呪われ黒騎士の英雄譚 ~脱げない鎧で救国の英雄になります~

さとう

文字の大きさ
上 下
35 / 53
第三章

南へ向かって

しおりを挟む
 一度解散し、二時間後に集合……そのまま出発となった。
 ラクレスは屋敷に戻り、旅支度を進める。

「戻ってきてすぐに、まさか今度は砂漠に行くことになるなんてな……」
『ケケケ。手っ取り早く戦いができていいじゃねぇか。呪装備を喰らうチャンス、逃すんじゃねぇぞ』
「……おい、ダンテ」
『あん?』
「……『器』って何だ?」

 それは、ダンテが言い、ラクレスに言わせた言葉。
 その言葉を聞いて、カトレアもヴァルケンも顔色を変えた。
 予想はしていたが、ダンテは答えた。

『オマエが知る必要ねーよ』
「言うと思った。でもダンテ、これだけは言っておく」
『あん?』
「……あまり隠し事されると、俺も信用できない場合がある。確かに俺は、お前の助力がないと数分で死ぬし、戦うこともできない。でも……いつか俺が自由になった時、俺の力をお前が使えなくなるかもな」
『ほぉ……オレ様を脅すのか?』
「脅しじゃない。隠し事はしてもいいけど、限度があるってことだ」

 荷物を胸に押し当てると、暗黒鎧が吸収する。
 それから数分、ダンテとラクレスは無言……だが、ダンテが折れた。

『器ってのは、魔人……いや、魔神にとって重要なモンだ。六魔神はそいつを探している。だから、ハッタリで言ったのさ』
「……六魔神。魔人が崇拝する神様か……その器とやらを欲しているのか」
『そうだ。それだけ知っておけ。あとは……まだ、言えない』
「……わかったよ。そこまで話してくれただけで、信用してくれたってことだ」
『ケッ、調子のいいヤツ』

 準備を終え、ラクレスは屋敷を出て集合場所へ向かうのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 待ち合わせ場所は、王都の南門。
 待っていると、レイアースが来た。

「早いな、ダンテ」
「大した物がないからな。そういうお前も」

 レイアースは、カバン一つだけだった。
 着替えなどの最低限必要な物だけ。これから南門にある兵士の詰所で馬を借り、そのまま今日中に行けるところまで駆ける予定だ。
 急ぎ、南にある呪装備を確認。もし凶悪級以上なら魔人たちが狙うだろうし、そうでなくてもラクレスが魔人に狙われる。呪装備を喰らい力を付ければ、ヴァルケンとカトレアの相手ができる。
 それに、レイアースもいる。

「はやっ……なにあんたら、準備早くない?」

 一応……アクアもいる。
 アクアは、大きなカバンを二つも持っていた。
 レイアースが眉を潜める。

「……なんだ、その大荷物は」
「着替えに、化粧品よ。乙女の身だしなみを整える最低限の道具じゃない!! ってかアンタ……え、それだけ? 黒騎士野郎は手ぶら?」
「着替えが数日分あればいい。道中、川で洗えるだろうし、化粧など必要ない。せいぜい、櫛が一つあればいいだろう」
「馬鹿? 身だしなみは騎士として最低限の用意よ? レイアース、アンタ極上の美少女なのに、お化粧とかしないの? きれーな髪の毛とか、どうお手入れしてんのよ」
「ご、極上って……その、とくには。髪を梳くくらいで」
「はああああああ!? アンタ、お手入れしないでその髪、その肌!? なにそれあり得ないんですけど!!」

 アクアはレイアースに接近し、髪を手に取り頬に手を伸ばす。
 レイアースは、『極上の美少女』と言われ照れているのか、されるがままだった。
 その様子を見たラクレスは思う。

(あれ……仲悪いんじゃ?)
『じゃれてんだろ。あのアクアとかいうお嬢ちゃん、意外といいヤツかもなあ?』
(うーん、そうなのかな。まあ、喧嘩しないならいいけど)

 すると、レイアースがアクアから離れた。

「と、とにかく!! 用意はできたんだな? ダンテ、アクア、出発するぞ!!」

 逃げるようにレイアースは兵士の詰所へ行き、馬を三頭借りてきた。
 三人は馬に乗り、南に向かって駆けだすのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 馬車で走ること半日、日が傾き始めた頃、小さな町に到着した。
 ラクレスは、遠征などで何度か来たことがある町だった。小さいが宿が何軒かあり、酒場や飲食店が多くある町だ。南に向かう最初の町として栄えているのだろう。
 ラクレスは二人に言う。

「宿を取り、今後の説明をする。こっちだ」
「あらアンタ、来たことあるの?」
「ああ、知っている」

 ラクレスは、町で一番大きな宿へ。
 部屋を三つ取り、二人に鍵を渡した。
 そして、すぐにラクレスの部屋に来るように言うと、レイアースとアクアは部屋に来た。

「さっそく、今後の予定を説明する」
「はいはい。アタシとレイアースはアンタに従いますよーっと」
「真面目に聞け、アクア」

 レイアースが怒るが、アクアは欠伸をして誤魔化した。
 ラクレスは咳払いする。

「まず、俺たちの最終的な目標は、二人の魔人を討伐することだ。そして……恐らく、魔人は俺を狙って来るはず」
(だよな、ダンテ)
『ああ。あいつらにとって器の情報は無視できねぇはずだ。確実に来る』

 すると、アクアが挙手。

「国内でドンパチするわけにいかないし、ここでアンタをエサに、魔人をおびき寄せる?」
「アクア……町中でやるとでもいうのか?」
「冗談。あはは」

 レイアースに睨まれるが、アクアは笑うだけ。
 ラクレスは続ける。

「俺たちは、南にある呪装備の破壊任務を行う。道中、魔人が襲って来るなら俺たちで迎え討つ。来なかったら呪装備を破壊する……呪装備を破壊すれば、俺の呪装備の力が増すから、結果的に戦力増強にはなる」
「それって、アンタが強くなるってことよね……そうやって力を集めて、最後はどうする気かしらね」
「アクア、貴様……さっきからうるさいぞ。少しは黙ってろ」
「はいはい、気になったことは口に出ちゃうんでねー」

 ふと、ラクレスは思った。
 呪装備を破壊することは、ラクレスの命を補填するのが目的だ。
 だが、結果的にダンテの強化にもつながる。
 最終的に、ラクレスが鎧を脱げるまで呪装備を破壊すれば……ダンテはどこまで強くなるのか? そして、そこまで強くなったダンテの目的とは? 
 そしてさらに、『器』という何か。

「…………」
「ダンテ、どうした?」
「あ、いや……なんでもない。とにかく、エリオの情報通り、南のクシャナ砂漠へ向かう。確か……砂漠の入口にオアシスの町があったはず、そこで呪装備に関する情報を集めよう」
「わかった」
「は~い。砂漠かあ……日焼けしちゃうわ」

 こうして、ラクレスたち三人は砂漠へ向かうことになるのだった。

『…………』

 ダンテは、何も言わなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

貞操逆転世界の男教師

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が世界初の男性教師として働く話。

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

処理中です...