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第五章 ダンジョン実習

ダンジョンクリア

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 ユアン、シェリア、レスティア。
 そして、シャドウとヒナタ、ライザーとルクレの四人。合わせて七人。
 ダンジョンの最下層で偶然出会った七人は、向かう方向も同じなのでそのまま一緒に地下を進んでいた。
 すると、シェリアがヒナタに抱っこされたルクレを見て言う。

「ぷぷっ、なにこの子、気絶してるの~? 怖い目にでもあったのかな~?」
「おいシャドウ、このクソ女ぶっ飛ばしていいか?」
「ああ? なにあんた。あたしに何だって? 焼いてあげようか?」
「はっ、チヤホヤされていい気になってるクソ女が。やれるもんならやってみろ」

 シェリア、ライザーが睨み合う……ライザーがキレているのは、ヴライヤの攻撃から命懸けでシャドウを救ったから。自分にできなかったことを身を挺して行ったルクレに敬意を抱いていたからである。
 シャドウはライザーの背を軽く叩く。

「やめとけ。お前も、ハーフィンクス家と揉めるのは嫌だろ」
「チッ……」
「それとシェリア。こいつはグランドアクシス家の三男だぞ。お前とライザーが揉めたら親が出しゃばってくるのは確実だろうな」
「……む」

 シェリアもムスッとしていたが、軽く舌打ちしてユアンの元へ。
 すると、レスティアがシャドウに向けて軽く頭を下げた。意味が不明だったが、シャドウも軽く頭を下げる。そのまま七人で会話なく歩いていると、最下層に到着した。

「ねえねえソニア、証ってこれだよね!!」
「はい、お嬢様。これで任務完了……地上に戻りましょう」
「うん!! あれ? あ……シャドウくんたち!!」

 シャドウくんたち。
 七人いる中で、シャドウの名を呼んだことにユアンが一瞬だけ眉を潜めたのをシャドウは見逃さなかった……が、ほんの一瞬だけ『殺気』も感じられた。
 
(殺気……? ユアンが、俺に?)

 間違いなく『殺意』だった。
 嫉妬されているとは思っていたが、これまで殺意は感じたことがない。
 だが、今は明確に感じられた。

「あ、ユアンくんたちも一緒だったんだ~。ねえねえユアンくん、わたしたち友達とはぐれちゃってさ、一緒に地上まで行かない?」
「もちろん歓迎するよ。いいよね、みんな」

 ユアンはにこやかにほほ笑む。シェリアはムスッとするが。

「いいよね、シェリアさん」
「えっ、あ……う、うん」

 有無を言わさぬユアンの笑みに、シェリアがビクッと肩を震わせる。
 その様子に、シャドウは何かを感じた。

「おう。証ってどこだ?」
「ここにあるよ。えっと……ライザーくん」
「くんはいらねぇよ。同級生だろうが」
「う、うん」

 ライザーはラウラに対しても変わらない態度だ。
 そして、最下層部屋の中央にあった祭壇に向かい、そこに置いてある箱の中から『証』を取る。

「メダルか……ほれシャドウ」

 ライザーがメダルを投げ渡し、シャドウはキャッチ。
 どこにでもありそうな、無地で銀色のメダルだった。
 ユアンたちもメダルを取り、それぞれ眺めている。
 ラウラはポケットにメダルを入れ、やや疲れたように言った。

「あとは帰るだけだね。みんな、魔獣と戦った?」

 魔獣どころか、竜種と戦った……とは言えないシャドウたちだった。
 その後、シャドウたちは特に問題なく地上に戻り、クーデリアに『証』を見せた。
 証を取れない者は、時期を改めて再び挑戦なのだが……少しだけ、問題が起きた。

「ふむ……まだ戻らない生徒が十名もいるのか。参ったな……ここは広いが、上下階段は豊富にあるし、迷うようなダンジョンでもないのだが」

 クーデリアは「やれやれ」と言い、監視をしていた上級生、教師に命令。
 戻らない生徒を救いに行ったのだが……ついに、その生徒が見つかることはなかったという。
 そして、『ダンジョン探索中に行方不明』という扱いになった。学生がダンジョンに挑戦し、魔獣と戦って命を落とすことはあることなので、それは不幸な事故として片づけられるのだった。

 ◇◇◇◇◇◇

 ダンジョン実習から数日後。
 とある場所にある地下空間にて。

「先生。お疲れ様です」
「ん、おつかれ~」

 黄昏旅団『悪魔デビル』のヴィーネは、大あくびしながら部屋に入ってきた。
 部屋には、白衣を着た三人の少女がいる。それぞれ手にはバインダーを持ち、何かを記録していた。
 そして……部屋の中央にある巨大フラスコ。

「お、順調だね~」

 ヴィーネは、巨大フラスコに近づき、その中にある『得体の知れない何か』を見てニコニコ笑う。
 その『何か』は、真っ白な『肉』で、所々に『眼』があり、ウネウネと『触手』のような物が生えており、ヴィーネを見て目元を歪める……まるで、笑っているようだ。
 すると、黄昏旅団『星』のリスターが、一人の少女を引きずって来た。

「やめて、痛い、痛い!!」
「先生。素材の追加をしますが、よろしいでしょうか」
「お、いいね。なかなかイキのいい素材だ~……どれどれ」
「ひっ……お、っごぁ!?」

 全裸の少女だった。
 その少女は、ダンジョン実習で行方不明になった新入生の一人。
 ヴィーネは怯える少女の口に手を突っ込むと、奥歯を一本、無理やり向いた。

「ごぁあ!? ああっぐぁ……!?」
「あーんっ……うん、いいね。健康健康」

 ヴィーネはその歯を口に入れ、ボリボリ咀嚼。
 すると、部屋の隅にいたユアンが苦笑した。

「先生。歯なんて食べておいしいんですか?」
「おいしくないよ? でも、健康を知るには一部を食べればわかるからさー」
「やれやれ。っっ、う……ぁ」
「お? ユアンくん、大丈夫?」
「……なな、なんでももも、ないででです」
「あれれ。壊れちゃった? んー……まだ『意識』残ってるのかな?」

 頭をがくがくさせるユアンの頭をポンポン叩くヴィーネ。すると黄昏旅団『太陽』のルソルが、ユアンの頭を叩いた。

「先生。まだ『白キ小瓶ノ命ホムンクルス』が完全に馴染んでいないようです。意思も少し残っているようで」
「そっか~……まあ仕方ないね。それより、ユアンくんを使ってもっと『素材』を仕入れないとねえ。この錬金生物『ヤハウェ』の完成まで、もう少し……」

 ヴィーネは、怯えていた少女の顔面を鷲掴みにし、フラスコの側面に押し付ける……すると、少女の身体がズブズブとフラスコに沈んだ。
 そして、真っ白な肉塊が食事とばかりに触手を伸ばすと、少女の穴という穴に触手を突き刺し、ゴクゴクと中身を吸い取っていく……そして、骨と皮だけになった少女は、最終的に肉塊に取り込まれてしまった。
 その様子を見ていた黄昏旅団『月』のエルナが言う。

「先生。この『ヤハウェ』の完成後はどうしますか?」
「ん~? この子は私の錬金生物理論を証明するための実験動物だし、データ採取終わったらポイしちゃうよ」
「わかりました。それと……『世界』からの指示である『風魔七忍』の捜索ですが」
「あー忘れてた。そうだな……何もしないとサスケは怒るだろうし……正直めんどくさくなってきたんだよね。私は研究できればいいんだけどなあ……」
「それなら、『ヤハウェ』を使うのはどうでしょう」
「……ああ、なるほど」

 エルナの提案を一瞬で理解したのか、ヴィーネはフラスコを見る。
 たった今『食事』を終えた白い肉塊は、数分前よりも遥かに肥大化していた。
 ヴィーネはニヤリと笑い、フラスコをコンと叩く。

「風魔七忍は正義のアサシン教団……だったら、無関係な人々を放ってはおけないよねえ?」
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