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第二章

獣の王

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 獣王国ヴィスト。
 王城は城と言うよりも要塞のような堅牢さで、城を守る衛兵もまた屈強な獣人ばかり。
 レイアース、ラクレスはウルフギャングの案内で、この国の王と謁見をすることになった。
 ウルフギャングが先頭、レイアースとラクレスが真ん中、そして殿はレオルド……ラクレスは、レオルドの強烈な視線を背中で受けていた。

(み、見られてるよな……しかも、敵意丸出し)
『ケッ……どう見ても喧嘩売ってやがる。喧嘩を買えば向こうはオマエを叩きのめすチャンスだ。こうも殺意と敵意を剝き出しにしてると、ダメだと思っても喧嘩買いたくなるぜ』
(絶対に買わないからな……)

 そして、謁見の間に到着。
 扉が開くと、立派な作りの謁見の間が見えた。
 玉座に座るのは、老いた獅子の王。

(あれが、獣王国ヴィストの王、ライオネス)

 ラクレスたちは玉座の前で跪く。
 ウルフギャングが最初に言った。

「お久しぶりです、陛下」
「うむ、久しいなウルフギャング……ふむ、また強くなったようだな。感心だ」
「はっ……」

 獅子の王ライオネスは、親のような笑顔をウルフギャングに向けた。
 ラクレスは気付いた。ウルフギャングの尻尾が嬉しそうに揺れているのを。
 だが、ライオネスはすぐに険しい表情になる。

「して……そちらの七曜騎士。魔人というのは誠か?」
「……事実でございます」

 唐突に視線を向けられたが、ラクレスは落ち着いて答えた。
 ライオネスはジッとラクレスを見る。

「……魔人。我ら獣王国ヴィストと因縁がある、ということは知っているな?」
「はっ。しかし、自分は魔人ですが、魔の神、そして同胞とは関係ありません。一人の騎士としてエーデルシュタイン王国に忠誠を誓った身であります」
「ふむ……なら、いい」
「なっ!! へ、陛下!! 魔人は獣人を奴隷にした事実があるのです!! 今も魔界では、罪なき同胞が奴隷のように扱われている!! 魔人は許されざる者です!!」
「レオルド。そなたの気持ちはよく理解できる。だが、エーデルシュタイン王国に忠誠を誓った騎士ならば、そこに魔人も獣人も関係はない。我が国の英雄ウルフギャングが、女神の神器に選ばれたようにの」
「くっ……それがそもそもおかしいのです!! なぜ、我らが人間の下で、人間の国に忠誠を誓わねばならないのです!! この獣王国ヴィストが、人間の、エーデルシュタイン王国の属国にならなければ!!」
「レオルド!!」

 一瞬、ラクレスはライオネスの圧力で震えあがりそうになった。
 老いた獅子……見た目だけではない、そこには目に見えない『活力』があった。

「我ら獣人は、人と手を取り合って生きていくと決めた。そこに上下関係はあれど、決して奴隷のような扱いではない。英雄ウルフギャングが人間の国で差別を受けたか?」
「そ、それは」

 レオルドが言いよどむと、レイアースが言う。

「陛下。ウルフギャング殿は尊敬に値する七曜騎士です。私、七曜騎士『光』のレイアースはウルフギャング殿を尊敬しております」
「……感謝する、レイアース」
「……(お、俺も何か言った方がいいのかな)」
『黙っとけって。ケケケ』

 レオルドは黙りこんでりまった。
 数秒の間を置き、ライオネスが言う。

「……此度、ヴィスト王国が管理する『マデオ鉱山』に、呪装備が見つかった。新規ルートの開拓中に遺跡が発見され、そこがダンジョンの入口だとわかったのだ」
「ダンジョン……」
「そうだ。遺跡発見と同時に、周辺の魔獣が活発化し出したのだ。ヴィシャス大河を遡る魔獣、正門に向かって突撃してくる魔獣、それらすべてがマデオ鉱山を目指している……呪装備に引き寄せられているといった方が正しい」
「くっ……なら、すべきことは一つ」

 ウルフギャングが言うと、ライオネスは頷いた。

「うむ。ダンジョンの最奥にある呪装備の破壊……これができるのは、女神の神器を持つ七曜騎士だけ。ウルフギャング、そして七曜騎士レイアース殿、ダンテ殿。どうか国の危機のために、力を貸して欲しい」
「陛下、お任せください。このウルフギャング、呪装備を破壊してまいります」
「私もです。七曜騎士の名に懸け、必ずこの手で」
「……私も、力を貸します」

 最後、ラクレスは無難な返事をした。あまり目立ったことを言いたくないのである。
 ライオネスは頷く。

「では明日、ダンジョンの案内をさせよう。レオルド、お前に任せていいな?」
「……御意」
「では騎士たちよ、頼んだぞ」

 こうして、ラクレスたちはマデオ鉱山へ、正確にはマデオ鉱山内に発見されたダンジョンへ向かうことになった。

「…………ッ」
『……ケケケ』

 ダンテだけが気付いていた。
 忌々し気な目でラクレスを睨む、レオルドの姿を。
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