呪われ黒騎士の英雄譚 ~脱げない鎧で救国の英雄になります~

さとう

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第二章

呪装備の使い手

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 残務処理にウルフギャングを置き、ラクレス、クリス、レイアースの三人は馬車でソラシル王国まで帰還した。
 帰りは急がずに進み、やや微妙な空気での帰還となった。
 馬車内……レイアース、ラクレスは喋ることなく、狭い馬車の中で向かい合っている。
 そんな二人を、クリスがチラチラ見ていた。
 
「あの、ダンテ様、レイアース様……何かありました?」
「い、いや別に……」
「ああ。特にない。それよりクリス……ダンテの専属騎士になるというのは本当か?」
「はい!! ダンテ様、専属騎士がまだいないようですしね」
「あ、ああ……まあ、よろしく頼むよ」

 ラクレスは諦めた。どのみち、専属騎士は必要となるので受け入れることにした。
 そして、クリスは続ける。

「ふふふん。では騎士としてじゃなく王族として……ダンテ、レイアース、今はいないけどウルフギャングも。呪装備を止めた褒美はきちんと出すので、期待しているようにね」

 クリスは悪戯っぽく微笑んだ。

 ◇◇◇◇◇◇

 ソラシル王国に帰還、ラクレスとレイアースはそのまま王に謁見する。
 謁見の間にて、国王ハイゼンベルクと謁見。クリスはいつの間にか着替え、王の隣にいた。
 ハイゼンベルクは笑って言う。

「はっはっは!! 聞いたぞ、呪装備の破壊だけではなく、二人が女神の神器を《神化》させたとな!!」
「……!! 恐れながら陛下、女神の神器に《先》があることを御存じで……!?」

 驚くレイアースに、ハイゼンベルクは頷く。

「うむ。これで全員、神器を覚醒させたことになるな。はっはっは!!」
「ぜ、全員……つまり、私とウルフギャング殿以外は」
「うむ。全員、覚醒しておる」
「な……」
(……まさか)

 ラクレスは、この呪装備破壊の任務にレイアースを同行させたこと、そしてウルフギャングが部下を同行させる許可を出さなかったことが、まだ神器を覚醒させていない二人に、覚醒させる機会を与えるためではないかと思った。
 すると、ハイゼンベルクは頷く。

「黒騎士ダンテよ。何か言いたいことがあるようだな」
「っ!!」

 心臓が飛び跳ねるかと思った。
 思ったことを見透かされたような、だがラクレスは首を振る。

「い、いえ……特に何も」
「そうか!! さてレイアース、神器を覚醒させたと言っても、外殻を纏う《瞬着》を覚醒させたにすぎん!! だが、女神の神器の蓋は開いた……あとは修行し、さらなる覚醒を目指せ!!」
「は、ははぁ!!」
「そして、黒騎士ダンテよ!!」
「はっ!!」
「汝は女神の神器を持たぬ。だが、その身に纏う呪装備は、女神の神器に匹敵する強さを持つとワシは睨んでいる。凶悪級、いや極凶悪級の呪装備……その力を使い、七曜騎士として戦うのだ!!」
「ははぁっ!!」
「うむ。では、此度の褒美を授けよう。それぞれ二人には金貨樽を十、渡そう」
(ブッ……マジか!?)

 金貨樽。その名の通り、樽一杯に詰め込まれた金貨だ。
 それが十個……ラクレスには考えもつかない金額である。

「そしてダンテ!! 汝に領地を授ける……と、言いたいが、魔人である汝に土地をやると、あちこちからやかましい声が聞こえてくる。なので、クリスが持つ領地の一つを、クリスの名義で汝に与えよう」
「あ……ありがたき、幸せ」

 それは自分の両地なのか……? と、ラクレスは疑問だった。
 正直、領地など必要ない。そんなこと言えるわけもない。
 
「クリス。ダンテの専属騎士として、いろいろ助けるように」
「はい、お任せください、お父様」
「うむ。さて、二人とも……何か望みはあるか?」
『チャンスだ、ラクレス』
(ああ、言ってみる)

 ラクレスは言う。

「陛下、一つお願いがございます」
「ふむ、申してみよ」
「ソラシル王国内外で呪装備が発見された場合、優先的に私を派遣していただきたい。それが例え、他の七曜騎士が管理する領地でも……」
「ほう。その理由は?」
(おいダンテ、どこまで言っていいんだ?)
『まあ、強くなれるくらいでいい』
「呪装備を破壊すると、私の呪装備はその呪いを強化……つまり、私の鎧が強化されるのです。女神の神器が覚醒して強くなるように、私の鎧は呪装備で強くなる」
「ほほう、それは面白い。いいだろう、呪装備の破壊案件があれば、汝を優先する」
「ありがたき幸せ」

 自然に言えた。
 ラクレスは、仮面の下で微笑んだ……すると。

「陛下。私からも望みが」
「うむ、申してみよ」
「ダンテ殿が呪装備の破壊で派遣されるとき、私も同行の許可を」
(はい!?)

 思わず声が出そうになったラクレスは、ついついレイアースを凝視する。

「私は、七曜騎士の中で圧倒的に実力不足……今回、呪装備の破壊を経験し、私は強くなれました。更なる強さを得るためには、ダンテ殿と共に戦うべきかと」
「はっはっは!! 面白い……いいだろう」
「ありがたき幸せ」
(な、な……い、いいのか、ダンテ)
『……ケッ』

 こうして、ラクレスは国王陛下からの『褒美』をもらうのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 部屋に戻り、ラクレスはベッドにダイブした。
 久しぶりの自室……いや、自宅である。
 遠慮することなくラクレスは言う。

「レイアース、絶対に気付いて……いや、怪しんでるな」
『ああ。めんどくせぇな……確信まではいかねぇが、ダンテの正体がラクレスか、ラクレスに関する何かだと思ってやがるな。じゃなきゃ、あんなセリフ言わねぇぞ』
「でも……呪装備の破壊はやりやすくなった。呪装備の情報が入れば、俺が動くことになる」
『レイアースのお嬢ちゃんも一緒に、な』

 そう言われ、ラクレスはもう何度目かわからない質問をした。

「……なあ、本当にダメなのか? レイアースに伝えるの」
『ダメだ』
「理由は」
『くどい』
「……」
『……今は言えねえっつってんだろ。納得しろ。お前がラクレスって気取られるな。いいな』
「……わかったよ。何だかんだで、俺はお前と一緒じゃないと死ぬし、お前の力がないと七曜騎士としてレイアースの傍にいれない。納得はできないけどな」
『それでいい』

 そう言い、ベッドから起き上がった時だった。

「へえ、全身鎧か。こりゃまた珍しいねぇ」
「───っ!?」

 ラクレスの自室に、誰かがいた。
 振り返ると、そこにいたのは……白い髪、赤い瞳、病的なまでに白い肌を持つ青年、そして少女だった。
 ラクレスは、瞬時に警戒できなかった。
 何者なのか。敵。似たような黒いローブ。紋章の入ったローブ。青年の手には大鎌、少女の腰には剣……思考が巡る。
 するとダンテが舌打ちした。

『チッ……魔人か』
「ま、魔人……!?」
「お、知ってんのか。もう長らく人間界に魔人は来てねぇんだけど。なあ、カトレアちゃん」
「うるさいです。そんなことより、任務を優先するです。ヴァルケン」
「へいへい」

 大鎌の男はヴァルケン、少女の方はカトレア。
 魔人。なぜ、ここに。

「な、なぜここに魔人が……」
「あ? 決まってんだろ。呪装備の力ぁ感知したからだよ。ケケケっ、まさか人間界に『凶悪級』の呪装備があるなんてなぁ? 人間界にはクズ呪装備しかねぇと思ってたのに」
「ヴァルケンが道草してたせいで、回収に遅れたです」
「あ~ワリワリ。まあいいじゃん。見ろよ、こいつ着てるの呪装備だぜ? しかも凶悪級ってところか。コレ回収すれば代わりになんだろ」
「でもでも、おかしいです。人間が呪装備を着たら、長くても数日で身体が闇に侵されて死んじゃうはず。でもこいつ……馴染んでます」
「……確かに。じゃあお仲間? おいオマエ、魔人か?」
「……そうだ」

 そう、応えるしかなかった。
 だが、カトレアがジーっと見る。

「嘘ですね。あなた、人間です。でも……人間じゃない」
「なに……?」
「私たち、呪装備を回収するために来たんですが、これは面白い拾い物かもしれませんね」
『ラクレス、まだ騒ぐな。情報収集するぞ』
(情報収集って……)
『今騒げば、こいつら消えるぞ。恐らく、コイツらのどっちかの能力で、この部屋に入ってきたんだろ。オレ様ですら感知できなかった』
(そうか。騒げば今いる七曜騎士たちが来る。団長が来たら、さすがにコイツらは逃げる)
『おう。だからこそ情報収集だ。そうだな……おい、こう聞いてみろ』

 ラクレスは、ダンテから聞いた言葉を、そのまま言った。

「お前たち、サタナエルから来た魔人か?」
「そうに決まってんだろ。聞いて驚け、オレは『冥府六将』の一人、『罪滅ツミホロボシ』エクスパシオン様の三部下の一人、『次元蟷螂』ジャスデロの魔装者ヴァルケン様だ。くくく、驚いたか?」
「…………」

 冥府六将、『罪滅』、『次元蟷螂』、魔装者。
 これだけで、いろいろな情報が手に入った。

「お前は?」
「……え?」
「名乗れよ。呪装備の名、お前の名だ。魔人は名乗ったら名乗り返すのがルールだろうが」
(そうなのか?)
『オレ様が知るか。まあ、適当に返せ。コイツ、アホっぽいし情報を引き出せそうだ』
「『暗黒鎧』ダンテの魔装者、名前もダンテだ」
「ああ? お前、半魔神と同じ名前なのかよ。クソだせぇな」
『んだと!? このガキ、オレ様がダサいだと!?』
(お前がキレてどうすんだっつの。情報、情報!!)
『ぐぬぬ……じゃあ、次はこう聞け』

 ダンテから聞いた言葉を、そのまま言う。

「お前たち、どの神を崇拝している?」
「あ?」
「……あなた、何を言ってるんですか?」
「六魔神の中で、お前たちが信じる神だ」

 そう言った瞬間、二人の気配が変わった。
 殺気。ラクレスはゾッとする。

「馬鹿かお前……どの神を崇拝もねえ。オレら魔人は、六魔神あっての魔人……オマエ、本当に魔人なのか?」
「神は平等に崇拝すべし。それが魔人の認識……あなた、どういうつもりですか?」
(お、おいダンテ……ヤバいぞ)
『……やっぱそうか。じゃあ、最後だ』
(……え?)
『いいからそう言え』
(……わかった)

 意味が分からなかったが、ラクレスは言った。

「器の在処を知っている。その意味はわかるか?」

 その言葉を聞いた瞬間、ヴァルケンとカトレアの目が赤く輝いた。

「……テメェ」
「……なるほど、あなた、面白いですね」
(お、おいダンテ)
『これでいい。これでオマエを殺すことはできなくなった。ケケケ……やっぱそうか』

 その時だった。
 家のドアがノックされ、声が聞こえてきた。

「あー、ダンテ、いるか? その……食事を一緒にどうだ? クリスもいる」
「ダンテ様、歓迎会でもしませんか? それと、任務の終了祝いということで!!」

 レイアース、そしてクリスの声だった。
 ヴァルケンが舌打ちし、ラクレスに指を向けた。

「また来るぜ。今日のこと……全て、『上』に報告させてもらう」
「人間界、来てよかったです。ふふふ……じゃあまた」
「あ」

 ラクレスが何かを言う前に、空間に裂け目ができて、二人はそこに消えた。
 残されたラクレスは、呆然としたまま呟いた。

「……何だったんだ」
『……ケケケ』

 ダンテの意味深な笑いだけが、室内に響くのだった。
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