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第二章

ウルフギャング・エッジ

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 謁見の間を三人で出てしばらく並んで歩くと。

「おい」
「──っ!!」

 ラクレスは、ウルフギャングに肩を掴まれ、壁に叩き付けられた。
 いきなりのことで驚いた。
 狼獣人であり、七曜騎士『地』のウルフギャング。眼をギョロっとさせ、牙を見せつけながらラクレスに言う。

「陛下の名だ。同行は許してやる……だがな、オレは魔人であるキサマを認めないし、仲間とは思っていない。覚えとけ……怪しい動き、ソラシル王国に不利益をもたらす動きをしたら、その首に喰らいついてやる」
(す、すごい力だ……!!)

 ラクレスは、掴まれたか肩が全く動かないことに驚く。
 獣人。人間を超えた身体能力を持つ種族であり、ウルフギャングは獣人たちの英雄でもある。
 すると、エクレシアがウルフギャングの手を掴み、ひょいっと持ち上げた。

「はいはいそこまで。ウルフ、仲間割れはしちゃダメよ? 陛下は『共に』事態を解決しろって言ったのよ?」
「フン!! エクレシア……キサマがこんな怪しい奴を連れてくるから面倒なことになる。レイアースだけだ、オレと同じ考えなのは」
「やれやれねえ。ダンテくん、ウルフと仲良くやれるかしら?」

 エクレシアは、まるで姉のような、母親のような笑顔を向ける。
 
「やれと言われたらやる。俺は魔人だが、この国に忠誠を誓った……ウルフギャング殿、獣人であるあなたが、人間の国に忠誠を誓ったのと同じだ」
「オレとキサマを同列に語るな!! 魔人の分際で……!! チッ」

 ウルフギャングは舌打ちし、ラクレスを睨んで行ってしまった。
 エクレシアはため息を吐く。

「あの子も、いろいろあってね……たぶん、出発は明日の朝。ダンテくん、今日中に支度を済ませて、明日の朝に城の前に来てね」
「わかりました」

 エクレシアは「じゃ、ウルフのところに行くから」と行ってしまった。
 ラクレスは、ウルフギャングが去った方を見た。

『感じ悪ぃ獣人だな。みんなああいう野蛮なケモノなのかい?』
「……違うんだ。噂だけど……ウルフギャング様は、家族を魔人に殺されてるから、魔人を憎んでるって話だ」
『へー、でもその家族殺したの、魔人ダンテじゃないだろ? なーんでお前が憎まれるんだ?』
「……そうでもしないと、許せないだろうな」

 ラクレスは、部屋に戻って準備をすることにした。

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日。
 ラクレスは武器庫で『鉄の剣』を一本手に入れ、ダンテでコーティングし腰に差した。
 そして、手ぶらで城の前に行くと、ウルフギャングとクリス、なぜかレイアースがいた。
 他には、荷物を積んだ馬が人数分。どうやら馬で行くようだ。

「チッ……遅いぞ」
「時間通りだが」
「フン」

 ウルフギャングは目を合わせない。するとクリスがペコっと頭を下げた。

「改めまして、騎士クリスと申します。王族ですが、この旅では一人の騎士として扱うようお願い申し上げます!!」
「あ、ああ……よろしく」
「はい!! ダンテ様、お荷物は?」
「ああ、自分で持っている」
『ケケケ。オレ様に感謝しな』

 ラクレスの荷物は全て、ダンテの鎧内に収納されている。収納というか、取り込んだと言うべきか。
 それに、ラクレスの荷物は財布しかない。着替えは必要ないし、兵士訓練で木に寄りかかったままでも熟睡できるのでテントも寝袋も必要ない。
 食料などは、狩りをすればいいし、そこら辺にある木の実や野草なども食べられる。ある意味で、過酷な兵士訓練が役立っているラクレスだった。

「ご安心ください。食器や調理器具などは私が持っていますので。あまり上手ではありませんが、道中で料理などもします」
「ああ、ありがとう……」
「……なんだ貴様、その目は」

 ラクレスは、レイアースを見た。
 なぜここにいるのか。すると、ウルフギャングが言う。

「彼女はオレが助力を求めた。陛下に進言し、同行も許可してもらった……フン、怪しげな魔人を戦力と数えるほど、オレは馬鹿ではないのでな」
(嫌われたなあ……)
『ケケケ。まあいいだろ別に。それより、レイアースのお嬢ちゃんか……おい、ボロ出すなよ』
(わかってるよ)

 レイアースは、どこか冷めた目で言う。

「ウルフギャング殿の言う通り、私もお前を認めていない。いいか、今回の呪装備破壊任務……キサマがすべきことは、我々の邪魔をしないことだ」
「……俺は、俺のすべきことをするだけだ」
「それでいい。ではウルフギャング殿」
「ああ、頼りにしているぞ、騎士レイアース」

 ウルフギャングは馬にまたがり、レイアース、クリスも跨る。
 ラクレスも跨ると、ウルフギャングは馬を走らせた。

『嫌われてるねぇ』
(まあ、仕方ないか……でも、けっこう辛いモノがあるなあ)
『ケケケ。まあいいだろ。オレ様がついてる」
(お前がいてもなあ……)
『あぁん!? この野郎、なんてことを。まあいい……それより、クリスだっけ? アイツ、お前のこと熱っぽい目で見てたぜ? 王様の娘だったか? 王様、けっこうなジジイなのに、若い娘いるんだなあ……下半身は永遠に現役ってか?』
(下品なこと言うな。でもまあ、奥さん四人いるし、そのうちの一人なんだろうけど)
『ほほう……まあどうでもいい。それより、さっさと行けよ』
「え、あ」

 すると、ウルフギャングの速度が上がって行く。
 王国を出て、街道を走るが、レイアースもクリスも何も言わずついて行く。

(おいおい、速すぎるぞ……!!)
『ケケケ。なんだか楽しい旅になりそうだぜ』

 こうして、ラクレスたちは獣人の国に向かうのだった。
 任務は呪装備の破壊。
 気合を入れ、ラクレスは手綱を握るのだった。
 
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