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第五章

リュウキの闘技大会

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「スキル『獣化』……すごいな、初めて見た」
『そりゃどうも』

 対戦相手のエドワードは、人型の狼に変身した。
 俺は『闘気開放エンシェント』で全身を強化する。同様に、エドワードも魔力で『身体強化』を使っているようだ……不思議だ。闘気開放すると、相手の魔力の流れもなんとなく見える。
 
『さぁ、遊ぼうぜ!!』
「ああ、楽しめそうだ」

 エドワードが───……一瞬で背後へ。
 俺はしゃがみ、横薙ぎを回避。

『!?』

 驚くエドワード。俺はしゃがんだままの体勢から足払いをする。闘気で強化された蹴りは効いたのか、エドワードの体勢が崩れた。
 そのまま、拳に闘気を込めてエドワードの横っ面を殴る。

『ゴバッ!?』

 エドワードがリングを転がる。だが、すぐに態勢を整える。
 口から「ペッ」と血を吐き顔をぬぐう。

『やるじゃねぇか』
「どうも。お前もな」
『へっ……キルトがギャーギャー騒ぐから、どんなクズ野郎だと思ってたけど……いいパンチだ。やっぱ、実際に戦わねぇとわかんねぇな』
「……お前、いいやつだな」
『はは、いい奴ね。そう思うんだったら、手加減するなよ?』
「ああ。少し本気で行く」

 込める闘気の量をあげる。あまり強すぎると殴り殺しかねない。
 エドワードの毛が逆立つ。

『ったく、どんなスキル宿してんだ……』
「あー……」

 スキルイーターは特に検証してない。だって、相手の一部を食うとか無理だし。
 エドワードの体勢が低くなる。
 俺も身体を低くして、エドワードとほぼ同時に飛び出した。

『ッシャァァァァ!!』
「『龍拳インパクト』!!」

 ズドン!! と、エドワードの腹に俺の拳が突き刺さる。
 今度は吹っ飛ばなかった。衝撃が綺麗に突き抜けた。
 エドワードは口から血を垂らし、ニヤリと笑い……獣化が解けた。
 倒れるエドワードを、俺は支える。

「お前の、勝ち、だ……」
「ああ、ありがとな」
『勝者!! Dクラス、リュウキ!!』

 割れんばかりの歓声に俺は応えた……うわぁ、これ気持ちいいかも。

 ◇◇◇◇◇

 それから、試合は順調に進み……俺は医務室にいた。

「い、痛いよぉ~……リュウキくぅん」
「マルセイ、お前……大丈夫か?」
「ぅぅぅ」

 ボロボロでベッドに横たわるマルセイ。
 マルセイは、魔法スキルで対戦相手と打ち合い、魔力が互いに尽きて、最後は殴り合いの泥仕合となった。互いの拳が同時に顔面にヒットし、ダブルノックダウンで引き分け。
 マルセイが勝てば俺との戦いになったのに。

「うぅ、リュウキくんは次……ぼくとの戦いだったのにぃ」
「悪いな、今度機会があればやろうぜ」
「ふ……いいよ、いたたたた……」

 マルセイは、パンパンに腫れた顔を痛そうに擦る。
 俺は聞いてみた。

「そういえば、次の試合は誰だっけ?」
「Aクラスのレイちゃんと、Dクラスのレノだよ。レノ、Dクラスとは思えない強さらしいよ」
「へぇ……レイとレノか」

 あの二人が当たるとは、なかなか面白そうだ。
 俺もマルセイに構っていないで、様子を見に───。

「ぐ、いでで……ちくしょう、あいつ」
「……レノ!? おま、もう終わったのか!?」

 医務室に担がれてきたのは、レノだった。
 待て待て。どうなってんだ?
 すると、付き添いのサリオが言う。

「瞬殺だよ。試合開始と同時に、レノが倒された」
「え……」
「レイさん、すごく気合入ってる。だって、次の試合は……」

 サリオが対戦表を渡してきた。
 確認すると、レイ対レノ、キルト対プリメラ、マルセイ対ポッケ、俺対バイク。
 俺とバイクの戦いは俺が勝ち、マルセイ対ポッケは引き分け。レイとレノはレイが勝ち……。

「キルト対プリメラ。プリメラ、試合開始と同時に棄権した。これで準決勝はレイとキルトだ」
「……マジか」

 嫌な予感がした。
 俺は不戦勝で決勝行き。もうすぐ試合が始まる。

「すぐに試合は始まる。おいリュウキ、あいつのところ行ってやれ」
「ああ」

 俺は医務室を出て、レイの元へ向かった。
 
「悪いけど、手は抜かないから」

 控室に入るなり、そう言われた。
 レイは、自前の槍を連結させてクルクル回転させたり、手に雷を集中させている。
 一緒にいたアピアも不安そうだ。

「レイちゃん、すごく気合入ってて」
「別に普通だし」
「ふふ、そうですね」

 レイは槍を二本にして背中に収納した。

「じゃ、行ってくる。リュウキ、あんたがやりたかっただろうけど、あたしがやっちゃうから」
「好きにしろよ。それと……気を付けろよ」

 レイは軽く手を振り、リングに向かった。

 ◇◇◇◇◇◇

 リングには、キルトが立っていた。
 手には杖を持ち、腰には剣を差している。
 レイを見てニヤリと笑い、杖を突き付けた。

「兄貴の女か。おもしれぇ」
「こっちは面白くない。あんたみたいなカス、さっさと始末する」

 レイは槍を抜き、双剣として構えた。
 そして───試合開始の合図。
 レイは双剣に『雷』を宿し、身体強化して走り出す。

「ッシ!!」
「っとぉ!!」

 キルトは双剣を回避し、杖を振るう。
 杖から風の刃が飛び出すが、レイは双剣を振って打ち消す。

「『ファイア』!!」

 杖から炎が───だが、レイは横っ飛びで回避。

「『ウォーター』!!」

 水の塊が飛んで来た。レイは身体を捻って回避。
 そして、合わせて風の刃も飛んでくる。レイは絶妙なタイミングで回避した。

「ちょこまかと……!!」
「…………」

 レイは双剣の一本を投げる。
 キルトが突風を生み出し、双剣は地面を転がる。だが、レイはキルトに接近。
 転がった剣に手を向けると、剣はまっすぐレイの手に収まった。スキル『磁界』により、金属ならどんなものでも引き寄せることができる。
 そしてキルト。突風を生み出したことで、次の魔法への行動が少し遅れた。
 レイは見逃さない。
 
「遅い」
「ぬがっ!?」

 キルトの杖が両断され、キルトも地面を転がった。
 経験の差だ。
 キルトには、実戦経験が足りてない。

「実戦経験の差ね。貴族のおぼっちゃん、ろくに戦場やダンジョンを知らないみたい。大事に大事に育てられてきた、箱入りのお坊ちゃまね」
「んだと……?」
「いくら強力なスキルを宿そうと、あんたがヘボなら意味がない、ってことよ」
「ヘボ、ね……それはどうかな?」
「あ?」

 ───俺は見た。
 リングの外から、小さな『虫』が飛んできて……レイの首に、何かを刺した。

「なっ」
「リュウキくん?」
「今の……」
「?」

 アピアには見えていない。
 刺されたレイも気付いていない。
 誰も、気付いていなかった。

「……ッ、?」
「どうした? 体調不良か?」
「……なっ、なに、これ」
「ふん。自己管理もできないお前に、箱入りとか言われたくねぇなぁ」

 キルトは剣を抜き、地水火風の力を集める。
 あれはやばい……!! 

「レイ!! 逃げろ!!」
「遅い。『エレメンタル・ブラスト』!!」
「───……ッ」

 四色の光に包まれ、レイは場外に吹き飛ばされた。
 戦闘不能により、キルトの勝利。
 観客に応えるキルトを無視し、俺とアピアはレイの元へ。

「レイ、レイ!!」
「ぅ……」
「酷い火傷……早く医務室に!!」
「ああ!!」
「おいおい兄貴、次はオレとの試合だぜ? へへへ、楽しくなってきたなぁ?」
「…………」
 
 俺は───キルトを殺すつもりで睨んだ。
 アピアがビクッと震えたのがわかったが、気にしない。

「逃げたら殺す」
「へ、こっちのセリフだぜ」

 俺はキルトを睨みつつ、アピアと一緒にレイを医務室に運んだ。
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