呪われ黒騎士の英雄譚 ~脱げない鎧で救国の英雄になります~

さとう

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第二章

マデオ鉱山

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 この日は、王城に泊ることになった。
 このまま休み、明日に備えることになった。食事などは部屋に運ばせるというので、明日までゆっくり……と思っていると、息を切らせたクリスが合流した。
 慌ててきたのだろう、汗だくで、髪の毛もクチャクチャである。

「や、やっと追いついた……うう、どうやら大事なお話は終わったようですね」
「そのことは、私が説明しよう……ついでにウルフ殿、ダンテ殿、明日のダンジョンについて、我らで少し話をしたいのだが」

 レイアースが言うと、ウルフギャングは頷いた。

「ああ、それなら会議室を使おう。こっちだ」

 ウルフギャングが歩き出し、レイアース、クリス、ラクレスと続く。
 案内された会議室は狭い。十人入れば満室になるようなところだ。だが、壁やドアは分厚く、かなりの衝撃でも耐えれそうな作りだった。

「頑丈そうな部屋だ。城というよりは、要塞のような……」

 ラクレスが思わずつぶやくと、ウルフギャングが言う。

「そうだ。ここはもともと王城ではなく、獣人が作り上げた要塞だ。経緯は不明だが、ここに獣人の国を作り、要塞を城として改築したらしい。ここはもともと会議室ではなく、牢屋だったそうだ」
「牢屋……」
「会話が聞かれることもないし、ドアも分厚い。内緒話をするのにもってこいの会議室だ」

 ウルフギャングが椅子に座り、ラクレスたちも座る。
 レイアースが咳払いした。

「こほん。まず、先ほどの話を整理しよう」

 ◇◇◇◇◇◇

 獣王国ヴィストが管理する『マデオ鉱山』。
 鉱山内に新規ルートを開拓中、ダンジョンの入口を発見……入口が解放されると同時に、鉱山内にいた魔獣が活性化を始め、ダンジョンの中に踏み込むようになった。

 同時に、ダンジョンの外……そして、ヴィシャス大河を泳ぐ魔獣も、大量の群れとなって流れを遡り、マデオ鉱山に向かうようになった。
 それにより、河川での漁ができなくなり、さらに川から飛び出した魔獣が橋の上にいる住人たちを襲うようになった。
 少しずつ、魔獣の頻度も増え、被害も確実に増えているそうだ。

 ウルフギャングたちには、ダンジョンに踏み込んでもらい、ダンジョンの最奥にある『呪装備』を破壊して欲しいという。
 ダンジョンの核と呪装備は一体化しているので、呪装備を破壊すればダンジョンも消滅し、魔獣も大人しくなるという。

 呪装備は、魔獣を引き付ける。
 一刻も早い破壊をしなければ、獣王国ヴィストの被害は甚大になる可能性がある。

 ◇◇◇◇◇◇

「───……と、こんなところか」

 レイアースが説明を終えると、クリスは「なるほど……」と頷いた。
 ウルフギャングが補足する。

「明日、オレたちはダンジョンに踏み込んで呪装備を破壊する。偵察の調査によると、ダンジョンの規模はそこまで広くない、半日もせずに呪装備のありかまで到着するはずだ」
「そこで、私とウルフ殿の神器で、呪装備を破壊する……か」
(……ダンテ。いいのか? 呪装備を取り込まないと、ここに来た意味が)
『心配すんな。呪装備のガワはどうでもいい。問題は、封印されてる半魔神の魂だ。オレ様がそいつを喰らえばいい。それに、魂は視認できないから問題ねぇよ』

 ダンテの補足にラクレスは安心した。
 レイアースは、ラクレスに言う。

「ダンテ殿。呪装備について、魔人としての視点で説明を頼む……何かあるか?」
(ダンテ、何かあるか?)
『じゃあ、オレ様の言う通りに言いな』

 ラクレスは腕組みをし、騎士っぽい風格を見せるように言う。

「女神の神器を持つレイアース、ウルフギャング殿は問題ないが、クリス……キミは決して呪装備に近づくな。取り込まれるぞ」
「と、取り込まれる……?」
「そのままの意味だ。呪装備はその名の通り『装備』である。そして、半魔神の力、意思が宿っている。言葉巧みに甘言に乗り身体を乗っ取られたら終わりだ」
「お、終わり、とは」
「魔人は闇属性の適性があるから問題ない。だが、人間や獣人が呪装備を装備すれば、強大な力を得る代わりに確実に死ぬ」
「待て。人間が呪装備を装備する例も少なからずあった。今でも、呪装備を装備した人間は、装備を破壊され監獄に入っている」
「それは、半魔神の意思が覚醒していない場合だ。邪級~邪悪級の呪装備は、力だけしか宿っていない場合もある」

 『邪級』、『邪悪級』、『凶悪級』、『極凶悪級』。
 呪装備のランクは四つ。人間界には邪級、邪悪級しか発見されていない。

「今回の呪装備は恐らく『凶悪級』……半魔神の意識が覚醒しているとみていい。じゃなきゃ、これだけ強大な魔獣の引き付けは怒らない」
「質問だ。ダンテ、なぜ呪装備は魔獣を引き付ける?」
「餌だ。呪装備は魔獣を喰らい、その血肉を魔力に変換する。その魔力で自らの存在を補填し、意識を保ち、力を増す」
「……今回は凶悪級といったな」

 レイアースがごくりと唾を飲み込んだ。

「ああ。恐らく……言っておくが、邪悪級と凶悪級の呪装備は、天と地ほど力の差があると思え」
「……なるほどな」
「フン。だが、女神の神器なら破壊できるんだろう?」
「ああ。それと……人間の世界で『凶悪級』が見つかった。魔族が呪装備の調査をしに、人間界に来るかもしれん」
「何……?」
「覚えておけ。魔界にいる上級魔族は、全員が凶悪級、極凶悪級の呪装備を手にしている」

 自分で言い、ラクレスも驚いた。
 どれほどの魔人がいるのか、そして、ダンテで対抗できるのかどうかも不明だ。

『おい、オレ様を舐めんなよ。オレ様は特別だぞ』
(はいはい。とにかく……俺たちで呪装備を破壊して、半魔神の魂を食えばいいんだな)
『ケケケ、そういうこった』

 話は終わり、解散なった。
 ラクレスは部屋に行こうとしたが。

「ダンテ。少し、話をしないか?」

 レイアースに誘われ、ラクレスは二人で話をするのだった。
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