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第二章
違和感
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ラクレスは、レイアースと一緒に王城の中庭へやってきた。
様々な花が咲いていた。まるで虹のような花壇に、ラクレスは周囲を見渡す。
「すごいな……」
「ああ。獣王国ヴィストは大地の国とも呼ばれている、大地の恩恵を大事にするということは、花などにも適応されるのだろうな」
「……美しいな。こんな花畑、初めて見た」
ラクレスは感激していた……だが。
『ケッ、たかが花じゃねぇか。キレイとか、よくわかんねーな』
(だったら、心ゆくまで眺めてみろよ)
『わりーな、興味ねぇわ』
ダンテはどうでもいいのか、それっきり黙ってしまう。
しばし、レイアースと庭園を歩き、中央にある大きな噴水前に来た。
そして、レイアースはそっとしゃがみ、噴水に溜まった水に手を入れる。
「……ところで、要件は何だ?」
「…………」
呼び出し……何を言われるのか、ラクレスにはわからなかった。
ウルフギャングのように、黒騎士ダンテを認めてくれるのかもしれない。これまでの非礼を詫び、共に戦おうと手を差し伸べてくれるのかもしれない。
そうだったら、ラクレスにとっては最高だった。
「ダンテ……お前は、何者だ?」
「え?」
「お前は……ラクレス、なのか?」
いきなりの言葉に、ラクレスの心臓が跳ねあがった。
身体も反応しかけたが、ダンテが鎧を硬直させ、ラクレスの身体が動くことはない。
レイアースは、風で揺れる髪を押さえながら言う。
「……戦闘中、お前は一度だけ、私の頭を軽く小突いたな。あれは……幼い頃、ラクレスがよくやってくれたクセなんだ」
「ッ!!」
確かに、無意識でやってしまった。
あまりにも自然に手が出てしまったので、ラクレスは忘れていた。
『……チッ』
「どういうことなんだ。ダンテ……いや、ラクレス」
『…………』
(レイアース、それは……あれ? 声が。おいダンテ!!)
『黙ってろ。何度も言わせんじゃねぇ……この女に、オマエの正体を知られんのはダメなんだよ』
(……何故だ。なぜレイアースに隠す必要がある!! お前と俺のことを説明しても、レイアースはきっと手を貸してくれる!! 呪装備集めだって、レイアースが協力してくれるはずだ!!)
ラクレスは、溜まっていた想いを内心で吐き出した。
だが、ダンテは言う。
『そういう問題じゃねぇんだよ。とにかく、この女はダメだ……絶対にな』
(ダンテ……!!)
「ダンテ。いやラクレス……教えてくれ。お前は、ラクレスなんだろう? よく考えたら……お前の剣があった場所、あそこには祭壇のような物もあった。お前が秘密を隠す理由は、そこにあるのか?」
『……何を言っているかわからないが、俺はダンテだ。ラクレスじゃない』
「……私には、そうは思えない。お前は、ラクレスだよ……ラクレス」
すると、レイアースがラクレスの胸に飛び込んできた。
柔らかな感触、そしてレイアースの匂いに、ラクレスの胸が高鳴る。
「……この鼓動は誤魔化せない。ラクレスなんだろう?」
『違うと言っている。離れてくれ』
ダンテが、ラクレスの意思と関係なくレイアースを放す。
『話がそれだけなら、俺は帰らせてもらう。明日は早い……ゆっくり休むんだな』
「あ……」
ダンテは庭園から出て行った。
残されたレイアースは、手を強く握りしめて呟いた。
「理由があるんだな? お前が黒い鎧を纏わなくちゃいけない理由が……ラクレス」
◇◇◇◇◇◇
部屋に戻るなり、ラクレスは言う。
(……ダンテ。いい加減に話せ。どうして俺のことを言っちゃダメなんだ!!)
『ダメなモンはダメだ。いいか……理由は言えねぇ。それで納得しろ』
(できるわけないだろ!! くそ……レイアースは気付いた。絶対に、黒騎士ダンテの正体がラクレスだって気付いたぞ)
『かもな……チッ、めんどくせえ』
(……くそ)
ようやく、ラクレスの身体が自由になり、ラクレスはベッドに寝転んだ。
「……なあ、俺の命、補填できたのか?」
『ああ。とはいえ、微々たるモンだがな。寿命十秒が二分くらいにはなったか』
「あ、あれだけ苦労して、それだけ……」
『まあ、今回の半魔神は質が悪かった。凶悪級だが、限りなく邪悪級に近い凶悪級だったな。でも……一つ、面白いことがわかったぜ』
「面白いこと?」
ラクレスはベッドから起き上がり、部屋の窓を開けた。
先ほどまで明るかったが、少しずつ日が傾き始めている。
『一つ。あの遺跡……魔人に見張られていたぜ。恐らく、邪悪級異常の呪装備を持つ魔人だ』
「……は?」
『気配はすぐ消えたけどな。ケケケ、オレ様を纏ったお前っていう魔人の存在が人間側にいるってことが、魔界にいる魔人たちにバレたかもな』
「な……おま、なんでそれを言わないんだよ!?」
『アホ。チャンスだろうが……邪悪級以上の呪装備を持つ魔人が、オレ様たちを狙って人間界に来るかもしれねぇんだぞ? 腹ぁいっぱい食うチャンスだぜ』
「つ、つまり……魔人が、人間界に?」
『ああ。位の高い呪装備は、魔人にとって極上の宝物みてぇなモンだからな。きっと、オマエの素性を確認しに来るぜ』
「お、おいおい……冗談だろ」
『ケケケ。まあ安心しな。オレ様が付いてるぜ』
「…………」
ラクレスは、自分の胸に手を当てて聞いた。
「ダンテ。一つだけ、これだけは教えてくれ」
『あん?』
「お前は凶悪級なのか? いや……極凶悪級なのか? 凶悪級を喰らう呪装備なんて、普通に考えたらそれ以上としか……」
『……まあ、極凶悪級とでも思っておけ。オレ様は、オマエの味方に変わりねぇからよ』
「…………ああ、わかった。信じるよ」
こうして、ラクレスの呪装備破壊……いや、呪装備に眠る半魔神の吸収は終わった。
失われた命を補填するための戦い。
そして……これから始まる、魔人たち、高位の呪装備たちとの戦いが始まった瞬間でもあった。
様々な花が咲いていた。まるで虹のような花壇に、ラクレスは周囲を見渡す。
「すごいな……」
「ああ。獣王国ヴィストは大地の国とも呼ばれている、大地の恩恵を大事にするということは、花などにも適応されるのだろうな」
「……美しいな。こんな花畑、初めて見た」
ラクレスは感激していた……だが。
『ケッ、たかが花じゃねぇか。キレイとか、よくわかんねーな』
(だったら、心ゆくまで眺めてみろよ)
『わりーな、興味ねぇわ』
ダンテはどうでもいいのか、それっきり黙ってしまう。
しばし、レイアースと庭園を歩き、中央にある大きな噴水前に来た。
そして、レイアースはそっとしゃがみ、噴水に溜まった水に手を入れる。
「……ところで、要件は何だ?」
「…………」
呼び出し……何を言われるのか、ラクレスにはわからなかった。
ウルフギャングのように、黒騎士ダンテを認めてくれるのかもしれない。これまでの非礼を詫び、共に戦おうと手を差し伸べてくれるのかもしれない。
そうだったら、ラクレスにとっては最高だった。
「ダンテ……お前は、何者だ?」
「え?」
「お前は……ラクレス、なのか?」
いきなりの言葉に、ラクレスの心臓が跳ねあがった。
身体も反応しかけたが、ダンテが鎧を硬直させ、ラクレスの身体が動くことはない。
レイアースは、風で揺れる髪を押さえながら言う。
「……戦闘中、お前は一度だけ、私の頭を軽く小突いたな。あれは……幼い頃、ラクレスがよくやってくれたクセなんだ」
「ッ!!」
確かに、無意識でやってしまった。
あまりにも自然に手が出てしまったので、ラクレスは忘れていた。
『……チッ』
「どういうことなんだ。ダンテ……いや、ラクレス」
『…………』
(レイアース、それは……あれ? 声が。おいダンテ!!)
『黙ってろ。何度も言わせんじゃねぇ……この女に、オマエの正体を知られんのはダメなんだよ』
(……何故だ。なぜレイアースに隠す必要がある!! お前と俺のことを説明しても、レイアースはきっと手を貸してくれる!! 呪装備集めだって、レイアースが協力してくれるはずだ!!)
ラクレスは、溜まっていた想いを内心で吐き出した。
だが、ダンテは言う。
『そういう問題じゃねぇんだよ。とにかく、この女はダメだ……絶対にな』
(ダンテ……!!)
「ダンテ。いやラクレス……教えてくれ。お前は、ラクレスなんだろう? よく考えたら……お前の剣があった場所、あそこには祭壇のような物もあった。お前が秘密を隠す理由は、そこにあるのか?」
『……何を言っているかわからないが、俺はダンテだ。ラクレスじゃない』
「……私には、そうは思えない。お前は、ラクレスだよ……ラクレス」
すると、レイアースがラクレスの胸に飛び込んできた。
柔らかな感触、そしてレイアースの匂いに、ラクレスの胸が高鳴る。
「……この鼓動は誤魔化せない。ラクレスなんだろう?」
『違うと言っている。離れてくれ』
ダンテが、ラクレスの意思と関係なくレイアースを放す。
『話がそれだけなら、俺は帰らせてもらう。明日は早い……ゆっくり休むんだな』
「あ……」
ダンテは庭園から出て行った。
残されたレイアースは、手を強く握りしめて呟いた。
「理由があるんだな? お前が黒い鎧を纏わなくちゃいけない理由が……ラクレス」
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部屋に戻るなり、ラクレスは言う。
(……ダンテ。いい加減に話せ。どうして俺のことを言っちゃダメなんだ!!)
『ダメなモンはダメだ。いいか……理由は言えねぇ。それで納得しろ』
(できるわけないだろ!! くそ……レイアースは気付いた。絶対に、黒騎士ダンテの正体がラクレスだって気付いたぞ)
『かもな……チッ、めんどくせえ』
(……くそ)
ようやく、ラクレスの身体が自由になり、ラクレスはベッドに寝転んだ。
「……なあ、俺の命、補填できたのか?」
『ああ。とはいえ、微々たるモンだがな。寿命十秒が二分くらいにはなったか』
「あ、あれだけ苦労して、それだけ……」
『まあ、今回の半魔神は質が悪かった。凶悪級だが、限りなく邪悪級に近い凶悪級だったな。でも……一つ、面白いことがわかったぜ』
「面白いこと?」
ラクレスはベッドから起き上がり、部屋の窓を開けた。
先ほどまで明るかったが、少しずつ日が傾き始めている。
『一つ。あの遺跡……魔人に見張られていたぜ。恐らく、邪悪級異常の呪装備を持つ魔人だ』
「……は?」
『気配はすぐ消えたけどな。ケケケ、オレ様を纏ったお前っていう魔人の存在が人間側にいるってことが、魔界にいる魔人たちにバレたかもな』
「な……おま、なんでそれを言わないんだよ!?」
『アホ。チャンスだろうが……邪悪級以上の呪装備を持つ魔人が、オレ様たちを狙って人間界に来るかもしれねぇんだぞ? 腹ぁいっぱい食うチャンスだぜ』
「つ、つまり……魔人が、人間界に?」
『ああ。位の高い呪装備は、魔人にとって極上の宝物みてぇなモンだからな。きっと、オマエの素性を確認しに来るぜ』
「お、おいおい……冗談だろ」
『ケケケ。まあ安心しな。オレ様が付いてるぜ』
「…………」
ラクレスは、自分の胸に手を当てて聞いた。
「ダンテ。一つだけ、これだけは教えてくれ」
『あん?』
「お前は凶悪級なのか? いや……極凶悪級なのか? 凶悪級を喰らう呪装備なんて、普通に考えたらそれ以上としか……」
『……まあ、極凶悪級とでも思っておけ。オレ様は、オマエの味方に変わりねぇからよ』
「…………ああ、わかった。信じるよ」
こうして、ラクレスの呪装備破壊……いや、呪装備に眠る半魔神の吸収は終わった。
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