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第六章 学園社交界
暗躍
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新入生社交界まで、あと数日。
クオルデン王立魔法学園にある外来貴族用宿舎に、数台の豪華な馬車が入り込んだ。
一台は、ウイングボトル公爵家の紋が刻まれた馬車。もう一台はグランドアクシス公爵家の紋が刻まれた馬車……共に、七つある名家の一つである。
降りてきたのは、二人の婦人。
一人は凛々しい騎士のような美女。もう一人は黄色を基調としたドレスを纏った美女。
それぞれの美女は向かい合い一礼する。
「久しいな、グランドアクシス公爵夫人」
「いやだわ。クピドと呼んでくださいな、アリアル公爵」
「ふ……では、そうさせてもらおう」
男装の麗人と見間違えるような凛々しい雰囲気のアリアルは笑みを浮かべる。
二人は並んで歩き、貴族用の宿舎へ。
今回、アリアルは『新入生社交界』のために来た。すると、久しぶりにお会いしたいとクピドから連絡があり、共に学園へやって来たのだった。
二人は茶会を開くため個室へ。室内に入ったのはアリアルと側近が三人、クピドと側近の四人、合計九人だった。
さっそく、アリアルは側近の老執事に紅茶を淹れさせる。
「ん……いい香りね」
出された紅茶が気に入ったのか、クピドは微笑んだ。
すると、アリアルは微笑ながら言う。
「それで、やはり目的は『ハンゾウ』か?」
そう問われ、クピドは微笑む。
「ええ。ラムエルテが殺された……サスケくんも少し気になっているみたい。お師匠様の後継にね」
アリアルはティーカップを掴む。すると、一瞬でカップが粉々に砕け、粒子となって舞う。
「ふ……かなりの手練れのようだ。久しぶりに血沸く」
黄昏旅団所属『正義』のアリアルは、粒子となったカップをティーカートに置いてある別のカップの中に全て落とす。
クピドは言う。
「ふふ。新星『風魔七忍』……どれほどの強さかしら」
「正直、私が直接戦いたいほどだ」
アリアルは『戦闘狂』だ。元風魔七忍の中でも特に。
対してクピドは、戦うのはあまり好きではない。紅茶を飲みながら微笑む。
すると、ドアがノックされた。
「失礼~……おやおやおや、『黄昏旅団』の幹部にその部下が揃いも揃って密談とはねえ」
「「…………」」
アリアル、クピドは露骨に嫌そうな顔をする。
入ってきたのは、汚れた白衣を着た女性。学園専属医師であり黄昏旅団『悪魔』のヴィーネ。そして、その部下であり教え子の三人だ。
ヴィーネは笑う。
「いや~、すっごい光景だねぇ。黄昏旅団の『三派閥』が、学園の個室に勢ぞろいとは。これ、正体バレたらやっばいねぇ……『世界』、『審判』、『教皇』の三人はブチ切れるんじゃない?」
「そこに『女教皇』を入れないのはお前らしいな」
「あの子、ハンゾウとサスケのお気に入りだしね……怪しいけど、手ぇ出せば殺されちゃう」
「ふふ。それでヴィーネ……何か用?」
「決まってる。新入生社交界で指導に当たるアリアルと、用もないのにゲストとして勝手に来たクピドにご挨拶さ。私も医師として参加するしねぇ」
「「…………」」
アリアル、クピドは胡散臭いのか、ヴィーネをジト目で見る。
「あっはっは。冗談冗談……アリアルはともかく、ヴィーネは『ハンゾウ』が気になってきたんじゃない?」
「別に。新入生社交界に、息子が出るからね……出来の悪い子だけど、ちゃんとやってるか見ないとね」
「ははっ、血のつながりのない息子ね。そもそも、その子の母親はキミが殺したじゃん」
「グランドアクシス公爵夫人の椅子を手に入れるためだもの。仕方ないわ」
「やれやれ。私のように、自分の力で権力を手に入れればいいものを」
いつの間にか、元風魔七忍である女性三名による雑談になっていた。
◇◇◇◇◇◇
黄昏旅団は総勢二十二名。
その中でも、派閥というものが存在する。
悪魔、星、月、太陽。
正義、隠者、運命輪、塔、法王。
恋人、女帝、皇帝、戦車、吊男。
ヴィーネ、アリアル、クピドを筆頭に、それぞれの『アルカナ』が付き従う。
ラムエルテと違うのは、『死神』ラムエルテは『節制』、『魔術師』、『力』を利用したのに対し、ヴィーネ、アリアル、クピドに従う『アルカナ』はそれぞれ絶対服従であるということだ。
例外なのは、『女教皇』、『世界』、『審判』、の三人。
組織のトップである『世界』サスケも、派閥を容認している。
そして現在、三派閥がそれぞれ部下を全員連れ、学園敷地内にある『貴族用宿舎』の一室に揃っていた……これは、黄昏旅団が始まって以来、初めてのことである。
◇◇◇◇◇◇
談笑が終わり、ヴィーネが言う。
「そうだ。そろそろ本題ね……新入生社交界だけど、ハンゾウを炙り出すから」
「炙り出す? ほう、興味があるな」
「どうせろくな事じゃないわよ」
アリアルは興味津々、クピドはその逆だ。
ヴィーネは言う。
「実は、錬金生物の実験が終わってデータ最終も終わったんだ。あとは廃棄するだけなんだけど……せっかくだし、社交界で思いっきり暴れさせようかなーって。そうすれば、正義のアサシンであるハンゾウは絶対に出てくる。ふふふ……どうする? アリアルかクピド、どっちか捕らえるのやってくんない?」
「私は無理だな。戦いに興味はあるが、新入生社交界の講師という立場上、そういうのが暴れるなら止める立場にある」
「私はか弱い公爵夫人だし、逃げちゃうかな」
二人とも「やめろ」と言わない辺り、やはりどこかおかしかった。
だが、アリアルは言う。
「私の部下を貸してやる。『隠者』、『法王』」
「では私は……『皇帝』、『戦車』」
「お、いいねいいね。じゃあお願いしよう」
間もなく……新入生社交界が始まる。
のちに、歴史に刻まれることになる大事件として。
クオルデン王立魔法学園にある外来貴族用宿舎に、数台の豪華な馬車が入り込んだ。
一台は、ウイングボトル公爵家の紋が刻まれた馬車。もう一台はグランドアクシス公爵家の紋が刻まれた馬車……共に、七つある名家の一つである。
降りてきたのは、二人の婦人。
一人は凛々しい騎士のような美女。もう一人は黄色を基調としたドレスを纏った美女。
それぞれの美女は向かい合い一礼する。
「久しいな、グランドアクシス公爵夫人」
「いやだわ。クピドと呼んでくださいな、アリアル公爵」
「ふ……では、そうさせてもらおう」
男装の麗人と見間違えるような凛々しい雰囲気のアリアルは笑みを浮かべる。
二人は並んで歩き、貴族用の宿舎へ。
今回、アリアルは『新入生社交界』のために来た。すると、久しぶりにお会いしたいとクピドから連絡があり、共に学園へやって来たのだった。
二人は茶会を開くため個室へ。室内に入ったのはアリアルと側近が三人、クピドと側近の四人、合計九人だった。
さっそく、アリアルは側近の老執事に紅茶を淹れさせる。
「ん……いい香りね」
出された紅茶が気に入ったのか、クピドは微笑んだ。
すると、アリアルは微笑ながら言う。
「それで、やはり目的は『ハンゾウ』か?」
そう問われ、クピドは微笑む。
「ええ。ラムエルテが殺された……サスケくんも少し気になっているみたい。お師匠様の後継にね」
アリアルはティーカップを掴む。すると、一瞬でカップが粉々に砕け、粒子となって舞う。
「ふ……かなりの手練れのようだ。久しぶりに血沸く」
黄昏旅団所属『正義』のアリアルは、粒子となったカップをティーカートに置いてある別のカップの中に全て落とす。
クピドは言う。
「ふふ。新星『風魔七忍』……どれほどの強さかしら」
「正直、私が直接戦いたいほどだ」
アリアルは『戦闘狂』だ。元風魔七忍の中でも特に。
対してクピドは、戦うのはあまり好きではない。紅茶を飲みながら微笑む。
すると、ドアがノックされた。
「失礼~……おやおやおや、『黄昏旅団』の幹部にその部下が揃いも揃って密談とはねえ」
「「…………」」
アリアル、クピドは露骨に嫌そうな顔をする。
入ってきたのは、汚れた白衣を着た女性。学園専属医師であり黄昏旅団『悪魔』のヴィーネ。そして、その部下であり教え子の三人だ。
ヴィーネは笑う。
「いや~、すっごい光景だねぇ。黄昏旅団の『三派閥』が、学園の個室に勢ぞろいとは。これ、正体バレたらやっばいねぇ……『世界』、『審判』、『教皇』の三人はブチ切れるんじゃない?」
「そこに『女教皇』を入れないのはお前らしいな」
「あの子、ハンゾウとサスケのお気に入りだしね……怪しいけど、手ぇ出せば殺されちゃう」
「ふふ。それでヴィーネ……何か用?」
「決まってる。新入生社交界で指導に当たるアリアルと、用もないのにゲストとして勝手に来たクピドにご挨拶さ。私も医師として参加するしねぇ」
「「…………」」
アリアル、クピドは胡散臭いのか、ヴィーネをジト目で見る。
「あっはっは。冗談冗談……アリアルはともかく、ヴィーネは『ハンゾウ』が気になってきたんじゃない?」
「別に。新入生社交界に、息子が出るからね……出来の悪い子だけど、ちゃんとやってるか見ないとね」
「ははっ、血のつながりのない息子ね。そもそも、その子の母親はキミが殺したじゃん」
「グランドアクシス公爵夫人の椅子を手に入れるためだもの。仕方ないわ」
「やれやれ。私のように、自分の力で権力を手に入れればいいものを」
いつの間にか、元風魔七忍である女性三名による雑談になっていた。
◇◇◇◇◇◇
黄昏旅団は総勢二十二名。
その中でも、派閥というものが存在する。
悪魔、星、月、太陽。
正義、隠者、運命輪、塔、法王。
恋人、女帝、皇帝、戦車、吊男。
ヴィーネ、アリアル、クピドを筆頭に、それぞれの『アルカナ』が付き従う。
ラムエルテと違うのは、『死神』ラムエルテは『節制』、『魔術師』、『力』を利用したのに対し、ヴィーネ、アリアル、クピドに従う『アルカナ』はそれぞれ絶対服従であるということだ。
例外なのは、『女教皇』、『世界』、『審判』、の三人。
組織のトップである『世界』サスケも、派閥を容認している。
そして現在、三派閥がそれぞれ部下を全員連れ、学園敷地内にある『貴族用宿舎』の一室に揃っていた……これは、黄昏旅団が始まって以来、初めてのことである。
◇◇◇◇◇◇
談笑が終わり、ヴィーネが言う。
「そうだ。そろそろ本題ね……新入生社交界だけど、ハンゾウを炙り出すから」
「炙り出す? ほう、興味があるな」
「どうせろくな事じゃないわよ」
アリアルは興味津々、クピドはその逆だ。
ヴィーネは言う。
「実は、錬金生物の実験が終わってデータ最終も終わったんだ。あとは廃棄するだけなんだけど……せっかくだし、社交界で思いっきり暴れさせようかなーって。そうすれば、正義のアサシンであるハンゾウは絶対に出てくる。ふふふ……どうする? アリアルかクピド、どっちか捕らえるのやってくんない?」
「私は無理だな。戦いに興味はあるが、新入生社交界の講師という立場上、そういうのが暴れるなら止める立場にある」
「私はか弱い公爵夫人だし、逃げちゃうかな」
二人とも「やめろ」と言わない辺り、やはりどこかおかしかった。
だが、アリアルは言う。
「私の部下を貸してやる。『隠者』、『法王』」
「では私は……『皇帝』、『戦車』」
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