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第七章

大罪魔獣『強欲な魔鳥』ステュムパリデス

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 ステュムパリデスは、三つの口から炎、氷、雷のブレスを吐きだした。
 俺は左手に闘気を貯めて放出する。

「『闘気精製ドラゴンスフィア』───〝黄金盾ゴルシルド〟!!」

 黄金の盾を装備し、炎を弾きながら突っ込む。
 だが、上空では鳥である奴に分があるのか、俺の突撃をサラリと躱した。右手を首を切断してやろうと思ったが、難なく躱されてしまう。
 すると、ステュムパリデスの口が開き、大きな炎、氷、雷の弾がいくつも吐き出されて周囲を旋回する。

『『『キュァァァァッ!!』』』
「くっ……こんな奴の相手してる場合じゃないのに!!」

 こいつ。俺より動くのが速い。
 無視して王都を目指すっていう手もあるけど……そうしたら、王都まで付いてきそうだ。それだけは避けないと。
 まずは、動きを止めないと。
 使えるスキルは三つ。『炎龍闘気』と『樹龍闘気』……そして『潜航』だ。上空では潜航は使えない。リンドブルムの力も、大地を中継しないと使えない。
 スヴァローグの炎しかないな。

「スキルイーター・セット、『炎龍闘気』」

 炎の闘気が俺を包み込む。
 だが、ステュムパリデスの身体も炎に包まれた。
 この野郎、対抗する気か。

「くそ、急いでるのに───……邪魔すんな!!」

 俺はステュムパリデスに向けて、もう一度突撃した。

 ◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇

 A級冒険者キルトの率いるチーム『アークライト』は、王都の一等地にアジトを構えている。
 その応接室で、キルトはイザベラから新しいスキルを見せられていた。
 キルトは、震えが止まらない。

「れ、レジェンドスキル……」
「『大賢者』のスキル。魔法系、最強のスキルよ。キルト、あなたが装備している『地水火風魔法』を外して、この『大賢者』を装備なさい」
「は、はい!!」

 言われた通り、キルトは『大賢者』を装備する。
 そして、気付いた。

「……あれ、この『大賢者』」
「気付いた? そう、そのスキルは特殊でね、レベルがないの。最初から全属性の魔法を行使できるわ」
「す、すっげぇ……」

 キルトは最強の魔法使いとなった。
 レジェンドスキル。ハイゼン王国では見たこともないし、おとぎ話でしか聞いたことがない。このクロスガルドでも、国王陛下と、S級冒険者くらいしか付けていない。
 そのスキルが、キルトの手に。

「あなたの魔力と、『大賢者』のスキル。エピックスキルの『持続回復』があれば、あなたは無敵。キルト……もっともっと強くなって、母を喜ばせてちょうだい」
「はい!! ククク……まずは、一学年……いや、学園で最強になってやりますよ」
「ええ」
「母上、お願いがございます」
「何かしら?」
「母上の情報網から、『ギガントマキア』と『大罪魔獣』の情報を集めていただけないでしょうか?」
「……何をするの?」
「決まっています。世間を騒がす『ギガントマキア』と、世界の脅威である『大罪魔獣』を討伐し、オレの名前を世界中に広めるのですよ」
「……その必要はありません。それに、ギガントマキアは……」
「え?」

 イザベラは、椅子に深く座り直し、足を組んで微笑んだ。

「ギガントマキアは、私の組織。いずれあなたが受け継ぐべきものよ」
「…………はい?」

 キルトは、意味が分からず首を傾げていた。

 ◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇

「だらぁっしゃ!!」

 レノは、侵入者の男の顎を強烈なアッパーで叩き砕いた。
 男は床を転がり、壁に激突して気絶する。
 
「や、やっと一人目……ヤバいぞこいつら、ガチで強ぇぇ!!」
「わかってるわよ……ったく、何の恨みを買ったんだか」

 レイの双剣は血で濡れている。
 三人、レイは斬り殺した。
 そしてアピア。アピアも三人撃った。眉間に穴が空いておりどう見ても死んでいる。意外なことに、人を殺したというのにアピアは冷静だった。マガジンを交換し、スライドを弾いて静かに構えている。
 アキューレは、まだ一人も倒していない。

「みんな、すごいね」
「へへ、まーな」
「ちょっと、気を抜かないで……来るわよ」

 リビングの空いたドアから、一人の男がのそっと現れた。
 神官のようなローブ。スキンヘッド。そして両目が潰れていた。
 盲目。だが、発せられる圧力は、この男……シモンが、遥か格上だということだ。
 アピアは、ごくりと唾を飲み込み言う。

「せ、セバスチャン……は」
「久しぶりに楽しめそうだったが、今は用事を済まさねばな」

 シモンは、見えないはずの目でアキューレに顔を向けた。

「え……わ、わたし? あなた、フリーデン王国の」
「関係ない。我らが主が、エルフの血をご所望なのだ。そこのお前、来てもらうぞ」
「ふっざけんじゃねぇ!!」

 レノが走り出す。
 腕力強化と身体強化。魔力による身体強化と、スキルによる腕力強化だ。
 魔力による強化と、スキルによる強化の効果は雲泥の差。レノの腕力は、ワイルドボアの突進を真正面から受け止められるほど強化されている。
 そんなレノの拳が、シモンの腹に突き刺さる。
 ズドン!! と、とんでもない音が響く。

「いい拳だ」
「……なっ」
「だが、まだ足りん」
「ぐぉえ!?」

 ボン!! と音がして、レノが天井に激突した。
 シモンの拳がレノの腹に突き刺さり、そのまま天井に叩き付けられたのである。
 白目を剥き、泡を吹いて気絶するレノ。
 ハッとしたアピアがシモンに向けて銃を連射する───が、シモンは全ての弾丸を素手でキャッチ。床にパラパラと落とした。

「う、うそ」
「すまんな、お嬢さん」

 シモンはアピアの両手を銃ごと握り締め、ベギャッと砕いた。

「あ、ぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 両手の指が数本へし折られ、痛みで涙を流し倒れるアピア。
 レイはすでにシモンの背後に回っていた。アピアの両手が掴まれた瞬間、助けることではなく囮に使うことを瞬時に選択したのである。
 シモンは笑っていた。

「いい選択である」
「っ!!」

 レイの剣がシモンの首を切り落とす───ことはなかった。
 シモンの首の一部が、『鋼鉄化』していた。
 スキルによる防御。そう思った瞬間、レイは強烈な裏拳を喰らい、リビングの壁を破壊して隣の部屋に激突し、気を失った。
 シモンは、アキューレに言う。

「死は免れん。だが、エルフの神に祈る猶予は与えられる」
「……わかった。一緒に行く」
「賢明な選択だ。ところで……お前の連れのエルフはどこだ?」
「逃がした。助けを呼びに」
「……まぁ、いいだろう。一人いれば今のところは十分」
「どこに行くの?」
「ギガントマキア総本部。クルシュ王国にある霊山、ウロボロス山脈だ」
「遠いね……」
「ふ、祈る時間が増えてよかったではないか」
「うっ」

 シモンはアキューレの首に手刀を叩きこみ気絶させ、脇に抱えて歩き去った。
 
 ◇◇◇◇◇

 シモンがいなくなり数分後……リビングにある隠し階段へ続く本棚が、ゆっくり開いた。
 そこから出てきたのは、メイドのルルカ。
 その眼は、涙で濡れていた。

「姫様……っ」

 ルルカは涙を拭い、歯を食いしばる。

「クルシュ王国、ウロボロス山脈……」

 そこに、アキューレはいる。
 さりげなく「どこへ行くの?」と聞きだしたのは、アキューレの作戦だ。
 きっと、助けに来てくれるという願いだ。
 そして───それを願う相手は、一人。

「リュウキ様……」

 ルルカは、リュウキならきっと助けてくれると信じ、仲間たちの手当てと後片付けを始めた。
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