呪われ黒騎士の英雄譚 ~脱げない鎧で救国の英雄になります~

さとう

文字の大きさ
上 下
8 / 53
第一章

未来へつなぐために

しおりを挟む
 新兵のルキアを逃がすことに、ラクレスもマリオも、ウーノもレノも迷いがなかった。
 普段、出世欲もなくやる気もイマイチのウーノとレノも、怖くて逃げだすような男ではない。兵士としてのプライドはある。
 剣を抜き、ドラゴンオークと対峙する。

「班長、どうします?」
「数は五体。伏兵がいるかもしれん。クソ……騎士の魔法があれば、隙くらい作れるんだが」
「だったら、これしかねぇな。おいウーノ」
「おう。おい新兵!!」
「は、はい!!」

 ルキアがビクッと震える。
 ウーノ、レノは微笑み、ルキアの背中を、そしてお尻を叩いた。

「きゃっ!?」
「はは、あと十年後くらいには、もっといい尻になってるかな?」
「だな。じゃあ、ちゃんと逃げろよ!! 班長、ラクレス、また後で!!」

 二人は走り出した。
 打ち合わせもなく、ラクレスが何か言おうと手を伸ばすが、二人は手を振って走り去った。
 マリオが叫ぶ。

「この、馬鹿どもが……!!」

 ウーノが馬鹿にしたように叫ぶ。

「ヘイヘイ!! こっちだアホ面のオーク!!」
「おいウーノ、いちおう、ドラゴンオークだぜ? まあブタの血が濃いけどなあ!!」
『グォォォ!!』
『グァルルル!!』

 ウーノ、レノを追い、ドラゴンオークが森の奥へ消えた。
 残り三体。ラクレスは歯噛みする。

「……班長、残り三体です」
「……遺跡だ。遺跡内におびき寄せるぞ。ルキア、ワシとラクレスがドラゴンオークを遺跡内におびき寄せる。その間に逃げて、応援を呼んでこい」
「は、班長……班長補佐」

 ドラゴンオーク三体が、ラクレスたちを見た。
 ラクレスはルキアを掴み藪に飛び込み、マリオが遺跡に向かって走り出す。
 そして、ラクレスは言う。

「俺と班長であの三体を引き付ける。いいかい、急いで応援を呼ぶんだ。いいね」
「は、班長補佐、わ、わたし」
「大丈夫。みんなで生きて帰るんだ。いいね、ルキア」
「ぅ……」
「さあ、行くんだ!!」

 ラクレスが飛び出すと、ドラゴンオークの残りがラクレスを見た。
 そして、ラクレスは弧を描くように走り、注意を引き付ける。
 マリオは、すでに遺跡の近くにいた。

『ゴァァァァァッ!!』
「──っ!?」

 速い。
 ラクレスの近くまで一気に来た。
 ドラゴンオークの一体が腕を振り被り、そのままラクレスを引き裂こうとする。
 ラクレスは全力で走り、遺跡の中に飛び込む。
 
「ラクレス!! こっちだ!!」
「──っ、はい!!」

 ラクレスは走り、遺跡内へ。
 広い一本道の通路を走る。横幅が広く、天井が高い。
 周りには血が飛び散り、一般兵士の四肢や肉片が落ちていた。待ち構えていたドラゴンオークに食われたのだろう。
 ドラゴンオークは、順調に追って来ていた。

「ラクレス、こっちだ!!」
「は、はい……ッ」

 マリオの背を追う……そして気付いた。
 マリオから、血が滴っていた。
 そして気付く……ラクレスの右手首が消失していた。

「よし、追って来てるな。こっちだ!!」
「え……」

 曲がり道に入り、小部屋となった。
 小部屋は何本もの柱があり、いくつか倒壊していた。
 マリオは、倒れている柱の一つに迷わず向かう。壁際に向かって倒れた柱の傍に、小さな穴が空いていた。そこに二人で飛び込み、岩で蓋をする。
 ドラゴンオークが入ってくる気配がした。

「班長」
「心配すんな。ここは、ワシが新兵のころに見つけた横穴でな……まだあって助かったぜ」
「そ、そうじゃなくて……手が」
「チッ……」

 マリオは、手ぬぐいを出して強引に縛る。
 そして、マリオは言う。

「ラクレス。お前、背中……」
「……今は、興奮しているせいか痛みを感じません。かなり深い……恐らく、助かりません」
「……クソ」

 ラクレスの背中は、ひどく傷ついていた。
 皮鎧が真っ赤に染まり、ひどく引き裂かれている。ラクレスの顔色も悪く、失血死寸前だった。
 ドラゴンオークが、周囲を探る足音が聞こえてくる。

「……ラクレス」
「はい……」
「お前も逃げろ。すぐに手当てすれば助かる。いいか……この遺跡はほぼ一本道。こういう横穴はもうない。奥に行けば行き止まり……ワシが、そこまであいつらを引き付ける。あいつらが奥に消えたら、お前も行け」
「……班長」
「……息子のように思っていた」

 そう言い、マリオは左手でラクレスの頭を撫でる。
 マリオは笑い、ラクレスが何かを言う前に横穴から飛び出した。

「おうらバケモノども!! ワシに追いつけるかなあ!!」

 マリオは、遺跡の奥に走り出す。
 ドラゴンオークが追う。だが……ラクレスは失血で意識が遠のきかける。
 
「……班長」

 立ち上がれず、座り込んでしまうラクレス。
 不思議なくらい、温かい。
 ぼやける視界で下を見ると、自分が血だまりの上に座っていると気付く……全て、ラクレスの血。
 そう自覚した瞬間、猛烈に寒くなった。

「…………」

 小さいころの記憶が、ラクレスの脳裏によみがえる。
 両親と剣の訓練、頭を撫でてもらい、好物のピーチパイを食べた。
 レイアースと訓練した。気弱そうなレイアースは、いつもラクレスが手を引いていた。
 両親が死に、二人で涙した……でも、立ち止まらずに兵士になった。

(……レイアース)

 幼馴染。
 きっと、初恋だった。
 残された全ての力で、ラクレスはポケットの指輪を握りしめる。
 そして、力が抜け……壁に寄りかかった時だった。

 ◇◇◇◇◇◇

『───待ってたぜ』

 ◇◇◇◇◇◇

 声が聞こえた。
 ラクレスは横倒しになった。
 壁に寄りかかったはずなのに、壁が消えていた。
 
「…………?」

 幻だろうか。
 そこは、小さな部屋……祭壇のようなところだった。
 祭壇に、黒い何かが安置されていた。
 ぼやける視界では、よく見えない。

『……死にかけてんな。まあいい……おいオマエ、オレと契約しろ』
「…………」
『ケケケ。もう声も出ねえのか。まあいいぜ……オマエの身体、オレがもらってやる』

 そんな声が聞こえ……ラクレスの身体が、黒い何かに包まれた。
 
『あん? って、おいおいマジか──』

 驚くような声が聞こえ、ラクレスは意識を失った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

第3次パワフル転生野球大戦ACE

青空顎門
ファンタジー
宇宙の崩壊と共に、別宇宙の神々によって魂の選別(ドラフト)が行われた。 野球ゲームの育成モードで遊ぶことしか趣味がなかった底辺労働者の男は、野球によって世界の覇権が決定される宇宙へと記憶を保ったまま転生させられる。 その宇宙の神は、自分の趣味を優先して伝説的大リーガーの魂をかき集めた後で、国家間のバランスが完全崩壊する未来しかないことに気づいて焦っていた。野球狂いのその神は、世界の均衡を保つため、ステータスのマニュアル操作などの特典を主人公に与えて送り出したのだが……。 果たして運動不足の野球ゲーマーは、マニュアル育成の力で世界最強のベースボールチームに打ち勝つことができるのか!? ※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。

元勇者、魔王の娘を育てる~血の繋がらない父と娘が過ごす日々~

雪野湯
ファンタジー
勇者ジルドランは少年勇者に称号を奪われ、一介の戦士となり辺境へと飛ばされた。 新たな勤務地へ向かう途中、赤子を守り戦う女性と遭遇。 助けに入るのだが、女性は命を落としてしまう。 彼女の死の間際に、彼は赤子を託されて事情を知る。 『魔王は殺され、新たな魔王となった者が魔王の血筋を粛清している』と。 女性が守ろうとしていた赤子は魔王の血筋――魔王の娘。 この赤子に頼れるものはなく、守ってやれるのは元勇者のジルドランのみ。 だから彼は、赤子を守ると決めて娘として迎え入れた。 ジルドランは赤子を守るために、人間と魔族が共存する村があるという噂を頼ってそこへ向かう。 噂は本当であり両種族が共存する村はあったのだが――その村は村でありながら軍事力は一国家並みと異様。 その資金源も目的もわからない。 不審に思いつつも、頼る場所のない彼はこの村の一員となった。 その村で彼は子育てに苦労しながらも、それに楽しさを重ねて毎日を過ごす。 だが、ジルドランは人間。娘は魔族。 血が繋がっていないことは明白。 いずれ真実を娘に伝えなければならない、王族の血を引く魔王の娘であることを。

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

処理中です...