呪われ黒騎士の英雄譚 ~脱げない鎧で救国の英雄になります~

さとう

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第一章

遺跡

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 騎士三人、そして八つの班、合計四十二名による調査部隊が遺跡に到着した。
 騎士一人につき二班ずつ、そして残り二班は遺跡周囲の警戒となる。
 ラクレスたち七班は、八班と共に遺跡周囲の警戒となった。
 ラクレスは、ルキアと二人で周囲を警戒する。

「あの、班長補佐……この遺跡、不思議な形ですね」

 遺跡は、石造りの要塞みたいな形をしていた。
 それほど大きくはないが、しっかりとした頑丈な作りで、見た目の古さとは別に、崩れている個所もなければ、壊されたようなところもない。
 現在、騎士たちが調査を開始しているが……。

「……まあ、何もないだろうな。あるのは……」

 ゴブリンの死骸が、遺跡周囲に山ほどあった。
 その数、三十以上。現在、ラクレスたちはゴブリンの死骸を一か所に集め、燃やすための穴を掘っているところである。
 ラクレスは、ゴブリンの足を掴んで引っ張っていた。

「……うーん」
「班長補佐、どうしたんですか?」
「いや、なんか気になってさ」

 ゴブリンの死骸。
 全部、頭と首を斬られ死んでいる。敵は魔獣で、剣を持つタイプだとわかる。
 同じゴブリン系の上位種か、それ以外の人型魔獣か。
 ソラシル王国の周辺に生息する、武器を持つタイプの魔獣を考えてみるが、このように死骸を放置していなくなる魔獣は想像がつかない。

「普通は、死んだゴブリンは他の魔獣のエサになるんだ。でも、ここのゴブリンは死骸がそのまま残っている……」
「はあ……たまたまでは?」
「うーん」

 現在、遺跡内に向かった騎士たちからの連絡はない。
 すると、マリオがラクレスたちの元へ。

「騎士が魔法でゴブリンを燃やすってよ。死骸はそれで最後か?」
「あ、はい」

 ラクレスは、遺跡近くに掘った穴にゴブリンを入れる。
 そして、一般兵士たちが乾燥した藁や枝を穴に入れ、騎士が手を向ける。

「燃えろ……『ファイヤーボール』」

 騎士の手から火球が生み出され、ゴブリンたちを一気に焼き尽くす。

「…………」
「班長補佐?」
「あ、いや……」

 選ばれし者が使うことのできる『魔法』である。
 地水火風光雷の六属性。この騎士は『火』の適性があり、火魔法を得意としている。
 魔法、剣技を組み合わせた剣技を振るうことのできる人間が『騎士』なのだ。
 ラクレスは、騎士の魔法が素直に羨ましかった。
 騎士は、ラクレスたちに言う。

「よし。死骸の処分はこれでいい。あとは、遺跡調査をした騎士たちの帰還を待つ。その間、第八班は周囲の警戒を続けておけ」
「「「「「了解」」」」」

 騎士の命令に従い、第八班は遺跡の裏に回った。
 ラクレスたち七班も集合し、確認を取る。

「よーし。ワシらは入口周囲を警戒するぞ。警戒を怠るなよ」
「「「「了解」」」」

 ラクレスたちは敬礼をし、遺跡の入口付近へ移動……その時だった。

「……ん?」

 ラクレスは、妙なものを見つけた。
 遺跡の入口付近にある、小さな藪……そこが、きらりと光って見えた。
 一人、班から離れて藪を確認する。

「……これは」

 それは、踏み潰されたゴブリンの骨だった。
 腕の骨だろうか……だが、おかしいラクレスは感じた。
 
「この骨……いつのだ? 少なくとも、俺たちがここに来た時のゴブリンじゃない」

 骨には、肉がついていた。
 腐敗……少なくとも、ここ最近の物ではない。
 数週間、それ以上前の物。
 それがなぜ、こんな藪に落ちているのか。
 ラクレスは嫌な予感がした。腕の断面が、斬られたのではなく、噛み千切ったような跡がついていたのだ……そして。

「……これは、足跡」

 藪の傍に、大きな足跡があった。
 ゴブリンの物ではない。
 犬、猫ではあり得ない大きさ。少なくとも、ラクレスの知る動物ではない。
 そもそも、動物ではない。まるで猛禽類のような、鋭利な爪のある足跡だ。

「……なんだ。この違和感」

 背中がムズムズした。
 何かがおかしい……そう、直感めいたものを感じた時だった。
 
「お?」

 レノの声が聞こえた。
 同時に、何かが地面に落ちる音。
 それは、ルキアの傍に落ちた。

「え、なんだろこれ──……えっ」

 それは、肉だった。
 しかも、腕。
 人間の腕が、何かに食い千切られたような、そんな状態で落ちてきた。
 ルキアが「ひゅっ」と息を吸い。

「っっっきゃああああああああああ!!」

 絶叫した。
 同時に、周囲の藪から大量の魔獣が飛び出してきた。

「おいおいマジか」
「うそだろ」

 ウーノ、レノが感情のない声を口から漏らす。
 最も冷静だったのは、マリオだった。

「全員剣を抜け!! 魔獣だ!!」

 それは、魔獣の襲撃。
 ラクレスはもう足跡を見ていない。
 その足跡は、隠れ潜んでいた魔獣のものだった。ゴブリンの腕は、魔獣がおやつがわりに食べていたゴブリンのものだったと、一瞬で理解した。
 ラクレスは剣を抜く。
 現れた魔獣を見て、震えそうになった。

「ドラゴン、オーク……!!」

 二足歩行のドラゴン。
 ドラゴン系魔獣。オークの体格を持つドラゴンで、手には棍棒を持っている。
 マリオは、騎士に指示を仰ごうとした、が……。
 
「全員、武器をっぶへぇぁ」

 騎士が剣を抜いた瞬間、上空から棍棒を手にしたドラゴンオークが現れ、騎士の頭を叩き潰した。
 同時に、遺跡の中からもゾロゾロとドラゴンオークが現れる。
 手には、騎士と一般兵士の死体があった。どれも損壊が激しく、食いちぎられたような噛み跡がある。
 それを見て、ラクレスは確信した。

「……ま、まさか。最初から、狙われていた?」
「……ラクレス、どういうことだ」

 マリオが傍に来て質問する。

「恐らく、狙いは俺たち『人間』です。ドラゴンオークは知能も戦闘力も高い魔獣です。ゴブリンの死骸を遺跡に並べて放っておけば、俺たち人間が調査に来ると知っていた……そして、ばらけさせ、個別撃破を狙い……」
「……食事を開始する、か」

 ドラゴンオークは五体。
 騎士を喰らい、一般兵士を喰らっていた。
 人間がオーク肉を、魔獣の肉を食うのと同じ。罠を張り、こうして生け捕り、食らっている。
 完全に、罠にはめられた『餌』だった。
 マリオは周囲を確認する。

「生きてんのは、ワシら第七班だけ。騎士は全滅、遺跡内の連中もダメだろうな……」
「は、班長……笑えないっすね」
「し、死ぬ……かも?」

 ウーノ、レノは軽口を叩きつつも、汗を流し震えていた。剣を抜くだけの力はあるようだが。
 だが、ルキアはダメだった。
 股間から湯気が立ち上り、ガタガタ震えている。
 ラクレスは周囲を見渡し、マリオを、ウーノとレノを見た。

「……班長」
「チッ……それしかねぇか。おいルキア、新人!!」
「は、はひ」
「お前を逃がす。応援を呼んでこい!!」
「はへっ」

 マリオの決断に、ウーノのレノも理解……覚悟を決めたのか、震えが止まった。
 ラクレスは言う。

「ルキア。きみをここから逃がす。敵はドラゴンオークが五体、もしかしたらそれ以上……下級騎士じゃない、一般騎士以上、できれば……」

 ラクレスは、レイアースの姿を思い浮かべる。
 
「できれば、七曜騎士を呼んできてくれ」
「あ……」
「ルキア。きみしかいないんだ……頼むぞ」

 ラクレスは剣を抜く。
 ルキアを逃がすためには、戦うしかない。

(……レイアース)

 もしかしたら、帰れないかもしれない。
 ラクレスはほんの少しだけ微笑み、ドラゴンオークたちと対峙した。
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