追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう

文字の大きさ
上 下
36 / 109
第四章

大罪魔獣『暴食の影狼』マルコシアス

しおりを挟む
 もう、動くしかなかった。
 俺は闘気を解放し、マルコシアスに向かって走り出す。
 背後で、レイが叫んだような気がしたが無視。
 生きて帰るには、こいつを倒すしかない。

「剣技───『四閃刀』!!」

 縦と横に二回ずつ斬る技。俺の得意技だ。
 ミスリルソードに闘気を込めた斬撃、前の俺ならともかく、今の俺ならミスリルソードを闘気で守りながら斬撃力を上げることもできる。
 この状態なら、岩石だってバターのように。

「えっ」

 斬撃が当たった瞬間、ミスリルソードが砕け散った。
 何が起きた。
 マルコシアスの尻尾が、動いたような気がした。
 背筋に冷たい汗が流れ、全力でありったけの闘気を解放し両腕を交差した。
 次の瞬間、視界が歪んだ。

「───……~~? ───、……??」

 意味がわからない。
 世界がグニャグニャになっていた。俺の腕もグニャグニャだ。
 タコのような世界。おかしい、なんだこれ?
 誰だ? 眼の前にいる? 

「き、リュウ……キ!!」
「~~……?? ───」

 レイ、アピア?
 なんで、この二人が? 何が、おきた?

「リュウキ!! リュウキってば!!」
「い、いやぁぁぁ!!」
「キュア!! キュア!! キュア!!……う、うぅぅ」
「ち、ちくしょうが!! はぁ、はぁ、はぁ……」

 ああ、俺の腕……ない。
 千切れ飛んだのか。
 血がすごいな。はは、よく生きている。
 レイ、俺を抱きしめてる。アピア、泣くな。
 レノ、逃げろ。お前じゃ無理だ。サリオ、やめとけ。もう無理だ。

『ハルルル……』

 マルコシアスは、餌を見るような眼で俺たちを見ていた。
 こいつ、初めから戦う気なんてない。
 餌。
 餌なんだ。こいつにとって、俺たちは餌。
 現れたから、食うだけ。
 戦うとかじゃない。目の前に飛んでいる羽虫に、舌を伸ばすだけ。

「ど、どうしよう、どうしよう、どうしよう……に、兄さん、兄さん」
「はぁはぁはぁ、はぁはぁはぁ、はぁはぁはぁ!! し、死ぬ。死ぬ。死ぬ」
「ごめん、ごめんリュウキくん……ぼ、ぼく、もうむり」
「リュウキくん、リュウキくん、死なないで、死なないで」

 レイが動転し、レノは死を感じ、サリオは諦め、アピアは俺を抱きしめてくれた。
 温かい。ああ、死なせたくない。
 死なせたく、ない。

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

 ───死なせたくない?

 ああ、死なせたくない。

 ───やれやれ、手間のかかる。

 え?

 ───まだ、この段階ではない。

 誰?
 
 ───これは、きっかけだ。

 ……きっかけ?

 ───お前は、最初で最後。ドラゴンの力を受け継いだ人間。

 この声、もしかして。

 ───ふふ、頑張れ、リュウキ。
 
 お前は───。

 ───さぁ、あんな狼……丸呑みしろ・・・・・

 エンシェント、ドラゴン……?

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

 ◇◇◇◇◇◇

「……え?」
「……え」
「……え」
「え……?」

 両腕を失ったリュウキが、ゆっくりと立ち上がった。
 フラフラとした動きで、肘から消失した腕の断面から血を流しながら。
 死にかけていたリュウキが立ち上がった。
 このことで、四人はわずかに理性を取り戻す。
 だが───リュウキは、逆だった。

「ウ……」

 ビクン、ビクンと身体が痙攣した。
 そして───リュウキの右目が、真紅と黄金が混じった色に変わる。
 同時に、失った両腕がズルズルと生えてきた。が……普通の腕ではなかった。
 左腕は、分厚い装甲版のような、黄金の表皮に赤いラインが入った腕。
 右腕は、通常の三倍はある肥大した装甲のような腕だった。
 さらに、髪が金色に染まり───絶叫した。

「ウ、オォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ───ッ!!!!!!」

 圧倒的な闘気があふれだす。
 可視化できるほどに濃密となった闘気。レイたちにも、黄金のモヤがリュウキを包んでいるのが見えた。
 リュウキの頭に、二本のツノが生える。
 この事態、マルコシアスも無視できなかった。

『───!?』
「ハァァァァ~~~っ!!」

 口を歪めたリュウキは、笑っていた。
 リュウキであり、リュウキでない……完全に、暴走していた。
 マルコシアスはようやく、リュウキを『餌』ではなく『異物』と認め、尾を逆立てる。
 だが、『闘気解放』によってリュウキの身体は極限まで強化されている。
 一瞬でマルコシアスの眼前まで現れ、巨大な右手でマルコシアスの顔面を掴み、そのまま部屋に壁に叩き付けた。

『ガッ……!?』
「ハァッハッハッハァ!! ハァァァァッ!! アハハハハッ!!」

 リュウキはゲラゲラ笑い、再びマルコシアスに向かって走り出した。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...