最強スキル『忍術』で始めるアサシン教団生活

さとう

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第六章 学園社交界

黄昏旅団所属『悪魔』ヴィーネ③

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 ふと、シャドウはローストビーフを食べながら気付く。

(……何だ、妙な気配)

 シャドウは、ラウラほどではないが『魔力の揺らぎ』を何となく感知できる。
 勘に頼る部分もあるが、異質な魔力や大きな魔力が動くと、何となく妙な予感が働き、胸の奥がゾワゾワするような感じがするのだ。
 周りを見ると、ようやくパーティーに慣れたのか、生徒たちが談笑している。

「……」
「シャドウくん?」
「ルクレ。もう食うな。嫌な予感してきた……」
「え?」

 シャドウは、ハンゾウの修行で『闇の森』の中で一人、何日も行き抜いた。
 魔獣に襲われたこともあるし、修行の一環で自分より格上の魔獣と戦い、知恵を振り絞って倒したこともある……その時に磨かれた勘が、警告を鳴らしていた。
 皿を置き、ナプキンで口を拭く……そして、今更ながら油断していた。
 なぜ、黄昏旅団所属『恋人』のクピドが近くにいるのに、こうも食事を楽しんでいたのか。

(───……まさか)

 シャドウは、さらに注意深く周囲を探る。
 そして、パーティー会場に薄い『魔力のような膜』が張り巡らされていることに気付いたが、気付かないフリを全力でした。
 
(馬鹿な。何だこれ……まさか、この魔力が)

 パーティーを楽しみ、食事を楽しみ、この雰囲気を楽しんでいた。
 それは……精神に作用する魔法。
 そうとしか考えられない。そして、その魔法がクピドから発していることにシャドウは気付いた。が……魔力の中心こそクピドだが、発生源は別。
 どこか別の場所で同時に魔法を発動させ、クピドを中継して会場内に薄い魔力で満たしている。

(……やられた!!)

 不自然な動きはできない。
 蜘蛛の巣に絡めとられた蟲のように、不自然な動きをすれば一発で疑われる。
 シャドウは飲み物を手にし、ルクレに言おうとして……やめた。

(ダメだ。ルクレに伝えたら間違いなく挙動不審になる。それだけで疑う理由は十分……まずい)
「あの、シャドウくん?」
「あ、いや……やっぱ何でもない」

 唯一の救いは、魔力が張り巡らされているだけで、声などは聴かれていないこと。この魔力は『感情』を抑制し、感情の高ぶりを押さえる効果があることくらい。
 シャドウは果実水を飲み、ため息を吐く。

(どうする。先手を打たれちまった……何か仕掛けてくる可能性が高い。でも、その場合こっちが後手に回ることは確実。どうする……)

 パーティーは、楽しい雰囲気のまま続く。

 ◇◇◇◇◇◇

 シャドウの懸念をよそに、違和感をラウラも感じていた。
 『魔水晶の眼』の力は、会場内を覆う魔力を正確に探知している。だが、ここで騒いだり、妙な態度を取れば疑われる……そして後々、シャドウたちに迷惑をかける。
 だからラウラは何も知らないフリをして、ユアンに付き従うのだが。

「もう、ユアン様ってばずるいですわ。私よりラウラ様を取るなんて」
「あはは、ごめんね」

 シェリアと楽し気に会話をするユアン。いつもと変わらないか態度なのだが。

(……どうして)

 なぜ、ユアンにだけ『魔力』が触れていないのか。
 まるで、意思を持った魔力がユアンを避けているようだった。
 周囲を見渡すと……あと二人、魔力を避けている者がいた。
 それは、アリアルと、生徒会の女子。
 あまりにも不自然だった。会場内に学園の上級生がいることに違和感はないが、女子一名とアリアルだけ避けるなんて違和感しかない。
 それだけじゃない。

(……ライザーくんとヒナタちゃんの傍にいる人。クピド様だっけ……)

 魔力が避けているのではない。まるで、この妙な魔力の発生源ともいえるような、魔力の根源のような何かをラウラは感じるのだった。

(……黄昏旅団。まさか)

 ラウラは話を聞き、笑いながら思う。
 そして、チラッと視線をシャドウに送ると……シャドウは皿を置き、眼球だけで周囲を見た。
 何かに気付いた。シャドウは、ラウラを見た。
 目が合うと、シャドウはちいさく頷いた。

(シャドウくん……気付いた)

 シャドウが気付いたのなら、もうラウラの出番はない。
 あとは、信じるだけ。
 だが……一つだけ、ラウラは行動した。

「ラウラさん、どうしたの?」
「あ、いえ……飲み物取ってくるね」

 ラウラは空のグラスを揺らし、シャドウの近くにあるテーブルへ。
 そして、飲み物を選ぶフリをしながらシャドウをチラッと見ると、シャドウも空いたグラスを片手にテーブルへ。

「よ、何呑むんだ?」
「んー、オレンジかな」

 ラウラはそう言ってグラスを揺らしながら、口だけを動かした。

(入り口側の上級生)

 それだけ。それ以上だと気付かれる。
 すると、シャドウは頷いてグラスに水を注ぎ、挨拶するフリをして口を動かさず言った。

「上出来だ」
「───」

 シャドウは一礼してその場を離れ、ラウラは役に立てた喜びに胸を高鳴らせるのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 始まりは、些細なことだった。

「あら?」

 最初に気付いたのはシェリア。
 パーティー会場の入口に立っていた、ドレスを着た少女の姿。
 その姿は……見覚えがあった。

「あなた、ロサリン……?」
「…………」

 それは、ダンジョン実習で行方不明になった少女。
 髪が真っ白、肌も真っ白、眼が真っ赤に染まった少女は、肌と同じくらい白いドレスを着ていた。
 新入生社交界に参加するために。いや、行方不明の少女がここにいるのはおかしい。
 シャドウもすぐに気付いた。同時に、最大の警戒をする。

「……わたし、きれい?」
「え?」

 少女……ロサリンの姿は、すぐに会場内の全員が知ることになった。
 真っ白で、あまりにも不気味なその姿。
 だが、クラスメイトであった少女をすぐに否定することは、誰にもできない。

「わたし、わたし、わたし、シェリアさま、わたし!!」
「ど、どうしたの? あなた、生きて……」
「あは」

 次の瞬間、ロサリンの背中から、真っ白な触手が何本も生えてきた。
 ミミズのように、蛇のようにビチビチ動き、妙な粘液をぼたぼた垂れ流している。
 唖然とするシェリア。じりじりと下がり、顔は真っ青になっていた。
 同時に、姉シェリアが庇うように飛び出してくる。

「お、お姉様……」
「どう見てもまともじゃない。新入生、社交界は中止!! 生徒会役員、戦闘配備!! 先生、指示をお願いします!!」

 シェリアは杖を抜く。そして、会場内の隅にいた生徒会役員たちが飛び出してきた。
 アリアルは一度だけクピドを見るが、「我関せず」とばかりに怯えたフリをしている。
 そして……この場にいない『悪魔』の姿も。

「……やむを得んな」

 アリアルはそう呟き、ヴィーネの『研究成果』と戦うため、生徒に指示を出すのだった。
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