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第二章

七曜騎士の仕事

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 決意を胸にしたはいいが、ラクレスは聞かなければならないことがあった。

「あのさ……風呂とか、メシとか、その、トイレとかは?」
『もちろんこのままだ。口とか排泄とかは『穴』開けてやるから安心しな』
「あ、穴……うう、最悪だ」
『まあ、そのうち慣れるだろ。肌を晒すことはできねえ、ワリーな』
「……仕方ないか」

 がっくり項垂れるラクレス。
 ある程度の疑問が解消され、少しだけ余裕が出てきた。

「……先輩たちの供養に行きたいな。それと、腹も減った……」
『供養?』
「ああ。一度に多くの兵士が亡くなった場合、合同葬儀を行うんだ。まあ、黙祷を捧げるだけの簡素な葬儀だけどな……俺も一度経験した。魔獣狩りに出た部隊が全滅した時、葬儀を行った」
『ふーん。人間ておかしいな、死んだらタダの肉塊になるだけなのに』
「……その考えは嫌いだ。二度と言うな」
『へいへい。あ、腹も減ってんだろ? キッチンあるし、メシ探してみろよ』

 ラクレスは立ち上がり、キッチンへ。
 それほど広くはないキッチンだが、一通り揃っていた。

『なんだこれ?』
「冷蔵庫。魔道具だよ」
『魔力を感じるな。へえ、魔石を応用した道具か』
「ああ。こっちは魔導コンロ、こっちが魔導水」
『ほお、人間って弱っちいけど手先は器用なんだな』

 魔導コンロのスイッチを入れると火が付き、魔導水の蛇口を捻ると水が出た。
 ダンテは知らないモノを見て、大いに驚いている。
 ラクレスは、冷蔵庫を開ける……中にはチーズと乾燥豆しか入っていない。棚の中に、硬いパンが少しだけあった。

「……これだけ。まあ仕方ないか」

 ラクレスはパンを斬り、チーズを炙って溶かし、豆を潰してチーズと混ぜ、パンに塗った。
 なかなかの手際にダンテは言う。

『へえ、器用じゃねーか』
「別に、普通だよ。おい、口」
『おう……ほれ』

 すると、兜の口部分がガシャッと開いた。
 ラクレスはパンを食べ、水を飲む。

「はあ……いろいろあったな。魔獣に殺されて、妙な鎧に憑依されて、解放されるために七曜騎士になって、挙句の果てに呪装備を集めることになるなんて」
『ケケケ、楽しい人生じゃねぇか』
「うるさい。はあ……こんな鎧着てベッドに寝ること考えるだけで気が滅入る」
『うるせえ。それくらい慣れな。ってか命の恩人に言うセリフかそれ?』
「はいはい……とりあえず、今日はもう寝よう」

 パンを完食し、ラクレスは寝室へ。
 マントを外そうとしたが、ダンテが鎧に取り込んで収納してくれた。どうも気に入ったのか、マントは取り外しではなく、自由に出し入れできるようにしたらしい。

「……寝る」
『おう。おやすみ』

 ラクレスはベッドに横になる。
 鎧のせいで寝苦しいかと思ったが……疲れからか、すぐに意識を手放した。

 ◇◇◇◇◇◇

 翌日。

「ふぁぁ……ん、あれ!? って……そうか、鎧だった」

 全身鎧で快眠していたラクレス。自分の顔を触って驚いた。

『ケケケ、おはよう。オマエ、爆睡してたな』
「うるさいな……なあ、顔洗いたいんだが」
『無理に決まってんだろ。ちなみに、オマエと一体化した時、服とかは消化しちまった』
「……朝から聞きたくない事実。じゃあ俺、裸の上にお前を着てるのかよ」
『ああ。身体の汚れとかは、オレ様がナメ取ってやるよ』
「やめろ気持ち悪い!! うう、朝から最悪だ……」

 ラクレスは起床、硬いパンを食べ、そのままトイレへ……やや騒いだが問題なく済ませた。
 鏡の前に立つと、先日と変わらない鎧姿がある。
 そして、談話室に置いてあった剣を手に取り、腰にくっつける。ベルトやホルスターなど必要なく、磁力のようにダンテがくっつけてくれた。

「あ……そういや、この剣も遺品だったな。今日、葬儀があるなら返さないと」
『おいおい、剣はどうすんだ? まあ、オレ様の一部で作れんこともないが』
「武器倉庫にある鉄の剣でいいだろ。どうせお前の力でコーティングするんだから」

 適当に言うと、背中からマントがふわっと現れる……が、ただのマントのはずだったのに、首を覆うスカーフみたいな布が追加され、さらにマントの質感も変わっていた。

「お、お前……何かしたか? デザインが変わってるぞ」
『少しいじった。まあ、オレ様の一部に漬け込んで強化したのと、首元が寂しいからイジってみた』
「お前な……これ、七曜騎士としての支給品で」
『うっせ。ん? おい、誰か……ああ、レイアースのお嬢ちゃんが来たぞ』

 ダンテがそう言うと、ドアがノックされた。
 やや強めのノック。ラクレスは軽く深呼吸し、自分に言い聞かせる。

「俺は、七曜騎士『闇』のダンテ……ラクレスは、今はいない」
『そうそう。じゃあ行きな、ダ、ン、テ』
「……なんかムカつく言い方だ」
『ああそれと、オレ様の声はオマエにしか聞こえてないから、小声で喋るか心の中で思え』

 わかった、とラクレスは頷き、ようやくドアを開けた。

「……おはよう」
「おはよう」

 レイアースは、目元が少しだけ赤くなっていた。
 ラクレスは何も言わず、挨拶だけ返す。
 屋敷を出て歩き出し、城内へ。

「まずは、お前専用の執務室に案内する」
「……執務があるのか?」
「当然だ。七曜騎士はそれぞれ爵位と、専属の騎士団を与えられる。それと……執務は主に、領地経営などで使うことがほとんどだ」
「……領地経営」
「まあ、お前は魔人であり、領地を与えられることなどないだろうがな」

 その通りだった。
 七曜騎士は全員が貴族。獣人であるウルフギャングも、獣人が住まう領地を統治しているとラクレスは聞いたことがあった。
 
「まずは、お前の専属騎士の選抜だ……だが、覚悟しておけ」
「?」
「……まあ、そのうちわかる」

 執務室に到着した。
 王城内にある、ラクレスも入ったことのないエリア。一般兵士が入れるようなところではない。
 豪華な作りの廊下の先にある、立派なドアを開けたところにあった執務室だ。
 中は広い。壁の一面は本棚になっており、ソファやテーブル、執務机に椅子、窓から光が差していた。
 レイアースは窓を開けると、そこはやや狭い訓練場となっており、執務机の後ろにあるドアから外へ出れるようになっていた。

「お前専用の訓練場だ。狭いが我慢しろ」
「個人の訓練場もあるのか……」
「ああ。見られたくない力や技もあるだろう? ちなみに、七曜騎士は全員、個人訓練場を持つ……お前は新入りだし、狭いのは仕方ないがな」

 どうやら、他の七曜騎士の訓練場は広いようだ。
 レイアースは窓を開けたまま振り返る。

「しばらくはここに出勤だ。今は執務などないが……騎士の中から、お前の専属となる騎士を三人選ぶ。選択権はお前にあるが、騎士がお前を選ぶとは限らんからな」
「……どういうことだ?」
「いずれわかる。それと、お前の叙爵式も近いうちに行われる。国王陛下への謁見もあるから気を引き締めておけ」
「わかった」
「それと、七曜騎士の仕事だか……基本的に国内防衛と、騎士が対処できない魔獣などの討伐だ。呪装備の発見があった場合は回収なども行う」
「───!!」
「それ以外には、専属騎士の訓練や指導、配下の兵士などの訓練もある……それまでは、この部屋で領地の仕事などをする」
「…………」
「まあ、今のお前はやることがない。魔人であるお前は、ソラシル王国のことなど知らないだろう? ちょうど本もあるし、読書でもしているんだな……何か質問は?」

 やはり、警戒されているのか、他人行儀なレイアース。
 それがやや辛いが、ラクレスは「仕方ない」と思った。
 軽く首を振り、思い出したように言う。

「……一般兵の葬儀は?」
「ああ、今日の午後からだ。大勢死んだからな……私も参加する」
「俺も参加させてくれ。頼む……」
「……わかった。では午後に」

 それだけ言い、レイアースはさっさと部屋を出てしまう。
 残されたラクレスは、窓際へ。

「……はあ」
『ケケケ、他人行儀だなぁ?』
「……仕方ないよ。俺はラクレスじゃない。ラクレスを助けられなかった、ダンテなんだから」

 こんな日に限って、空は青々と晴れ渡っていた。
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