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第三章

南へ向かって

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 一度解散し、二時間後に集合……そのまま出発となった。
 ラクレスは屋敷に戻り、旅支度を進める。

「戻ってきてすぐに、まさか今度は砂漠に行くことになるなんてな……」
『ケケケ。手っ取り早く戦いができていいじゃねぇか。呪装備を喰らうチャンス、逃すんじゃねぇぞ』
「……おい、ダンテ」
『あん?』
「……『器』って何だ?」

 それは、ダンテが言い、ラクレスに言わせた言葉。
 その言葉を聞いて、カトレアもヴァルケンも顔色を変えた。
 予想はしていたが、ダンテは答えた。

『オマエが知る必要ねーよ』
「言うと思った。でもダンテ、これだけは言っておく」
『あん?』
「……あまり隠し事されると、俺も信用できない場合がある。確かに俺は、お前の助力がないと数分で死ぬし、戦うこともできない。でも……いつか俺が自由になった時、俺の力をお前が使えなくなるかもな」
『ほぉ……オレ様を脅すのか?』
「脅しじゃない。隠し事はしてもいいけど、限度があるってことだ」

 荷物を胸に押し当てると、暗黒鎧が吸収する。
 それから数分、ダンテとラクレスは無言……だが、ダンテが折れた。

『器ってのは、魔人……いや、魔神にとって重要なモンだ。六魔神はそいつを探している。だから、ハッタリで言ったのさ』
「……六魔神。魔人が崇拝する神様か……その器とやらを欲しているのか」
『そうだ。それだけ知っておけ。あとは……まだ、言えない』
「……わかったよ。そこまで話してくれただけで、信用してくれたってことだ」
『ケッ、調子のいいヤツ』

 準備を終え、ラクレスは屋敷を出て集合場所へ向かうのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 待ち合わせ場所は、王都の南門。
 待っていると、レイアースが来た。

「早いな、ダンテ」
「大した物がないからな。そういうお前も」

 レイアースは、カバン一つだけだった。
 着替えなどの最低限必要な物だけ。これから南門にある兵士の詰所で馬を借り、そのまま今日中に行けるところまで駆ける予定だ。
 急ぎ、南にある呪装備を確認。もし凶悪級以上なら魔人たちが狙うだろうし、そうでなくてもラクレスが魔人に狙われる。呪装備を喰らい力を付ければ、ヴァルケンとカトレアの相手ができる。
 それに、レイアースもいる。

「はやっ……なにあんたら、準備早くない?」

 一応……アクアもいる。
 アクアは、大きなカバンを二つも持っていた。
 レイアースが眉を潜める。

「……なんだ、その大荷物は」
「着替えに、化粧品よ。乙女の身だしなみを整える最低限の道具じゃない!! ってかアンタ……え、それだけ? 黒騎士野郎は手ぶら?」
「着替えが数日分あればいい。道中、川で洗えるだろうし、化粧など必要ない。せいぜい、櫛が一つあればいいだろう」
「馬鹿? 身だしなみは騎士として最低限の用意よ? レイアース、アンタ極上の美少女なのに、お化粧とかしないの? きれーな髪の毛とか、どうお手入れしてんのよ」
「ご、極上って……その、とくには。髪を梳くくらいで」
「はああああああ!? アンタ、お手入れしないでその髪、その肌!? なにそれあり得ないんですけど!!」

 アクアはレイアースに接近し、髪を手に取り頬に手を伸ばす。
 レイアースは、『極上の美少女』と言われ照れているのか、されるがままだった。
 その様子を見たラクレスは思う。

(あれ……仲悪いんじゃ?)
『じゃれてんだろ。あのアクアとかいうお嬢ちゃん、意外といいヤツかもなあ?』
(うーん、そうなのかな。まあ、喧嘩しないならいいけど)

 すると、レイアースがアクアから離れた。

「と、とにかく!! 用意はできたんだな? ダンテ、アクア、出発するぞ!!」

 逃げるようにレイアースは兵士の詰所へ行き、馬を三頭借りてきた。
 三人は馬に乗り、南に向かって駆けだすのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 馬車で走ること半日、日が傾き始めた頃、小さな町に到着した。
 ラクレスは、遠征などで何度か来たことがある町だった。小さいが宿が何軒かあり、酒場や飲食店が多くある町だ。南に向かう最初の町として栄えているのだろう。
 ラクレスは二人に言う。

「宿を取り、今後の説明をする。こっちだ」
「あらアンタ、来たことあるの?」
「ああ、知っている」

 ラクレスは、町で一番大きな宿へ。
 部屋を三つ取り、二人に鍵を渡した。
 そして、すぐにラクレスの部屋に来るように言うと、レイアースとアクアは部屋に来た。

「さっそく、今後の予定を説明する」
「はいはい。アタシとレイアースはアンタに従いますよーっと」
「真面目に聞け、アクア」

 レイアースが怒るが、アクアは欠伸をして誤魔化した。
 ラクレスは咳払いする。

「まず、俺たちの最終的な目標は、二人の魔人を討伐することだ。そして……恐らく、魔人は俺を狙って来るはず」
(だよな、ダンテ)
『ああ。あいつらにとって器の情報は無視できねぇはずだ。確実に来る』

 すると、アクアが挙手。

「国内でドンパチするわけにいかないし、ここでアンタをエサに、魔人をおびき寄せる?」
「アクア……町中でやるとでもいうのか?」
「冗談。あはは」

 レイアースに睨まれるが、アクアは笑うだけ。
 ラクレスは続ける。

「俺たちは、南にある呪装備の破壊任務を行う。道中、魔人が襲って来るなら俺たちで迎え討つ。来なかったら呪装備を破壊する……呪装備を破壊すれば、俺の呪装備の力が増すから、結果的に戦力増強にはなる」
「それって、アンタが強くなるってことよね……そうやって力を集めて、最後はどうする気かしらね」
「アクア、貴様……さっきからうるさいぞ。少しは黙ってろ」
「はいはい、気になったことは口に出ちゃうんでねー」

 ふと、ラクレスは思った。
 呪装備を破壊することは、ラクレスの命を補填するのが目的だ。
 だが、結果的にダンテの強化にもつながる。
 最終的に、ラクレスが鎧を脱げるまで呪装備を破壊すれば……ダンテはどこまで強くなるのか? そして、そこまで強くなったダンテの目的とは? 
 そしてさらに、『器』という何か。

「…………」
「ダンテ、どうした?」
「あ、いや……なんでもない。とにかく、エリオの情報通り、南のクシャナ砂漠へ向かう。確か……砂漠の入口にオアシスの町があったはず、そこで呪装備に関する情報を集めよう」
「わかった」
「は~い。砂漠かあ……日焼けしちゃうわ」

 こうして、ラクレスたち三人は砂漠へ向かうことになるのだった。

『…………』

 ダンテは、何も言わなかった。
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