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第二章

補佐

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 執務室に戻る途中。ダンテが言う。

『で、これからどーすんだ?』
「お前から離れるには、呪装備を探して食わせる必要があるんだろう。俺が『ラクレス』に戻るためにも、七曜騎士の仕事……呪装備の捜索をする」
『ほ、そんな仕事あるのか?』
「ああ。呪装備は人間にとって危険なモノだからな。発見したら七曜騎士が破壊しなくちゃいけないんだ」
『で、七曜騎士のお偉いさんに、呪装備の情報もらいに行くってか』
「そうだな……」

 今のラクレスは七曜騎士『闇』のダンテだ。
 七曜騎士なら、呪装備を探し破壊する仕事がしたいと言っても不自然ではない。そもそもラクレスは魔人で、魔界を裏切ってここにいるような設定だ。
 魔人にとって有益である呪装備を探したいと言っても間違いではない。

「話をするならイグニアス様だけど……」
『昨日七曜騎士になったばかりのペーペー野郎が、いきなり『呪装備を破壊したい』なんて言い出したら、オレ様だったら怪しむけどな』
「うぐ……」
『ま、焦んなよ。オレ様、オマエと一緒に過ごすの嫌いじゃねぇし、焦って脱ごうとしなくてもいーじゃねぇか』
「うるさい。とにかく……」

 と、執務室に戻ろうとしてる時だった。

「ダンテくん、いいかしら?」
「ッ!!」

 と、背後から女性の声。
 振り返ると、そこにいたのはエクレシアだった。
 柔らかな微笑を浮かべ、ラクレスに近づいて来る。

「驚かせてごめんなさいね。レイアースちゃんから聞いたと思うけど……あなたの専属騎士を選ぶことになったの」
「ああ、そうか……」

 専属騎士三名。
 それぞれ、準騎士、騎士、聖騎士を一名ずつ選び、七曜騎士の補佐とする。
 だが、エクレシアは少し困っていた。

「あのね、騎士を指名して専属にすることはできるんだけど……指名された騎士には拒否権があるの。もしかしたら……」
「俺に付きたがる騎士はいない、ということですね」
「う~ん……そうかもしれないわね。七曜騎士の専属になるっていうのは名誉なことで、普通は断るなんてことないんだけど」
「……俺が魔人だから、ですね」

 エクレシアは困ったようにほほ笑むだけだった。
 ラクレスは言う。

「大丈夫です。俺を認めていない騎士を専属にするつもりはありません。俺は一人でも大丈夫です」
「う~ん……一応、騎士に通達は出すわね」

 エクレシアは「じゃあ、通達したら訓練場に」と言って去った。
 ラクレスは知らなかった。騎士全員に『七曜騎士の専属募集』を出し、集まった者から指名するスタイル……だが、集まらなければ意味がない。
 ラクレスは小さくため息を吐く。

『ま、足手纏いはいらねーな』
「……足手纏い、ね」
『おい。今のうちに、鎧の変形機構をしっかり叩きこんでおけ。いつ戦闘になるかわかんねーからな』
「ああ、うん……」

 この日、ラクレスは、執務室にある自主訓練場で、ダンテの変形機構を試すのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日。エクレシアに呼ばれ、訓練場へ向かうと。

「…………」
「…………」

 訓練場には、誰もいなかった。
 ヒュゥゥ~と冷たい風が吹き、二人のマントが悲しく揺れる。
 エクレシアは、申し訳なさそうに言った。

「えっと……昨日、騎士に通達はしたんだけれど、その~……申し込み、誰もいなくて」
「ま、まあ予想通りと言いますか……うん、わかっていました」
「ご、ごめんなさいね。でもでも、これからお仕事して、功績を重ねていけばきっと、ダンテくんのこと気に入る騎士が出てくると思うから!!」
「は、はあ……」

 正直、期待はしていないラクレス。
 エクレシアは「こほん」と咳払い。

「えっと……ダンテくんにはこれから、陛下に謁見をしてもらいます。新しい七曜騎士って紹介をしなくちゃいけないからね」
「……普通は、最初にするものでは?」
「あはは。団長が決めたことだからね……ああ、陛下への紹介は私がするわ。団長の代理でね」
「わかりました」

 イグニアスは、国王と同じ権力を持つ……と、兵士だった頃聞いていた。
 七曜騎士『炎』の称号。ソラシル王国最強の騎士。その称号は遥か高みにある。
 ラクレスは、エクレシアと共に謁見の間へ。
 王城の謁見の間には初めて来たラクレス。周囲をキョロキョロしないようにし、扉の前へ。
 そして、謁見の間の扉が開き、エクレシアと中へ。
 すると、そこに意外な人物がいた。

「……チッ」

 七曜騎士『地』のウルフギャング・エッジ。
 狼の獣人である騎士が、国王の前に跪いていた。

「陛下。まだ私が謁見中ですが……なぜ、そこの魔人を入れたのですか?」

 ウルフギャングは、どう見ても不機嫌だった。
 ラクレスは、扉が開いたから入っただけ。だが国王が許可したようだ。

(ソラシル王国、国王……ハイゼンベルク・ユア・ソラシル十七世)

 ソラシル王国の王族であり、元騎士。
 ソラシル王国の王族は代々、光属性の魔法適正があり、必ず騎士として育てられる。
 御年七十三歳。そう思えないほど若々しく、肉体も活力にあふれているのが見てわかった。
 ハイゼンベルクは笑う。

「はっはっは!! よいではないか、ウルフ、お前の話にも関係のある騎士だ」
「……この魔人が、ですか?」

 わけがわからず、とりあえずエクレシアと共にウルフギャングの隣に跪く。
 ふと、ラクレスは気付いた。視線を感じて少しだけ顔を上げると、桃色の髪の少女がラクレスをジッと見ていた。

(ソラシル王国第一王女、クリス様……)

 剣技においては騎士最強の異名を持つ王族にして騎士。
 魔法適正は『光』だが魔力が弱い。だが、剣の才能だけは歴代王族の中で最も優れ、七曜騎士を除いた全騎士の中でも最強という。
 薄桃色の髪をポニーテールにして、厳しい瞳でラクレスを見ていた……が、許可なく顔を上げることはできないので、ラクレスは何も気づかないフリをする。

「さて、そなたがダンテか!! 話によると、故郷を追われた魔人だとか」
「……はっ、その通りでごさいます」
「そなたは、ソラシル王国に忠誠を誓うか? 故郷に帰り、魔人のために剣を振るわぬと誓うか?」
 
 驚くような質問だった。が、ラクレスは迷わない。

「はっ、我が剣はソラシル王国のために」
「よし!! ふむ、呪装備で脱げない鎧を着ているそうだな。ふふ、素顔を見てみたいものだ」
「申し訳ございません。脱げない鎧ですが、この装備は私に力を与えてくれますので、このままのが都合がよく」
「うむうむ。イグニアスめ、いい騎士を見つけた……ああ、イグニアスではなく、エクレシアが見つけたのだったな。うむ、褒美を取らせよう」
「ありがたき幸せ」

 エクレシアが言うと、ウルフギャングの口元からギリリッと歯を食いしばる音がした。

「……陛下」
「ああ、すまんな。ウルフ……お前の故郷で発見された呪装備についてか」
「───っ」
『ケケケ、こりゃ面白くなってきた』

 呪装備。
 ラクレスが思わず反応しかけたが、ウルフギャングが言う。

「現在、呪装備はダンジョンの最深部で眠っています。活動を再開すれば、獣人が依代となり、最悪の結果になるやもしれません……私に、破壊の許可を」
「うむ、獣人の国が混乱するのは本意ではない。いいだろう、許可する!!」
「ありがたき幸せ……では、さっそく」
「待たれよ」

 と、ハイゼンベルクはラクレスを見た。

「ウルフ、そなたは部下を連れて獣人国へ向かうつもりか?」
「は? はい……そのつもりですが」
「悪いが、そなたの部下は国内で待機だ。そなたの獣人部隊が抜けるのは、国にとって喜ばしくないことだからな」
「なっ……」

 唖然とするウルフギャング。だが、ハイゼンベルクは手で制する。

「慌てるな。単身、命を賭けろと言っているわけではない。呪装備なら……ちょうどいい人材がいるではないか」
「ま、まさか……」

 ウルフギャングの視線も、ラクレスに向いた。

「ダンテよ。ウルフギャングに同行し、獣人国で発見された呪装備の回収、破壊をせよ。これは王命である」
「……御意」
「くっ……御意」
『ケケケケッ、こりゃ面白くなるな。なあラクレス』

 こうして、ラクレスはウルフギャングと共に、獣人国の呪装備を──。

「お待ちください、陛下」
「む? どうした、クリス」

 クリス・シア・ソラシル。十六歳の天才剣士が言う。

「私も同行させてください。七曜騎士二人……これほど実りある修行はございません」
「む……ふぅむ。可愛い子には旅をさせろと言うし、いいだろう。ではダンテ、ウルフギャングよ。クリスを含めた三名で、獣人国の呪装備に対応せよ」
「「「御意」」」

 こうして、ラクレス初の任務……獣人国の呪装備破壊、回収が始まるのだった。
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