最強スキル『忍術』で始めるアサシン教団生活

さとう

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第六章 学園社交界

黄昏旅団所属『悪魔』ヴィーネ②

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 社交界専用の建物、もといパーティー会場はかなりの広さだった。
 それだけじゃない。学園関係者だろうか、男女の使用人も壁に並んでおり、さらにはドレス姿の女性が数名、生徒たちを待っていた。
 ライザーの空気が一瞬だけ変わったのを、シャドウ、ルクレ、ヒナタは気付いた。
 そして、ヒナタが言う。

「あそこにいるのがアリアル夫人。そして……その隣にいるのが」
「……クピド。オレの義母だ」

 ライザーが言う。
 ライザーの本当の母親を殺した、黄昏旅団『恋人』にして、ハンゾウの元弟子。
 シャドウは小さく言う。

「アリアル夫人……あっちも警戒しないとな」

 改めて、周囲を警戒する。
 生徒全員が会場に入るとドアが閉まり、アリアルが言う。

「新入生諸君。まずは入学おめでとう……今日は授業の一環として、毎年恒例である『新入生社交界』を開催する。礼儀作法に始まり、パーティーに関する知識を覚えてもらう」

 授業の説明が始まった……そう、あくまで社交界は授業なのだ。
 
「こちらは、グランドアクシス公爵夫人。今日の補佐をしてもらう。いいか、何度も言うがこれは授業の一環だ。きちんと学び、貴族であり魔法師であることを自覚するように」

 すると、使用人たちがグラスを配り始める。
 中身は果実水。乾杯をするようだ。
 シャドウたちもグラスを受け取り、アリアルがグラスを掲げた。

「それでは、乾杯」

 こうして、新入生社交界が始まった。

 ◇◇◇◇◇◇

 始まったはいいが、何をすればいいのか……と、社交界が初めてな男女は困惑する。
 だが、シェリアやラウラなどは慣れているのか、飲み物を飲んだり、近くの生徒とおしゃべりをする。
 意外にも、ルクレは緊張していないようだ。

「お前、大丈夫か?」
「うん。社交界……こういうパーティーには、何度か参加したことあるから」

 シェリアは、自分の派閥の女子を集めて自慢話、ラウラも友達と楽しそうに話している。
 ラウラの隣にはユアン。そして騎士のような礼服を着たレスティア。楽しそうに会話に混ざっているが、レスティアの表情は晴れなかった。
 そして、ライザー。

「……お久しぶりです。義母上」
「久しぶり。どう、学園には馴染めたかしら?」
「……なんとか」

 クピドと話をしている。
 ここでシャドウが近づくのは不自然。ライザーとヒナタに任せ、シャドウとルクレはテーブルに近づくフリをして、アリアルの元へ近付く。
 すると、テーブルに近づいたとたん、アリアルの方から近づいてきた。

「緊張しているか、クサナギ男爵」
「え、ええまあ……」
「ははは。若くして爵位を継承したと聞いたが、こういうパーティーには参加したことがないようだな」
「は、はい。クサナギ男爵は、社交界には参加しない方でしたので」
 
 余計なことは言えない……シャドウは曖昧に笑う。
 ルクレも、ボロを出さないよう笑うだけだった。

「どうした、緊張……だけではないな。何か不安でもあるのか? 表情がこわばっているぞ」

 シャドウは冷や汗が流れた……アリアル、勘がいいと。
 緊張だけじゃない心の動きを察知された気がした。

「い、いえ……その、こういうイベントだと、また何か起きるんじゃないかと不安で」
「ああ、身体測定の時みたいにか。今回は大丈夫だろう。二学年の優秀な生徒たちと、準特等級の魔法師が何名か護衛に回っている。『デロス』のような組織では手が出せんよ」
「よかった……」
「とりあえず、今は社交界を楽しむといい。ああ、授業の一環だから、相応しくない行動を取れば指摘させてもらうからな」

 そう言い、アリアルは別のところへ。
 シャドウ、ルクレは深く息を吐く。

「び、びっくりしました……」
「ああ。俺も……でも、今回は何も起きないかもな。護衛はちゃんといるみたいだ」
「安心ですね……ほっ」

 ルクレが胸をなで下ろすると、お腹がグ~ッと鳴る。

「…………」
「~~~っ!! え、えと」
「メシ、食うか」
「……はい」

 シャドウとルクレは、近くのテーブルにあった食事に手を伸ばし始めた。

 ◇◇◇◇◇◇

 ライザーは、俯いていた。

「あらあら、どうしたのかしら? せっかくの再会なのだから、お顔を上げて?」
「……はい」

 知っているのだ。
 ライザーが兄姉にいたぶられてここまで強くなったことも。そして指示を出したのが目の前にいる義母であることも、ライザーが知っているということを。
 知っていれば、間違いなく恨まれる。だが、義母クピドはわかっていて、ライザーを愛するようなそぶりを見せている。
 クピドにとってライザーは、いてもいなくてもいい存在。
 グランドアクシス公爵家の夫人と言う立場の付属品であり、退屈凌ぎのオモチャ程度。
 だから、久しぶりに見るオモチャを見て、少しだけ機嫌がいい。

「お小遣いは足りている? その礼服とっても素敵。そちらの子は? 可愛い子ねぇ」
「…………」
(……押さえてください)

 ヒナタは視線だけでライザーに言う。緊張しているフリをしているが、クピドはヒナタにもずっとなめまわすような視線を送っていた。
 ただ者じゃない。目の前にいるのは、黄昏旅団『恋人』のクピド。
 シャドウは気取られないようにしているが、間近にいるヒナタはそれどころじゃない。

「あなた、お名前は?」
「……ヒナタと申します。クサナギ男爵の、従者でして」
「クサナギ男爵? ああ、アルマス王国の貴族だったかしら。若くして爵位を受け継いだ子がいるって聞いたけれど」
「……義母上。そろそろ失礼します。友人たちと友好を深めたいので」
「あらそう? ふふ、じゃあ楽しんでいらっしゃい」

 ライザーは一礼、ヒナタとその場を去る。

「……よく耐えましたね」
「殺してやりたいぜ。今でも……」

 ライザーは歯を食いしばり、拳を強く握るのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 パーティー会場の隅では、ヴィーネが退屈そうにしていた。
 急病人などが出た場合に備えて医師であるヴィーネが待機しているのだが……今は違う。

「聞こえるかな、ルソルちゃん」
(はい、先生)
「リスターちゃん、エルナちゃん」
((はい、先生))

 どこからか聞こえてくるのは、可愛い三人の弟子。
 そして、もう一人。

「ユアンくん」
(はい、先生)
「ホムンクルス、馴染んだかな?」
(はい。完璧です)
「うんうん。じゃあ……あと少ししたら、始めよっか」

 まもなく始まる。
 黄昏旅団所属『悪魔』ヴィーネの、最悪な『お遊び』が。
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