上 下
26 / 53
第二章

レイアースの予感

しおりを挟む
 話が終わり、今日は解散となった。が……ラクレスとレイアースは、城のバルコニーへ。
 バルコニーからは城下町が見え、国を縦に割るようにヴィシャス大河も流れている。
 レイアースは、風で揺れる髪を押さえながら言う。

「……いい風だ」
「……ああ、そうだな」

 髪を押さえるレイアースを見ると、ラクレスの心臓が高鳴った。
 レイアースは、身体ごとラクレスに向き直る。

「ダンテ殿。一つ、聞かせてほしい……女神の神器で呪装備は破壊できるのは、間違いないか?」
「ああ、間違いない」
『間違いない。でも……確実じゃあねぇよ』

 ダンテの補足に、ラクレスは内心で驚いた。

『そーいや、人間は知ってんのか? 呪装備にランクがあるように、女神の神器にもランクがある。あの雷姐さん、レイアース、ケモノ野郎のを軽く見た感じ、大したレベルになってねぇような気もするな』
(な、何だっって!? というか、女神の神器にレベルとかあるのかよ!? き、聞いたことないぞ……まさか、七曜騎士しか知らない? レイアースは知ってるのか?)

 レイアースは、ラクレスとダンテが内心で話をしている間も考えていた。

「……ダンテ。改めて謝罪したい」
「な、何にだ?」
「これまでのこと、全てだ」

 レイアースは頭を下げた。

「ドラゴンオークの殲滅、兵士たちの保存、獣王国ヴィストを守る気持ち……ダンテ、いや貴殿のその行動は間違いなく、本心からくる物だと理解した。私の態度はひどいものだった……謝罪する」
「…………」
「貴殿の忠誠を疑うことはない。これからは同じ七曜騎士として、共に切磋琢磨できればいいと考えている……よろしい、だろうか」

 レイアースは手を差し伸べてきた。
 その手を見て、ラクレスは思う。

(ああ……ようやく、俺は……レイアースと並んで戦えるんだ)

 騎士として。
 七曜騎士として、共に戦うことができる。
 物凄く嬉しかった。叫びたいくらいだった。
 でも……ここにいるのは『ダンテ』であり、『ラクレス』ではない。
 
「……ああ、これから共に戦おう。よろしく頼む」

 ラクレスは、『ダンテ』としてレイアースの握手に応えた。
 互いにしっかり手を握ると、レイアースが照れたように笑う。

「貴殿は、不思議だな。その……私の幼馴染を思いださせる」
「え」
「ラクレスという男だ。兵士でな……私の隣で戦うために、決してあきらめないやつだ」
「…………」
「私は、ラクレスと共に戦いたかった。ああ……そうだ、私は騎士としてだけじゃない、一人の女として、ラクレスを……愛しているだな」
「…………」
「……意地を張らねばよかった。ははは……」

 ラクレスは動揺した。
 今、レイアースが『愛している』と言った。
 そのことを自覚し、ラクレスの鼓動が自然と跳ねあがった。

『おい、わかってんな』

 だが……ダンテの声が突き刺さり、冷静になる。
 ラクレスは、一つの事実だけを言った。

「きっと……きみの幼馴染は生きてるよ。そして、必ずきみの元に帰ってくる。俺が保証する」
「ははは、そうだな。ありがとう、ダンテ殿」
「殿は付けなくていい。前も呼び捨てだったじゃないか」
「そ、そういう貴殿……いやお前こそ、許可していないのに呼び捨てで」
「あ、ああそうか……じゃあ、レイアース殿」
「い、いらん!! 呼び捨てでいい!!」

 少しだけ、昔のように話すことができたラクレス、そしてレイアース。
 二人は気付かなかった。
 バルコニーの傍で、一人の少女と獣人が、このやり取りを見ていたのを。

『ふふ、なんだかいい雰囲気ですね』
『……くだらん』
『ウルフギャング様、あなたも認めたんじゃないですか? あの方の国を守る気持ち、本物でしたよ?』
『……それは、王族としての言葉か?』
『騎士として、王族としてもです。ふふふ』
『……くだらん』

 明日はダンジョン、そして呪装備の破壊任務。
 ラクレスたちの戦いが始まろうとしていた。

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日。
 ラクレスたちは、鉱山の入口に来た。
 王城の真裏から伸びる専用通路。王族しか通ることのできない道を通り、鉱山入口へ。
 ラクレス、レイアース、クリス、ウルフギャング。そして案内のレオルド、獣人の兵士が数名。
 ウルフギャングは兵士たちに言う。

「ここからは、オレたちだけでいい。お前たちはここにいろ」
「「はっ!!」」
「レオルド……案内を任せる」
「……チッ」

 レオルドは、返事をすることなく歩き出した。
 やはり、ラクレスのことを納得できないのだろう。
 レイアース、クリスがレオルドの後ろに付き、ラクレスも歩き出す……すると。

「おい、お前」
「……何か」

 ウルフギャングが話しかけてきた。
 また何か言われるのか……と、ラクレスはほんの少しだけ警戒した。
 
「……レオルドのことは気にするな。その……オレは貴様を、戦力として期待している」
「……え」
「チッ、二度は言わん。行くぞ」

 ウルフギャングは、ラクレスを抜いて歩き出した。
 ポカンとしていると、ダンテが言う。

『ケケケ、あのケモノ野郎、ツンデレってやつか?』
「俺を、認めてくれた……ってことかな」
『かもな。まあ、いいんじゃねぇの?』
「……ああ」

 ラクレスは嬉しい気持ちになり、ウルフギャングに追いついた。

「ウルフギャング殿。あなたの期待に応えられるよう、努力する」
「……ウルフだ」
「え?」
「ウルフでいい。七曜騎士は皆、オレのことをそう呼ぶ」
「……わかった。では、俺のこともダンテと呼んでくれ。ウルフ殿」
「……フン。ダンテ、遅れるなよ」

 歩く速度が増し、クリスとレイアースに追いついた。
 クリスがクスっと微笑み、ラクレスに言う。

「どうやら、チームワークの心配はなさそうですね」
「え、あ、ああ」
「何のことだ? ダンテ、ウルフ殿」
「知らん。とにかく、呪装備の破壊を優先するぞ」
「ああ、そうだな。よし……!!」

 不思議と仲間内での絆が深まり、ラクレスはより一層の気合が入るのだった。
 だが。

「…………チッ」

 レオルドだけは、面白くなさそうにラクレスを、そしてレイアース、クリス、ウルフギャングを睨みつけるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった

ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」  15歳の春。  念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。 「隊長とか面倒くさいんですけど」  S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは…… 「部下は美女揃いだぞ?」 「やらせていただきます!」  こうして俺は仕方なく隊長となった。  渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。  女騎士二人は17歳。  もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。   「あの……みんな年上なんですが」 「だが美人揃いだぞ?」 「がんばります!」  とは言ったものの。  俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?  と思っていた翌日の朝。  実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた! ★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。 ※2023年11月25日に書籍が発売!  イラストレーターはiltusa先生です! ※コミカライズも進行中!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

処理中です...