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第一章
今の現状
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流行病だった。
三年ほど前、王都ギラファドを襲った流行病は、ラクレスとレイアースの両親をあっけなく殺した。
そして、家族を失ったラクレス、そしてレイアース。騎士の子供という立場だけでは何の力もなく、両親が死ぬと同時に、二人はただの孤児となった。
貴族でない孤児に、貴族街の片隅とはいえ、貴族の屋敷に住むことは許されずに追い出された。
でも……幸運なことに、二人は十五歳。兵士になり、騎士になることができれば生きていける。
だから二人は、ソラシル王国の兵に募集した。
そして、王城の訓練場に向かい、魔法適正を調べた時だった。
「残念ながら……あなたに魔法適正はありません」
「…………え」
心臓が止まったような気がしたラクレス。
父は騎士。魔法適正があり、魔法も使えた。
だったら、息子である自分もできるはず……と、信じて疑っていなかった。現に、魔法適正は遺伝するとの研究成果もあり、ラクレスの中では魔法はあって当たり前の存在だったのだ。
だが……ラクレスに、魔法適正はなかった。
「う、嘘、ですよね? だ、だって俺の父は騎士だ!! 父は魔法を使えた!!」
魔法適正の審査官に食ってかかる。
だが、高齢の審査官は「たまにこういう奴いるんだ」みたいな表情をして言う。
「しかし……地、水、火、風、雷、光の六属性のどれにも反応しませんでしたので」
ラクレスの前には、黄青赤緑紫白の宝石がはまったプレートがあり、それに触れることでどの属性の魔法適正があるか判別できるのだが……どの宝石も反応がしなかった。
反応がない。つまり、魔法適正がないという事実。
「とりあえず、一般兵登録をしておくので、あちらのカウンターに」
「…………」
「では、次の方」
ラクレスは、フラフラしながら部屋を出た。
そして、訓練場の片隅にある小さな小屋で、個人情報を記入していた時だった。
「ラクレス……」
「あ……レイアースか」
レイアースが、どこか戸惑ったような表情でラクレスの元へ。
そして、どこか言いづらそうに言う。
「そ、その……私、魔法適正あったの。でも、その……『光』の属性なの」
「……え」
光属性。
魔法適正の中でも、滅多に適応者がいない属性だ。ソラシル王国でも数人しかいないはず。
気付いたが、小屋の入口に何人か騎士が立っていた。
「その、私……兵役を免除されて、すぐに準騎士になれって。それで、騎士が鍛えてくれるみたいで」
「そういうことだ」
と、騎士の一人がラクレスの前へ。
「きみは、彼女の幼馴染だそうだね」
「あ……は、はい」
「彼女の魔法適正は『光』……そして、その潜在能力は未知数だ。適正試験始まって以来の逸材ということだ。申し訳ないが、今後彼女は準騎士として、いずれは『七曜騎士』となるべく鍛えることになる……わかるね? 長らく不在だった七曜騎士『光』の席が埋まることになるんだ」
「…………」
「きみは、魔法適正がなかったそうだね」
「えっ……ら、ラクレス!? 嘘だよね!?」
レイアースがラクレスに掴みかかるが、ラクレスにはそれを振りほどくこともできない。むしろ、この場から消えてなくなりたかった。
騎士は、レイアースをそっと押さえる。
「幼馴染のきみにこうして話したのは、これから彼女と軽々しく接して欲しくなかったからだ。わかるね?」
「…………」
「ま、待ってください!! 軽々しくとか、そんな」
「レイアース」
ラクレスは、無理やり笑顔を張り付けた。
あまりにも痛々しい笑みに、レイアースがビクッと震える。
「がんばれ。おれも、がんばるから」
「…………ぁ」
騎士は、ラクレスに向かって頷き、レイアースの肩を押した。
「一般兵としての活躍を祈っている」
それだけ言い、レイアースと騎士は去った。
この日から三年。ラクレスはレイアースと、一言も喋ることはなかった。
◇◇◇◇◇◇
この日から、ラクレスは見習い兵士として登録され、一年間の兵士訓練を受けることになる。
男女混合寮による共同生活。過酷な訓練。そして勉強。
十六歳になるころには、三百人いた見習い兵士がたった七十人となった。
ラクレスは、過酷な訓練を耐え抜き……ようやく見習い兵士を卒業。
新兵として、ソラシル王国歩兵隊、第十二中隊第七班に配属された。
第七班は五名。班長、班長補佐、兵士二名、新兵であるラクレスという構成だ。
配属日。ラクレスは第七班に与えられた部屋に行き、挨拶をする。
「本日より第七班に配属された、ラクレス・ヴェンデッタです!! よろしくお願いします!!」
ビシッと敬礼。すると、四十代ほどの男性が笑う。
「はっはっは!! 若いのは元気があっていいな。ワシは第七班班長のマリオ。こっちは副班長のハンス、そして一般兵のウーノとレノだ」
「よろしく新兵。ハンスだ」
「ウーノ。ま、欲を言えば新人は女の子がよかったかな?」
「違いない。おっと、レノだ。よろしくな」
全員と握手。
マリオはラクレスを部屋の一番後ろにあったボロ椅子に座らせる。
「さて、自己紹介も終わったところで、今日は新兵のために『第七班の任務』について説明する」
兵士の主な仕事は、与えられた地区の警備、地区内での犯罪の対処などが主な仕事だ。
「ソラシル王国、王都ギラファドは全部で五十の地区がある。ワシらは第十二部隊の第七班なので、第十二地区の七番区画担当ってわけだ。簡単だろ?」
「なるほど……」
ラクレスが相槌を打つ。
ソラシル王国は広く大きい。人口は数百万人おり、区画も五十ある。一つの区画だけでも数万にいて、さらに細かく区分けされているのだ。
部屋の壁にある大きな地図には、第十二区画の七番地区にマークがしてあった。
「さて、今日も巡回から始めるぞ。新人、お前はワシについて仕事を学べ」
「えっ」
驚くラクレス。
すると、ウーノが言う。
「ま、驚くよな。普通、新人のお守は下っ端であるオレやレノの仕事だ。いきなり班長に付けって言われたら驚くよなあ?」
「うるせえ。ワシはな、どんな奴でも新人と一度は仕事してぇんだよ。とにかく、さっさと巡回に行け!!」
「「「了解!!」」」
「りょ、了解!!」
こうして、ラクレスの初仕事、王都の巡回が始まるのだった。
三年ほど前、王都ギラファドを襲った流行病は、ラクレスとレイアースの両親をあっけなく殺した。
そして、家族を失ったラクレス、そしてレイアース。騎士の子供という立場だけでは何の力もなく、両親が死ぬと同時に、二人はただの孤児となった。
貴族でない孤児に、貴族街の片隅とはいえ、貴族の屋敷に住むことは許されずに追い出された。
でも……幸運なことに、二人は十五歳。兵士になり、騎士になることができれば生きていける。
だから二人は、ソラシル王国の兵に募集した。
そして、王城の訓練場に向かい、魔法適正を調べた時だった。
「残念ながら……あなたに魔法適正はありません」
「…………え」
心臓が止まったような気がしたラクレス。
父は騎士。魔法適正があり、魔法も使えた。
だったら、息子である自分もできるはず……と、信じて疑っていなかった。現に、魔法適正は遺伝するとの研究成果もあり、ラクレスの中では魔法はあって当たり前の存在だったのだ。
だが……ラクレスに、魔法適正はなかった。
「う、嘘、ですよね? だ、だって俺の父は騎士だ!! 父は魔法を使えた!!」
魔法適正の審査官に食ってかかる。
だが、高齢の審査官は「たまにこういう奴いるんだ」みたいな表情をして言う。
「しかし……地、水、火、風、雷、光の六属性のどれにも反応しませんでしたので」
ラクレスの前には、黄青赤緑紫白の宝石がはまったプレートがあり、それに触れることでどの属性の魔法適正があるか判別できるのだが……どの宝石も反応がしなかった。
反応がない。つまり、魔法適正がないという事実。
「とりあえず、一般兵登録をしておくので、あちらのカウンターに」
「…………」
「では、次の方」
ラクレスは、フラフラしながら部屋を出た。
そして、訓練場の片隅にある小さな小屋で、個人情報を記入していた時だった。
「ラクレス……」
「あ……レイアースか」
レイアースが、どこか戸惑ったような表情でラクレスの元へ。
そして、どこか言いづらそうに言う。
「そ、その……私、魔法適正あったの。でも、その……『光』の属性なの」
「……え」
光属性。
魔法適正の中でも、滅多に適応者がいない属性だ。ソラシル王国でも数人しかいないはず。
気付いたが、小屋の入口に何人か騎士が立っていた。
「その、私……兵役を免除されて、すぐに準騎士になれって。それで、騎士が鍛えてくれるみたいで」
「そういうことだ」
と、騎士の一人がラクレスの前へ。
「きみは、彼女の幼馴染だそうだね」
「あ……は、はい」
「彼女の魔法適正は『光』……そして、その潜在能力は未知数だ。適正試験始まって以来の逸材ということだ。申し訳ないが、今後彼女は準騎士として、いずれは『七曜騎士』となるべく鍛えることになる……わかるね? 長らく不在だった七曜騎士『光』の席が埋まることになるんだ」
「…………」
「きみは、魔法適正がなかったそうだね」
「えっ……ら、ラクレス!? 嘘だよね!?」
レイアースがラクレスに掴みかかるが、ラクレスにはそれを振りほどくこともできない。むしろ、この場から消えてなくなりたかった。
騎士は、レイアースをそっと押さえる。
「幼馴染のきみにこうして話したのは、これから彼女と軽々しく接して欲しくなかったからだ。わかるね?」
「…………」
「ま、待ってください!! 軽々しくとか、そんな」
「レイアース」
ラクレスは、無理やり笑顔を張り付けた。
あまりにも痛々しい笑みに、レイアースがビクッと震える。
「がんばれ。おれも、がんばるから」
「…………ぁ」
騎士は、ラクレスに向かって頷き、レイアースの肩を押した。
「一般兵としての活躍を祈っている」
それだけ言い、レイアースと騎士は去った。
この日から三年。ラクレスはレイアースと、一言も喋ることはなかった。
◇◇◇◇◇◇
この日から、ラクレスは見習い兵士として登録され、一年間の兵士訓練を受けることになる。
男女混合寮による共同生活。過酷な訓練。そして勉強。
十六歳になるころには、三百人いた見習い兵士がたった七十人となった。
ラクレスは、過酷な訓練を耐え抜き……ようやく見習い兵士を卒業。
新兵として、ソラシル王国歩兵隊、第十二中隊第七班に配属された。
第七班は五名。班長、班長補佐、兵士二名、新兵であるラクレスという構成だ。
配属日。ラクレスは第七班に与えられた部屋に行き、挨拶をする。
「本日より第七班に配属された、ラクレス・ヴェンデッタです!! よろしくお願いします!!」
ビシッと敬礼。すると、四十代ほどの男性が笑う。
「はっはっは!! 若いのは元気があっていいな。ワシは第七班班長のマリオ。こっちは副班長のハンス、そして一般兵のウーノとレノだ」
「よろしく新兵。ハンスだ」
「ウーノ。ま、欲を言えば新人は女の子がよかったかな?」
「違いない。おっと、レノだ。よろしくな」
全員と握手。
マリオはラクレスを部屋の一番後ろにあったボロ椅子に座らせる。
「さて、自己紹介も終わったところで、今日は新兵のために『第七班の任務』について説明する」
兵士の主な仕事は、与えられた地区の警備、地区内での犯罪の対処などが主な仕事だ。
「ソラシル王国、王都ギラファドは全部で五十の地区がある。ワシらは第十二部隊の第七班なので、第十二地区の七番区画担当ってわけだ。簡単だろ?」
「なるほど……」
ラクレスが相槌を打つ。
ソラシル王国は広く大きい。人口は数百万人おり、区画も五十ある。一つの区画だけでも数万にいて、さらに細かく区分けされているのだ。
部屋の壁にある大きな地図には、第十二区画の七番地区にマークがしてあった。
「さて、今日も巡回から始めるぞ。新人、お前はワシについて仕事を学べ」
「えっ」
驚くラクレス。
すると、ウーノが言う。
「ま、驚くよな。普通、新人のお守は下っ端であるオレやレノの仕事だ。いきなり班長に付けって言われたら驚くよなあ?」
「うるせえ。ワシはな、どんな奴でも新人と一度は仕事してぇんだよ。とにかく、さっさと巡回に行け!!」
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