、お前のわがままのせいで七日もかかった」
「うっさいわね。到着したんだからいいじゃん」

 レイアース、アクアの関係は険悪そのものだった。
 女同士、仲良く。自分はまたハブられるかな……とラクレスが思ったのも束の間。レイアースとアクアが事あるごとに衝突し、その緩衝材としてラクレスは奔走した。
 アクアの機嫌が悪ければ話を聞き、アクアに付きっ切りだとレイアースが不機嫌になるのでレイアースの話を聞き……と、気が休まらない。
 呪装備云々より、二人の間に入ることで、ラクレスは疲労していた。

『ケケケ、オマエ、女の尻に敷かれるか、振り回されるのが似合ってるぜ』
(……なぜだろう、否定できない)

 ぐったりするラクレス。
 すると、前を進むレイアース、アクアが同時に振り返った。

「「ダンテ!!」」
「えっ、あ、ああ、はい」
「宿に到着したらマッサージ呼んで~、毎日馬に乗ってるせいか身体凝ってるわ~」
「まだ日が高い。宿を取ったら情報収集するぞ」

 異なる意見。レイアース、アクアは無言で睨み合うのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

「はぁぁ~……」

 ラクレスは一人、町に出て情報収集することにした。
 
『ケケケ、考えたなあ。マッサージを二人分頼むなんてな』
「今は一人になりたいよ……ほんっとうに疲れた。もし、今この瞬間魔人が襲ってきたら間違いなく負けると思う……」

 とぼとぼ歩き、ようやくラクレスは周囲からの視線に気づいた。

「……なんだか見られてるな」
『オマエ、気付いてないのか?』
「え?」
『いや……ここ、砂漠のど真ん中だぞ。周り見ろよ、みんな日焼けしてるし、けっこうな薄着だぜ? オマエみたいな全身黒の鎧着たヤツなんて、目立つに決まってんだろうが』
「…………」

 今更言われ、ラクレスは急激に羞恥心が出てきた。
 そもそも、全身鎧なのに暑さをあまり感じない。

『ケケケ。オレ様を舐めんなよ? 暑さ、寒さを一定に保つくらい朝飯前だ』
「お前を着て一番嬉しい報告かもな……」

 周りを見て、ようやく町の景観に目が映る。
 砂漠。地面は踏み固められ歩きやすい。建物はレンガのような石造りで、木々も南国系なのか葉っぱが少なく、水分を多く貯めているのか幹も緑色、しかも棘だらけだ。
 町の中央には大オアシスがあり、この町の命にして、一番の観光地なのか人が多い。

「ここはソラシル王国領土だから、七曜騎士の名前も通じるはず。とりあえず……情報を集めるために、この町の騎士駐屯地に行くか」
『ケケケ……はてさて、七曜騎士『闇』は、どういう扱いを受けるのかねぇ』

 ラクレスは、この町にある騎士駐屯地に向かうのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 騎士の詰所、そして兵士の駐屯所に到着すると……正門前にいた兵士が槍を向けた。

「貴様、何者だ!!」
「トラビア王国七曜騎士『闇』のダンテだ。王命により参上した」
「し、七曜騎士……闇!? まさか、魔人の……」
「……そうだ」

 ラクレスは自身は魔人ではないが、そういう設定なので仕方なく頷く。
 すると、兵士はやや渋い顔をして敬礼する。

「して、七曜騎士様は何か御用でしょうか……?」
「この砂漠地帯に、呪装備が発見されたと聞いた。ここの責任者である騎士はいるか?」
「……現在、その呪装備についての対策会議中です」
「なら、案内してくれ」
「……かしこまりました」

 どう見ても、歓迎ムードではなかった。
 やはり『魔人』という肩書だけで警戒されるのかと、ラクレスは内心でため息を吐く。
 騎士の詰所は、二階建てで立派な作りをしていた。
 二階に向かい、兵士がドアをノックする。

「失礼いたします。七曜騎士『闇』のダンテ様がお見えです!!」
『……入れ』
(女性の声……)

 ドアを開け、中に入ると……騎士が五人、兵士が十人ほどいた。
 大きなテーブルを囲い、上には地図が何枚もあり、マークが記されている。
 ラクレスが中に入ると、視線が集中した。
 騎士、兵士も暑いのか鎧を脱ぎ、シャツの裾をまくっている。だが、一人だけ鎧、剣を装備したままの女性騎士がいた。

「七曜騎士『闇』……全員、敬礼!!」

 女性が言うと、ぞの場にいた全員が統一された動きで敬礼。
 ラクレスは一瞬驚いたが、騎士の敬礼を返す。
 女性騎士が前に出て頭を下げた。

「私は、クシャナ砂漠地域担当の聖騎士、アドゥリンと申します」

 アドゥリン。
 年齢は四十代ほどだろうか。顔にしわが刻まれ、片目を髪で隠した女性騎士だ。
 頭を下げて髪が動いたので見えた……髪で顔を隠す理由は、片目がつぶれ酷い傷になっていたからだった。
 ラクレスは魔人という認識だが、七曜騎士『闇』で立場は上だ。
 なので、アドゥリンがいた場所に移動し、全員に言う。

「この会議の様子を見るに、呪装備については知っているようだ。現在、俺の他にあと二人、七曜騎士が来ている。呪装備のある場所を押してくれ、破壊に向かう」

 そう言うと、騎士や兵士たちは「七曜騎士が三人も」や「安心できる」と、笑顔になっていた。

『ケケケ、お前じゃなくて、あと二人いる七曜騎士を頼りにしてるって感じだぜ』
(うるさいな……どうせ俺は新人の、得体の知れない魔人の騎士ですよ)

 やや拗ねるラクレス。軽く咳払いし、アドゥリンに言う。

「呪装備について、説明をしてくれ」
「かしこまりました」

 砂漠で発見された呪装備は『鉤爪』だ。
 クシャナ砂漠中央にある岩石地帯で砂嵐が発生し、その砂嵐が収まった時に岩が崩れ、祭壇のような場所が発見された。その祭壇は破壊されており、近くの石柱に鉤爪が刺さっていたそうだ。

「呪装備が発見された時、我々騎士が回収に向かいましたが……まるで、我々を近づけまいとするように砂嵐が発生して、近づくことができないのです。先ほどまで、どうやって砂嵐をかいくぐって呪装備に近づくか、対策会議をしていました」
「なるほど……砂嵐」
「それと……一つ、気になることが」

 アドゥリンは、言いづらいのか言葉を斬る。

「恐らく、呪装備はすでに装着者が存在するかと」
「……何?」
「その、最後に確認した時に見たのです。石柱の上に立つ、巨大な獅子……」
「し、獅子? 人間じゃなくて?」
「はい……見間違いだったのか不明ですが」

 獅子。ラクレスは首を傾げそうになり、ダンテに聞いた。

(な、なあ……呪装備って、人間じゃなくてもいいのか?)
『命があるモン、んで体格が良ければ装備できる。獅子が鉤爪を付けて、呪装備の意思が肉体を乗っ取ることも不可能じゃねぇ。まあ、オレはやらんけどね』
(なんで?)
『魔力だ。動物は魔力こそあるが、属性がねぇから魔法を使えねぇんだ。ただ魔力のある生物を呪装者になんかしねぇよ』
「……なるほど」

 ラクレスはしばし考え込む。すると、他の騎士や兵士たちがラクレスを見てソワソワしていた。
 そして、アドゥリンがため息を吐き、代弁する。

「ラクレス殿、一つ聞いても?」
「ん? ああ」
「同行してきた七曜騎士はどなたですか?」
「『水』と『光』だが……」

 そう言うと、「おお、アクア様か!!」や「レイアース様!!」と、やや浮ついた声がした。
 アドゥリンは言う。

「ところで、お二方は?」
「あ~……」

 喧嘩ばかりするので、宿屋の同じ部屋でマッサージ受けてます……なんて言えば、呪装備でゴタゴタしている騎士、兵士たちを怒らせる気がした。

「その、夜通し馬を走らせてきたのでかなり疲労している。今は宿で休んでいる」

 とりあえず、ラクレスは無難な答えをした。 
 やはり、嘘は好きではないし、二人にはとことん疲労感を与えられるラクレスであった。
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