呪われ黒騎士の英雄譚 ~脱げない鎧で救国の英雄になります~

さとう

文字の大きさ
上 下
13 / 53
第一章

VS七曜騎士『雷』のエクレシア

しおりを挟む
 剣を構えたはいいが、ラクレスはビビッていた。

(ど、どうすりゃいい……!? 魔人とか呪装備とか俺が生きてるとか言いたいこと山ほどあるのに、なんでエクレシア様と戦うことになってるんだ……!?)
『はっはっは。面白い人生だよなあ』
(お前なあ!! そもそも、お前のせいで)
『ま、いきなりな展開でテンパるのも仕方ねぇ。少しアシストしてやる。ほれ、来たぞ』
 
 エクレシアは剣を構えると、全身に『紫電』を帯びた。

『……チッ、胸糞悪い雷だぜ』

 ダンテが忌々しそうにつぶやく。
 ラクレスは、全く別なことを考えていた。

(あれが、七曜騎士に選ばれた騎士が与えられる女神カジャクトの『神器』……エクレシア様の雷神器、『イナンナ』か)

 雷神器イナンナ。
 雷を自在に操る細剣であり、エクレシアは突きを最も得意とする騎士。
 突きの速度は七曜騎士で最速。まさに、雷のごとし。
 すると、首が勝手に傾いた。

「あら、お上手」
(えっ)

 エクレシアの突きが、ラクレスの鼻先を狙って放たれたのだ。
 サーッと顔が青くなる。今、首が動いたのは間違いなく。

『ケケケ、オレ様のアシストがなきゃ死んでたぜ? まあ、この女……手ぇ抜いてやがるけどな』

 ダンテのサポートがなければ、死んでいた。
 
『ある程度の攻撃はオートで躱してやる。お前は攻撃に専念しろ』
(専念って……まだ戦うこともよくわかってないのに)
『いいからやれ。さっきも言ったが、七曜騎士になれたらいろいろ説明してやるし、オマエの疑問も答えられる範囲で応えてやる。スッキリしたいだろ? だったら、ごちゃごちゃ考えるのは後にして、目の前にいる敵に集中しな』
(…………)

 その通りだった。
 ラクレスは呼吸を整え、再び剣を構えた。

 ◇◇◇◇◇◇

「…………ぇ?」
「どったの、レイアースちゃん」
「……その『ちゃん』付け、やめろと言ったはずなのだがな」

 七曜騎士『風』のエリオをジロっと睨むレイアース。
 言えるわけがない。
 剣を構えた黒騎士の姿とラクレスがダブって見えた。
 ラクレスはもういない。黒騎士曰く『死体がないということは生きている』だが……あれだけ大量の出血をして、助けを待つではなくどこかへ行くなど、ラクレスらしくない。
 
「それにしても……あの黒騎士、すげぇな。エクレシア姐さんの突きを回避するとは」

 七曜騎士なら誰でもできるレベルだが、初見で回避はレイアースもできなかった。
 正直、黒騎士はそんなに強くない。隙のない構え、人間が持たない『闇』の魔力には警戒したが……レイアースは、全力で戦えば勝てると思っていた。

「…………」

 それでも、レイアースは黒騎士から目が離せなかった。

 ◇◇◇◇◇◇

『参る』

 走り出すと、勝手に声が出た。
 背中に『噴射口ブースター』が展開され、魔力を放出して一気に接近。

「へえ、そういう鎧なのね」

 一刀両断。だがエクレシアは半歩避けて回避。
 ラクレスは左腕に小さな砲身を作り、魔力の弾丸をエクレシアに向けて連射した。
 
「『黒の機銃ブラックバルカン』」
「ッ!!」

 エクレシアは細かなステップを刻んで全ての弾丸を回避……そして、回避しながらラクレスに接近し、紫電を帯びた一閃を放つ。
 ラクレスも、交差するように剣を振る。
 愚直な訓練の結果現れる剣筋は、一直線にエクレシアに向かって飛ぶ。
 そして、互いの剣が交差し、それぞれの急所に突きつけられ……止まった。

「……と、こんなところでしょう。これ以上は殺し合いになるので」

 エクレシアはニッコリ笑って剣を引く。
 ラクレスも剣を引き、腰に納める。

『……ありがとうございました』
「ええ、こちらこそ。ふふ……次はもう少し、お互いに本気を出したいわね」

 エクレシアと握手。
 すると、イグニアスが頷く。

「いいだろう。黒騎士ダンテ……お前の実力を認める。それでは、決を採る。黒騎士ダンテが七曜騎士に相応しいと思う者、挙手せよ」
(え、け、決って……た、多数決で決めるの? だったら、この戦いの意味は?)

 エクレシア、エリオ、そしてイグニアスが挙手すると……残りの者もしぶしぶ挙手。
 
「決まりだ。これより黒騎士ダンテを七曜騎士『闇』に認定する!! 七曜騎士の証であるマントを受け取るがよい」
『…………』

 どういう流れなのか、いつの間にか司祭のような人がいて、手に黒いマントを持っていた。
 ダンテが疑問の声を出す。
 
『おいおい、今更だがこういうのってオーサマが授与するモンじゃねぇの? この赤ひげの騎士、いろんな手順無視してオマエのこと騎士にするつもりなのか?』
(イグニアス様は、ソラシル王国騎士団の最高責任者であり、最強の騎士なんだ。騎士に関わることは全てイグニアス様が仕切ってるし、国王陛下も逆らえないって話だ。それとイグニアス様……堅苦しい挨拶とか嫌いらしいよ)

 ラクレスはマントを受け取り、その場で羽織る。
 すると、ダンテが気を遣ったのか、留め金のようなものを生成し、マントを固定。
 
「本来なら、女神カジャクトの神器を渡し七曜騎士として迎え入れるのだが、知っての通り女神カジャクトは『闇』の神器を遺していない。理解しろ」
『わかりました』

 つい、素のラクレスの反応で返してしまうが、特に怪しまれなかった。

「では、黒騎士ダンテ。貴様を七曜騎士として迎える。七曜騎士に関しては……レイアース、お前が教えてやれ」
「なっ……っぐ、は、はい」

 物凄く嫌そうだった。
 こうして、ラクレスの人生が終わり、黒騎士ダンテとしての新しい人生が始まる。
 早々に七曜騎士たちは帰り、残されたレイアースと向かい合うラクレス。

「……チッ、仕事だから仕方ない。これから七曜騎士としての仕事を教える。感謝しろよ」
『ああ、感謝する……ありがとう』
「…………ふん」

 憧れの騎士になれた。幼馴染のレイアースとの約束も果たせた。
 だが、ラクレスとレイアースの距離は、あまりにも遠かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クールな生徒会長のオンとオフが違いすぎるっ!?

ブレイブ
恋愛
政治家、資産家の子供だけが通える高校。上流高校がある。上流高校の一年生にして生徒会長。神童燐は普段は冷静に動き、正確な指示を出すが、家族と、恋人、新の前では

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

処理中です...