上 下
66 / 109
第六章

エルフという種族

しおりを挟む
 翌日。王都へ戻り、真っすぐムーン公爵家へ。
 本来なら、俺たちみたいなただの学生、冒険者が行けるところでも会えるような人でもないんだが……アピアが屋敷の門兵に声をかけると、すぐに屋敷に通された。
 ここに初めて来るレノ、サリオは緊張と興奮だった。

「ままま、マジか……き、きき、貴族の屋敷。しかもクロスガルド二大公爵家の、ムーン公爵家……ききき、緊張して吐きそう。うっぷ」
「見て、この絨毯の刺繍いいなぁ。あ、あっちの絵画も……いいなぁ」

 応接間で、レイは出された紅茶に口を付ける。

「ん、おいしい。さすがムーン公爵家」
「お前は緊張しないのか?」
「別に? 貴族の依頼を受けたこともあるし、それに公爵なんて言っても、あたしと同じ人間で、赤い血が流れてるのよ? 緊張なんてしないわ」
「お前、大物だな……それ、公爵様の前で絶対言うなよ」
「はいはい」

 そして、アキューレ。
 アキューレは澄ました顔で紅茶を飲み、ルルカさんは静かにアキューレの後ろに立っていた。うーん……なんだろう、どこかで見たような気がする。
 すると、応接間のドアが開かれ、フリードリヒ・ムーン公爵様が笑顔でやってきた。

「やぁやぁ、無事に戻ったようで何よりだ。ロックワーム、大変だったろう?」
「「「「「「「…………」」」」」」」

 俺たちは全員黙り込む。というか、ロックワームて。
 すると、アピアが言う。

「公爵様。ご報告がございます」
「ん? なんだい?」
「ムーン鉱山にいたのは確かにロックワームでした。それと、鉱山に無断で侵入した『ギガントマキア』の構成員と遭遇、そのうちの一名が所持していたスキル『マスターテイム』により操られた、『大罪魔獣』の一体と交戦、なんとか討伐しました」
「……なんだって?」

 ムーン公爵の笑顔が消えた。
 ソファに座り、真面目な顔で言う。

「続きを聞こう。それと、そちらのお嬢さんたちのこともね」

 公爵様の目は、エルフのアキューレたちに向いていた。

 ◇◇◇◇◇

「───……なるほどねぇ」
「というわけで、彼女たちの保護、故郷へ帰るお手伝いを「いいよ」……え」

 アピアが言い終わる前に、公爵様は頷いた。

「エルフ族は世界の宝だしね。始祖の一族を無事に送る手伝い、喜んでするよ」
「ありがとうございます」

 アピアが頭を下げ、俺たちも全員頭を下げた。
 公爵様の砕けた態度や口調に親近感を覚えたのか、レノが小声で「始祖、宝……?」と呟き、公爵様がニコッと笑う。

「エメラルドグリーンの髪、瞳。彼女たちはエルフの始祖、エルダーエルフだ。ヒトの祖先であり、東方にある『聖樹アダム』と『聖樹イブ』の管理を神から一任された、この世界で最も高貴なる一族だね。あなた方は……東方にある亜人の国『フリーデン』の王族ですね?」
「……驚きました。ヒトが我々のことを、ここまで詳しく知っているとは」
 
 ルルカさんが一礼した。
 高貴なふるまいというか、洗練された一礼だ。
 アキューレが小さく頷くと、ルルカさんが言う。

「こちらの方は、森林王国フリーデンの姫君。アキューレ・シシリカ・ロッテンマイア・フリーデン様……フリーデン王国の正式なる後継者でございます」
「「「「「「え」」」」」」
「ああ、やっぱりね。フリーデン王国最強の精霊使いと噂される、フリーデン王国の『精霊姫』、アキューレ様だったか」
「えっへん」

 アキューレは胸を張る……というか、子供っぽいのにデカいな。ルルカさんなんてほとんどないのに。
 それとようやくわかった。アキューレとルルカさんの立ち位置、アピアとセバスチャンさんと同じなんだ。
 俺は思わず言う。

「エルフの国のお姫様が、なんであんなところに? というか、最強の精霊使いって」
「……中央諸国に来てみたかったの。それで、お忍びで旅行していたら、あの人たちにつかまっちゃった……戦おうと思ったけど……あの鉱山には精霊がぜんぜんいないし、契約した精霊を呼ぶ暇もなかったの」
「そ、そうだったのか。悪い……あ、も、申し訳ございません。姫君と知らず、無礼な口調と態度で」
「いい。リュウキは、助けてくれた。あのドラゴンみたいな姿、かっこよかった」
「あ」
「……ドラゴン?」

 しまった。公爵様が反応した。
 
「そういえば、大罪魔獣の一体……ミドガルズオルムをどうやって退治したんだい?」
「…………」

 下手に隠し事をすればまずい。貴族を敵に回したくない。
 俺はレイたちを見る。レイたちは小さく頷いた。
 そして、俺は闘気でティーカップを作る。

「俺は『獣化』スキル……ドラゴンに変身できる能力を持っています。それで倒しました」
「…………へぇ」

 公爵様は、面白そうなものを見る目で笑っていた。
 さすがに、エンシェントドラゴンのことは言わなかった。

 ◇◇◇◇◇

 さて、話は終わった。
 俺たちの役目は終わり。あとは公爵様に任せよう。
 立ち上がると、俺の袖をくいッと引っ張るアキューレ。

「行っちゃうの……?」
「……姫様」
「そう呼ばないで。アキューレって呼んで」
「……アキューレ」

 不安に揺れる瞳だった。
 そうだよな……盗賊に攫われ、売られかけたんだ。まだ怖いのかもしれない。
 俺は、アキューレの手をそっと握る。

「大丈夫。公爵様なら安全に故郷まで送ってくれる。夏の長期休暇になったら、みんなでフリーデン王国まで遊びに行くからさ、その時みんなで遊ぼう」
「……リュウキ」
「昨日も言ったけど、両親に元気な姿を見せて安心させてやれ。それが一番のお礼になるからさ」
「…………うん」
「それじゃ、元気で」

 アキューレから手を放し、俺たちは屋敷を出た。
 出るなり、レノは俺の背中を小突く。

「お前、マジで女殺しだな。お姫様、お前にメロメロじゃん」
「そんなんじゃないって。助けたのが俺だから気になってるだけだ。俺じゃなくてお前が助けたらお前にメロメロだったぞ」
「マジか!! くぅ~惜しいことしたぜ」
「そこの二人、兄さんの店行くわよ。あとリュウキ、いつまでもデレデレしない!!」
「し、してないっての」
「むー……私は、レイちゃんと同じです。リュウキくん、アキューレさんに優しすぎました」
「あ、アピアまで」
「あはは。リュウキくん、大変だねぇ」
 
 サリオ……そう思うなら、変わってくれ。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

最強スキル『忍術』で始めるアサシン教団生活

さとう
ファンタジー
生まれつき絶大な魔力を持つハーフィンクス公爵家に生まれた少年、シャドウ。 シャドウは歴代最高と言われるほど絶大な魔力を持っていたが、不幸なことに魔力を体外に放出する才能が全くないせいで、落ちこぼれと呼ばれ冷遇される毎日を送っていた。 十三歳になったある日。姉セレーナ、妹シェリアの策略によって実家を追放され、『闇の森』で魔獣に襲われ死にかける。 だが、シャドウは救われた……世界最高峰の暗殺者教団である『黄昏旅団』最強のアサシン、ハンゾウに。 彼は『日本』から転移した日本人と、シャドウには意味が理解できないことを言う男で、たった今『黄昏旅団』を追放されたらしい。しかも、自分の命がもう少しで尽きてしまうので、自分が異世界で得た知識を元に開発した『忍術』をシャドウに継承すると言う。 シャドウはハンゾウから『忍術』を習い、内に眠る絶大な魔力を利用した『忍術』を発動させることに成功……ハンゾウは命が尽きる前に、シャドウに最後の願いをする。 『頼む……黄昏旅団を潰してくれ』 シャドウはハンゾウの願いを聞くために、黄昏旅団を潰すため、新たなアサシン教団を立ちあげる。 これは、暗殺者として『忍術』を使うアサシン・シャドウの復讐と、まさかの『学園生活』である。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...