呪われ黒騎士の英雄譚 ~脱げない鎧で救国の英雄になります~

さとう

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第一章

七曜騎士『光』のレイアース

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 七曜騎士。
 ソラシル王国最強である七人の騎士であり、それぞれ地、水、火、風、光、雷の魔法適正を持つ。
 その実力は、たった一人で騎士千人以上。まさに一騎当千の強さ。
 ソラシル王国と敵対する国からも、『七曜騎士が出たら引け』と言われるほど、その強さは高い。
 そんな七曜騎士の中で、歴代最年少であり、最も才能に恵まれた騎士がいた。
 レイアース・ヴァルキュリア。
 若干十八歳にして、七曜騎士『光』の称号を賜った騎士である。
 現在、専用の執務室で、専属騎士という従者の仕事をする騎士の少女三人と執務を行っているのだが。

「……ルーナ、ヒミカ、ソアレ。いい加減にして欲しいのだが」

 レイアースは、ルーナに髪を梳かれ、ヒミカに手を揉まれ、ソアレに肩を揉まれていた。
 レイアースの専属騎士の一人、ルーナが言う。

「まあまあ、レイアース様はお疲れのようですし……それに、髪が少し傷んでいますよ? 綺麗なライトシルバーなんだから、ちゃんとお手入れしないと」
「別に、洗髪だけでいいだろう」
「ダメダメ。ちゃんと香油を付けて、綺麗に梳いて……でも、ただ洗うだけでこんな綺麗になるのもスゴイかも」

 そして、手を揉むヒミカ。

「レイアース様、お疲れですね……手のツボを刺激するだけで、お疲れってわかります。どうです? ちょっとだけ電気刺激……」

 ヒミカは『雷』の適性を持つ騎士。ほんの少しだけ電気を流し、レイアースの手をマッサージする。
 レイアースはほっこりした表情になる。

「ふう……気持ちいい」
「ふふん。レイアース様の専属マッサージ師ですからね。まだまだ気持ちよくしちゃいますよ~」

 そして、肩を揉んでいるソアレ。

「ちょっとヒミカ、専属マッサージ師はあたしよ。はいはいレイアース様~……ゴリゴリと肩を刺激しますよ~」
「お、ぉぉ……気持ちいい」

 レイアースはとろーんと顔を綻ばせた。
 やはり、疲れが溜まっているのだろう。だが、すぐにハッとする。

「ま、待て。もういい、お前たち、仕事に戻れ」
「「「はぁ~い」」」

 三人は離れ、執務室にある自分の席へ。
 どうやら、部下三人に心配されるほど、疲れが出ていたようだ。
 ルーナは言う。

「でもレイアース様。最近、執務かなり増えてますよねえ。この後、訓練もするんですよね?」
「ああ、私はまだ未熟だからな」

 カリカリと羽ペンを滑らせるレイアース。ヒミカはムスッとした。

「最近、忙しくてまともなお休みも貰えない。レイアース様、最近王都に新しいスイーツのお店ができたんです。みんなで行きません?」
「スイーツか……行きたいが、仕事を終わらせてからだな」
「もう。花の十代の時間は短いんですよ? 仕事仕事、鍛錬鍛錬だけじゃすぐに終わっちゃいます!!」

 そうだそうだと、ソアレも同意。
 そしてソアレはペンを止め、ニヤリとする。

「それに……恋だってしたいですしね!!」
「「うんうん!!」」

 ルーナ、ヒミカはウンウン頷く。
 三人はレイアースと同じ十八歳。七曜騎士になり、専属騎士を三名まで任命できることになり選んだ、同性、同年代の騎士だ。専属騎士というよりは友人に近い。
 ヒミカはレイアースに聞く。

「レイアース様!! 恋とかしたことあります?」
「こ、恋……?」
「そうそう!! そーいえば、七曜騎士『風』に食事に誘われてませんでしたっけ?」
「え、なにそれ!! ヒミカ、ほんと?」
「まじまじ。あたし、レイアース様と一緒に書類届けに歩いてたら、あのチャラチャラした男が来てさ、すっごく話しかけてきてさ」
「きゃ~!! なにそれ!! すっごく気になるし!!」

 きゃあきゃあと笑い合う三人。レイアースは苦笑する。
 この三人といると、自分が年頃の娘であることを自覚できる。それだけで、この三人との時間は楽しく、素敵なものだった。

「ね、レイアース様ってキスしたことあります!?」
「そ、それ以上とかは? 恋人とかいたことあります!?」
「キス以上……ダメダメ、刺激強すぎる!!」

 だが……限度がある。
 レイアースは手をパンと叩くと、三人娘はピタっと止まる。

「元気が有り余っているようで何よりだ。お前たち……王城の外周を十周!! 少しエネルギーを抜いてから執務に戻るように!!」
「「「え、えええ~!?」」」
「さあ走れ!!」

 パンと手を叩くと、三人は慌てて執務室を出て走り出すのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 三人がいなくなり、レイアースだけになった執務室。
 レイアースは窓を開け、外の空気を吸う……そして、自分の執務机の引き出しを開け、納めてあった小さな小箱を開ける。

「……お付き合いか。そんな経験はないけど……してもよかったかも」

 それは、ペアリング。
 レイアースの宝物であり、命に匹敵するほど大事な物。

「……すごかったな」

 レイアースは頬を染める。
 先日、夜の鍛錬を終えて帰ろうとした時、素振りの音が聞こえた。
 第七班が使う訓練場……チラリと覗くと、そこにいたのはラクレス。
 立場が変わり、三年も口を聞いていない。でも、その鍛え抜かれた上半身と、毎日欠かさず続けていることがわかる素振りを見て、レイアースは確信した。
 ラクレスは、諦めていない。

「……ラクレス」

 心臓が高鳴ったのを覚えている。
 手にタオルを無意識に持ち、ラクレスに渡したいと考えてしまう。
 そして、いざ出ようと思った時……第七班の班長がラクレスの前に出た。

『ラクレスは、騎士になれない』

 そう、死刑宣告をした。
 レイアースは歯噛みした。魔法適正のないラクレスが騎士になるなんて、絶対にできない。
 その通りだと、納得しそうになった。でも……。

『それでも、俺は諦めません。俺は……もう、忘れられているとしても、『約束』を果たしたい』
『……約束?』
『守るって言ったんです。俺は騎士になって、守るって……俺なんかより強くて、才能もあって、何だお前はって感じですけど……叶うなら、せめて隣に立ちたいって思いました』

 心臓が、壊れそうなくらい跳ねたのをレイアースは覚えている。
 約束を、忘れていなかった。
 守ろうと、今も努力をしていた。そして。

『……おこがましいよな。俺が守るとか……俺なんかいなくても、あいつはもう立派な騎士だ』

 指輪を──『誓いの指輪』を持っていた。
 レイアースは、ラクレスに会いたかった。
 だが、何を言えばいいのかわからない。
 三年も、怖くて話せなかったのに。

『……誰だ』

 だから、ラクレスが気付いた時、逃げ出してしまった。
 
 ◇◇◇◇◇◇

「あぁぁぁ~……」

 もしかして、自分は大きなチャンスを逃したのでは? と、レイアースは思った。
 もしかしたら……また、昔のように。
 レイアースは、指輪を小箱に戻そうとし……ふと、一緒に入れておいたチェーンを通し、首にかけた。

「……は、肌身離さず持っていた方がいい。うん、宝物は仕舞うものじゃなく、身に付ける物だ」

 ふと、思い出す。

『ね、レイアース様ってキスしたことあります!?』

 キス……その相手はもちろん。

「……ば、馬鹿か私は!!」

 レイアースは首をブンブン振り、自分の頬をパンと叩く。
 たるんでいる。今日の訓練は厳しくしようと決めた。
 そして、指輪を見つめる。

「……今度会えたら、挨拶からしてみよう」

 そう決め、レイアースは椅子に座って執務を再開するのだった。
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