21 / 62
第二章 クオルデン王立魔法学園
接触
しおりを挟む
「あー……疲れた」
学園散策が終わり、ようやく解散。
シャドウはヒナタと部屋に戻るなり、椅子に深く腰掛けた。
そして、やや愚痴っぽく言う。
「悪意のない邪魔って本当にあるんだな……クオルデン王国の第二王子とアルマス王国第一王女が並んで、そこに何故か俺とヒナタ……目立ちたくないのに、嫌でも目立つ」
「そうですね……まさか、第一王女ラウラがこちらに接触してくるとは」
「……第一王女が『黄昏旅団』の可能性は?」
「ゼロではありませんが、限りなくゼロです」
「……殿下は?」
「そちらはまだ未調査です。明日、調べて参ります」
「ああ。ったく……何を目の敵にしてるのか、何かあるたびに話しかけてくる第一王女から守るように、俺の間に入ってくる」
明確な敵意ではない、微妙な敵意……恋敵と言えばいいのか。
シャドウは、ユアンから微妙に嫌われていると感じていた。
「とりあえず、今後のことを話そう」
「はい」
シャドウはヒナタに椅子を勧め、ヒナタは座る。
「まず、俺たちは学園に入学した。明日から授業もある」
「はい」
「学生を演じつつ、『黄昏旅団』のメンバーを探す……そして、見つけたら暗殺する。それが厳しいようなら、正面から殺す」
「……はい」
「ヒナタ、お前には苦労を掛けると思うけど……情報収集は頼む。俺も、できる限りやるから」
「お任せください。むしろ、私はそちらが専門です」
ヒナタは胸に手を当てて、力強く頷いた。
「まず最初。ヒナタはゲルニカ先生について調べてくれ。いいか……あいつの勘は鋭い。ヘタに近づきすぎると、気付かれるぞ」
「わかりました」
「よし、話はここまで。とりあえず、明日に備えて休むか」
「はい。ところで、房中術の方ですが」
「ま、まだ無理だな。もうちょい待ってくれ」
シャドウは誤魔化し、早々にベッドに入るのだった。
◇◇◇◇◇◇
その日の夜。
シャドウは気配を殺し、アサシン服に着替え寮の窓から飛び出した。
そして、地面に着地し印を結び、土に触れる。
「擬遁、『土塊分身の術』」
土で人型を作り、幻影を投射し『シャドウ』を作る。そして作り出した『人形』を操り、ベッドに寝かせることで寮から出たことを偽装した。
シャドウは屋根に上り、ヒナタの部屋の窓を見る。
「……あいつも調査に向かった。俺も、寝る前に行ってみるか」
向かうべきは、二学年の使っていた訓練場。
不思議と、そこに行くべきだとシャドウの勘が告げていた。
屋根を伝い、訓練場に到着……やはり、誰もいないし、静まり返っていた。
「…………」
シャドウは柱の影から訓練場を眺める。
間違いなく、気配はない。
だが───……シャドウの勘は、当たっていた。
『……いるのでしょう?』
どこからか、声が聞こえてきた。
ゆっくりと、闇の中から現れたのは……漆黒のフードを被った『何者か』だった。
顔は見えない。声も掠れたような、男と女の声を合わせたような声。
訓練場の中央に立つ何者かは、言葉を紡ぐ。
『黄昏旅団所属『死神』……ラムエルテ。どうです? この名を聞き、話を聞く気にはなりませんか?』
「───……」
シャドウはフードを被り、マスクで顔を隠し……ラムエルテと名乗った人物に向けて手裏剣を投げた。
すると、手裏剣は『黒いモヤ』に包まれ、ボロボロに崩れて消える。
『我は話をしたいだけ。いずれ殺す、殺されるとしても……それくらいなら、いいでしょう?』
「…………」
大事なのは情報。
シャドウは柱の影から出ると、中央にいるラムエルテの傍まで向かう。
互いに、十メートルほどの距離を取り、シャドウは言う。
「……学園には三人の『黄昏旅団』がいる。残りの二人はどこだ」
『これはこれは……面白いですね』
ラムエルテはパチパチ手を叩くと、シャドウに右人差し指を向ける。
『狙いは、我輩の……いや、ワタクシたちの暗殺、ですか。フフフ……つい先日、『力』が死亡したとありましたが、アナタも関係していますね?』
「…………」
シャドウは無視。ラムエルテに情報を与えるつもりはない。
『答えの前に、あなたも名乗っていただけませんか? いいでしょう? ボクも名乗ったんですから』
一人称が安定しない。喋り方もどこかおかしかった。
恐らく、喋り方や喋りクセで、身元が割れるのを特定させないため。
だからシャドウは言う。
「風魔七忍所属暗殺者、ハンゾウだ」
『……!!』
動揺したのを、シャドウは見逃さなかった。
すると、シャドウの周囲に黒いモヤが集まり出す。
シャドウは高速で印を結び、右手を突き上げた。
「風遁、『竜巻の術』!!」
自分を中心に、竜巻を発生させる忍術。
黒いモヤが吹き飛ぶと、シャドウは苦無を抜いて投げ、同時に腰に差す『夢幻』を抜刀しラムエルテに接近する。
そして、ラムエルテを両断……だが、ラムエルテの身体がモヤとなり、斬撃が無効化された。
『……その名。あなたはまさか……く、ハハハッ!! そうですかそうですか、アナタ……あのハンゾウの弟子ですか。なるほどなるほど……パワーズはハンゾウと相打ち、『女教皇』が首を持ち帰ったと聞きましたが……どうやら彼女、マドカにも話を聞く必要がありそうだ』
「…………」
『忍術。まさか、その力を使える者がいるとは……覚えておきましょう。ハンゾウの意志を継ぐ者』
「……逃げるつもりか?」
『いいえ。準備です。お互いに暗殺者……寝首を掻くならご自由に』
「俺は、お前らを全員始末するからな」
『ええ。楽しみにしていますよ……それでは、よき夜を』
そう言い、ラムエルテは消えた。
今度こそ、完全に消えた。
「…………」
黄昏旅団『死神』のラムエルテ。
ゲルニカの正体である可能性、全くの別人である可能性。
シャドウには判断できない。だが……シャドウは『風魔七忍』の名を出し、敵と接触した。
つまり、暗殺者として『黄昏旅団』を狙っていると、バレてしまった。
「……だからどうした」
喧嘩を売った。
命懸けで、暗殺者として。
シャドウは訓練場から出て、寮に戻る。そして分身を解除し、ベッドに入る。
「……大丈夫。俺は、やれる」
高鳴る鼓動を抑えるよう、シャドウはベッドで目をつぶるのだった。
学園散策が終わり、ようやく解散。
シャドウはヒナタと部屋に戻るなり、椅子に深く腰掛けた。
そして、やや愚痴っぽく言う。
「悪意のない邪魔って本当にあるんだな……クオルデン王国の第二王子とアルマス王国第一王女が並んで、そこに何故か俺とヒナタ……目立ちたくないのに、嫌でも目立つ」
「そうですね……まさか、第一王女ラウラがこちらに接触してくるとは」
「……第一王女が『黄昏旅団』の可能性は?」
「ゼロではありませんが、限りなくゼロです」
「……殿下は?」
「そちらはまだ未調査です。明日、調べて参ります」
「ああ。ったく……何を目の敵にしてるのか、何かあるたびに話しかけてくる第一王女から守るように、俺の間に入ってくる」
明確な敵意ではない、微妙な敵意……恋敵と言えばいいのか。
シャドウは、ユアンから微妙に嫌われていると感じていた。
「とりあえず、今後のことを話そう」
「はい」
シャドウはヒナタに椅子を勧め、ヒナタは座る。
「まず、俺たちは学園に入学した。明日から授業もある」
「はい」
「学生を演じつつ、『黄昏旅団』のメンバーを探す……そして、見つけたら暗殺する。それが厳しいようなら、正面から殺す」
「……はい」
「ヒナタ、お前には苦労を掛けると思うけど……情報収集は頼む。俺も、できる限りやるから」
「お任せください。むしろ、私はそちらが専門です」
ヒナタは胸に手を当てて、力強く頷いた。
「まず最初。ヒナタはゲルニカ先生について調べてくれ。いいか……あいつの勘は鋭い。ヘタに近づきすぎると、気付かれるぞ」
「わかりました」
「よし、話はここまで。とりあえず、明日に備えて休むか」
「はい。ところで、房中術の方ですが」
「ま、まだ無理だな。もうちょい待ってくれ」
シャドウは誤魔化し、早々にベッドに入るのだった。
◇◇◇◇◇◇
その日の夜。
シャドウは気配を殺し、アサシン服に着替え寮の窓から飛び出した。
そして、地面に着地し印を結び、土に触れる。
「擬遁、『土塊分身の術』」
土で人型を作り、幻影を投射し『シャドウ』を作る。そして作り出した『人形』を操り、ベッドに寝かせることで寮から出たことを偽装した。
シャドウは屋根に上り、ヒナタの部屋の窓を見る。
「……あいつも調査に向かった。俺も、寝る前に行ってみるか」
向かうべきは、二学年の使っていた訓練場。
不思議と、そこに行くべきだとシャドウの勘が告げていた。
屋根を伝い、訓練場に到着……やはり、誰もいないし、静まり返っていた。
「…………」
シャドウは柱の影から訓練場を眺める。
間違いなく、気配はない。
だが───……シャドウの勘は、当たっていた。
『……いるのでしょう?』
どこからか、声が聞こえてきた。
ゆっくりと、闇の中から現れたのは……漆黒のフードを被った『何者か』だった。
顔は見えない。声も掠れたような、男と女の声を合わせたような声。
訓練場の中央に立つ何者かは、言葉を紡ぐ。
『黄昏旅団所属『死神』……ラムエルテ。どうです? この名を聞き、話を聞く気にはなりませんか?』
「───……」
シャドウはフードを被り、マスクで顔を隠し……ラムエルテと名乗った人物に向けて手裏剣を投げた。
すると、手裏剣は『黒いモヤ』に包まれ、ボロボロに崩れて消える。
『我は話をしたいだけ。いずれ殺す、殺されるとしても……それくらいなら、いいでしょう?』
「…………」
大事なのは情報。
シャドウは柱の影から出ると、中央にいるラムエルテの傍まで向かう。
互いに、十メートルほどの距離を取り、シャドウは言う。
「……学園には三人の『黄昏旅団』がいる。残りの二人はどこだ」
『これはこれは……面白いですね』
ラムエルテはパチパチ手を叩くと、シャドウに右人差し指を向ける。
『狙いは、我輩の……いや、ワタクシたちの暗殺、ですか。フフフ……つい先日、『力』が死亡したとありましたが、アナタも関係していますね?』
「…………」
シャドウは無視。ラムエルテに情報を与えるつもりはない。
『答えの前に、あなたも名乗っていただけませんか? いいでしょう? ボクも名乗ったんですから』
一人称が安定しない。喋り方もどこかおかしかった。
恐らく、喋り方や喋りクセで、身元が割れるのを特定させないため。
だからシャドウは言う。
「風魔七忍所属暗殺者、ハンゾウだ」
『……!!』
動揺したのを、シャドウは見逃さなかった。
すると、シャドウの周囲に黒いモヤが集まり出す。
シャドウは高速で印を結び、右手を突き上げた。
「風遁、『竜巻の術』!!」
自分を中心に、竜巻を発生させる忍術。
黒いモヤが吹き飛ぶと、シャドウは苦無を抜いて投げ、同時に腰に差す『夢幻』を抜刀しラムエルテに接近する。
そして、ラムエルテを両断……だが、ラムエルテの身体がモヤとなり、斬撃が無効化された。
『……その名。あなたはまさか……く、ハハハッ!! そうですかそうですか、アナタ……あのハンゾウの弟子ですか。なるほどなるほど……パワーズはハンゾウと相打ち、『女教皇』が首を持ち帰ったと聞きましたが……どうやら彼女、マドカにも話を聞く必要がありそうだ』
「…………」
『忍術。まさか、その力を使える者がいるとは……覚えておきましょう。ハンゾウの意志を継ぐ者』
「……逃げるつもりか?」
『いいえ。準備です。お互いに暗殺者……寝首を掻くならご自由に』
「俺は、お前らを全員始末するからな」
『ええ。楽しみにしていますよ……それでは、よき夜を』
そう言い、ラムエルテは消えた。
今度こそ、完全に消えた。
「…………」
黄昏旅団『死神』のラムエルテ。
ゲルニカの正体である可能性、全くの別人である可能性。
シャドウには判断できない。だが……シャドウは『風魔七忍』の名を出し、敵と接触した。
つまり、暗殺者として『黄昏旅団』を狙っていると、バレてしまった。
「……だからどうした」
喧嘩を売った。
命懸けで、暗殺者として。
シャドウは訓練場から出て、寮に戻る。そして分身を解除し、ベッドに入る。
「……大丈夫。俺は、やれる」
高鳴る鼓動を抑えるよう、シャドウはベッドで目をつぶるのだった。
15
お気に入りに追加
358
あなたにおすすめの小説

【完結】偽物聖女として追放される予定ですが、続編の知識を活かして仕返しします
ユユ
ファンタジー
聖女と認定され 王子妃になったのに
11年後、もう一人 聖女認定された。
王子は同じ聖女なら美人がいいと
元の聖女を偽物として追放した。
後に二人に天罰が降る。
これが この体に入る前の世界で読んだ
Web小説の本編。
だけど、読者からの激しいクレームに遭い
救済続編が書かれた。
その激しいクレームを入れた
読者の一人が私だった。
異世界の追放予定の聖女の中に
入り込んだ私は小説の知識を
活用して対策をした。
大人しく追放なんてさせない!
* 作り話です。
* 長くはしないつもりなのでサクサクいきます。
* 短編にしましたが、うっかり長くなったらごめんなさい。
* 掲載は3日に一度。

ライバル悪役令嬢に転生したハズがどうしてこうなった!?
だましだまし
ファンタジー
長編サイズだけど文字数的には短編の範囲です。
七歳の誕生日、ロウソクをふうっと吹き消した瞬間私の中に走馬灯が流れた。
え?何これ?私?!
どうやら私、ゲームの中に転生しちゃったっぽい!?
しかも悪役令嬢として出て来た伯爵令嬢じゃないの?
しかし流石伯爵家!使用人にかしずかれ美味しいご馳走に可愛いケーキ…ああ!最高!
ヒロインが出てくるまでまだ時間もあるし令嬢生活を満喫しよう…って毎日過ごしてたら鏡に写るこの巨体はなに!?
悪役とはいえ美少女スチルどこ行った!?

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。
下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。
豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。
小説家になろう様でも投稿しています。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる